アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

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BLタグは保険ではありません。
露骨な性描写こそないですが、主人公の性的思考(誤字にあらず)はちらちらと出てきます。
悪しからず。
ちなみに全21話、全て書き切ってから投稿を開始しています。
毎日投稿するので、春休みが終わるまで、新学期や年度が始まるまでの楽しみにしてくれれば幸いです。


失恋

 今の日本人に、『尊敬する人は誰?』って聞くと、十人が十人こう返すだろう。

 『伏黒恵』と。

 理由を尋ねると、これも十人が十人こう返すだろう。

 『初代死滅回游勝者(チャンピオン)だから』と。

 もしくは、こう返す人もいるかもしれない。

 『日本に君臨する神君だから』と。

 

 

 

 第一回の開催からもう少しで30年経つ。第一回の死滅回游は、呪術テロの形で行われたのだという。

 その結果、日本の呪術の根幹である、天元という存在が日本人と同化。結果として、日本に住む人類とその子供は、全て不死身となった。

 ただし、不死身の代償として。一万人に一人の才能ある人間が、年に一回選ばれ、不死身を剥奪されて結界の中に放り込まれ、殺し合いをさせられる。

 その殺し合いこそ、形を変えた二回目以降の死滅回游である。

 

 

 

 だが、息子はその質問にこうは返さない。

 十三代目死滅回游勝者、西東詠児――つまり、父たる私こそ、尊敬に値すると言う。

 罪深く、血塗られ、そして呪われたこの私を。

 

 

「父さん、父さん」

 

 西東南路。息子の名だ。術式の影響か、瞳孔以外が白く、仄かに光る瞳。そして、母譲りのまっすぐな黒い長髪。今年十八になる青年だ。高校三年になり、成績優秀で術師としての実力も準一級はあるだろう。

 一つ心配なのは、反抗期が来ないこと。私に対しては、母に似た天真爛漫な笑みで甘えてくる。年齢にしては少々幼すぎるかというような態度を取るのだ。

 精神的な成熟が遅れている、という訳ではないのは分かっている。友達とは楽しく過ごせているそうだし、恋愛もそれなり――失恋に涙の一つも流さなかったのは男としてちょっとどうかと思うが。

 

「父さん、どうかしたの?」

 

 今は、車を操縦し、南路を後部座席に乗せて休日の家族サービスに遠出している。

 死への恐怖がなくなり、国の調査では呪霊の数は三十年前よりかなり減ったのだという。しかし、その存在が消えた訳ではない。呪術師――呪霊駆除請負業者――の仕事は、死滅回游勝者の最も重要な義務とされている。

 逆に言えば、その義務さえ満たせば、納税も徴兵も免除される。もっとも私の場合、消費税などの間接税は支払っているが。

 

「疲れたなら、運転代わろうか?」

「いや、考え事をしていただけだ」

 

 南路は術式の関係上、運転免許は普通MTから特殊車両免許まで持っている。私は普通ATだ。『父さんに唯一勝てるところ』と息子は言っている。

 そんなことはないと思うのだが。記憶力も運動神経も、中年の私より息子の方が優れているはずだ。

 

「誕生日のプレゼントは、夜景が良い、と言っていたよな」

「うん。だから軽井沢まで車を飛ばしてくれてるんだよね」

 

「――そこで、少し重い話がある。覚悟してくれ」

 

 アクセルを踏む。日が暮れていた。

 

 

 

 春の夜空は、美しかった。。

 全電力の9割弱がローコストローリスクの重犯罪者拷問式呪力発電に切り替えられた日本(このくに)では、大気の汚染が殆どない。中国大陸からやってくる黄砂やPM2.5も、四代目の勝者が主導した戦争の結果としてほぼ無くなった。

 今では、世界で最も豊かで、最も美しく、最も栄えた国だ。

 

 南路と二人で野原に寝ころんでいると、視界の端に白い犬が見えた。

 

「伏様の玉兎犬か」

「初代の? 父子水入らずの邪魔しないでほしいな」

 

 眉をひそめる南路を叱る。伏黒陛下を初代と呼ぶのは、間違いではない。だが、他の勝者と同列に扱う表現だとして、眉をひそめる者も多い。

 

「こら、恵公(ケイコウ)の眷獣だぞ。畏れ多いことをいうな」

「ご、ごめん……」

 

 南路は謝って私に身体を寄せてくる。身長は平均的だが、華奢に見える身体だ。だが、内に秘めた筋肉は硬さを感じさせる。

 それを突き放すことも出来ず、私は頭を撫でた。男のものとは思えない滑らかな髪だ。

 甘えさせてしまっているのは分かる。私の責任だ。親離れをさせなくてはならない。

 

「大事な話がある」

「うん」

 

「――すぅ、はぁ。そうだな。まずは何から話そうか。お前が生まれた時のことだ。お前は、死滅回游が終わった直後に生まれた子、というのは知ってるな」

 

「うん。母さんは死滅回游で出会って、でも逃亡生存したから不死身じゃない。それで、産褥で亡くなったんだよね?」

 

「お前には、そう伝えていたな。――すまない。それは嘘なんだ。お前の、実の母親は、私が出会う前に既に妊娠していた」

 

「え――?」

 南路は、驚愕に目を見開いているだろう。その顔を見るのは辛い。私は、夜空の美しさに逃げながら、言葉を続けた。

 

「そして、お前が生まれた翌日に、私が殺した。彼女は、逃亡するための点を使い果たしてしまっていた。私が優勝するために。勝者(チャンピオン)となるために。目先の名誉欲に負け、あれだけ誠実な女性(ヒト)を、お前の大切な母親になるはずだった女性を、殺してしまった。――それが、全てだ。私は、お前の尊敬に値するような人間じゃない」

 

 あの時を思い出す。彼女と私の出会いは、彼女からの奇襲だった。もちろん死滅回游(コロシアイ)の最中、恋愛的な文脈は一切なかった。だが、辛勝した私が妊婦である彼女に情けを掛け、そこから共闘が始まり――結界内の最後の二人となって、共闘は終わった。

 勝者はただ一人。それが死滅回游のルールだ。

 

「――そう」

 泣きじゃくるかと、絶望するかと思っていたが。帰ってきた言葉は冷静だった。いや、まだ事実を受け入れられていないのかもしれない。

 

「家に帰ろう。頭を冷やしてから、また、親子の関係を考え直そう」

「……そうだね。そう、なら、いいよね」

 

 南路は起き上がり、私に馬乗りになる。

「おい、何を――」

 

 今の話で、南路は蒼ざめた顔をしていると思っていた。

 だが、彼の顔は、なぜか紅潮していた。それも、気味が悪いほどの笑顔で。可愛らしいと思っていた長いまつげが、今は恐ろしく感じさせる。

 

「――好き、父さん。愛してる」

「あ、ああ。俺も愛してるぞ。だから家に帰って」

「そういう意味じゃないの、分かるでしょ? 血のつながりのない相手からそう言われることの意味、分かってよ」

 

 脳が理解を拒む。あまりにも直截的な表現を、今まで積み上げてきた親子の絆で無理やり圧し潰そうとして――そうだ、その絆は、さっき私が崩したんだ。

 

「分からないなら、分からせてやる」

 その血色のいい唇を私の口に近づけ――私は、それを拒絶した。自分の口を左手で覆い、もう片方の手で南路の頬を叩く。

 

「――え?」

 思えば、これが南路に振るった初めての暴力かもしれない。

 ビンタされた勢いで頬を切った南路は、ぼろぼろと涙を零し、そして。立ち上がる。

 

「うっ、うっ。ぺ、『ペイルプラクティス』」

 原付の形をした式神を喚び出し、それに乗って、南路は私から逃げるように去っていった。

 泣きじゃくりながら。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 僕は、父さんのことが好きだ。父としてだけではなく、男として、雄として。

 

 いつからだろうか。炎に包まれながら僕を抱き締めている姿が原風景として残っているが、それが原因かどうかは不明だ。

 

 それから、憧れと、そして欲望のまなざしを向けていた気がする。死滅回游勝者という肩書。迸る呪力。整えられた髪と髭。冷たい眼が、僕を見る時だけ暖かくなる事実。胸と下半身にこみ上げるものを感じていたが、その正体は分からなかった。

 

 自分の無意識のそれに気が付いたのは、ちょうど中学生二年の頃。同級生の女子に、普通に告白されて、普通に付き合って、普通にセックスして。その後に思ったのが『父さんの方がエロい』だった。

 当時の彼女が、世間一般では魅力的とされる女性だというのは分かった。いわゆる校内の王子様系女子で、女子生徒に非常に人気があった。中性的な美人であり、抱けなくもなかったから抱いたが、行為の最中、瞼の裏には常に、幼少期に見た父の筋肉質な裸体が浮かんでいた。

 しばらく悩んだ後、父さんのコスプレを当時の彼女にさせようとしたところ、泣きながら包丁で滅多刺しにされた。不死身の体であっても痛いものは痛い。それに、チャンピオンの息子で、かつ術式持ちの男を害そうとする奴などいない。小中学生同士の喧嘩やいじめでは、出血や指の切断などは日常茶飯事らしいが、そういったことは経験したことがなかった。

 痛みと失血に耐えながら、何が悪かったか頭を回し。やはり、血の繋がった父親に欲情する男への嫌悪だろうと結論付け、露骨な振る舞いは避けるようになった。

 

 それから四年と少し。できるだけ『普通に優秀な、普通の孝行息子』を演じてきた。チャンピオンの息子に相応しい振る舞いを意識すれば、そこまで難しくはなかった。

 家の中では、少しだけ自分を出して、父に甘える。外では、凛々しく逞しいチャンピオンの息子。そうやって、自分を抑圧してきた。

 

 十八歳の誕生日に、父さんがデートに連れて行ってくれるらしい。

 一緒に星空を見に行こうというのは、デート以外の何物でもないだろう。

 隠れた僕の気持ちに気付き、そして応えてくれるのかもしれない。

 殆ど妄想に近い期待と共にドライブをして、終着点である星空の下の草むらで。

 僕は、有頂天になって。そして、どんぞこまで叩き落された。

 

 

 

「うっ、うっ。ぺ、"青弐才(Pale Practice)"」

 

 悲しみの感情を呪力に変える。

 呪力を術式に流し込み、式神を形作り、喚び出す。

 僕にとっての最初の式神、"青弐才(ペイルプラクティス)"。青い色の原付の形をした式神だ。

 駆体は呪いで、駆動も呪い。内燃機関が呪力を燃やして回転数に転換する。

 普段は出さない爆音を放って爆走する。嗚咽は排気音がかき消してくれた。そのまま音を出して道路に出て、自動車を躱しながら先に進んでいく。

 ああ、暴走族が人への迷惑を顧みず爆音を出す気持ちがはじめて分かったかもしれない。速度と音が、ぐちゃぐちゃになった感情と未来を誤魔化してくれる。

 もっと速く。もっと激しく。もっと強く。涙がタイヤを廻し、風が僕を抱いてくれる。

 

 時速が200キロを超えたところで、赤信号に突っ込み、老婆を轢いた。老婆と僕は血を撒き散らして宙を舞い、道路に衝突した。

 だからどうした。この国では、人は死なない。老婆の方が先に立ち上がり、僕に近づき、蹴りを一つ入れて去っていった。

 起き上がる気力が、ない。倒れ伏したまま、車に轢かれること数回。

 轢かれた痛みと肉体再生の痒みで悲しみを塗りつぶし、ようやく両足で立つ気力を取り戻す。

 目についた公園に行き、ブランコに座って痛みが収まるのを待つ。

 公園に鎮座する伏黒恵の銅像を眺めていると、またしても悲しみがぶり返してきた。

 

 何が悪かった。分かってる。僕の唇そのものだ。

 何が悪かった。分かってる。僕の陰茎そのものだ。

 何が悪かった。分かってる。僕の感情そのものだ。

 何が悪かった。分かってる。僕の生い立ちそのものだ。

 

「ああ、ダメ、ダメだこれ――」

 

 死にたい。今すぐ、無間地獄に飛び降りたい。

 だけど、現代の日本人に生まれたからには、それは不可能だ。

 寿命を売り払って()寿()を使い切り、()()になったとしても、ごく僅かに自我は残るのだという。完全な死ではないし、そもそも50歳未満の呪樹化は禁止されている。

 死にたい、死にたい死にたい死にたい。父に拒絶されて、生きている資格がない。父と結ばれない世界で、生きている意味がない。

 

 立ち上がると喉の奥から湧き上がるものを感じて、公園のトイレに駆け込む。

 大便器に吐瀉物をぶちまけ、少しすっきりした。しかし希死念慮は強く残っている。

 ズキリと、頭痛がする。痛みは収まったと思ったのだが。

 顔を洗ったらもう少し気分がマシになるだろうか。そう思い、洗面所で顔を洗い、ふと鏡を見ると。

 

 額に呪印が浮かび上がっていた。

 一万人に一人。死滅回游の参加権。

 すなわち、死ぬ権利が、天から舞い降りた。




主人公は美少年よりの美青年
親父はイケオジ
これだけ覚えてればあとは事足ります。
元カノは今後の展開には関係ありません。
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