アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

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視点は三人称となります。


逆元寇戦役

 モンゴルへの侵攻。二十一代目勝者である女性首相の元で議決され、宣戦布告と同時に開始された戦争。

 本来は、浄界の設置も合わせて、二週間前後で終わるはずの戦争だった。何しろ、不死身の兵隊が、通常兵器の効かない呪霊を肉壁として進軍するのだ。どんな現代兵器でも敵うわけがない。

 

 だが、戦争は二年間続いている。

 その要因の全ては、目の前の悪鬼にある。

 

 全身を火傷のような痣で覆った、筋骨隆々の女鬼人。

 鬼人が持つ剣で切られれば、不死の術式など意味を為さずに死亡する。

 その足は銃弾より速く大地や空を駆け、その剣は半径数百メートルに致命の斬撃を放つ。

 

 三十年前の建国神話に語られる、その名を抹消された人間兵器。

 戦場では、『痣鬼』とのみ呼ばれている。

 

 

 

「まあ、そんな戦場の妖怪は、歴代勝者(チャンピオン)の方々に任せておけばいい」

「はい、隊長! 我々は国境端にある集落に向かっていますが、そこで何を?」

 

 成人したばかりらしき兵が、中年男性の隊長に質問した。

 彼らは、迷彩服に小銃と背嚢を背負った正規兵。

 調教した人面馬型の呪霊に騎乗しながら、夜の草原を進んでいる。

 

「徴発だよ徴発。本土で刷った軍票バラ撒いてゲルから食料かっぱらってこい。あと適当に女もな」

「しかし、隊長。食料はともかく、婦女の強制徴用は軍規違反では?」

 

 その進言に、隊長は半ば脅すような口調で罵る。

 

「あ~? お前ビビってんのか? ここはまだ浄界が設置されてねぇ。"法のガベル"の探知も届かねぇし、伏黒様の眷獣も来ねぇよ。何より……タマってんだろ?」

 

「いえ、それは、はい、しかし……」

 逡巡する青年兵だが、隊長は呪霊馬を青年兵に寄せ、ガッと股間を鷲掴みにする。

 

「ああ? タマってんなら俺が掘って出してやってもいいんだぜ? ガキが」

「ひっ! 了承しました! 隊長の御指示に従います!」

 

 顔を青くしてこくこくと頷く青年兵。それに満足したのか、隊長は満足げに頷き、青年兵の尻を叩く。

 

「じゃ、行ってこい。俺も後からついていく。非武装の小村なんてお前らと呪霊馬だけで十分だろ」

「は、はい!」

 

 パカラパカラと蹄の音を鳴らし、集落に近づく、青年兵を筆頭とした兵士たち。明かりの灯るゲルの中に進入する彼の姿を背後から隊長は眺める。

 

 何度か発砲音が聞こえ、背負った食料と、縄やタオルで縛った婦女子らを背負って(もしくは呪霊に背負わせて)近づいてくる部下たちを満足そうに見つめて――瞬きの後、彼ら全員の首が取れている状況が視界に入る。

 幻覚かと眼をこするが、その後には呪霊の首も斬られて塵に還り、兵士たちの死体が地面に倒れる音が聞こえてきた。

 

「え?」

 

 声を出した直後。心臓にズキりと痛みが。下を見ると、刀が胸から突き出ていた。

 

「あ……」

 

 思考が遠くなる。魂が、内的世界が砕かれる感覚を生まれて始めて覚え。

 

「痣鬼……」

 

 真実にたどり着き、彼の意識は沈む。それは永遠に浮上することがなくなった。

 

 付近の兵士を全て殺し、刀を振るって血を払った痣鬼――真の名を、禪院真希。

 その鬼人は、刀を背に直して攫われた婦女に近づく。

 腰のナイフで縛られた縄を外すと、彼女たちは真希を目の当たりにする。

 

 幾百もの戦場を駆け、未だ五体満足のその体は、全身を覆う痣を考慮にいれてもあまりにも完成されすぎており、顔を赤くする女もいた。

 サラシで胸を覆っている上裸に黒い襤褸のコートを羽織っており、、下半身は筋肉でパンパンに膨れ上がったダメージジーンズを履いている。

 

大丈夫か(Are you OK)?」

 

 英語で問う真希。辺境の彼女たちは、英語をほとんど話せないが、それはなんとか理解できた。こくこくと頷く。

 

『白い鹿様! 白い女鹿様だ! 白い女鹿様が助けてくださった!』

 

 モンゴル語でそう叫び、喜びながら村に戻る彼女ら。その一人、もっとも幼い十二かそこらの童女は、真希の手を引いて村に案内しようとしていた。

 

 その手を振り払う真希。

 

私は忙しい(I'm busy)さようなら(Good bye)

 

 そういって、風よりも速くその場から消えた。

 残像すら残さず、別の戦場へと。

 

 

 

 二十一代目勝者にして現首相、死季檻子は最高司令官として、前線司令部に視察しにきていた。紫の地毛を姫カットにした二十五歳の若い政治家である。

 

「首相閣下に、敬礼!」

 

 前線の高官が一斉に檻子に敬礼する。それを手で制止し、『休め』の姿勢を取らせる檻子。

 

「ご苦労ご苦労。さて。率直に、本題に入ろうか。――二年。戦端が開かれてから、二年だ。当初は二週間で終わる予定だったこの軍事作戦が、五十倍近くまで伸びた原因は、当然分かるな?」

 

「はっ! 痣鬼という想定外戦力の出現であります!」

「よろしい。朝鮮半島および中国大陸の統治において、散発的にテロを繰り返していた当該人物だが、逆元寇戦役が開始された直後に、モンゴル側で参戦。各地の浄界設置を妨害しつつ、国境を超えた兵士の殺戮を繰り返している。その結果、"死"に慣れていないこちらの兵士の士気はダダ落ち。現在は戦闘行為を行わない調略や徴発。政治工作によって独立もしくは日本に帰属させることによってちまちまと領土を削っている状況だ――という理解でよろしいか?」

 

「はっ! 完璧であります、閣下!」

 

「うむうむ。報告の通りだ。そこで、何か劇的に現状を変えるアイデアはあるかね?」

 

 半ばドヤ顔で満足したように頷くと、部下たちに問う。筆頭の高官は上奏した。

 

「はっ。伏黒陛下に現状の苦戦を上奏し、神話にある異戒神将の出撃を請願するのは――」

「ダメだ。彼の鬼人は伏黒陛下の関係者という疑惑がこちらのプロファイリングから出ている。伏黒陛下が鬼人の存在を知れば、停戦になる可能性が高い。――最も恐れるべきことは、伏黒陛下が三十年行わなかった国政方針への関与という最悪の前例が出来てしまうことだ。共和帝国日本が成り立っている根幹が崩壊しかねない。他にあるか?」

 

 一度のダメ出しによって、沈黙してしまう高官たち。それが十秒ほど続く。

 唐突に、檻子の後ろから豪快な男の笑い声が響く。

 

「ガハハハハッ! 伏黒陛下のご友人であろうとも! 我ら共和帝国の敵であれば、殲滅するのみよ! その後に新新宿御苑に合祀して伏黒陛下に祀ってもらえばよかろう!」

 

 檻子の背後から現れたのは、五十代ほどだろう巨漢。紫の胸毛が見える柔道着の上からコートを羽織っている。

 すなわち、檻子の父にして、四代目死滅回游勝者。核攻撃への報復として中国に宣戦布告し、中国領土全域および朝鮮半島全域の植民地化にまで成功した稀代の戦略家。

 死季唯牙である。

 

「お父様! いつここに?」

 

「『ご苦労ご苦労』からだ! 父娘の力を合わせれば、倒せぬ敵などいない、ということよ!」

 

「ほぼ最初からじゃないですか!」

 

 つい突っ込んでしまう檻子。それに首を振る檻子の父、唯牙。

 

「おっと。今はお前が首相だ。敬語は控えなさい」

 

「それは――そうだな。父よ。なぜここに?」

「無論! 共闘こそが人生だからよ! 命を賭けた闘いが、忘れられなくてな! 不死の術式を無視する刀と、それを振るう鬼神の如き剣豪! 素晴らしい。命の捨てどころではないか!」

 

「お父さ――父よ。戦闘狂が過ぎるぞ。死ぬには早い年齢ではないか」

「死滅回游が。死滅回游こそが、儂の青春だった――。たった、三か月の、命のやり取りが、うだつの上がらない青年だった儂の心を焼き尽くしたのだ。だが、地位が儂の再参加を許さなかった。娘よ。首相閣下よ。どうか、儂と一緒に死地へと赴いて頂けないだろうか」

 

「はぁ――。今まで育て、鍛えて貰った恩はあるからな。それに、痣鬼を殺せる可能性があるなら、命を賭ける価値はある。仕方ない。おい、私が死んだ後は、お前が総司令官となって指揮せよ。ハト派の副首相に権限を渡すな!」

 

 高官の一人、異戒神将の出撃請願を提案した男の肩を叩く。

 高官らがあっけに取られている間に、二人は作戦本部室から出ていった。

 

「――あれが、死滅回游の、勝者(チャンピオン)

 

 だれとも知れず呟かれた言葉は、部屋の壁に吸収された。

 

 

 

 その日。半年以上停止していた、日本軍による本格的な軍事侵略が再開した。

 トラックから草原の地に降りる、小銃を背負った兵士たち。戦車や呪霊も用意され、式神や軍用ドローンが空を舞う。

 

 軍靴の音を、その鋭敏な聴力で聞きつけて。

 

 血風が、斬嵐が、鬼神が。

 痣鬼、すなわち禪院真希という暴力の具現が現れた。

 

「うああああ、痣鬼だ!」

「怖気づくな! 遮蔽物を作って隠れなガッ」

「終わりだ、やっぱり戦争なんてやるんじゃナッガ」

「逃げろ、逃げろ!」

 

 草原に混乱が広がり、血が撒き散らされる。

 だが、数分ほどしてその嵐は動きを止めた。二つの、膨れ上がる呪力を目の前にして。

 

「やぁ! 初めましてだな、痣鬼殿。私は共和帝国日本の首相をやらせてもらっている。名を、死季檻子という。そしてこっちが」

「檻子の父だ。死季唯牙という。ガハハ、これから死合う仲だ、よろしくな!」

 

 自己紹介する、死滅回游の歴代勝者が、二人。

 そして、第一回死滅回游の、伏黒恵を除き存在しないと言われていた生存者が一人。

 その草原に、既に他の生者はいなかった。死んだか逃れたかのどちらかだ。

 既に抜剣している真希は、無造作に刀で檻子を指す。

 

「首相。お前が、この戦争の主導者か?」

 

「無論だとも。議会によって可決され、伏黒陛下に外交権および予算決議権を委任された首相こそ、私である」

 

「伏黒陛下、ね……」

 

 声にならない笑い声を、僅かに漏らす真希。それに唯牙が怒りを露わにする。

 

「貴様、伏黒陛下を嘲るか、この逆賊が!」

 

 だが、真希のプロファイルを知っている檻子は冷静だ。

 

「お前が、我々の知らない伏黒陛下を知っていることは感じ取れる。だが、今の伏黒恵は、共和帝国日本に君臨する神君。それ以外の何者でもない。国民に不死を齎し、かつての中国からの核攻撃を防いだ。それに対する懲罰戦争こそ主導は我が父だが――文字通り、日本の守護神であることは否定できない事実だ」

 

 真希は、ぼそりと。

 

「ああ、そうかもな、あいつは。いつまでたっても呪術師だ。――政治家じゃあない」

 

 刀が振るわれる。死滅回游を生き残った二人の瞳は、その残像のみを映し。

 しかし残像から攻撃を予測して、回避もしくは防御姿勢を取る。

 

 その剣は、唯牙の喉笛を滑り、血の噴水を作り出すかのように思えた。

 だが、響くのは金属同士が衝突する音。骨肉が裂かれる音ではなかった。

 

「……」

「いきなり無粋だな、痣鬼よ」

 

 死季唯牙の喉には、鱗状の呪力がびっしりと生えていた。

 

「龍の鱗だよ。刃に関してはいくら叩きつけようが意味のないものと思え」

「そうか」

 

 術式の開示を聞きながら、今度は檻子を狙って刃が振るわれる。真希の姿が残像に変わった直後に、一拍。拍手が響き渡る。

 

 檻子と唯牙の姿が入れ替わり、再度、金属音が響き渡る。

 

「そしてェ! 死滅回游に勝利した報酬として手に入れた、この不義遊戯(ブギウギ)! この二つがあれば、いかなる個人も凶刃から守ることが能う」

 

「……ま、()()()()()()()()()かもな」

 

 ぼそりと呟く禪院真希。呪具の柄を両の腕で握りしめ、眼を瞑る。何かに集中しているのだろうか。

 

「隙だらけ」

 

 檻子が真希に人差し指を向け、そこから放たれるのは白い銃弾。骨から生成されたそれは強い呪力を孕み、真希の頭蓋を貫かんと迫るが、真希は腰から僅かに体を傾けてそれを躱した。

 真希は目を開き、檻子に向けて一歩。それだけで数十メートルを踏破し、袈裟掛けに刃を振り下ろす。

 だが、拍手が鳴る。檻子と唯牙は入れ替わり、再度の金属音。しかし、その音は弾くような音ではなく、削るような音だった。

 

 唯牙の肩に、血が僅かににじんでいた。

 

「何――? ……なるほどな。その呪具、かなり特殊なものと見た」

「そうだな」

 

 禪院真希の呪具、釈魂刀(レプリカ)は、使用者に無生物の魂を観る眼さえあれば、無生物の魂ごとその物体を斬ることができる。

 

(複層鱗状の呪力を観て斬るのはだいぶ面倒だな……)

「まあ、削るか」

 

 真希は刃の嵐と化し、唯牙に突撃する。

 袈裟掛け、逆袈裟、横薙ぎ、上段から振り下ろして刺突。一つ一つが乱雑に思えて精緻。膂力を最大限に活かしつつ、それのみではなく技量も円熟の域を超越している。

 

 火花と鱗の破片が大量に散る。その数瞬で唯牙の上半身の衣服は殆ど千切れ飛び、肌は血に塗れていた。

 

「お父様!」

 

 檻子は堪えきれず、生成した骨の槍を構え真希を止めようと突進する。

 だが、唯牙は眼を見開き、負傷を最小限にするよう動きながら耐え続けた。

 そして、その時が来た。

 

「今!」

 

 残像しか眼に映らなかった姿はだんだんとはっきり唯牙の目に映るようになり、刀をその手の平で握ることが可能になった。

 

「圧し! 折る!」

 

 ギリリと玉鋼がたわみ、軋む。呪力と膂力を武器破壊に全力で注ぎ込もうとして。

 

「あ゛?」

 

 殺気と共に、()()()()刀が上空に振り投げられる。そのまま空を歩んだ真希。彼女の拳が、唯牙の顔面を捉える。

 連撃。鱗の防御もその拳から響く衝撃を完全に無効化することは出来ず、二発、三発。四発目を喰らう前に何とか手を叩き合わせ、地面に残した鱗の破片と入れ替わる。

 

 鼻血を出しつつも、反転術式を通して再生を図る唯牙。刀傷の治りが極度に悪いとすばやく判断し、顔の負傷治癒に全力を注ぐ。

 

 その隙に、上空から落下する真希と、彼女が持つ刀が断頭台の如く唯牙の首を断たんと迫る。

 檻子は、それを見ることしかできなかった――わけではない。

 

 彼女はずっと待っていた。()()が到着するときを。

 それが今だ。戦場の端にいたトラックが爆速でこちらに迫ってくる。

 

「首相閣下! ただいま到着しました!」

「遅い! だがよくやった!」

 

 トラックの荷台部分が弾け、そこから現れるのは赤と白の巨獣。

 皮膚はなく、骨はむき出し。筋肉の代わりに、粘度の高い赤黒い液体が体表を覆っている。シルエットは腕が大きくやや頭部が小さいが、Tレックスに近い。

 

「"灼骨祖竜"、御開帳だ!」

 

 トラックを飛び出す巨獣は、爆発的な速度で真希の体をその顎で両断しようと迫る。自然落下と空気蹴りのみでしか加速していない真希では、大きな顎を躱すことはできず――刀で巨獣の上顎を斬り飛ばすことで対処した。

 

 巨獣はそれでも動き続け、一回転して尾の一撃を真希に喰らわす。意表を突かれた真希は尾をもろに胴体に喰らい、横に吹き飛んで草原を何度もバウンドする。

 鈍器としての地面に対する受け身は取れたが、それでも負傷はあった。肋骨が数本折れていることを、彼女は知覚した。

 

 真希が立ち上がると、巨獣は斬り飛ばされた上顎を取り込み、再生していた。

 

(釈魂刀で切っても再生する――本質的には液体の類か)

 

 真希は刀を構え、再度二人へと駆けていく。

 治癒が終了した唯牙は、鱗を銃弾のように飛ばし、真希を牽制する。だがそれをひらりと躱し、弾き飛ばして――自身の油断に気が付いた。だが遅く、一拍が響き渡る。唯牙が、背後に転移し、後ろから首と刀を持っている腕、そして足を同時に極めてきたのだ。

 

「んなっ――」

「長くは持たん! 儂ごとやれェ!」

 更に唯牙は鱗を真希の表皮と結合させ、行動を阻害していく。既に剣士として完成してしまった真希の肉体は、十数年以上実戦における寝技を経験していなかった。

 

 それを受け、檻子は巨獣の脚部に触れて眼を瞑る。集中してその顎の中心に血液を圧縮させていく。

 

「"収斂"、"百歛"、"仙歛"、"盤歛"――"虚咆穿血"」

 

 超圧縮された血の光線が、巨獣の顎から放たれる。

 それは真希の肉体を唯牙ごと呑み込み――立っていたのは。

 

 巨獣に背を向けた真希。へばりつくように、唯牙の血肉がその背にこびりついていた。

(肩の関節を外して余裕を確保。片足だけで回転して背中の男を肉壁に。そのおかげで足を捻ったが――大した問題はない)

 

「と、父様……まだだッ! "収斂"、"百歛"、"仙歛"」

 

 再度、血の光線を放とうと血液の圧縮を開始する檻子。

 

「"龍鱗"、"反発"」

 

 呪詞を、真希も呟く。

 釈魂刀に宿る呪力の覇気が、替わる。滑らかで美しかった呪力が、荒々しく悍ましい呪力に。

 祈るように、呪うように、真希は刀をゆっくりと大上段に構え。

 

「"盤歛"――"虚咆穿血"!」

 

「"番いの流星"、"解"」

 

 放たれ、振り下ろされた。

 

 斬撃は血の光線どころか、刀身が届くはずもない巨獣すらも呑み込み。

 

 その躯体を、二つに分けた。

 

「なっ、灼骨祖りゅッ」

 

 それが、二十一代目死滅回游勝者にして、共和帝国日本の初の女性首相でもある術師。死季檻子の最期の言葉だった。

 

 頚が断たれ、頭蓋が空に飛び、地面に落下し、意識は失われていく。

 くるくると回る頭蓋についた瞳には、真希の顔が映し出されている。

 だが、呪力はまだ肉体に宿っていた。

(――最期の)

 一撃。生得術式である白骨操術と、勝者の報酬として刻まれた赤血操術。血液を作る骨髄と、血液そのもの。檻子は二つを操る術式を数年にわたり研究し続け、血液に爆発性を付与することに成功した。

 不安定性に比べて威力が低いという判断により陽の目を浴びることなく、その技法は封印された。

 今、この瞬間を除いて。

 

 轟。手榴弾十数個程度の威力だったが、呪力の守りを持たない真希の目前で爆ぜたその骨肉は、手傷を負わせることができた。

 

 不運なことに。檻子にとっては幸運なことに。骨の破片が、真希の右の瞳孔を深く傷つけていった。

 

「ぐっ、クソ――離脱だな、これは」

 

 刀を手に、真希は捻った足を気にしつつ時速数百キロで草原を駆け、戦場から離脱していった。

 

 戦場に残った死季唯牙と死季檻子の骸は、殆ど原形を残していない。

 国葬において、二人の棺は空となるだろう。

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