せっかくだから僕は物理で行く   作:宙の君へ

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思いのほか色んな方に見ていただいてびっくりです


P02

「クソすごいな、ここ・・・・・」

 

校舎内を歩きながら辺りを見回す。国が運営しているだけあって全ての設備が最新の物。

彼自身、幼少期のこともあり目に映る全ての物が目新しく映るだけかも知れないが。

しかし、そんな目新しさの中にある確かな異物。

 

(監視カメラ?多いな)

 

一つどころか廊下の至る所、果てには教室の中にもそれはあった。

教育施設という場にはあまりにも場違いな存在感を放っている。生徒同士の喧嘩等が起きないよう監視する為かも知れないが、そこまでする?と言うのが本音でもある。

そんな事を考えていると目的の教室に着いた。

 

1ーDクラス

 

ここが自分の教室らしい。

ぐるりと教室内を見渡し、自分のネームプレートが置かれた席へと向かった。窓際から二列目の一番後ろ。良かった、席順の運は良かったらしい。

教室の中を見る限り、登校している生徒は半分。

資料を眺める者や知り合いと世間話をする者様々である。

自分の席の上にバッグを置き、椅子に座った瞬間見知った顔が二つ。しかも両隣り。

 

「うーわっ」

 

地獄かな?

 

「散々な反応だな」

「まさかあなたも同じクラスとはね」

「・・・・・・人でなしにクソ女」

「その呼び方、やめてくれるかしら?私には堀北鈴音って名前があるの」

「あんた堀北って言うのか」

「あなたには言ってないわ」

「そう言うなよ。オレは綾小路清隆。よろしくな、堀北。それと・・・・」

 

両隣りから一身に視線を浴びる。仲良く喧嘩してたんじゃないのか?

二人の顔を交互に見た。

 

「え、なに?」

「あんたの名前はなんて言うんだ?」

 

そこでハッとした。

そうだ、初対面の人には自己紹介だった。

 

「浅羽楓華。よろしくね、綾小路に堀北」

「なんと言うか可愛らしい名前だな」

「母さんにつけてもらったんだ」

 

名前が無かった自分に初めて名前を付けてくれた母の顔を思い出し、頬が緩む。

しかし、どうも二人の反応はイマイチの様だった。

 

「あなた、何を言ってるの?親に名前を付けてもらうのは当たり前の事よ」

「え、そうなの?」

「え?」

「え?」

 

何か変な事を言っただろうか。堀北はまるで不思議な物を見るような目で見てくるし、綾小路は何かよく分からない。しかしコイツ全然表情変わらないな。蝋人形か?

 

「まあ、一応覚えておくわ」

「一応オレがどんな人間か教えておくと、特に趣味はないけど何にでも興味はある。友人は沢山はいらないが、ある程度いればいいと思っている。まぁ、そんな人間だ」

「事なかれ主義らしい答えね。私は好きになれそうにもない考え方だわ」

「あんたの人生クソつまんなそう」

「何だろう、オレの全てを1秒で全否定された気がする・・・・・・」

 

ボッコボコのメッタメタにされた綾小路はしょぼくれながら席に座る。

それから数分程経って、始業を告げるチャイムが鳴った。ほぼ同時にスーツを着た一人の女性が教室へと入ってくる。

見た目からの印象はしっかりとした、規律を大事にしそうな先生。歳は30に届いているかどうか、まぁ30でいいだろう。それなりに長そうな髪は後頭部で、ポニーテール調にまとめられている。

 

「えー新入生諸君。私はこのDクラスを担当する事になった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から1時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配る。以前入学案内と一緒に配布してあるものと同じものだ」

 

この学校には全国に存在する数多の高等学校とは異なる特殊な部分がある。それは、学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じていること。それがたとえ肉親であっても。

当然ながら許可なく学校の敷地から出ることも固く禁じられている。

ただしその反面、生徒たちが苦労しないように数多くの施設も存在する。

最早、小さな街と言っても過言では無い。

そしてもう1つ学校には特徴がある。それがSシステムの導入。

 

「今から配る学生証カード。それを使い敷地内の全ての施設での利用、売店などで商品を購入出来るようになっている。まぁ、要はクレジットカードの様なものだ。ただし、ポイントを消費する事になるので注意するように。学校内においてこのポイントで買えないものは無い。学校の敷地内にあるにあるものなら、何でも購入可能だ」

 

学生証と一体化したこのポイントカードは学校での現金の意味合いを持つ。

 

(まぁ、現ナマ学生に持たせたらトラブル起きそうだもんね〜)

 

何にせよ、ポイントの全ては学校側から無償で提供される。

 

「施設では機械にこの学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それからポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に振り込まれているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。後は分かるな?」

 

一瞬、教室の中がざわついた。

入学したばかりの生徒たちに10万のお小遣い。政府が関わっているだけの事はある。太っ腹すぎるような気がするが。

 

「ポイントの支給額が多いことに驚いているようだが、この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。それに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使うといい。ただし、このポイントは卒業後に全て学校側が回収することになっている。現金化は出来ないからポイントを貯めても得は無い。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前たちの自由だ。好きに使え。仮にポイントを使う必要が無いと思った者は誰かに譲渡する事もできる。だが、カツアゲなどバカな事はするなよ?学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」

 

戸惑いの広がる教室内で、茶柱先生はぐるりと見渡した。

 

「質問は無いようだな。では良い学生ライフを」

 

クラスメイトの多くは、10万ポイントと言う大きな数字に驚きを隠せないようだ。

 

「思っていたほど堅苦しい学校ではないみたいね」

「確かに、何というか物凄く緩いな」

「そうかな〜」

 

余程珍しいのか、学生証カードを色んな角度から眺めている浅羽に綾小路は訊ねる。

 

「何か気になる事でもあるのか?」

「んー、別に。ただ、毎月10万なんて振り込まれるのかなーって。そんなクソ都合のいい話、あると思う?」

 

言われてみればそうだ。

考え方によっては、楽園とも取れるほど生徒たちは優遇されすぎていると言える。

そしてこの高度育成学校最大の魅力は、進学率、就職率共にほぼ100%という部分だ。国主導のこの学校は徹底した指導を行い、希望する未来に全力で応えるという。

事実、学校側はその部分を大々的に宣伝し、卒業生の中にはこの学校を出たことで有名になった人物も少なくない。

 

「僕の考えすぎだな。忘れて忘れて!」

 

そう浅羽は言うが、堀北も同じ事を考えているのだろう。

 

本当にそんな事が有り得るのか?

望みを叶える学校だからこそ、そのためには何かリスクがあるんじゃないのか?

 

「ねぇねぇ、帰りに色んなお店見に行かない?買い物しようよ」

「うんっ。これだけあれば何でも買えるし。私この学校に入れて良かった〜」

 

先生が居なくなり、高額なお金を貰って浮き足立ち始めた生徒たち。

 

「皆、少し話を聞いてもらってもいいかな?」

 

そんな中スッと手を挙げたのは、如何にも好青年と言った雰囲気の生徒だった。髪も染めておらず、優等生そうだ。表情にも不良のそれは感じられない。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、1日でも早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

おぉ・・・・・凄いことを言ってのけた。生徒の大半が思いつつも口に出来なかった事だ。

 

「さんせーい!私たち、まだみんなの名前とか全然分かんないし!」

 

1人が口火を切ったことで、迷っていた生徒たちが後から続いて賛成を表明する。

 

「良かったじゃんね、綾小路。友達増えるよ」

「浅羽と堀北以外にも友達が増えるなんてな」

「ごめんなさい。事なかれ主義の人とは友達にはなりたくないの」

「綾小路、かわいそ〜」

 

何でそんなこと言うの?という顔をしている綾小路は横に置いて、

 

「僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でもサッカーをするつもりなんだ。よろしくね」

 

絵に描いたようなイケメンである平田から始まり、井の頭心、山内春樹と続いた。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

元気よく立ち上がった少女。

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は1人もこの学校には進学してないのでひとりぼっちです。だから早く顔と名前を憶えて友達になりたいって思ってます」

 

大体の生徒が一言で挨拶を終えていく中、櫛田と言う少女は言葉を続けた。

 

「私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。皆の自己紹介が終わったら是非私と連絡先を交換してください」

 

言葉だけじゃない。この子は間違いなくすぐに打ち解けるタイプだ。

なんか「私と目が合ったよね?これであなたとも縁ができたね」みたいな感じの気配が出てる気がする。

 

「それから放課後や休日は色んな人と沢山遊んで、沢山思い出を作りたいのでどんどん誘ってください。ちょっと長くなりましたが、以上で自己紹介を終わりますっ」

 

完璧な自己紹介、素晴らしいの一言に尽きる。クラスの人気者になるのは間違いないだろう。

 

「じゃあ次はーーーー」

 

促すように次の生徒に視線を送る平田だが、次の生徒は強烈な睨みを平田に向けた。

髪を真っ赤に染め上げた、不良という言葉が似合う少年だ。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねぇよ、やりたい奴だけでやれ」

 

赤髪が平田を睨みつける。今にも食ってかかりそうな勢いだ。

 

(お?やんのか?)

(なんで浅羽は楽しそうなんだ?)

 

「僕に強制することは出来ない。でも、クラスで仲良くしていこうとするのは何も悪いことじゃないと思うんだ。不愉快な思いをさせたのなら謝りたい」

 

真っ直ぐに見つめ頭を下げる平田の姿を見て、女子の一部が赤髪を睨みつけた。

 

「自己紹介くらいいじゃない!」

「そうよそうよ!」

「お高くとまっちゃってさ!」

 

さすがイケメン。あっという間に女子の大半を味方に引き込んだようだ。

 

「うっせぇ。こっちは仲良しこよしするためにココに入ったんじゃねぇよ」

 

赤髪は席を立った。それと同時に数人の生徒が後に続くようにして教室を出る。馴れ合うつもりはないということだろう。隣の席の堀北もまたゆっくりと立ち上がる。

 

「ん、どっか行くの?」

「ええ。自己紹介なら済ませたでしょう」

 

そう言うと歩き出した。

平田は少しだけ寂しそうに堀北たちの背中を見送る。

 

「ごめん、みんな。悪いのは彼らじゃない。悪いのは勝手にこの場を設けた僕だ」

「そんな、平田くんは何も悪くないよ。あんな人たちほっといて続けよ?」

 

その後も自己紹介は続き、彼女募集中の池寛治。クラス一の変人高円寺六助。

自己紹介とは何とも面白い。赤髪や堀北に高円寺。それに山内に池。様々な人間の人となりが垣間見える。

だが、そんな中でも何も見えない人間もいる。

 

「浅羽楓華です。友達いっぱい欲しいので仲良くしてください」

「浅羽くん、バスでお婆さんに席譲ってたよね。かっこよかったよっ」

「それはどうも」

 

綾小路は隣で櫛田と話している浅羽に視線だけを向ける。

 

「えーっと、最後はーーーーそこの君、お願いできるかな?」

「え?」

 

しまった、つい考え事をしていたらオレの番が来てしまった。

特に癖も特徴もないオレだが、この自己紹介で友達を増やすのだ。

ガタッ!と勢いよく立ち上がる。

 

「えー・・・・・・えっと、綾小路清隆です。その、えー・・・・・得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

そそくさと席に座る。

 

「よろしくね綾小路くん。仲良くなりたいのは僕らも同じだ、一緒に頑張ろう」

 

同情の眼差し、お情けの拍手。心が痛い。

 

「事なかれ主義の面目躍如ってやつじゃんね」

 

隣の浅羽の一言でオレは撃沈した。

 

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