アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

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今回は全て一人称です。


拍子抜けのLAST HOPE

 ――禪院真希を覆う簡易領域が剥がし切られる直前だと、その時僕は知らなかったが。

 

 地下駐車場に溢れる凍気と氷塊、それを全て呪力の炎で飛ばし、溶かし切った。

 裏梅は、宿儺と違い、不死だ。だから心臓を抉っても、脳を潰しても殺すことは出来ない。輸血式の"浴"や呪樹化によって疑似的な死は与えられるが、唯一、宿儺の"世界を断つ"斬撃のみが真に不死を殺す方法だろう。

 

 二十七代目勝者の死体が、そう教えてくれた。

 

 宿儺は裏梅が不死者であることを知っているはずだ。裏梅が報連相を怠るような人間だとは思えない。

 だからこそ、この焼け焦げた疑似死体は、交渉材料になる。

 

 そう、思っていた。

 

「――ハハハハハハ、逝ったか、裏梅!」

 

 狂ったような、しかし正気なのだろう笑い声。地下駐車場まで響き渡る声だ。

 

「貴様らはそこまで俺の不興を買いたいか! 良いだろう、高値で売ってやる! 尊厳と命で贖ってもらうがなァ!」

 

 不味い、真希さんと虎杖零式が。

 

「――やるわ」

 

 藁人形を地面に置き、釘で宿儺の腕を固定する。

 

 今度は舞いや呪詞なく、釘崎は金槌を打ち込んだ。"共鳴り"。

 逆流を怖れぬそれは、"しくじれば死ぬ"、致死の覚悟になっていたのだろう。

 無意識の縛りとして機能し――威力の増強と共に、釘崎の呪術的防御を甘くしていた。

 

 すなわち、宿儺の術式、"捌"の逆流によって、彼女の右腕と右肩は微塵になり、右肺と右頸動脈にまで斬撃が及んでいた

 首から血を噴き出して倒れる釘崎。彼女を受け止め、反転アウトプットにより正のエネルギーを流し込むが――完全治癒には呪力が足りないことに気が付く。

 最低限の臓器と血管の治癒のみを終わらせて、右腕欠損の状態で駐車場に安置する。

 

 そして、バイクに乗って地下を出た。

 釘崎が命がけで作ったチャンスを、死なせはしない。

 

 僕が到着した頃には、禪院真希は虎杖零式を背負い、全力で牛魔頭骨の山の鳥居から距離を取ろうとしていた

 だが、宿儺の本気には間に合いそうにない。

 宿儺の表情は、額に青筋、口には血が垂れ、それでも笑顔。四つの(まなこ)は敵を見据えて、四つの手で掌印を組み直す。下腕で閻魔天印、上左腕で梵天印、上右腕で帝釈天印。さらに呪詞の詠唱を下腹口に行わせていた。

 

「もう一度だ。"龍鱗"、"反発"、"番いの流星"。"龍鱗"、"分断"、"万里の双璧"」

 

 宿儺の背後にある、牛魔頭骨の山の鳥居。宿儺の呪力の昂りと共に、生体的な意匠を獲得していく。

 

 儀式要素の後付けによる領域展開の増強。常に閻魔天印を組み続けていたとはいえ、宿儺にしか不可能な所業。

 簡易領域の印を結ぶ虎杖零式は、簡易領域の仕様上本来あり得ないフィードバックを受けて、両腕が砕けて欠損していた。

 強化された斬撃を受け続けた釈魂刀は、刀身の真ん中から折れていた。

 

 僕は"黒夢見"と並走し、宿儺の強い領域に間に合わせようと掌印――薬師如来印を組む。当然、簡易領域と並行しながらだ。伏黒恵のものではなく自前の簡易領域なので進入から二秒も持たないが、それで十分。

 

「"輻射"――"領域展開"――"嵌合暗翳庭"」

 

 伏黒恵から引き出した、"閉じない領域"。天に昇る巨大な脊髄を中心として、宿儺の楕円の領域、長径三百メートルを覆うように薄く広く広げる。

 

 伏黒恵の術式と呪力効率は霊柩車の内側から引き出せるものの、消費する呪力自体は僕のものだ。綱引きであることも鑑み、持って二十秒、といったところか。

 それでも問題はない。簡易領域を使う必要がなくなった――これだけで、二人の支援としては十分。

 生体的な意匠を獲得した鳥居に二人は殺到する。四腕が塞がっており、必中命令は届かず。

 宿儺は鳥居を諦め、ならばこちらもと言わんばかりに、巨大脊髄――ではなくその根本にある"黒夢見"を狙って駆け出す。

 

 だが、鳥居の破壊の方が一手早かった。

 

 領域の核となる鳥居の破壊。それによって、"嵌合暗翳庭"の能力が発揮される。その効果は、純粋な式神術の効力向上。必中効果を切り捨てることでバフ効果を最大限に発揮するソレは、術式だけでなく仲間にも及ぶ。

 

 宿儺の行く手を阻むのは、紋様を持つピンクの象、"満象"。それと白い大虎、"虎葬"。

 だが、宿儺は空を歩むことでそれをすり抜け、"黒夢見"に近寄る。"黒夢見"はバックで遠ざかるも、しかし天を歩む宿儺にすぐに追いつかれ――

 ――それを寸前で阻んだのは、虎杖零式が口にくわえる独鈷杵に似た短剣。

 正確には、それが放つ雷撃だった。

 

神武解(かむとけ)――日車寛見の遺物か!」

 

 体の痺れによって動きが止まる。その隙をついて伏黒恵を封じた"黒夢見"は宿儺と距離を取る。だが、結果として領域の中心である脊髄から離れてしまう。故に"嵌合暗翳庭"は解除せざるを得なくなった。

 

 ふりだしに戻る。十八秒の領域展開によって、呪力が底を尽きかけている僕。両腕が粉砕された虎杖零式。五体満足とはいえ愛用の武器を失った真希さん。右腕を失って気絶した釘崎。

 そして、呪力は四分の一程度に消耗したとはいえ、未だ健在である両面宿儺。

 ――ただ、この一秒だけは。宿儺の術式が焼き切れている今だけは。こちらに分があった。

 丸鋸を具現化。生得領域内のエンジンと同期して高速回転させ、鈍った動きは"油血輪軸(シャフト)"でカバー。

 

「っらァ!」

 

 姿勢は低く。丸鋸を全面に押し出し、足首を切断するように――!

 

 だが、それは天から降ってきた一刀によって防がれた。

 褐色の肌に、童女の体。

 

「よう、南路、元気かの? 元気になったら死んどくれ、若いもんは鬱屈としてるのが一番じゃしの」

 

 歪んだ性癖を言葉にしつつ、刀を僕の首筋に振るい――その刃を振るう腕は、宿儺の掌で防がれた。

 

「何じゃと? お主を助けてやろうとしているんじゃよ、この儂は」

 

「黙れ。自分の仇は自分で取る。――何より、この俺を哀れもうとしている、その根性が気に食わん」

 

 呪詞は聞こえなかったが、腹部の口が動いているのを見た。

 

 次の瞬間。褐色の肌の童女は、その体を脊髄から縦に分断され、真の意味でその命を終えた。

 彼女は死んだ。世界を断つ斬撃で斬られれば、不死でさえ復活することはない。それを永遠に知ることがないまま。

 

「え……え?」

 

 余波で僕の肩先も切り飛ばされる。これは反転術式で最低限の止血のみ行った。

 

「続けよう。南路、と言ったか」

 

 次の手が来る。後ろに飛び、さらにジェットエンジンを起動。飛ぶように大地を疾走する。

 

「頭が冷えた。もう一度だ」

 

 普通の閻魔天印。普通の邪悪な鳥居。普通の伏魔御廚子。

 

 普通だろ? と言わんばかりに凪いだ呪力で発動される斬撃の嵐の威力は、普通ではなかった。

 僕の簡易領域を数秒で剥がすだろう微塵嵐は、虎杖零式の"落花の情"を貫き、その身体を先端から粉々にしてゆく。

 禪院真希はそれを見て全力退避。地下駐車場の方に駆けていたことから、釘崎は回収するだろう。

 途中ですれ違い、僕にナニカを渡して行った。小さな十字のロザリオが中に入った硝子のようだ。左手に握って開くと、それは消えた。なんだったのだ。

 即時に伏黒恵由来の簡易領域に切り替えるも、持って三十秒といったところか。

 師だった女の死体から、刀を奪い取り、呪力を籠める。中々の名刀のようだ。

 

「お前が、裏梅を殺したのか?」

 

「――そうだ」

 

 これで宿儺が少しでも冷静さを欠いてくれれば。そう願っての自白だったが、宿儺の答えは想定と違った。

 

「それなら、もう少し楽しませろ」

 

 お互いに駆けだす。詠路衛(エイジェイ)流――"捨骨三連"。

 

 呪力のみで宿儺は受ける。いや、僅かに斬撃の鎧も纏っているのか。しかし詠路衛(エイジェイ)流の捨て身の威力を完全に防げず、手傷を喰らう。

 

 "謝肉祀(カーニバル)"。極微弱な反転術式を回し、筋線維を過剰使用しては治癒し、過剰使用しては治癒し、を繰り返す剣舞。しかし、宿儺の好みには召さなかったようだ。

 

「死人の剣術だな」

 

 明らかに致命となる一撃のみを避け、宿儺は受け続ける。そして、拳をゆっくりと握り。

 黒い閃光が、放たれた。

 

 僕の意識はその衝撃によって一瞬吹き飛び。

 

 しかし。"無頭遊戯(マリオネットオートマトン)"。

 

 かつて使った不完全な拡張術式を、意図的に引き出し、意識喪失時も剣を振るい続ける。

 意識を覚ました時には、刀を握っていた右腕が吹き飛んでいた。

 

「がああぁあああ!」

 

 簡易領域の砕かれ具合から、気絶していたのは二秒。痛みを薄めろ、冷静になれ。後十秒で簡易領域が粉砕される。それで僕の人生は終わりだ。

 いや、それを避けるためにはどうすればいいかって話だろ? 釘崎は真希さんに助けられてる。周りの人間は不死者、別に死にやしない。僕が死んだら伏黒陛下が封印から解かれてなんとかしてくれるだろう。でも、だから、いや、あの。

 

 混乱した状況で、左腕を開く。そこには、小さい光があった。

 

「う、うわぁああああ!」

 

 その光を翳すように、突き刺すように、宿儺に掲げる。

 それと同時に、地下駐車場の方から、肌寒さを感じさせる呪力の気配が目覚めた。

 

 光を優に回避できる宿儺は、駐車場の方を振り向き、驚愕の表情で目を見開く。明白な、隙。

 光を、その剣を振り下ろすように宿儺にぶつけて。

 

 それで、全ては終わった。

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