アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜 作:砂漠谷
結界の縁で狭められた夜空の下。焚火を囲み、僕と彼女は火を見つめていた。
「人を殺したね」
どちらかが言葉を発したのだろうか。多分僕だが、自信はない。自他の感覚が曖昧になっている。
「そうね。初めてじゃないけど。
多分、これは釘崎。
「――僕は、死の意味をあまり理解してないから、実感があまり湧かないけど。その人が、この世界から今後一切消え失せる、って。やっぱり大きいね」
「……そうね」
沈黙が二つ。
焚火は、廃校舎の中庭で焚かれていた。
あの時放ったカラスは、顔も知らない三人の泳者と、九人の非泳者を殺していた。
三十五点。いきなり目標の三分の一以上を獲得してしまった。
釘崎は、七点。呪言使い釣瓶の部下たちを返り討ちにして、これだけ。
生き残れはしないだろうに、戦意を喪失した数人は見逃していた。
「でも、まあ。心を凍らせる訓練は、師匠にさせられていたからね。そんなに響かないかな」
「――嘘つけ。目にクマできてんぞ」
和ますためのジョークかな。
「あはは、そうかな?」
笑ってごまかす。
「じゃあ、寝るよ。カラスで監視はできるけど、絶対じゃないから。眠くなったら僕を起こして交代させて」
「ねぇ、そのカラスの術式って――」
それには答えず、横になって眼を瞑った。それで、彼女の問いは止まることが分かっていて。
目に映るのは、舞う血しぶき。首が飛んで、死体はピクリとも動かず。
(これが、
眠れもしないくせに。そのまま、交代の時間まで――と思って、意識は夢の世界に沈んだ。
「わぁたぁしのぉ、息子ぉおおおお」
夢だ。たまに見る、女の声をした人型の呪霊の夢。
母さんは、多分父さんを呪って死んだのだろう。その名残か。
だからどうした。僕は父さんを想っている。お前が、僕を想う気持ちの、何十倍も。
愛を呪いに、呪いを吐息に。ふぅと吐くと、その声も、姿も掻き消えた。
陽光の暖かさと明るさを感じて目覚める。
「んっ、釘崎……交代してって、言って……」
起き上がり、視界の先にあったのは、汗に塗れ、足や腕に血がにじんだ釘崎の姿。
「くっ、釘崎!? 大丈夫かよ!」
「一級以上の呪霊なら、五点として認定されてる、らしい……、準二級以上でも、一点」
僕が寝ている間に、呪霊を狩りにいったのか!? なぜ僕を呼ばず、そうじゃない。なぜそんな危険なことを!?
「おい、釘崎! 無茶しすぎだ!」
「逃げられる勝負なんざ、しない方が馬鹿だろ…… お前は、疲れてたみたい、だし」
そういって、ばたりと倒れた。胸はゆっくりと上下している。呼吸に問題はなさそうだ。
「ッチ、ああもう……! "
救急車を顕現させ、正のエネルギーが乗った音波を釘崎に向けて放つ。疲労はともかくこれで傷は治るはずだ。
数分ほど浴びせ、裾をまくって傷が塞がっているのを確認してから、"
「――で。後にしてくれない?」
忍び寄る呪力には、先ほどから気が付いていた。気配を潜めていたようだが、よほどザルな呪力感知でもない限り気づくよ、流石に。
「ひひ。そこの女ァ、殺されたくなかったら、点寄越せ。殺さないでやるよ」
「ふーん。点、欲しいんだ」
「欲しいとも! なんつったって俺様はこんなところで死ぬタマじゃねぇからな!」
それって、点を消費せずともなれる
声の方向に視線をやると、バリケードをずるりと
「ひひっ、死滅回游から授かったこの能力! 液体は殴っても切っても意味がない、無敵なんだよ、俺様は!」
「あ、そう。じゃあ、点渡すから、僕と手を握って」
手を差し出し、近づく。
「あ、ああ……」
それを真に受けて、水男もバリケードを抜けてこっちへと近づく。
呪力を漏らさないように、内部で練る。
五メートル、四、三、二メートル。
「じゃあね」
顕現するは"
ただ放った可燃性の呪力とは違う。ポンプ車が呪力を高密度に圧縮し、それに火を点けて噴射した熱量は、それこそ鉄すら数秒で溶かし切る。
たかが水など、それこそ一瞬で。
「あっぎゃ……」
それが、水男の最後の台詞だった。直前で気付いて逃れようとしたようだが、息吹の範囲は狭くはない。
「お前みたいなクズだと、何も感じないみたいだ。ありがとう、吹っ切れたよ」
その言葉を聞く者は、誰もいなかった。
「五点を、獲得しました」
四十点目。意外と楽かも、死滅回游。
――――――
意外と楽かも、死滅回游。
「と思っていた時がありましたーー~~!!!」
「何言ってんだ南路! タイヤもっと速く回せ!」
「無理だって救急車でかなり消耗してんだって! あれサイレン数分鳴らすだけでかなり呪力食うの! これ以上
「余分がとか言ってる場合か~~!!」
釘崎で背中に抱きつきながら怒鳴る。
呪霊の津波が、結界内を覆ってくる。
一つ一つは、女性の二の腕程度の太さの、大口を開けた蛭。サイズにばらつきはあるが、最大でも人間の胴体ほど。
それが、数万、否、数十万ほど積み重なった大波。それが大通りを抜けて、僕らへと向けて襲い掛かる。
カラスを突っ込ませても数十匹消し飛ぶだけだった。火炎放射でも削れるのは一秒に数匹ほど。
「ああっもう、ゴジョセン――封印されたんだっけ!? アイツがいれば一瞬なのに!」
「誰だよゴジョセン! 大人しく掴まってろ!」
「――わかったわよ!」
そういうと黙り、僕に抱きつく。背中に押し当てられる脂肪が暑苦しく不愉快だ。
だが、彼女の沈黙は数秒も持たなかった。
「あ、待って、アレをこうして、こうすれば――」
「どうした!? 何か作戦でもあるのか?」
釘崎は、片腕で僕に掴まりながら、もう片手で釘と金槌、藁人形を器用に取り出す。
「多分、"共鳴り"を連鎖させれば行ける! 試したことないけど――あいつら多分元は一つだから」
"共鳴り"、たしか相手の肉体の一部に呪力を打ち込むことで、本体にダメージを与える術。
あの蛭全部が本体だとしたら。蛭一つに"共鳴り"を打ち込むことで、全体に連鎖させられるということか。
「無理だったら、ごめん!」
「ああもう、ここまで来たら一蓮托生――!」
バイクハンドルを捻り、速度を少しずつ落として、蛭へと近づく。
蛭の歯がバイクに噛みつき、車輪に巻き込まれて潰れる。それを見た釘崎が冷や汗を流す。
「これっ、パンク大丈夫なの?」
「ノーパンクタイヤァ!」
「了解!」
釘崎は蛭の壁に腕を突っ込み、噛みつかれながら一つの小さな蛭呪霊を掴み取る。
そしてウナギサイズのそれを僕の背中に押し付けて、藁人形を重ねる。
「ちょっと痛いかも! 太い鍼と思って!」
「えっちょっと待って待って待ってマジでやめろ」
「"共鳴り"!!」
「痛ァア!」
近い背後では、釘の先端による激痛が走り。
少し遠い背後で、呪霊の群れから大量の針が、杭が飛び出していた。
蛭呪霊の波は徐々に遅くなり、ゆっくりと崩壊していく。
釘崎のコガネが現れ、点を宣言する。
「五点が、追加されました」
釘崎は、これで三十点目。
合わせて七十点。点の譲渡を使えば、どちらか一人の脱出ができる未来は見えてきた。