逸般通過元特殊部隊系お巡りさん5人組 作:ヴァルキューレ警察学校
発端は彼女らが緊急出動する1時間前のことであった。
暗闇に紛れて倉庫らしき建物に接近していくのは公安局の精鋭捜査員の4人だった。
「先輩、令状の発行はまだですかね?」
「まだだ。だがいつ令状が発行されても良いように準備しておけよ?」
「奴ら、ちょこまかとトカゲの尻尾切りを繰り返して私らを撒いていたと思い込んでいたようだが、今日で終わりだ」
公安局の必死の捜査で下っ端の糸の切れ端を手繰り繋ぎ合わせて入手した情報は、D.U.郊外のとある貧民街の一角にある至って普通の大きめの平家一軒家が大規模な違法薬物及び違法武器の流通拠点の一つであり、その情報は貧民街の薬の急速な蔓延が有力な状況証拠となった。
その証拠を更に裏付けるためのドローンや密かに設置したカメラ、張り込みにより、その情報は確実となったのだ。
「事前情報では護衛が2〜3名と容疑者が3人。迅速に護衛を排除して容疑者を逮捕だ」
「武器も大量にあるようです、このまま放置するとD.U.の治安が悪化して手を付けられなくなります」
「だから夜に奇襲し反撃を許さず迅速に制圧するんだ」
公安局に所属している捜査員は総じて優秀であり、仕事の性質上荒事にも慣れている。今回は重要な任務であるため通常では2名1組で行動している所を、今回は4名の捜査員で踏み込む予定だった。
この4人は何かと通常時から中も良好で連携も取れている。そのため今回の強制捜査に抜擢されたのだった。
とその時公安局直通の無線から連絡が入る。
『令状が発行された、電子データをそちらのデバイスに転送した。確認次第突入してくれ。無事を祈る』
令状を矯正局隷下のD.U.地方裁判所へ請求していた所であったが、丁度令状が発行された。令状の発行を突入の直前まで待つというのは、突入の当日にいつ発行されるかわからないという難点はあるが、情報漏洩のリスクを最小限とし相手へ対策する時間を与えないという点から今回の計画が組まれたのだった。
「令状が発行された。皆、突入準備を」
公安局の突入部隊のリーダーが声をかける。そして彼女らは示し合わせたように、突入するための暗視装置を付けて、第17号ヴァルキューレ制式拳銃をホルスターから抜いた。
公安局が保有している暗視装置は警備局SWATのそれより世代が前のもので若干古くなって来ている所はあるものの、夜間の突入作戦においては有効な装備だ。
「皆準備できたか?」
リーダーの言葉に全員が身振りで問題ないことを伝える。
「突入しよう」
その言葉に合わせて示し合わせたように動き出した。
家の裏手から突入した彼女らは、順調に家の中をクリアリングしていた。だがしかし、口には出せないが奇妙だった。
サイレントブリーチングであるため突入に気づいていないだろうが、話し声や生活音、更には容疑者と詰めている筈の護衛も全く部屋に居ない。
そして最後の部屋に入るためにドアのハンドルに手をかけて勢い良く開けたその瞬間のことだった。
一瞬の油断が彼女らの運命を決めたのだった。
そのドアには単純なブービートラップが仕掛けられていた。だが彼女らはキヴォトス人であるためそんじょそこいらのブービートラップでは傷一つ付かない。
だがこのブービートラップは一味違った。ドアの裏一面に貼られた大量のC4
更にこの状況で追い討ちをかけるかのように、爆風で吹っ飛んだヴァルキューレの4人の捜査員のうち2人が、反対側の廊下の壁に隠されていた扉に知らずのうちに激突。
地下の部屋に落ちてしまったのだ。
そして更にダメ押しと言わないばかりにクリアリングして来た筈の廊下の左右から銃撃を浴びせられる。
「ぐうっ・・・・・・!不味い、嵌められました!本部、事前情報と異なり容疑者多数!増援を・・・・・・!先輩が爆風に煽られて地下へ!」
まだ揺れる頭を振りながら残りの2人が柱の影に身を寄せながら、ヴァルキューレ正式拳銃で撃ち返すも、状況的に不利であった。廊下の左右と爆発したドアがあった部屋からも、めくら打ちではあるが壁越しに銃撃を加えられている。
激しい銃撃戦の音で、無線から何かが聞こえてくるが全く何も聞こえない状況だった。彼女ら2人はこの状況で増援を待たざるを得なくなったのだ。
更に吹っ飛び地下室に転落した先輩2人の状況は、無線で呼びかけても応答がなく、完全に不明の状況となってしまった。
「・・・・・・というのが今の状況だ。また増援として送った公安局捜査員と正面出入り口付近で激しい銃撃戦になっている。どうやら相手はライフルではなく防衛用の機関銃を配置し使用しているため、突入は困難な状況だ」
概要の説明を受けたキリノが、タブレット端末に表示された建物の見取り図の前で考え込む。
「状況は分かりました。玄関の正面で銃撃戦、尚且つ裏手の勝手口等は罠が貼られている可能性が大・・・・・・と」
「その通りだ。このような状況だから可能な限り早く、4人の救出をしたい。何か良い案があれば「ありますよ、良い案が」良い案・・・・・・まさか君らSWATが突入するというのか?無茶だ、奴らは完全に防備を固めている」
「その通りです。ですが、今回は一刻を争う。捜査員の4人が奴らの手に落ちれば、どのような仕打ちをされてもおかしくはありません」
「裏手口から突入し、小部屋に入ります。この部屋は廊下の角に繋がっていますので、他の箇所からの突入からも射線が限定できます。部屋から出た後は廊下に出て右回りで掃討します」
「それは・・・・・・」
危険ではないか。そう言おうとしたカンナが思わず口をつぐんだ。
カンナの懸念していることも分かる。優秀な部下が罠により囚われの状況となっている。SWATの突入は危険であるため、容疑者らの継戦能力が落ちて来たタイミングを見計らい突入するのがベストだろう。
だが、1年の後輩で構成されたSWAT第8班は5人中3人がSRTに所属していた。そして生活安全局から来たフブキも面倒臭がりながら、前世も含めれば豊富な経験を持ったキリノに振り回される形で腕を上げSWATとしての腕をきちんと持っている。
キリノについては言わずもがなだ。グラスをつけていなければ、射撃がどうしようとも当たらないという欠点すらあれど、グラスをつけた状態のCQBの能力はSWAT含めたヴァルキューレの中で随一であった。
そして判断能力も同様だ。
「皆さん、宜しいですか?今回の突入の第一義はこの平屋に取り残された公安局の捜査員の救出です。可能な限り早期の救出を目的とし、容疑者及び証拠品の確保は第2事項としてください。では事前突入打ち合わせを終わります」
各自が目線で了承の意を伝えると同時に、和やかな雰囲気で会話が始まる。
どこそこのドーナッツが美味いとか、前に食べたラーメン屋が美味かったとか。
そんな雰囲気に詳細な作戦立てをしないのかと問いかけたカンナに対して、キリノが答えた。
「どうせ今の時点で綿密な作戦を組んだとて、こういった現在進行形の犯罪現場では状況は生物と言って良いのです」
「状況次第では突入方法も現場の状況で変更することもありますし、どこの部屋に容疑者と被害者がいて、こう言うルートで突入するなんて打ち合わせは意味を成しません。容疑者がこちらの突入に気づけば勿論動き出すだすでしょうし、被害者を強制的に移動させるかもしれません。
であればこそ目的を第一とし、その過程を詳細に決める必要はないですし、そんな暇があるなら緊張を和らげるために馬鹿みたいな世間話をしている方が良いのです」
そう言うものなのかとカンナが引き下がり、最終的にはキリノらの雑談を聞き始めたと同時に重くのしかかっっていた心が幾分か軽くなった気がする。
「じゃあキリノ小隊長がこの後おすすめのラーメン屋で全員分のラーメンを奢ってくれるってことで」
「ちょっ、トモハ!私は奢るなんて言って「「「さんせーい」」」はぁ・・・・・・しょうがないですねぇ、私が全部奢りますよ!」
女子高生とは思えないチョイスに苦笑いするカンナであったが、思い返してみると自分も似たようなものだと思い返した。残業の業務明けで1人でおでん屋でウーロン茶片手におでんを食べることが多くなっていたからだった。
と、先ほどまでほぼ最速で飛ばしていた装甲車にブレーキ音が鳴る。
現場近辺に着いたのだ。
遠くからは銃の連射音が響き、拳銃と思しき発報音も混ざっている。
「よし、皆行こう!」
彼女らは装甲車の後部ハッチを勢いよく開け、降りて行った。
「頼んだぞ、キリノ巡査部長」
最後に出て行こうとしたキリノにカンナが声をかけた。
彼女が思うのは部下であるが故に、心配ではあったとしてもSRTの流れを汲む彼女らに期待をしていたのだった。
彼女らなら救い出してくれることを信じて。
「はい、勿論です。公安局の方々も、中にいる奴らをしばくのもお任せください!」
双方とも敬礼と返答で挨拶し別れた。
カンナは前線の指揮へ、キリノはSWAT第8班の指揮へと。