アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

10 / 21
COLD CURSING CLIMBER

 白髪の女が天に小指の欠けた右掌を掲げ。

 そこから、夜空が流れ出した。

 

「これはね。かつて使われていた結界術、"帳"と言うんだ。第一回死滅回游によって、この国は全体に帳が下ろされたようなものだから、今はあまり意味がないんだけど。この国は、太陽が照ってても、空が青くても、夜なんだよ」

 

 "捨骨"により突き出した刀は空を切った。領域展開時に、相対距離が引き離されたのだろう。

 周囲を見ると、白髪女とその式神だけ。

 釘崎はいない。外に出されたのか。

 

「ああ、この結界は外側からの攻撃に強い設定だ。逆に言えば、君でも内側から崩せる――結界の(へり)を見つけられれば、だけど」

 

 釘崎による救出は、見込めなさそうだ。

 一対一。白髪女は、刀を構える僕を目の前に、小指を再生させた。反転術式だろうか、いやあれは。

 

「不死――剥奪されたはずじゃ?」

 

「尋常の不死ならね。私は一応、星漿体(せいしょうたい)でもある。既に意味を失くした、ちょっと強度の高いだけの不死者だよ。天元との適合度が高いから、剥奪に耐えられた。それだけさ」

 

「天元――師が言っていた、不死の術式の、大元か。だが……不死が剥奪されていないのに、泳者(プレイヤー)として認められているのか?」

 

「そうだねぇ、そこが不思議なトコロなんだけど。私の場合――()()総則(ルール)が適用されているみたいだね。コガネ、『私に適用されている総則(ルール)を西東南路に送信して』」

 

「了解しました」

「メッセージを受信しました!」

 

 二つのコガネが現れる。僕は白髪女から視線を外さず、コガネにメッセージを音読させる。

「1、泳者(プレイヤー)は術式覚醒後、十九日以内に任意の結界(コロニー)にて死滅回游への参加を宣誓しなければならない。

2、前項に違反した泳者からは術式を剥奪する。

3……

 

14、夏油傑、伏黒恵、氷見汐梨を除く全泳者の死亡をもって死滅回游を終了する」

 

 全てが、おかしかった。

 まず第一に、不死の剥奪についての定義がない。十九日というのもおかしい。術式覚醒? 術式を既に持つ者はプレイヤーにならないと?

 つまり、何も、かもが。

 

「第一回の、参加者か。伏黒恵以外、死んだはずじゃ?」

 

「私もね。死んだと思っていたんだよ、"彼"に沈められたあの時。でも、生きていた。気付けば、崩壊した新宿で、半裸で突っ立っていたんだ。『宿儺様が目覚めるまで、好きに生きろ』って言葉だけが、脳裏に残っていてね」

 

「――お前、名前は」

 

「氷見汐梨。第一回目の終了条件の例外、その一人だよ。法則を代え、手順を換え、総則を替え、意図を変えた二回目以降。記憶に残る一回目とはずいぶん違う」

 

「何が、目的だ」

 

「いやまぁ、"好きに生きること"だけど? 死にさえしなければ、最高の娯楽じゃないか死滅回游。毎回、姿を換えた式神を呪霊の泳者(プレイヤー)に偽装して参加してたんだけど――そろそろ飽きてね。十三代目の息子。今回の優勝候補。君と、本気で戦いたいかも思ってさ」

 

「そうか、なるほどなるほど――舐めやがって」

 

 不死の呪詛師の殺し方。父さんから教わった、"心構え"の一つ。何十通りものそれを脳裏に駆け巡らせて。

 

「コガネ。死滅回游システムとの通信は?」

「可能です」

「オッケ、『釘崎野薔薇に四十五点譲渡』」

「承知しました――譲渡完了しました」

 

「ふぅん、君もだいぶ舐めているみたいだ。脱出を諦めるのかい?」

「ああ、脱出じゃない。お前は三十回目の参加者じゃないから、この仙台結界(コロニー)の最後の一人としてカウントされない。で、確認したところ、最後の生存者は僕と野薔薇とお前、あとはカラスで殺せる飢えた雑魚が五人未満。――ブチ殺してやるさ」

 

 呪力を振り絞れ。この会話で、随分と憎しみは満ちた。

 それを、最高効率で回転数に転換しろ。白無垢(きゅうきゅうしゃ)は消費が激しすぎて使えない、黒夢見(れいきゅうしゃ)は残りの雑魚を殺すためにとっておきたい。

 使えるのは青と赤。それで十分。

 "赤"からホースの入り口のみを取り出す。生得領域内部のポンプで精製、加圧された水と、可燃性の呪力液体が混合する。

 

「ブチかましだ」

 

 "それ"が大気に触れた瞬間、爆発するかのように炎混じりの水蒸気が満ち溢れる。

 

「この領域内で、それをするかい? ――術式解放、"霜凪"」

 

 水蒸気が、領域内に満ちた凍気によって雪の結晶に。しかし、想定の範囲内。

 

「相性が悪い奴と、闘いたいなんて言う訳ないもんなァ! 炎対策があるなんて知ってんだよ、まだまだァ!」

 

 高圧高温の水蒸気を更にばら撒くことで、凍気が多少マシになり――息を吸っても肺が即時には凍らない程度――氷見が呪力出力を増すことで再度極寒の星空に戻る。

 

「っらぁああああ!」

「はぁ、君には失望だよ。確かに術式による冷却と呪力性質による加熱では、後者の方が呪力効率は高い。だけど、それは君が万全の状態であれば勝ち目が生じるという話であって、飢えて渇いた君じゃ――」

 

 まだ、まだ、まだ。ばら撒き続けて――領域内部の床に、水ができ、すぐに氷になる。

 

「ッチ、この空間を氷で満たす気かっ」

 

 気付いた氷見。そう、飽和水蒸気で満たした空間は、水になり、それは冷気になって氷で満たされる。炎を生める俺は氷塗れの空間でも動けるが、氷見は氷を生むだけで動けない。

 だが、それに気付かれないと思うほど俺も愚かじゃない。あくまでこれは前提。

 

 氷見は、俺の水蒸気噴射を止めようと、式神をけしかける。

 単眼の、気色の悪いマスコットのような式神は形を代え、その腕のみを肥大化させて拳を俺に叩きつける。

 俺は"(しょうぼうしゃ)"のバンパーのみを具現化し、それを防ぐ――多少ひしゃげるが。

 二発、三発。パンパ―の歪みが最大に達し、砕ける直前。

 

「よぉし、やれぇクロちゃ、ッえ!?」

 

 "赤提灯(RED RESCUE)"。消防車の全駆体を具現化し、式神を氷見の元へ吹き飛ばす。

 

 ――やはり。近づかれて分かったが、式神が印を結んだ関係上、式神が領域の核。おそらく、術師が直接担当しているのは領域の外殻のみ。"帳"がどうこう言っていたのもそれか。父のような領域展開にはそんなものは使わない。

 術師か式神。どちらかを砕けば、領域は解除される。当然、狙うのは――前者。

 

「お前、近接弱ぇだろ」

 

 ああ、釘崎の口調が移ってしまったのかもしれない。がなり声で威圧を叩きつけ、僅かにひるむ氷見に向けて、"血油輪軸(シャフト)"を用いて駆ける。

 

「ひゃっ、だったらなんだい! この状況で君が勝てるとでも!」

「どうせ第一回の記憶だーけ受け継いで、戦闘狂になった気分のパンピーだろうが! この回まで全部式神任せだったのが良い証拠じゃねぇか! お前は伏黒恵と同じ世代かもしれねぇが――()()()()だ」

 

「ひっ、"直瀑"、"直瀑"、"直瀑"!」

 

 必中効果が付与された、足元の氷塊。バカが、効かねぇよ。

 

「"シン・陰流――簡易領域"」

 

 必中効果がズラされ、氷塊はズレた位置に生じる。それを見た氷見は、逃げながら先ほどの数倍の量の氷塊を壁のように生む。

 壁の向こう側から、ぜぇはぁと息の切れた呼吸音。やはり、体力は低い。

 

「"青弐才(PALE PRACTICE)"」

 

 ()()なタイヤに置換した大型二輪を召喚し、それに跨る。エンジンを回し、寄り集まる凍気を吹き溶かす。

 

「うん、行けるね」

 

 全力で、氷壁を駆けのぼる。それを知覚したのだろう、氷の壁に更に突起がいくつも生まれ、九十度クラスのエクストリームバイクの難易度が上がる。

 

「なんっで、バイクで氷をよじ登れるんだよォ!」

 

「スタッドレスだ、バカが!」

 

 氷壁を跳躍し、向こう側へ。そのまま大型二輪を蹴とばし、氷見の元に一直線。

 

「あああああ!! "黒凍星"!!!」

 

 叫ぶように、式神が核となった巨大氷塊が投げつけられる。まさに凍星、と行ったところか。

 だが、十分。青い大型二輪を送還し、再度生得領域内の発動機を回す。

 その出力を、全て直径二メートル半の大型丸鋸の回転に分配する。

 当然、炎で赤熱した丸鋸である。

 

「頼む、クロちゃん、いっけぇええええ!」

 

 赤熱丸鋸の回転と、式神の凍結力。その二つは拮抗する。

 全出力を式神に回しているのか、氷見は無防備。

 うん、()()だ。

 

「"無頭幽騎(ライドオン・オートマトン)"」

 

 ()()()()()()()()()()()()()、僕の拡張術式。脆く、非力だが。

 未だ送還していない"赤提灯(しょうぼうしゃ)"から喚び出した三体のそれは、工具を握っていた。

 

 Q,背後より鈍器で頭部を殴られて、呪力による防御を忘れた、非力な女性は、どうなるでしょうか。

 A,気絶します。

 

 領域が解除され、式神が消失する。式神は自律駆動をするようなものではなかったらしい。

 

 さて、この後は。

 『不死の殺し方』の時間だ。




氷見汐梨が星漿体というのは独自設定です。勘違いなさらないように。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。