アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜 作:砂漠谷
宿儺の肉体から呪力が消失し、光が天に昇っていく。
領域は解除され、鳥居は蜃気楼のようにかき消えた。
「――おい、貴様。名前は何という?」
「え……? 南路。西東南路」
その時はまだ、自分が生き残ったのだという実感がなかった。
「そうか。――俺は死ぬ。お前の勝ちだ。最期に、裏梅のところに連れていけ」
「え、死? 勝ち、え?」
嘘の匂いはしない。生き残った実感がようやく湧いてくる。
「早くしろ!」
怒鳴られるように、萎んだ筋肉と土気色の顔の宿儺を"青弐才"に乗せ、二ケツで地下駐車場まで数分。背中から宿儺の鼓動も、呼吸音も聞こえてこなかったのがひどく不気味だった。
地下駐車場には、煤で顔が汚れた裏梅が佇んでいた。やっぱり呪力量の多い不死者は蘇生も早いのかな。
「宿儺様!」
そう言って彼は僕に、いや宿儺に駆けつけて彼を抱きしめる。
「裏梅。貴様、どうして不死だと、俺に伝えなかった」
「申し訳ありません。――宿儺様に、嫌われたくなかったのです」
「それが敗因になるか。は、ははは。まあ、悪くはないな、愛が、死因だと、いう、の」
それっきり、言葉は途絶えた。
沈黙が流れた。数分間、地下駐車場では、一つの死体と一人の不死者、一人の生者の他には、何も存在しなかった。
最初に切り出したのは僕だった。
「僕を恨むか?」
「いいえ。宿儺様が、好きに生きた結果ですし。受け止めて、一緒に墓に入るつもりです。――大きなお墓、そうね。新新宿御苑を伏黒恵に献上させましょうか」
先ほどより女性的な口調で。感傷的になっているからだろうか。
「僕を殺すか?」
「いいえ。敵でない関係性で話したことのあるあなたは、宿儺様の次に気に入っていますから」
そうして、彼女は宿儺の遺骸を抱き上げ、出ていった。
その年から、新新宿御苑には一つの巨木が現れる。
名を、
特異な事に、その梅の実から採れた種を植えると、同様の呪樹の芽が発芽した。
不死者のなれ果てを利用した呪樹産業はこれによってほぼ全て廃業に追い込まれ、残った一部の業者は表裏梅の森を守る林業へと変化していった。
表裏梅の実は、冷やせば冷やすほど甘く変化する。反対に、熱せば熱するほど酸っぱくなり、炎の中に入れて焼けばそれこそ舌が切られるような酸っぱさを味わうことができる。
梅酒の熱燗と冷燗の味の違いは人々を魅了し、代表的東京土産にもなったのだとか。
また、表裏梅の枝は、決して燃え尽きず、殆ど二酸化炭素や汚染物質を吐かぬ燃料となり。
表裏梅の葉は、ほぼ全ての精神病を癒す向精神薬となった。
伏黒様の治世は、今日も変わらず。
不死者と、一部の定命の人々を、彼の方は影から支えているでしょう。
とっぺんぱらりの、ぷう。
おっと、もうちょっとだけ続けようか。埋め文字、ってやつだね。
宿儺戦の後、僕は釘崎と真希さん、そして四肢を失った虎杖零式と合流した。
その後、伏黒恵の降霊体を封印から解いたんだけど――それが、もう酷い有様で。
「頼む、頼むっ、俺を夢の中に戻゛し゛て゛く゛れ゛ぇ゛!!」
"黒夢見"の中でたった数時間とはいえ、幸せな夢を見て、辛い現実に耐えきれなくなったようだ。
「ちょっと、釘崎様がちゃんと現世にいるのに夢の世界に戻りたいってナニほざいてんだよ!」
「だってぇ、虎杖が、東堂が、五条先生が、乙骨先輩が、津美紀がぁ」
「しゃーないでしょ! 三十年経ってんだから! 私みたいに目が覚めたら虎杖死んでたみたいな状況とちゃうでしょ! 吹っ切れろよ!」
「私は同期全員死んでるんだが、お前には釘崎いるし虎杖のニセモンも一応いるだろ。対中国対モンゴル戦争した悪の帝国のトップの姿か? これが」
「あの、俺、ニセモンなの?」
女性二人が神君伏黒を責め立てる。車椅子の上で首を傾げている虎杖零式がやや滑稽だ。
「俺だって、俺だって大変だったんだよ゛ぉ゛ぉ゛」
「ニャンちゅうかよ」「ニャンちゅうだな」「なんですかニャンちゅうって」「記録にある、宇宙猫だぞ」「世代間ギャップぱねぇ~」
「俺だって宿儺が眠ってよくわからないままに天元の浄界を継承したら、周りの人たちが不死身になってさ……。不死身の術師も出てきてさ。最初の数十回は勝ててもゾンビアタックされたら俺が死んで日本も終わるだろ? だから反感を買わないように、それでいて独裁政治にならないように工夫して、やっと一息付けると思ったら核って何だよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛。何とか防いだけど、国民意識が暴発して戦争に発展ってもう嫌だよ~~~~~~」
ごちゃごちゃ言い訳を捏ねる伏黒。神君の威厳ゼロだな……。
「モンゴル戦役はどうしたんだよ」
「あ、アレは軍部の暴走。ガチで。根回しで不死持ちのチャンピオン十人くらいタカ派に取り込まれたら俺が平和のためにできることって独裁しかないし、独裁だけは絶対にやりたくなかったから浄界の設置による呪術的国境拡張のみで終わらせろって指示したらガチ侵略始めるし。もう嫌だよ゛ぉ゛ぉ゛」
「ニャンちゅうかよ」「ニャンちゅうだな」「本日二度目」「だな」
「てか通貨は? 寿命の通貨化ってヤバイことしか起こさないって分かってたよなお前」
「なんか……シン陰流最高師範が味方面してて『寿命の物質化できますよ』って言ってて、俺の寿命が終わる間に国が安定するか分からんから秘匿研究させてたら。いつの間にやら各界の超上流階級みたいな人たちを味方に付けて公表しやがって、経済とかよくわかんないからあれよあれよというままにデファクトスタンダートになり、公定通貨として認めるしかなく……」
「うーん、中卒の人?」「やめろ西東、その場合私も中卒になる!」「私もだな……呪術高専廃校になってるし。なんだよ東京大学呪術学部って。呪術やるのにセンター試験科すなよ」
そんなこんなで。神君伏黒恵も、一人の人間(というか降霊体?)ということが分かった一日でした。
またまた別の日。
父さんの墓参りに行きました。
僕を包丁で刺した元カノが現れました。
なんか媚び売ってきましたが、最初の発言が『この度はご愁傷様です』でなかった時点でもう嫌です。
適当にバイクで振り切りました。
またまたまた別の日。釘崎の母親を名乗る女とばったり会いました。
男に寄生して生活して若さと金を得ているようで。最近はベーシックインカムとケースワーキング制度が作られ、貧困に喘ぐひとが減ったみたいです。
その割を食って稼ぎが悪くなっている人――が、この釘崎のお母さんの彼氏らしいです。
一通り愚痴られたあとはモーションを掛けられましたが軽く往なしました。
また*4別の日。だいたい七年後くらいです。モンゴルとの国交正常化の大使になりました。可愛かったりかっこよかったりな男の子や男性のハニトラがいっぱい来てクラクラになりましたが、なんとか耐えました。真希さんがモンゴル軍側で同席したのにはビビりました。
死滅回游は続いていますが、伏黒恵が梵界へのハッキングに成功したらしく、参加権の配布条件が完全ランダムではなく、"希望者のうちランダム"になりました。希望者はそこそこいるみたいです。不思議ですね。
そんなこんなで、僕の人生も、神君伏黒恵の治世も、だらだらと続いて、いずれ唐突に終わるのでしょう。死滅回游が始まって、旧日本国が終わったように。
その時に、何かを後世に残せるように。父が、僕の命を残してくれたように。
頑張っていきたいものですね。
おしまい。
これで今作は終わりです。二十日余間お付き合いいただいた方も、途中から参加していただいたかたも、ありがとうございます。
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