せっかくだから僕は物理で行く   作:宙の君へ

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お、お気に入りの増え方すごくてすごい




P04

入学二日目、授業初日ということもあって、授業の大半は勉強方針の説明のみ。先生たちは進学校とは思えないほど明るくフレンドリーで、多くの生徒が拍子抜けしたのが正直な感想だろう。須藤に至っては既に大物ぶりを発揮していて、殆どの授業で眠りこけている。授業を聞くのも聞かないのも個人の自由だからなのか、教師は関与しない。おそらく気づいてはいるんだろうが、注意をする気配が全くないのだ。これが義務教育との違いということだろうか。

昼休み。生徒たちは思い思いに席を立ち、顔見知りになった連中と食事へと消えていく。オレはそんな光景を少し羨ましそうに眺める。

 

「哀れね」

 

そんなオレの様子に気づいていたもう一人のボッチが、冷笑の視線を向けてきた。

 

「・・・・・何だよ。何が哀れなんだ?」

「誰かに誘ってもらいたい。誰かとご飯を食べたい。そんな淡い考えが透けてみえたから」

「お前だって一人だろ。同じように考えてるんじゃないのか?それとも三年間友達も作らずに一人でいるつもりか?」

「そうよ。私は一人の方が好きだもの」

 

堀北は迷わず答える。本心からそう言っているように聞こえる。

 

「なに、またどんぐりの背比べ同士でマウント合戦してんの?仲良いね〜」

 

オレたち二人で話していると、浅羽が片手に飲み物を持って席に座った。

浅羽、流石にそれは効くぞ。事実、堀北も黙りこくってしまった。なんだよ、気にしてないんじゃないのか?

 

「どこ行ってたんだ?」

「散歩も込みで自販機にね」

「今から昼飯でもどうだ?堀北も一緒に」

「だから私はーーーー」

「昼?さっき櫛田と済ましてきたよ?」

「「え」」

「あそこのパスタ美味しかった。今度三人で行こうね」

 

呑気に料理の感想を言っている浅羽に綾小路と堀北は驚愕している。

 

「二人とも何そのマヌケ顔。豆鉄砲でも食らった?」

「あ、浅羽!お前、櫛田ちゃんと飯行ったのか!?」

「裏切るのか!?俺たちを!」

 

池と山内が浅羽の机に手をバンっと置き、顔近づける。

 

「近いな。どうしたの?そもそも裏切るって何をさ」

「ど、どういう関係なんだ!?付き合ってるとかじゃないよな!?」

「付き合う?僕が?櫛田と?」

 

二人は同時に首を縦に振る。

 

「いや、会って二日の人とどうしたら付き合うんだよ」

「な、なあ浅羽。どうやって誘ったんだ?あの櫛田ちゃんを!参考にさせてくれよ!」

 

山内の言葉に池が激しく同意を示す。

 

「いや、向こうに誘われたから着いてっただけだけど・・・・・・大丈夫?参考になる?」

「「うるせぇ!ならねぇよ!」」

「えぇ、じゃあなんで聞いたの・・・・・・・」

 

困惑している浅羽を見るのは初めてだ。大方、この二人は櫛田に好意でも寄せているのだろう。好意だけとは限らないが。

ここは山内と池に助け舟でも出そうと今度は綾小路が切り出す。

 

「どんな話したんだ?」

「ん?綾小路も興味あんの?」

「まあな」

 

そう言うと浅羽は思い出しながら話し始めた。

 

 

§

 

 

遡る事数十分前。飲み物を買いに一階の自動販売機まで歩いていると後ろから声をかけられた。

 

「あ、おーい!浅羽くーん!」

「ん?櫛田?」

 

櫛田は可愛らしい笑顔を見せながら駆け寄り、手を握って言った。

 

「どうしたの?」

「お昼、一緒に食べよ?」

「昼?僕と?」

「うんっ。ダメかな?」

 

上目遣いでこちらを見てくる櫛田を見ながら少し考える。本当は校内を色々見て回りたかったが、それはいつでも出来るとして、なぜ櫛田が自分を誘ったのかが分からない。そもそも手を握る必要があるのだろうか。

 

「別にダメじゃないけどいいの?あんた、友達たくさんいんのに僕で」

「そういうこと言わないでよっ。浅羽くんと食べたいの!」

 

物好きなやつもいたものだ。

 

「あぁそう。じゃあ行くか。学食でいい?」

「ううん、どうせならいい所!」

「いい所?」

 

櫛田に手を引かれながら連れてこられたのはカフェだった。

 

「クソすごいな、女子がいっぱい・・・・・」

 

カフェにいる客層は8割以上が女子だ。

 

「男の子が食べるご飯って感じじゃないしね」

 

メニューはパスタやパンケーキなど、まさに女の子が好きそうなメニューばかり。体育会系の須藤なら全然量が足りないと言い出しそうだ。僅かな男子も彼女連れか、数人の女子に囲まれている。

 

「ねぇ、櫛田。やっぱり学食にしない?なんか場違いな気が・・・・・・」

「慣れれば平気だよ。高円寺くんなんて毎日のように来てるみたいだし。ほら、あそこ」

 

そう言って櫛田が指さした奥の多人数用テーブル席には、いつものように堂々とした態度で女子に囲まれている高円寺の姿があった。

 

「昼間いないと思ったらここに来てたんだ」

「モテモテみたいだね。周りは、三年生の人達みたいだよ」

 

どうやら櫛田も驚いているようだ。

 

「高円寺くん、はい、あーん」

「はっはー!やはり女性は年上にかぎるねぇ〜」

 

最上級生に全く臆することなく、むしろ肌を密着させるようにして食事していた。

 

「高円寺はすごいなー」

「あちこち言いふらしてるみたいだよ。高円寺の名前」

「あぁ、確かでかい会社のお坊ちゃんなんだっけ」

 

なるほど、取り巻きの女子たちは金目当てという訳だ。

 

「世知辛いというかなんというか」

「女の子はね、現実主義なの。夢だけじゃお腹は膨れないからね」

「そういうあんたは?」

「私は・・・・・ちょっとくらい夢を見たいかな。白馬の王子様みたいな」

「櫛田の白馬の王子様・・・・・・」

「浅羽くん?」

 

浅羽は櫛田の白馬の王子様がどんな感じなのか想像してみる。

 

『ハ〜クハクハクハクwwwwww櫛田もお馬さんにしてやるウマねぇ〜wwwwww』

 

こんな感じだろうか。

 

「それは絶対違うと思うよ?」

「あっ、そっか」

 

どうやら違うみたいだ。

エアプ白馬の王子様が櫛田により全否定され、できるかぎり高円寺から距離を取れる二人掛けの席を確保する。

 

「浅羽くんは?やっぱり堀北さんみたいな子が好きなのかな?」

「いやーキツイでしょ」

「え?」

 

しまった。つい本音が出てしまった。

 

「な、なんでもないよ。それよりなんで堀北?」

「いつも一緒だから。それに可愛いじゃない」

「まあ確かに。可愛いと思うけど」

 

それを帳消しにするクソみたいな中身がな〜。

 

「あっ、そうだ。知ってる?今一年生の女子の中でこんなのが流行ってるの」

「んー?ランキング?」

 

櫛田が向けてきた携帯に目を通す。そこには無数の男子の格付けしたランキングがあるようだった。

気づかないうちに、男子たちは格付けされていたらしい。

 

「浅羽くん、ちょっと女子から注目されてるんだよ?入学初日のバスの出来事が広まっちゃったみたい。このランキングにも載ってるし」

「ちょっと待って。それ、あんたが言いふらしたんじゃないの」

「・・・・・・・」

 

ジト目で櫛田を睨むと、明後日の方向を向いた。

 

「やってくれたじゃんね。どうも最近視線が多いと思ったら」

「ま、まぁその話は置いておいて。ランキングの種類はいっぱいあるんだよ?イケメンランキングでしょ?お金持ちランキングでしょ?気持ち悪いランキングでしょ?死んで欲しい男子ランキングでしょ?それからーーーー」

「なんか聞くの怖いんだけど、それ」

「大丈夫だよ。浅羽くんはイケメンランキングで5位につけてるね。おめでとう!綾小路くんと一緒だよ!ちなみに1位はAクラスの里中くんって人。2位が平田くんで、3、4位もAクラスの男子だね。平田くんは外見と性格で大きくポイントを稼いでる感じ」

 

さすが我らが平田大明神。C以上のクラスからも注目されているとは。

 

「喜んでいいのかな、それ」

「もちろん。今のところ、イケメンランキングでしか浅羽くんの名前見ないし。一学年160人で、大体男子が半分の80人だとすると浅羽くんの5位が凄いことが分かるんじゃないかな」

「な、なるほど・・・・・・?」

 

生まれてこの方、容姿なんてものに関心が一切なかったので凄いと言われてもいまいちピンと来ない。

 

「あんまり嬉しそうじゃない?」

「うーん。いまいちピンと来ない感じかなー」

 

モテる人には靴箱にラブレターが入っているものだと、池と山内が話しているのを聞いたことがある。

 

「ラブレター?だっけ?それも貰ったことないし」

「今の時代にラブレター書く人も珍しいけどね」

「そもそもそのランキング、あてになんの?」

「あはは、あてにはならないんじゃないかな。結構な人数が参加してるっぽいけど、票数とかは分からないようになってるし。コメントしてる人たちも全部匿名だからね」

 

要は分からないことだらけ。結局は、お遊びの延長のようなものだろう。

 

「でも意外だな〜。あんまりこういった話には興味がないのかな?浅羽くん、私から見てもイケメンだと思うし、平田くんみたいな華もあるし」

「そう?全然気にしてなかった。あ、このパスタ美味いよ、櫛田」

「あ〜・・・・・なるほどね。浅羽くんは色気より食い気か〜」

 

これはこれで中々に大変だなと、櫛田は苦笑いを浮かべた。

 

「逆に聞きたいんだけどさ」

「なになに?」

「男子がそれやったら女子はどう思うもんなの?」

「サイテー扱いすると思うよ」

(こわーい)

 

ニッコリ笑うが目が笑っていない。確かに、裏で可愛い女子や不細工な女子を格付けしていたら猛抗議を受けるに違いない。じゃあ男子はどうなんだろうか。こちとら死んで欲しい男子ランキングなどという、ランクインした時点でこの世の終わりのような不名誉極まりないランキングがあるというのに。男女差別とは中々に根深いものなのかもしれない。

 

 

§

 

 

「ーーーーとまぁ、こんな感じの話をして終わり」

「デートじゃんそれ」

「喧嘩売ってんの?」

「なんでだよ。そんなに言うなら二人とも誘えばいいじゃん。櫛田、連れてこようか?」

「ばっ・・・・・!やめてくれよ!」

 

池が慌てて懇願する。

 

「そ、その聞きたいんだけどさ」

「ん?なに、山内」

「そ、その・・・・・イケメンランキングに俺の名前って・・・・・・」

「ちょっと待って。櫛田がランキングの掲示板のサイトのURLくれたから見てみる」

 

そう言って携帯をいじること数秒。

ソワソワし、浮かれている山内に現実は残酷だった。

 

「ないよ」

 

たった一言。

その遠慮や躊躇いが一切ない無慈悲な一言にバッサリ切って捨てられた山内は、そのまま自分の席に戻りガックリいった。

 

「?どうしたの、山内のやつ」

「あれは効いてるわね・・・・・」

「ああ・・・・・・・・」

 

あの堀北ですら同情してしまう程。

そして無慈悲な宣告者は次のターゲットに狙いを定める。

そう、池寛治だ。

何も教えてくれと頼んでもないのにこの無慈悲な宣告者は次のターゲットに池を選んだのだ。

差別も区別も許さない宣告者の鑑である。

 

「い、いや・・・・・・!聞きたくない・・・・・!」

「えーっと、池は・・・・・・」

「やめてくれ・・・・・・・・!!」

「あ、あった」

「!?!?!?」

「あ、ごめん。見間違い。ないや」

 

その場で池は横になった。

 

 

______________________________

 

 

 

「思ったより多いねぇ」

 

放課後、浅羽と綾小路と堀北は体育館へとやってきた。目的は部活動の説明会である。既に一年生と思われる生徒たちの殆どは揃っていて、100人近くが待機している。三人は後方の位置に立ち、所定の時刻を待つことになった。

 

「山内と池。どうしたんだろうね、凄い元気なかったけど」

 

こいつマジ?

 

二人は浅羽を見る。山内はともかく池に関しては完全なとばっちりだというのに。

 

「やっぱりランキング教えない方がよかったかな」

「まぁ、あまり気にしなくていいんじゃないか?あの二人なら大丈夫だろ」

「ええ、おかげさまで面白いものが見れたわ」

 

三人は体育館に入る際に配られた部活動の詳細が載ったパンフレットに目をやる。

 

「この学校って有名な部活動ってあるのかしら」

「例えば?」

「空手とか」

「どの部活動も高いレベルらしい。全国クラスの部活や選手も多いみたいだ」

 

それでも野球やバレーなどの名門校には一歩及ばないあたり、この学校の中での部活動は趣味的な意味合いが濃いようだ。

 

「施設も並の学校より遥かに充実してる。酸素カプセルなんかもあるみたいだしな。さすがに設備は豪勢というか、プロ顔負けだ。空手部はないみたいだが」

「・・・・・そう」

「堀北、空手に興味あんの?」

「いいえ。気にしないで」

「でも、アレだな。部活動未経験者は運動部入りにくいよな。高校デビューしてもどうせ万年補欠だ。それで面白さを見い出せるとも思えないし」

「それは努力次第でしょう?一年二年と鍛錬を積めば、誰にでも可能性はあるわ。事なかれ主義の綾小路くんに、鍛錬は無縁の存在だったかしら」

「それ、事なかれ主義と関係ないだろ」

「ねぇ、あれって生徒会長?学校案内のパンフレットに載ってたよね」

 

浅羽の声に綾小路と堀北が舞台に目を向ける。

 

「・・・・・・?堀北?どうしたの?腹痛いの?」

 

顔を青くし舞台を見入っている堀北に、浅羽は声をかけるが気が付かなかったようだ。

 

(瞳孔が開いてる。過度の緊張かストレス・・・・・?)

 

舞台にいるのは身長170センチ少しと、それほど高くない。細身の身体に、さらりとした黒髪。シャープなメガネから、知的さを覗かせる。

 

「・・・・・・・」

「ほんとにどうしたの。堀北?」

 

マイクの前に立った生徒は落ち着いていた様子で一年生を見下ろす。一体何の部活で、どんな説明をするのか待っていたが、その生徒は一言も喋らなかった。

 

「頑張ってくださ〜い」

「カンペ、持ってないんですか〜?」

「あははははは!」

 

一年生からそんな野次が投げられる。しかし壇上に立つ先輩は微動だにせず立ち尽くすだけ。笑い声も励ましも届いていないかのようだ。

ピークが過ぎれば自然と白けてしまうわけで。

『何だよあの先輩は』と、呆れる生徒が出始め体育館はざわつきだす。

それでも壇上の男は動かない。ただ静かにジッとしている。

堀北も食い入るよつにその生徒を見つめて目を逸らさない。

 

(あの人が出てきてから堀北が変だな)

 

浅羽は壇上の生徒に目を向ける。体育館の空気は正に張り詰めていた。息苦しいと感じるほどには。

そんな静寂が30秒ほど続いた頃だろうか。ゆっくり全体を見渡しながら壇上の先輩が演説を始めた。

 

「私は生徒会長を務めている、堀北学と言います」

 

横目で隣の堀北を見る。もしかして兄妹なんだろうか。

 

「生徒会もまた上級生の卒業に伴い、一年生から立候補者を募ることになっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者が居るのなら部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは原則認められていません」

 

口調こそ柔らかかったが、肌を突き刺すような緊張、空気。この広い体育館にいる100人を超える新入生たちをたった一人で黙らせてしまう程の気配。

堀北学という生徒が持つ力。場を支配する気配が、より一層重たいものへと変わっていく。

 

「それからーーー私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選はおろか、学校に汚点を残す事になるだろう。我が校の生徒会には規律を変えるだけの権利と使命が学校側に認められ、期待されている。その事を理解出来る者のみ、歓迎しよう」

 

淀みなく演説すると、真っ直ぐに舞台を降りて行く。

 

「堀北。大丈夫?演説終わったよ」

「・・・・・・・・っええ、大丈夫よ」

「そう。それなら・・・・・・・・・?」

 

視線を感じる。ひどく鋭い、針のような視線。

 

(誰だ・・・・・・?)

 

辺りを見渡すと先程、舞台で演説していた生徒会長がこちらを見ていた、気がした。

 

(生徒会長・・・・・・?)

 

体育館を出て行った後も一年生は一言も発することが出来ないまま、生徒会長を見送る事しか出来なかった。雑談でもしようものならどうなるか分からない。そう思わせる気配があった。

 

「皆さんお疲れ様でした。説明会は以上となります。これより入部の受付を開始します。また、入部の受付は4月いっぱい行っていますので、後日希望する生徒は申込用紙を直接希望する部まで持参してください」

 

のんびりとした司会者のおかげで張りつめていた空気は一気に霧散した。

 

「浅羽、どうかしたか?」

「いや、なにも。教室戻ろう」

「・・・・・・・ああ。堀北、具合悪いなら保健室に行くか?」

「・・・・・・・・」

 

堀北は何も言わずにそのまま体育館を出て行く。

 

「ちょっと心配だね、あれ」

「明日から気にかけるようにするか」

 

二人も堀北の後を追うように体育館を後にした。

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