アンデッド・アンダー・ダ・ネーション 〜死滅回游永続√after〜 作:砂漠谷
飢え、渇き、そして、疲労。
死滅回游は、期間の区切りこそあれど、三十年間継続している。
その間、当然結界は張りっぱなし。内部の食料は保存食も含めて殆どが腐りきっていた。
だからこそ、僕はバックパックに食料を詰めて持ってきたのだが――それも、切り詰めれば一か月、なんとか一人が生き残れる程度。
呪力の源は感情。感情の源は栄養だ。戦闘が連続し、しかも釘崎と分けながら食料を食べ。二週間もすれば、食料はほとんど無くなってしまった。
水分は火で煮沸消毒すれば良いかと思って殆ど持ってこなかったのも良くなかった。思った以上に水源の汚染が酷かったからだ。煮沸消毒した上でカラスに飲ませれば、数時間後にのたうち回ってうるさかったので殺した。おそらく以前の
たまに降る雨を必死で蓄え、それを煮沸消毒して渇きを満たす。それの繰り返しだ。壊血病を防ぐために、師匠に山に放り込まれる時に学んだ野草の知識でビタミンは摂取できているが、とにかくカロリーが足りない。
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「ぜぇ、はぁ、はぁ」
「ひぃ、ふぅ、みぃ」
「数えてんじゃねーぞ」
戦闘は出来る限り避け、避けられない戦闘は式神任せ。できるだけ日陰を歩き、体力の消耗を避ける。
結果として、なんとか僕は七十点、彼女は五十五点。どちらか一人は逃がせる点を手に入れた。
僕がちょけてるのも、こうしなければ何も考えられなくなるからだ。
「……どうする?」
「……どうするって、何をよ」
「……いや、何でもない」
どちらかに点を譲渡して、
だが、それはどちらかを犠牲にすることと同義だ。おそらくだが、釘崎が一番嫌うことでもある。
彼女の人となりは、この二週間で少し分かってきた。自尊心が強く男勝り。だが、背中を合わせて戦った同盟相手を切り捨てるような冷酷さは持ち合わせていない。
「とりあえず、結界の縁に行こう」
「そうね」
"
倒れた電柱を乗り越え、倒壊したビルを目の当たりにして引き返し。そうして少しずつ縁に近づく。
そして、ようやく、結界の縁があるトンネルにたどり着き――その奥に、呪力を感じる。
「――呪霊?」
「いや、式神かな」
呪霊ほど呪力が混沌としていない。だが、式神にしては無秩序な構成をしている――気がする。
トンネルの入り口上部から、女が降りてくる。こいつが本体か?
白の髪のおかっぱ、見た目は
最も、寿命を売り買いできる現代で外見年齢はアテにならない。師匠のような例もいることだし。
「やぁ、君たちも百点を得たのかな?」
「あぁ。これから脱出するところだ。――見逃しちゃくれないか?」
白髪女はコテン、と首を勢いよく傾げる。可愛いと思ってやっているのかその仕草は。外見年齢大学生でそれは厳しいぞ。
「うーん、そうだね。コガネ、こいつらの点数は?」
コガネが現れ、僕らの点数を告げる。
「西東南路、七十点。釘崎野薔薇、五十五点」
「ふーん、そういう名前なんだ。それで、見逃すことについてだけど――脱出を諦めて、点を全てくれれば、生かしておいてあげてもいいかな」
「そいつは、無理な相談だ」
「だよね~、フフ」
ああ、戦闘に入ってしまうのか。脇腹を痛めながら、腹から呪力を練り上げる。生得領域内部で、発動機を回す。その回転音だけが、外の世界にも聞こえていた。
「おっと、ギアセカンド、って奴かな」
「――また死語か。現代語で話せ」
呪力をそのまま身体強化に回し、膂力を高めるよりも、もっと呪力効率のいい方法が僕にはある。
"
ギアのオンオフや回転数に死ぬほど頭を使うが、六か月の訓練でもう慣れた。
呪力が十分にある時は使わないが、枯渇しそうな時はコレを使う。
「"
駆ける。この運動方式の利点は主に二つ。筋肉によらず、呪力の運用も通常とはかけ離れているため。
「読みにくっ!」
動きが、読めない。
鞘と柄に手を当てて、抜刀する。
白髪女は体を大きく動かし、一閃を回避するが。
「隙あり」
釘崎が飛ばした五寸釘をかわし切れず、その掌で釘を受ける。
「いっつぅ~!」
白髪は釘を手早く抜き、"簪"を発動する間もなく放り投げる。
彼女はトンネルの方に視線をちらちらとやっている。式神を呼んでいるのか。トンネル内部の呪力は、ゆっくりとこちらに近づいている。
もう一つの利点。歯車の回転数配分を調節すればそれだけで行動が終わるため、既に記憶した運動を行う場合の労力が非常に低い。
すなわち――シン・陰流と、極度に相性が良い。
「"抜刀"、"夕月"、"
一度納刀し、抜刀からの四連刀。回転数配分を高速で行い、斬撃を放つ。
最初の一刀は赤上の右小指を切り落とし、残りの三撃は大きく引いて躱される。
これで掌印は結べない。領域展開という、術師が持ちうる最大の手札を追放した。それだけで十分だ。
「って。――滅茶苦茶だけど、独自の合理がある。気っ色悪い動き方するねぇ!」
「どうも」
「褒めてない!」
飢えと渇きで錆び付いた頭を無理やり回し、回転数配分を高速演算。
この一刀で、終わらせる。
シン陰派生、
「"捨骨"」
筋骨への負担を無視した異常機動で前方に跳躍。相手の不意を狙い、心の臓を貫く。
だが、その威気は現実にはならなかった。
トンネルの内側から式神が現れ、それが陽の目を浴びる。
単眼に角、一頭身半にたらこ唇。そして、横縞のある角。
奇妙な式神が口を開き、その内側には呪印が。
「やっとだ――領域展開、"凍星王璽"」
白髪女の掌が、天蓋に向けられた。
最悪の可能性は、砕かれていなかった。