蒼い空と時計ヅラ 作:月時計
『う……』
気が付けば、私は草原で倒れていた。
『ここは……?』
見渡す限り緑、緑、緑。都市での記憶が失われた私だけれど、記憶を失ってからの私は少なくとも記憶力は良い方だと思う。
それを踏まえて、こんな場所は見た事が無い。
『まさか、あのねじれ……? にワープさせられてしまったのか、だとしたらここは何区なんだろう──────』
と、ここまで考えて嫌な事に気が付いてしまった。
『皆……?』
囚人がいない、一人も。
『イサン? ファウスト? ドンキホーテ?』
以前にも一人きりになった事はあった、ただしそれもほんの一瞬だけ。
ドンキホーテとヒースクリフが連れ去られた時私はほんの僅かな時間だけ絶望していた。
だがそれもすぐに仲間が来てくれていたけれど、今回は本当に一人だ。
『──────あっPDA!?』
慌ててコートをまさぐるが幸いにもPDAは無事だった、これが無いと囚人の人格を変更できないしノートも書くことが出来ない。
『よかった、起動も出来るみたい』
安堵した私の背後で、がさりと草木が揺れる音がした。
『っ!』
振り向いた先に居たのは獣、いや、ただの獣じゃない。より狂暴になったような……
『ねじれ……じゃない』
無理矢理表現するなら魔物、というのがしっくりくるだろうか。
「グルルルル……」
『!』
見ている場合では無かった、慌てて背を向けて駆け出すと魔物は私を狙って飛び掛かって来る。
『うわっ!?』
魔物の爪は私に当たらなかったが足をもつれさせてしまったせいで倒れ込んでしまった。
「グルル……」
今までも、自分の命が危険に晒される事は何度もあった。
だけど、それは囚人達と共に切り抜けることが出来た。
何度も時計を巻き戻し、何度も死んで、何度も巻き戻して、何度も苦痛を味わって。
今回は……無理かもしれない。
「はぁっ!!」
私が視界を閉じようとした直後、煌めく軌道が魔物を貫いたかと思うと魔物の体は悲鳴と共に大きく吹き飛んだ。
「キャイン!!」
『え……?』
「大丈夫ですか!?」
吹き飛ばされた魔物と私の間に割り込んだのは剣を持った蒼い服を着た青年と蒼い髪を持った少女、それに赤い……トカゲ?
『あ、ありがとう』
「うわぁ! よく見たら頭が時計になってるじゃねぇか!?」
「はわわ……! 本当です……!」
「何だって?」
驚くトカゲと少女に反応した青年は慣れたように魔物を追い払うと私の方を向く。
彼は一瞬驚いた表情を見せるが手を伸ばしてくれる。
「大丈夫ですか?」
『あ、あぁ……大丈夫』
「……時計の音だ」
彼女の手を取って立ち上がると私は改めて彼女らの服装を見る。
「なあグラン、コイツを助けたのは良いけどこの後どうするんだ?」
こちらの少女は白いワンピースに裸足、こっちの男は蒼いパーカーに各部位を守る鎧、ツヴァイ協会の様なフィクサーだろうか?
「うーん、言葉が通じるならいいんだけど……」
こっちの赤いトカゲはねじれでも幻想体でもない、かといってさっき襲って来た魔物の同類かと言われると……これもまた違う気がする。
「星晶獣では無いみたいですね……」
三人(?)は私を助けたは良いが意思疎通が出来ない為困っているようだ、とはいえ私も困っているのだが……
『────―そうだ』
私はPDAを取り出すと囚人達の写真を映し出し、それを彼らに見せてみた。
「ん、なんだ? 写真?」
「もしかして、この人達を探しているんじゃないでしょうか?」
『そう!』
私は全力で頷いた、彼らは幸いにも優しい人柄の様だ、彼らを起点に囚人達を見つけることが出来るかもしれない。
そう思い見せた写真を確認した彼らは、暗い表情をしていた。
「なあ、この白いねーちゃんって……」
「……」
「……はい、間違いないと思います」
『ファウストを知ってるの!?』
私は幸運かもしれない、まさか一発で一人目を見つける事が出来るかもしれないとは。
私の想いとは裏腹に彼らは暗い表情のまま案内してくれた。
暫く歩いて……
私達が辿り着いたのは一軒の小さな家だった。
「ついさっき、ここに魔物が押し寄せて来たんです」
「魔物はオイラ達が倒したんだけど、先にこの家を守っていたねーちゃんが居てな」
「僕たちが来た頃にはもう……」
この家に住んでいるのであろう老夫婦が簡素な棺を用意し、そこに花を添えていた。
私は彼らを通して老夫婦に許可を貰い、棺の中を覗かせてもらった。
『……ファウスト』
私の管理する囚人である一人、ファウストが眠るように横たわっていた。
「お嬢さんは儂らの所に来ると話を聞かせて欲しいと言って来たんじゃ」
見る限り外傷は無い……いや、よく見れば傷を化粧で隠しているだけでかなりの傷跡が見て取れる。
「なんでも田舎から来たらしくてねぇ、爺さん以外の人と話すのも久しぶりだから随分と話し込んじゃって」
死因は失血だろうか、少なくとも爆発したり捻じれたりしていないだけでも良かった。
「お嬢さんはそんな話を熱心に聞いてくれてねえ、とてもいい子だったんだよ」
私が囚人達とはぐれてからどれだけたったかはわからないが少なくとも風化するほど経っていないのは朗報だろう。
「運が悪かったんじゃ……この島は食料が多くない、そのせいで時々魔物達が凶暴になるんじゃ、儂らも魔物除けの香を焚いていたのじゃがこの時は香が足りなかった」
「扉を破って襲い掛かる魔物にお嬢さんは儂らを守って戦ってくれた……しかし……」
「な、なあ……時計の兄ちゃん、その……辛いかもしれねぇけど──────」
さて、そろそろ──────
『時計を巻き戻そう』
────────────────────────
時計頭の男が白髪の女性を覗きこんでから、暫く経って。
重い、重い空気に耐えかねたビィがそっと彼の顔を覗く。
「な、なあ……時計の兄ちゃん、その……辛いかもしれねぇけど──────」
そう言って、意味のあるかわからない慰めをしようとした直後、時計の音がして。
『────────────!!!』
時計頭の男から異常な針の音がし始め、そのまま苦しそうに頭を抑えだす。
「ど、どうしたんですか!?」
「ビィ! 船に戻ってティコ先生を!」
「わ、わかった!!」
グランは慌てて彼を支えビィに仲間の医者を呼ぶようにお願いする。
そうして異変が起きた彼を楽な姿勢にしようと彼の体を持ち上げた時、グランとルリア、そして老夫婦はその目で信じられない者を見た。
間違いなく、そう……間違いなく死んでいたはずの白髪の女性に血が、肉が、まるで時計を巻き戻すかのように集まっていき、化粧でも隠せない程傷だらけだった身体を修復していく。
そして呆然と見ていた末に起きた奇跡は、棺から立ち上がりグラン達の目の前に降り立った。
「──────」
白髪の女性は全員を見渡すと時計頭の男に視線を注ぐ。
そしてゆっくりとその口を開く。
「──────ダンテ、予想よりかは少し優秀になりましたね」
────────────────────────
私はいつものように苦痛を受け入れるとファウストは蘇生した。
ここまで時間が経ってから時計を巻き戻すのは初めてだったけど問題なく蘇生できてよかった。
私は支えてくれた彼の手をそっとどかし立ち上がるとファウストと情報交換を行う。
『見つかって良かった、ファウスト』
「ダンテ、整理すべき情報が数多くあります。ですがまずは……」
ファウストは老夫婦、そして私をここまで案内してくれた彼らに向けて礼を言う。
「改めて、私はファウストと申します。我々はリンバスカンパニーと言う組織に所属しており、こちらは我々の管理人、ダンテです」
彼らは呆然としていたが、慌てて挨拶を返してくれた。
「ぼ、僕はグラン。彼女はルリア、よろしく」
「よろしくお願いします! ファウストさん! ダンテさん!」
「お、お嬢さん……生きてたのかい……?」
「いえ、これは──────」
ファウストが否定する前に老夫婦は膝から崩れ落ち、大粒の涙をぽろぽろと溢していた。
「よかった……良かったなぁ……!」
「生きててよかったよほんと……!」
なんというか……不思議な光景だった。
私は都市についてはまだまだ詳しいとは言えない。
それでもこうして
それはファウストも同じだったのかほんのわずかだが嬉しそうな困ったような表情をしていた。
暫くして……
老夫婦と別れた私達はグラン、ルリア、そしてティコという医者を連れて戻ってきたビィと合流し話をすることになった。
「まず、ダンテに報告する情報ですが」
『うん』
「ここは都市ではありません」
『予想はしてたよ、でも……』
「はい、外郭でもありません。ここは空の世界、都市から見れば異世界と言えるでしょう」
ファウストと所々補足してくれたグラン達の言葉を整理すると、この区……いや、この世界は空の世界と呼称され、グラン達は空に浮かぶ島々を騎空艇という空飛ぶ船を用いて世界を旅しているらしい。
なんていうか……世界観が違い過ぎる。
それになんでも魔法というのもあるらしい、都市の特異点のような物かと思ったけど違うらしいし……
「以上が今現在報告できる情報です、ダンテ。そしてこれからの事ですが」
『うん……まずは皆を探したい』
「時計の兄ちゃんはなんて言ってるんだ?」
「私達の仲間を探したいと言っています」
「ダンテさんがさっき見せてくれた方達の事ですね!」
「はい、現在行方不明となっているのは11名の囚人、イサン、ドンキホーテ、良秀、ムルソー、ホンル、ヒースクリフ、イシュメール、ロージャ、シンクレア、ウーティス、グレゴールです。彼らの捜索が最優先事項になるでしょう」
「それなら僕たちも協力するよ」
『え?』
「よろしいのですか? 我々は貴方達にメリットを提示できませんが」
「グランはお人好しだからな! 困ってる人は放っておけないんだ!」
ここまでお人好しだと何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうが、どちらにせよ彼らの協力がないとこの島から移動する事すら出来ないだろう。
『それならお言葉に甘えよう、私達も出来る限り頑張るよ』
私はグランに手を差し出すと彼は笑顔で握り返してくれた。
「良いって事だな!それじゃあ早速案内するぜ───オイラ達のグランサイファーに!」
「あたし来た意味あったし!?」
誰から助けに行こう?
-
イサン
-
ドンキホーテ
-
良秀
-
ムルソー
-
ホンル
-
ヒースクリフ
-
イシュメール
-
ロージャ
-
シンクレア
-
ウーティス
-
グレゴール