アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

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間接的な食人の描写があります。注意。


霜降り肉

 不死の殺し方は、大量にある。

 寿円を使い果たさせて呪樹化させる。強化尋問(ごうもん)によって発狂させる。

 ああ、僕の"黒夢見"で封印するというのも、殺し方の一つだ。もっとも、"黒夢見"には例のカラス使いの女呪霊が入っているから、今回は使えないが。

 

 今回は、そのどれでもない手法を使う。

 "浴"。呪物や呪具の作成、特に産業化されたソレは呪詛式弾丸の製造にも用いられる手法だ。今回はその中でも、重犯罪者拷問式呪力発電の、"下処理"として用いられる手法を使う。

 手順は簡単だ。半死半生に追いやった不死者に、生きた呪霊の血液を輸血し、同時に不死者本来の血液を出し続ける。これだけの簡単なものだ。当然、不死者は呪霊の血液に拒絶反応を催すが、それも慣らしていけば徐々になくなる。

 これにより、ただ呪霊の血肉に漬けるよりも遥かに高効率に不死者を"堕とす"ことができる。

 最終的に、精神の動きが鈍化し、不死の術式を持つだけの廃人が生まれる。

 

 ――と、思ったのだが。

 

「君、誰? というか、女の子に輸血している最中だったのに、いきなりおっぱいが胸板になるし、注入していた呪霊の血液が全部飛び散るし……」

 

「氷見汐梨に受肉していた、裏梅、という。――下郎めが、今すぐこの腐った所業を取りやめろ」

 

「へぇ、まあ。君が氷見汐梨じゃないって言うなら取りやめるけど……」

 

 メスを置き、ベッド代わりにしていたコンクリの台から拘束を外しにかかる。

 

「……随分と物分かりが良いな。そこまで氷見汐梨が憎いか」

 

「憎い、んじゃなくて不愉快なんだよね。死滅回游という儀式、血塗られた僕らの国の象徴を、たかが娯楽場としか考えてない馬鹿」

 

 氷見汐梨は舐め腐っているのだ、死滅回游を、ひいては僕たち日本国民を。死滅回游に参加して理解した。これほど悍ましい儀式はない。それと同時に、これほど必要な犠牲はない。

 国民の不死を継続するための儀式。それは、死者の命に最大の高値を付けるための、オークションでもある。だからこそ、勝者(チャンピオン)はその最高値として崇敬を受けるのだ。

 

「死滅回游が、国の象徴? ちょっと待て、氷見汐梨の記憶を読む」

 

「あっ、それやめた方がいいと思」「オッェエエエエエエ! 貴様、この肉体にどれほど悍ましいことを!! 呪霊の注入? それに食人? 宿儺様より先にぽっと出のガキに血肉を食われる記憶など読みたくは無かったぞ! 私本人ではないとはいえ、許容できるものではないわ!」

 

 拘束を外している途中で暴れそうになるので、腹部の拘束は付けたままにして一端退避する。

 

「だってお腹空いてたし。メスで切除してから大腿筋ちょっと頂いたくらいだし、許して?」

 

 周囲に食料など無かった。釘崎は折れた釘――結界を破ろうとしてくれていたのだろう――を残して離脱していたし。今まで食人経験があった訳ではないが、山猿を食べるのと大して嫌悪感は変わらなかった。

 

「貴様――、生きたまま脳を切除されて呪霊の血液を注ぎ込まれる経験は、中々得がたかったぞ、負の意味で」

 

「それは、ごめんちゃい。受肉した方がまさか生きているとは」

 

「ふぅ、はぁ。まあいいだろう。記憶を読んでだいたい内容を理解できた。氷見汐梨はこの十数年間で、死滅回游に潜入しつつは戦場をかき回し、離脱していくという活動を繰り返していたようだ。最初は自殺目的での侵入だったようだが、自分が死なないと発覚してからは、まあ、お前の想像した通りだな。しかし、死滅回游勝者が宿儺様ではなく、伏黒恵になっているとは」

 

「その、宿儺様、って誰?」

 

「宿儺様はな。偉大、強大、甚大、莫大、もう言葉では表せない尊い御方だ。貴様が生きて宿儺様に逢った時は、まず第一に跪け。さすれば生かして貰えんこともない」

 

 へぇ、怖。

 

「そうか。気を付けておくよ」

 

 冷静になったみたいなので、腹部の拘束も外す。これで彼は自由だ。

 

「――で、だ。私は宿儺様を起こしに、伏黒恵を探す。貴様はこれからどうするつもりだ」

 

 宿儺とやらが、伏黒恵の中で眠っているのだという。それを起こしたら、この国のもう一つの象徴である伏黒恵はどうなるのだろうか。ひいては、この国はどうなってしまうのだろうか。

 だが、僕には関係がない。父さんも僕も、国の支えがなくても生きていける程度の実力はある。二人で暮らせれば、この国がどうなろうと知ったことではない。

 

「ああ、脱出するための点は、もうない。――残りの泳者(プレイヤー)を殺して、本戦に進むよ。君も点はないんだろう?」

 

 くれ、とまでは言わないが。

 

「ああ、第一回の点と第二回以降の点は互換性がない。第一回のシステム上、私は点を消費せずに結界外に出られる」

 

「総則十二、だったっけ」

 

「ああ。貴様は違うんだったな。強烈な"浴"で起こしてもらった恩は、私の受肉元の肉を食った仇で取り消した。直食いであれば殺していたところだ」

 

 おお怖、その二。

 もっとも、肉を食べ、血も蒸留して水にしてから飲んだ。そうして元気が湧いた今、闘って負ける気はしないが。

 

「じゃあね、元気で」

 

「言われなくとも――っと、服を寄越せ」

 

「ないけど」「氷見汐梨の服はどうした!」「え、燃やしたけど」「燃やした!? ならば貴様のコートを寄越せ」「え、ヤダ。これ父さんからの貰い物だよ?」「だからどうした! 貴様は多少寒くても炎があるだろう!」「えぇ……仕方ないなあ」

 スーツだけ寄越すと、裏梅はじぃと睨む。下も寄越せということか。しょうがないにゃあ。

 氷見汐梨の服の中から、まだ燃やしていないもの、スカートだけ寄越す。渋々受け入れた裏梅は、革コートにノーパンスカートという変態ファッションで結界の外に出た。

 

「おぉ……本当に出られるんだ。じゃあ僕も、やるかぁ」

 

 薄暗くなってきた。もう"黒夢見(れいきゅうしゃ)"を召喚し、十数羽まで数を減らしたカラス(食料として殆どを消費した)を呼び出す。

 

 そして。

 

「残りの生存者を見つけたら、"ばぁどすとらいく"。外さないようにね」

 

 一斉にカラスたちは飛び立つ。そして、数十分後、コガネが現れ。

 

『おめでとうございます。西東南路様、あなたは仙台結界(コロニー)最後の生存者となりました。本戦に進出する権利が与えられます。進出しますか?」

 

 YESだ。これにNOと言うと、百点以上を持っていない限り永久に結界(コロニー)内を彷徨うことになる。第二回、第三回の死滅回游では、このしくじりによって餓え死ぬまで結界内を彷徨う泳者(プレイヤー)もいたのだとか。

 

「もちろん」

 

「ありがとうございます。本戦は東京第一結界(コロニー)で行われます。また、西東南路様が最後の本戦進出者であるため、転移直後に本戦が開始されます。ご了承ください」

 

「分かった」

 

 氷見汐梨の血肉を食べておいて良かった。飢え渇いた状態で本戦に進出しても、生き残れはしないだろう。

 

「転移が開始されます。三、二、一」

 

 零。そのタイミングで、呪力による防御を堅めて周囲を見渡す。

 

 半径五キロメートル以内には――人、人、人。

 

「はぁ!?」

 

 本戦には、結界(コロニー)の数、すなわち二十しか最大でも入れないはずだ。

 

 だが、朽ち果てたビルの中、交差点。そこには普通の都市と同程度の人口密度で人々が存在していた。

 一人一人数えているときりがない。呪力感知をフェルミ推定的に切り替える。

 

 ――おおよそ、一万人。それも、それぞれが異なる呪力を纏っている。そのほとんどが非術師のようだが、百人に一人は呪術が使えるようだ。

 

 もちろん、僕の付近にも人間がいたが。僕を無視するように動いている。まるでゲームのNPCのように。

 

 呪力はまるで違う。だが、これと似通った術式を僕は知っていた。

 

「――父さん?」

 

 周りの人間は、誰も反応しなかった。

 

 近くのビルから、爆発音が響く。混沌とした状況に惑わされるな。本戦は、とっくに始まっている。

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