アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜   作:砂漠谷

8 / 21
ゲーミフィケーション

 結界の縁で狭められた夜空の下。焚火を囲み、僕と彼女は火を見つめていた。

 

「人を殺したね」

 どちらかが言葉を発したのだろうか。多分僕だが、自信はない。自他の感覚が曖昧になっている。

「そうね。初めてじゃないけど。()()()()()()のは、初めてね」

 多分、これは釘崎。

「――僕は、死の意味をあまり理解してないから、実感があまり湧かないけど。その人が、この世界から今後一切消え失せる、って。やっぱり大きいね」

「……そうね」

 

 沈黙が二つ。

 焚火は、廃校舎の中庭で焚かれていた。

 あの時放ったカラスは、顔も知らない三人の泳者と、九人の非泳者を殺していた。

 三十五点。いきなり目標の三分の一以上を獲得してしまった。

 

 釘崎は、七点。呪言使い釣瓶の部下たちを返り討ちにして、これだけ。

 生き残れはしないだろうに、戦意を喪失した数人は見逃していた。

 

「でも、まあ。心を凍らせる訓練は、師匠にさせられていたからね。そんなに響かないかな」

「――嘘つけ。目にクマできてんぞ」

 

 和ますためのジョークかな。

「あはは、そうかな?」

 笑ってごまかす。

 

「じゃあ、寝るよ。カラスで監視はできるけど、絶対じゃないから。眠くなったら僕を起こして交代させて」

「ねぇ、そのカラスの術式って――」

 それには答えず、横になって眼を瞑った。それで、彼女の問いは止まることが分かっていて。

 目に映るのは、舞う血しぶき。首が飛んで、死体はピクリとも動かず。

 ()とは違い、再生も、せず。

(これが、結界内(うちがわ)かぁ)

 眠れもしないくせに。そのまま、交代の時間まで――と思って、意識は夢の世界に沈んだ。

 

 

 

「わぁたぁしのぉ、息子ぉおおおお」

 夢だ。たまに見る、女の声をした人型の呪霊の夢。

 

 母さんは、多分父さんを呪って死んだのだろう。その名残か。

 だからどうした。僕は父さんを想っている。お前が、僕を想う気持ちの、何十倍も。

 愛を呪いに、呪いを吐息に。ふぅと吐くと、その声も、姿も掻き消えた。

 

 

 

 陽光の暖かさと明るさを感じて目覚める。

 

「んっ、釘崎……交代してって、言って……」

 

 起き上がり、視界の先にあったのは、汗に塗れ、足や腕に血がにじんだ釘崎の姿。

 

「くっ、釘崎!? 大丈夫かよ!」

 

「一級以上の呪霊なら、五点として認定されてる、らしい……、準二級以上でも、一点」

 

 僕が寝ている間に、呪霊を狩りにいったのか!? なぜ僕を呼ばず、そうじゃない。なぜそんな危険なことを!?

 

「おい、釘崎! 無茶しすぎだ!」

 

「逃げられる勝負なんざ、しない方が馬鹿だろ…… お前は、疲れてたみたい、だし」

 

 そういって、ばたりと倒れた。胸はゆっくりと上下している。呼吸に問題はなさそうだ。

 

「ッチ、ああもう……! "白無垢(ホワイトワード)"」

 

 救急車を顕現させ、正のエネルギーが乗った音波を釘崎に向けて放つ。疲労はともかくこれで傷は治るはずだ。

 

 数分ほど浴びせ、裾をまくって傷が塞がっているのを確認してから、"白無垢(ホワイトワード)"を仕舞う。

 

「――で。後にしてくれない?」

 

 忍び寄る呪力には、先ほどから気が付いていた。気配を潜めていたようだが、よほどザルな呪力感知でもない限り気づくよ、流石に。

 

「ひひ。そこの女ァ、殺されたくなかったら、点寄越せ。殺さないでやるよ」

 

「ふーん。点、欲しいんだ」

 

「欲しいとも! なんつったって俺様はこんなところで死ぬタマじゃねぇからな!」

 

 それって、点を消費せずともなれる勝者(チャンピオン)にはなれないって自分から言ってるようなものですよね? とは口にせず。

 声の方向に視線をやると、バリケードをずるりと()()()()()人間大の液体。

 

「ひひっ、死滅回游から授かったこの能力! 液体は殴っても切っても意味がない、無敵なんだよ、俺様は!」

 

「あ、そう。じゃあ、点渡すから、僕と手を握って」

 

 手を差し出し、近づく。

 

「あ、ああ……」

 

 それを真に受けて、水男もバリケードを抜けてこっちへと近づく。

 呪力を漏らさないように、内部で練る。

 五メートル、四、三、二メートル。

 

「じゃあね」

 

 顕現するは"赤提灯(レッドレスキュー)"、その赤い躯体の側面、ホースから放たれるのは炎の息吹。

 ただ放った可燃性の呪力とは違う。ポンプ車が呪力を高密度に圧縮し、それに火を点けて噴射した熱量は、それこそ鉄すら数秒で溶かし切る。

 

 たかが水など、それこそ一瞬で。

「あっぎゃ……」

 それが、水男の最後の台詞だった。直前で気付いて逃れようとしたようだが、息吹の範囲は狭くはない。

「お前みたいなクズだと、何も感じないみたいだ。ありがとう、吹っ切れたよ」

 その言葉を聞く者は、誰もいなかった。

 

「五点を、獲得しました」

 四十点目。意外と楽かも、死滅回游。

 

 

 

――――――

 

 

 

 意外と楽かも、死滅回游。

 

「と思っていた時がありましたーー~~!!!」

 

「何言ってんだ南路! タイヤもっと速く回せ!」

 

「無理だって救急車でかなり消耗してんだって! あれサイレン数分鳴らすだけでかなり呪力食うの! これ以上呪力(ガソリン)使うと戦闘用の余分が無くなる!」

 

「余分がとか言ってる場合か~~!!」

 

 釘崎で背中に抱きつきながら怒鳴る。青弐才(バイク)を運転する邪魔だ。

 

 呪霊の津波が、結界内を覆ってくる。

 一つ一つは、女性の二の腕程度の太さの、大口を開けた蛭。サイズにばらつきはあるが、最大でも人間の胴体ほど。

 それが、数万、否、数十万ほど積み重なった大波。それが大通りを抜けて、僕らへと向けて襲い掛かる。

 

 カラスを突っ込ませても数十匹消し飛ぶだけだった。火炎放射でも削れるのは一秒に数匹ほど。

 

「ああっもう、ゴジョセン――封印されたんだっけ!? アイツがいれば一瞬なのに!」

「誰だよゴジョセン! 大人しく掴まってろ!」

「――わかったわよ!」

 

 そういうと黙り、僕に抱きつく。背中に押し当てられる脂肪が暑苦しく不愉快だ。

 

 だが、彼女の沈黙は数秒も持たなかった。

 

「あ、待って、アレをこうして、こうすれば――」

「どうした!? 何か作戦でもあるのか?」

 

 釘崎は、片腕で僕に掴まりながら、もう片手で釘と金槌、藁人形を器用に取り出す。

 

「多分、"共鳴り"を連鎖させれば行ける! 試したことないけど――あいつら多分元は一つだから」

 "共鳴り"、たしか相手の肉体の一部に呪力を打ち込むことで、本体にダメージを与える術。

 あの蛭全部が本体だとしたら。蛭一つに"共鳴り"を打ち込むことで、全体に連鎖させられるということか。

「無理だったら、ごめん!」

「ああもう、ここまで来たら一蓮托生――!」

 

 バイクハンドルを捻り、速度を少しずつ落として、蛭へと近づく。

 蛭の歯がバイクに噛みつき、車輪に巻き込まれて潰れる。それを見た釘崎が冷や汗を流す。

 

「これっ、パンク大丈夫なの?」

「ノーパンクタイヤァ!」

「了解!」

 

 釘崎は蛭の壁に腕を突っ込み、噛みつかれながら一つの小さな蛭呪霊を掴み取る。

 そしてウナギサイズのそれを僕の背中に押し付けて、藁人形を重ねる。

 

「ちょっと痛いかも! 太い鍼と思って!」

「えっちょっと待って待って待ってマジでやめろ」

 

「"共鳴り"!!」

「痛ァア!」

 

 近い背後では、釘の先端による激痛が走り。

 

 少し遠い背後で、呪霊の群れから大量の針が、杭が飛び出していた。

 

 蛭呪霊の波は徐々に遅くなり、ゆっくりと崩壊していく。

 

 釘崎のコガネが現れ、点を宣言する。

 

「五点が、追加されました」

 

 釘崎は、これで三十点目。

 

 合わせて七十点。点の譲渡を使えば、どちらか一人の脱出ができる未来は見えてきた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。