逸般通過元特殊部隊系お巡りさん5人組 作:ヴァルキューレ警察学校
発足した当時は無名だったS.W.A.Tを一気に有名にした事件がある。連邦生徒会長が失踪し全体的に治安が悪化傾向にあった時に、連邦生徒会の目が届きにくいスラム街を隠れ蓑に静かに侵食してきた弱い市民を食い物としていく、ギャングと言える組織が水面化で巨大化していった。
その状況が水面上に出てきた時には、もはや氷山の一角。S.W.A.T.をキヴォトスの未来を考えて設立した当時の警備局長だった森ヒトミがそのことを耳にした時には、キヴォトスの各地のブラックマーケットにまで侵食していた。
それどころか、ゲヘナやトリニティなどの市民にも流通が禁止されている薬……麻薬が蔓延し始めていた。ゲヘナやトリニティの治安維持組織である風紀委員会や正義実現委員会が対処していたものの、もはや組織網は広がり手をつけられない状況だった。
このような状況にも関わらず、汚職に塗れ動こうとしないヴァルキューレ上層部に痺れを切らした警備局長ヒトミは当時設立したばかりのS.W.A.Tという手札を切った。
S.W.A.Tは当時SRTの代替として設立された部隊であり、捜査を行うという事は考えられていなかったのだが、状況は切迫していた。
当時汚職の程度が良かった生活安全局と公安局も予算不足と人員不足で対処できていない。
そもそもこのような特殊犯罪は公安局が担当であった。だが尻尾を掴むもトカゲの尻尾切りと言わんばかりに
だがもはや今の段階で根絶しなければ、キヴォトス全域において危険な薬物が蔓延しかねない。そのため、警備局長ヒトミは根絶のため公安局長と手を結びSWATとの協力体制を結んだのだった。
初対面はギスギスしていた第8小隊も、小隊長のキリノが『人間関係の乱れは連携の乱れです!懇親会を私の奢りでやります!!』とやったり、何かと互いにショッピングとかに行ったりすれば、それなりに互いの事も理解し始めるし、雑談で軽口を叩き合うようになるのは当然の帰結だった。
基本SWATは待ちが多い。実際のSWATでも待つ時間が長くまた実際に発砲に至る事態も少ないため、SWATの略称は「Sit,Wait,And Talking」なんて揶揄するジョークもあるほどだ。
それはヴァルキューレでSWATに所属しているキリノ以下4名も同じだ。そんな彼女らがそこの机のど真ん中にドーナツ入りの箱を鎮座させ、それを囲みながら小隊5人でドーナツを摘みながら雑談で暇を潰していた。
「S.W.A.T.が動くべきなのは局長の話で分かったけど、普通これは公安局の所管でしょう?わざわざ捜査に慣れてないS.W.A.T.を投入した所で公安局の足手纏いになるだけじゃない?」
SRTから来た割と当初は不承不承ヴァルキューレに転校してきたトモハも、キリノのドーナツの布教を受けて何かとドーナツを食べるようになった。何せ今も彼女はオールドファッションを摘みながら、口端を指でなぞってついたチョコを拭った。
SRT時代のかつての彼女とを比べるとすっかりとだらけきっている。
そんな彼女が雑談程度で投げかけてきた疑問も最もな事だった。元SRT生の比率が多いSWATでは捜査に慣れていない生徒が多かった事からして、尋問から聞き込み、尾行に慣れてないものも多いと言えるだろう。
何よりキリノも同じヴァルキューレに最初から入学していた合歓垣フブキも警備局や生活安全局であり、すなわち機動隊と地域のお巡りさんだった生徒がこの小隊では唯一の元からのヴァルキューレ生だ。
まぁ捜査には役に立たないだろう。
「それでもどこかで無実な市民が泣いているのです。捜査に手慣れていなくとも我々ができる事をすればいいのです、直接捜査をしなくとも拠点の突入と証拠品の確保はできるでしょう。局長は直接の捜査はあくまで公安局に任せるつもりでしょう」
キリノには信念があった。それが無垢な市民を助けるのであればいくらでも、それが猫の手であったとしても役に立つはずだとも。
「キリノは真面目だねぇ、公安局はエリートが多いんだからS.W.A.T.の手を借りなくても何とかしちゃうでしょ」
いまだになんか眠そうに話すフブキだが、交代制で現在は夜勤で待機しているので、眠いのは仕方ないし、フブキ自体がこういう性格だからしょうがない。
それでいて訓練は卒なくこなすのだから驚きだ。技量ではSRTからの編入組である3名や、前世も含めると警察という職業がとんでもない長さの経歴を持つキリノとも同等とも言える。
なおそんなフブキをSRTから来た変態ロリコンは、背が一番低いフブキを抱え込んでドーナツで餌付けしているのだが、危機感は感じていないようだ。
フブキ曰く『流石に背がいくら小さくたって同年代の同僚は手を出さないでしょ』
なお変態はフブキの背が小学6年の女子平均身長に近い事を良いことにたまにフブキを合法ロリとか言って良く抱え込んでいる。最高に頭がおかしいしそのうち持ち帰るのではないかとヒヤヒヤするほどだ。
なお現在は眠いのにも関わらず構ってくる変態に鬱陶しくなってきているようだ。アイコンタクトで周りの仲間に助けてくれと訴えている。
だがもちろん諦めて欲しい。変態は話が通じないのだ。
このような形でのんびりと第8班がドーナツの入った箱を囲みのんびりと駄弁っているうちに、遂に箱の中にあった大量のドーナッツのうちのオールドファッションが残り一つになった。
そのオールドファッションを取ろうと二つの手がふっと伸びて取ろうとしたのだった。
「あ、チヨちゃん。そのオールドファッションとって?」
「オールドファッションはチヨも食べたいです。キリノ小隊長、これはチヨが食べます。良いですよね?」
なんかオールドファッションを食べれなければ泣くぞという雰囲気の彼女に、さすがのキリノも、
「あ、うん」
と答えざるを得なかった。
何かと恥ずかしがり屋だったチヨもキリノやらフブキやらその他小隊員とわちゃわちゃやっていれば図太くなってきていた。
キリノから泣き落とし手に入れたオールドファッションをペロリと平らげ、フブキが手を伸ばそうとしたドーナツを堂々と先に取ってそのちっちゃなお口でリスみたいにもくもくもくと食べているのだから。
そんな彼女がドーナツを食べながら、ふと思い出したように話し出す。
「あっ思い出した。話元に戻るんだけど、例の件で公安局の人たちも手を焼いているみたいで・・・・・・」
「公安局が手を焼くってそんな事あるんだ」
「そうなんですよね〜、この前公安局に行ったSRTの人と話した時、尻尾を出すのは下っ端ばかりで、捕まえて拠点に突入しても証拠が隠滅されてて、それ以上辿れない事が多いって。しかもその拠点も小規模で、想定された流通量とはかけ離れたものだって」
薬物の密売組織は広範囲に手を広げており、さらにトカゲの尻尾切りを徹底していた。その状況に公安局は何とか足取りをつかもうとしていたのだった。
そしてキリノが甘くなった口の中をリセットするためにブラックコーヒーが入ったカップを手に取った所で、ババァン!!!と勢いよくドアを蹴破る勢いで誰かが入ってくる。
その姿を見たフブキが驚愕の顔を浮かべた。それもそうだろう。
かく言う彼女は・・・・・・
「尾刀公安局長!?こんな夜にどうしたのですか!?」
公安局長と言えど24時間常にデスクに張り付くわけではない。基本的に何もない時は授業等を含め8:30〜17:15が勤務時間である。局長級となると仕事が山積みで残業する事もあるらしいが、今は日付が変わったばかりの夜1時である。残業が長引くにしても残りすぎである。
「すまない、急に!公安局からSWATへ正式な出動要請だ!人質が取られており公安局では手に負えん」
「・・・・・・わかりました。ただ夜勤で詰めていた第4班は先程発生した銀行襲撃へ出動中です。対応は本官ら第8班のみですが宜しいでしょうか?」
「できれば多ければ多いほどいんだが、仕方ない。頼む」
「分かりました、カンナ局長。皆さん、緊急出動です!」
5人が立ち上がり、ロッカールームへ向かう。そして各々出動用の装備を纏められたバックを手に取り、武器ロッカーを開ける。
ずらっと並んでいるのは、SWATへ支給された第12号ヴァルキューレ制式ライフルであるM416D10RSに各々個人に合うようカスタマイズされたライフルである。
その中でも、各員が趣味に合わせたカラーリングやデコをしているが、キリノの銃は異色を放っている。
通常キヴォトスの生徒は正式に配布された銃にデコったりするのだが、キリノのそれはそのようなものが一切ない。タクティカルレーザーサイト、フラッシュライト、ホロサイトが載ったM416には一切の装飾及び追加塗装がないガンメタリック一色であった。
キリノとしてはライフルや拳銃はあくまで武器であり、武器である以上ファッションの一部ではない。武器であればあるがままの機能美を味わうべきというような考えがあるからだった。
各々小銃を手に取った事を確認すると、キリノがロッカーの側面にかけてあった車のキーを手に取った。
「ユナ、運転をお願いします」
鍵をユナへ放り投げた。SWATに配備されている装甲車の鍵は普段は変態の皮を被った変態の手へ吸い込まれる。
「分かりました!キリノ、フブキを膝の上に「ダメですよ、危ないです」ケチ」
「ケチで結構ですよ、カンナ公安局長、貴女はどうされますか?現地に行きますか?此処に残られる場合にはブリーフィングを今の段階で実施いたしますが」
「いや、時間が1秒でも惜しい。公安局の捜査員が増援のため現地に向かっている。私も現地で指揮を取りたい、私も同乗できないか?」
「ええ、それは構いません。ユナ、装甲車を回しておいてくれ、君の荷物は本官が持っていきます」
「了解しました」
さっと身を翻してかけていく変態と、さらっと連れ去られ、助けてほしいとアイコンタクトをしてきたフブキから目を背けて彼女に向き合う。
「準備ができました、行きましょう。道中にて状況をお聞きします」