アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜 作:砂漠谷
白髪の女が天に小指の欠けた右掌を掲げ。
そこから、夜空が流れ出した。
「これはね。かつて使われていた結界術、"帳"と言うんだ。第一回死滅回游によって、この国は全体に帳が下ろされたようなものだから、今はあまり意味がないんだけど。この国は、太陽が照ってても、空が青くても、夜なんだよ」
"捨骨"により突き出した刀は空を切った。領域展開時に、相対距離が引き離されたのだろう。
周囲を見ると、白髪女とその式神だけ。
釘崎はいない。外に出されたのか。
「ああ、この結界は外側からの攻撃に強い設定だ。逆に言えば、君でも内側から崩せる――結界の
釘崎による救出は、見込めなさそうだ。
一対一。白髪女は、刀を構える僕を目の前に、小指を再生させた。反転術式だろうか、いやあれは。
「不死――剥奪されたはずじゃ?」
「尋常の不死ならね。私は一応、
「天元――師が言っていた、不死の術式の、大元か。だが……不死が剥奪されていないのに、
「そうだねぇ、そこが不思議なトコロなんだけど。私の場合――
「了解しました」
「メッセージを受信しました!」
二つのコガネが現れる。僕は白髪女から視線を外さず、コガネにメッセージを音読させる。
「1、
2、前項に違反した泳者からは術式を剥奪する。
3……
14、夏油傑、伏黒恵、氷見汐梨を除く全泳者の死亡をもって死滅回游を終了する」
全てが、おかしかった。
まず第一に、不死の剥奪についての定義がない。十九日というのもおかしい。術式覚醒? 術式を既に持つ者はプレイヤーにならないと?
つまり、何も、かもが。
「第一回の、参加者か。伏黒恵以外、死んだはずじゃ?」
「私もね。死んだと思っていたんだよ、"彼"に沈められたあの時。でも、生きていた。気付けば、崩壊した新宿で、半裸で突っ立っていたんだ。『宿儺様が目覚めるまで、好きに生きろ』って言葉だけが、脳裏に残っていてね」
「――お前、名前は」
「氷見汐梨。第一回目の終了条件の例外、その一人だよ。法則を代え、手順を換え、総則を替え、意図を変えた二回目以降。記憶に残る一回目とはずいぶん違う」
「何が、目的だ」
「いやまぁ、"好きに生きること"だけど? 死にさえしなければ、最高の娯楽じゃないか死滅回游。毎回、姿を換えた式神を呪霊の
「そうか、なるほどなるほど――舐めやがって」
不死の呪詛師の殺し方。父さんから教わった、"心構え"の一つ。何十通りものそれを脳裏に駆け巡らせて。
「コガネ。死滅回游システムとの通信は?」
「可能です」
「オッケ、『釘崎野薔薇に四十五点譲渡』」
「承知しました――譲渡完了しました」
「ふぅん、君もだいぶ舐めているみたいだ。脱出を諦めるのかい?」
「ああ、脱出じゃない。お前は三十回目の参加者じゃないから、この仙台
呪力を振り絞れ。この会話で、随分と憎しみは満ちた。
それを、最高効率で回転数に転換しろ。
使えるのは青と赤。それで十分。
"赤"からホースの入り口のみを取り出す。生得領域内部のポンプで精製、加圧された水と、可燃性の呪力液体が混合する。
「ブチかましだ」
"それ"が大気に触れた瞬間、爆発するかのように炎混じりの水蒸気が満ち溢れる。
「この領域内で、それをするかい? ――術式解放、"霜凪"」
水蒸気が、領域内に満ちた凍気によって雪の結晶に。しかし、想定の範囲内。
「相性が悪い奴と、闘いたいなんて言う訳ないもんなァ! 炎対策があるなんて知ってんだよ、まだまだァ!」
高圧高温の水蒸気を更にばら撒くことで、凍気が多少マシになり――息を吸っても肺が即時には凍らない程度――氷見が呪力出力を増すことで再度極寒の星空に戻る。
「っらぁああああ!」
「はぁ、君には失望だよ。確かに術式による冷却と呪力性質による加熱では、後者の方が呪力効率は高い。だけど、それは君が万全の状態であれば勝ち目が生じるという話であって、飢えて渇いた君じゃ――」
まだ、まだ、まだ。ばら撒き続けて――領域内部の床に、水ができ、すぐに氷になる。
「ッチ、この空間を氷で満たす気かっ」
気付いた氷見。そう、飽和水蒸気で満たした空間は、水になり、それは冷気になって氷で満たされる。炎を生める俺は氷塗れの空間でも動けるが、氷見は氷を生むだけで動けない。
だが、それに気付かれないと思うほど俺も愚かじゃない。あくまでこれは前提。
氷見は、俺の水蒸気噴射を止めようと、式神をけしかける。
単眼の、気色の悪いマスコットのような式神は形を代え、その腕のみを肥大化させて拳を俺に叩きつける。
俺は"
二発、三発。パンパ―の歪みが最大に達し、砕ける直前。
「よぉし、やれぇクロちゃ、ッえ!?」
"
――やはり。近づかれて分かったが、式神が印を結んだ関係上、式神が領域の核。おそらく、術師が直接担当しているのは領域の外殻のみ。"帳"がどうこう言っていたのもそれか。父のような領域展開にはそんなものは使わない。
術師か式神。どちらかを砕けば、領域は解除される。当然、狙うのは――前者。
「お前、近接弱ぇだろ」
ああ、釘崎の口調が移ってしまったのかもしれない。がなり声で威圧を叩きつけ、僅かにひるむ氷見に向けて、"
「ひゃっ、だったらなんだい! この状況で君が勝てるとでも!」
「どうせ第一回の記憶だーけ受け継いで、戦闘狂になった気分のパンピーだろうが! この回まで全部式神任せだったのが良い証拠じゃねぇか! お前は伏黒恵と同じ世代かもしれねぇが――
「ひっ、"直瀑"、"直瀑"、"直瀑"!」
必中効果が付与された、足元の氷塊。バカが、効かねぇよ。
「"シン・陰流――簡易領域"」
必中効果がズラされ、氷塊はズレた位置に生じる。それを見た氷見は、逃げながら先ほどの数倍の量の氷塊を壁のように生む。
壁の向こう側から、ぜぇはぁと息の切れた呼吸音。やはり、体力は低い。
「"
「うん、行けるね」
全力で、氷壁を駆けのぼる。それを知覚したのだろう、氷の壁に更に突起がいくつも生まれ、九十度クラスのエクストリームバイクの難易度が上がる。
「なんっで、バイクで氷をよじ登れるんだよォ!」
「スタッドレスだ、バカが!」
氷壁を跳躍し、向こう側へ。そのまま大型二輪を蹴とばし、氷見の元に一直線。
「あああああ!! "黒凍星"!!!」
叫ぶように、式神が核となった巨大氷塊が投げつけられる。まさに凍星、と行ったところか。
だが、十分。青い大型二輪を送還し、再度生得領域内の発動機を回す。
その出力を、全て直径二メートル半の大型丸鋸の回転に分配する。
当然、炎で赤熱した丸鋸である。
「頼む、クロちゃん、いっけぇええええ!」
赤熱丸鋸の回転と、式神の凍結力。その二つは拮抗する。
全出力を式神に回しているのか、氷見は無防備。
うん、
「"
未だ送還していない"
Q,背後より鈍器で頭部を殴られて、呪力による防御を忘れた、非力な女性は、どうなるでしょうか。
A,気絶します。
領域が解除され、式神が消失する。式神は自律駆動をするようなものではなかったらしい。
さて、この後は。
『不死の殺し方』の時間だ。
氷見汐梨が星漿体というのは独自設定です。勘違いなさらないように。