うそ、私の拙い文章・・・・見られすぎ・・・・・?
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
登校すると満面の笑顔で池が山内に声をかけていた。この二人がこんなに早く登校しているのも珍しい。入学式から一週間。池や山内は毎日のように遅刻寸前で登校していた。
「いやー、授業が楽しみ過ぎて目が冴えちゃってさー」
「なはは。この学校最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ!水泳って言ったら、女の子!女の子と言えばスク水だよな!」
確か水泳の授業は男女混同。つまり堀北や櫛田、その他大勢の女子の水着を目にする事になる。ただ、池と山内がはしゃぎ過ぎて女子の一部はドン引きしている。
「はよーございます」
「おっ!浅羽!おはよう!」
「お前も楽しみだよな!水泳の授業!」
「おはよ、二人とも。今日だっけ?」
「おう!なんたってスク水を見れるんだぜ!?この学校、可愛い子が多いからから楽しみで!」
「ああ、そう・・・・・・あんまりはしゃぎ過ぎないようにね」
若干ドン引きしている浅羽を尻目に二人の会話は続いていく。
「おーい博士。ちょっと来てくれよー」
「デュフ、呼んだ?」
太目な生徒が、あだ名の『博士』と呼ばれてゆっくり近づいてくる。
「博士、女子の水着ちゃんと記録してくれよ?」
「お任せくだされ。体調不良で授業を見学する予定ンゴ」
「記録?あんたら、まさか・・・・」
「浅羽も気になるか?博士にクラスの女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ。あわよくば携帯で画像撮影とかなっ」
「俺の見立てでは長谷部と佐倉。アレはやばいぜ、飛ぶぞ」
「キッショ・・・・・・・・」
ゴミを見るような目で三人を見てから、遠目でこちらを見ている綾小路と堀北に助けを求める。
案の定堀北は関心を見せず視線を手元の本に戻し、綾小路は軽く息を吐いてから立ち上がった。
「何してるんだ?」
「お!綾小路、お前も気になるか?」
「実は俺たち、女子の胸の大きさで賭けようってことになってんだけどさ」
「オッズ表もあるやで」
博士はタブレットを取りだしエクセルファイルを開く。そこにはクラスの女子全員の名前が並んでいる。
「もちろん二人も参加するよな?」
「一口どんくらいなの?」
「1000ポイント」
「僕はパスかな」
「悪いな。オレもパスだ。あまりポイントの無駄遣いをしたくない」
「ちぇ、付き合い悪いなー」
「そう言わないでよ、山内。また今度ね」
「絶対だからな?」
そう言って盛り上がる三人と別れ、綾小路と席に戻る。堀北に聞こえないように綾小路に話しかけた。
「堀北、思ってたより平気そう?」
「みたいだな」
昨日の様子のおかしかった堀北は、いつも通り小説を読んでいる。
昼休みも終わり、ついに待ち望んだ水泳の授業がやって来た。
「うひゃあ、やっぱこの学校すげぇな!街のプールより凄いんじゃね?」
競泳パンツをはいた池が50Mプールを見るなりそんな声を上げた。
「おー、すごーい」
「確かにこれはすごいな」
水は澄んでおり、プールも屋内で天気の影響を受けない。抜群の環境と言っていいだろう。
「女子は!?女子はまだなのかっ!?」
鼻をフンフンと鳴らしながら池は女子を探す。
「着替えに時間かかるからまだだろ」
「なぁ、もしも俺が血迷って女子更衣室に飛び込んだらどうなるかな?」
「僕に聞かないでよ」
「女子に袋叩きにされたうえに退学になって書類送検されるだろうな」
見事なスリーアウトである。人生のゲームセットでもあるが。
「リ、リアルなツッコミは求めてない!」
池は想像して怖くなったのか、プルプルと震えている。
「オレ個人の意見だが、変に水着とか意識してると女子に嫌われるぞ?」
「意識しない男がいるかよ!あー、ワクワクしてきた!な、浅羽!」
「そっすね」
肩を組まれた浅羽は遠い目をしながら答えている。これもまた青春か。
「うわ〜、凄い広さ。中学の時のプールより全然大きい〜」
男子グループから遅れること数分、女子の声が耳に届いた。
「き、来たっ!?来たぞ、浅羽、綾小路!気をつけろ!」
「何にだよ」
身構える池。露骨すぎると嫌われると言ったばかりだというのに。とはいえ、綾小路は気になっていた。長谷部とか櫛田とか、一応堀北とか。特に一番の巨乳と専らの噂されている長谷部は、一度拝んでおきたい。ところが男子生徒全員の願いは思わぬ形で裏切られる。
「な、何でだよォ!長谷部がいない!?ど、どういう事だ!?博士!神は俺たちを裏切ったのか!?」
「ファ!?そんなのデータにないでござるよ!?」
やめたら、データキャラ。
授業を見学する博士が慌てた様子で見学用の建物の二階から全貌を見渡している。池たちが見逃した獲物を高台からメガネの奥の小さな瞳で瞬時に見つけ出すはずだ。
だが、その姿をどこにも捉えられない。信じられないと言うように博士は首を左右に振る。まだ着替え中か、それとも・・・・・・
「う、後ろだ!博士!!」
「ンゴゴゴ!?」
池が指を差し叫び、事態が明らかになる。長谷部は博士と同じ見学組だったのだ。続々と女子の面々が見学組として二階に姿を現す。そこには佐倉の姿も。
「な、なんでだよ・・・・・これ、どういう事だよ!」
池は信じられないものを見るかのように頭を抱えてその場に崩れた。長谷部は自分が美人だと自覚しているような女子だ。更に付け加えて、男子から好奇の視線を向けられることを煙たがっている。見学を選択して当然だろう。
「巨乳が、巨乳が見れると思ったのにっ・・・・・思ったのにぃ!こんなのあんまりだ!」
「声がでかいよ、池」
「浅羽もそう思うよな!?神なんていなかったんだよ!」
「僕を巻き込まないで」
池の魂の叫びは悲しいことに長谷部にまで聞こえている。オマケにキモッと呟かれる始末。
「池、悲しんでる場合じゃないぜ!俺たちにはまだたくさんの女子がいるっ!」
「そ、そうだな。ああ確かにそうだ!ここで落ち込んでる場合じゃないよなっ!」
「「友よ!」」
「アホくさ、勝手にやってて・・・・・ちょ、やめて!僕を巻き込むな!嫌だ、こんなヤツらと友達と思われたくない!」
山内と池、そして貰い事故の浅羽は互いに手を取り合う。凄い嫌そうな顔をしている。
「三人とも、何やってるの?楽しそうだねっ」
「く、くく、櫛田ちゃん!?」
三人の間に割って入るように櫛田が顔を覗かせる。
「た、助かった・・・・・ありがと、櫛田」
「ど、どういたしまして?」
げんなりしている浅羽に櫛田は困惑している。
スクール水着を着た櫛田は凄いの一言に尽きる。妖艶な身体のラインが浮き彫りになっているのだ。男子のほとんどが、一瞬櫛田の身体に釘づけになったことだろう。胸はDかEあたりか。詳しくはないから分からないがそれくらいはありそうだ。制服を着ていても分かっていたが想像より遥かに大きい。程よくついた太ももやお尻の肉というか膨らみが妙に生々しい。なるほど、池や山内が興奮するのも頷ける。だが、綾小路を含め男子はすぐに視線を逸らす。あれはいい意味で目に毒だ。
「どう?浅羽くん、似合ってるかな」
「え?えー、うん。似合ってんじゃない?」
「もうっ、もっと他にないの?」
「みんな同じ格好でよくわかんないよ」
あいつは本当に男か?あんな凄い身体を目の前にして何故平静を保っていられるんだ?
いけない、浅羽を見るということは櫛田も見るということだ。
そうだ、天気でも見よう。あぁ、今日もいい天気だ・・・・・世界平和って素晴らしい。
「何を黄昏ているの?」
堀北は怪訝な様子で綾小路の顔を覗き込んだ。
「邪魔しないでくれ、堀北。オレは己との戦いに没頭しているんだ」
「あなた、何を言っているの?」
堀北の水着姿。なんというか、うん。健康的で決して悪くない。
「綾小路、腹でも痛いの?」
「邪魔しないでくれ、浅羽。オレは己との戦いに没頭しているんだ」
「何言ってんの、あんた」
堀北を見るが目を伏せた。どうやらよく分からないらしい。
「ところで二人とも、何か運動してた?」
「え?いや、別に。自慢じゃないが中学は帰宅部だったぞ」
「僕も特にしてないよー」
「それにしては・・・・・あなたたちの前腕の発達とか背中の筋肉とか、普通じゃないけど。浅羽くんなんて特に顕著じゃない」
「両親から恵まれた身体を貰っただけじゃないか?」
「とてもそれだけが理由とは思えない」
「普通じゃない?こんなもんでしょ」
どこか腑に落ちないようだが、それ以上は追求してこなかった。どうやら堀北はそれなりに見る目があるつもりらしい。
「堀北さんは泳ぎは得意なの?」
櫛田からの質問に少しだけ怪訝な表情を見せたが、堀北は静かに答える。
「得意でも不得意でもないわね」
「私は中学の時、水泳が苦手だったんだ。でも一生懸命練習して泳げるようになったの」
「そう」
興味なさげに答え、堀北は少し櫛田から距離を取る。これ以上会話したくないという合図だろう。
さすがに櫛田も分かったのか、苦笑いを浮かべる。
「私、嫌われちゃってるのかな」
「堀北は元からああだから気にしなくていいんじゃない?」
「よーしお前ら集合しろー」
体育会系の文字を背負ったマッチョ体型の教師が集合をかけ授業が始まる。
「見学者は16人か。随分と多いがまぁいいだろう」
明らかにサボりの生徒も混ざっているだろうがそれを咎める事はなかった。
「早速だが、準備体操をしたら実力が見たい。泳いでもらうぞ」
「あの先生、俺あんまり泳げないんですけど・・・・・」
一人の男子が申し訳なさそうに手を挙げる。
「俺が担当するからには必ず夏までに泳げるようにしてやる。安心しろ」
「別に無理して泳げるようにならなくていいですよ。どうせ海なんて行きませんし」
「そうはいかん。今はどれだけ苦手でも構わんが克服はさせるぞ。泳げるようになっておけば、後で必ず役に立つ。必ず、な」
随分と含みを持たせるな。
教師としてはカナヅチを治してやりたいって思いが強いだけかも知れないが。
全員で準備体操を始める。池はチラチラと女子の様子を窺って止まなかった。泳げない人は底に足を着いて、50mほど流して泳ぐ。温度は適切に調整されているのか、冷たいと感じることはなかった。
終わった者はプールサイドで待機している。
「へへへ、楽勝楽勝っ。みたか?俺のスーパースイミングを」
軽快に泳ぎ、池はドヤ顔で上がってきた。別に他の人たちと大差はない。
「とりあえずほとんどの者が泳げるようだな」
「余裕っすよ先生。俺、中学の時は機敏なトビウオって呼ばれてましたから」
「そうか。では早速だがこれから競争をする。男女別50mの自由形だ」
「き、競争!?マジっすか」
「一位の生徒には俺から特別ボーナスで、5000ポイントを支給しよう。遅かった奴には逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ」
泳ぎに自信がある生徒からは歓声が、自信のない生徒からは悲鳴が上がる。
「女子は人数が少ないから五人を二組に別けて一番タイムの早かった生徒の優勝にする。男子はタイムの早かった上位五人で決勝をするぞ」
学校側がポイントを景品にしてくるとは思っていなかった。もしかしたら今回欠席した生徒たちに発破をかけるためかもしれない。競争に参加するのは見学者と泳げない一人を除いた男子が16人、女子が10人。まずは女子からスタートする事になった。男子たちはウキウキ気分でプールサイドに座り込み、女子の応援もとい品定めをする。
「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん。はぁはぁはぁはぁ」
池はすっかり櫛田に骨抜きにされてしまったようだ。
「怖いぞ池、落ち着け」
「だ、だって櫛田ちゃんクソ可愛いだろっ!胸も結構でかいしさっ!」
ぶっちぎりで男子の人気を集めたのは櫛田。後は横並べといったところ。顔だけでいえば間違いなく堀北もトップレベルだが、人付き合いを嫌う点が災いして人気は低めだ。しかしそれでも十分ご褒美なのか、スタートラインに立てば歓声が上がる。
「みんな、目に焼き付けろよ!今日のおかずを確保するんだッ!」
「「おうっ!」」
「綾小路、おかずってなに?飯の話?」
「・・・・・まぁ、そんなところだ」
浅羽・・・?いや、まさかな・・・・・
この水泳を介してクラスの男子たちの絆が強まってる気がする。唯一の例外は平田と横にいる浅羽だけが女子をそんな目で女子たちを見てないようだが。
ホイッスルが鳴り、女子5人が飛び込む。堀北は2コース。序盤でリードするとそのまま距離を保ちトップを維持。危なげなく50mを泳ぎきった。
「おーーーー!やるな堀北」
タイムは28秒。かなり早い。息を乱すことなく堀北ゆっくりプールサイドに上がる。男子は結果など二の次。女子のお尻に視線を釘づけにされていた。オレも堀北を見た。唯一よく喋る女子だから何かちょっと、うん。
続いて第二レース。一番人気の櫛田は4コースにおり、応援する男子たちに笑顔で手を振る。
「おおおおおお!!」
悶える男子たち。池なんて色んな意味で昇天寸前だ。櫛田はクラスの全員と仲良くなると言っていたが、それはほぼ事実となっている。
そしてスタートした。しかし結果は小野寺という水泳部の女子が26秒を叩き出してぶっちぎった。櫛田も31秒と好タイムだったが、総合4位。
プールサイドに上がって来た堀北に声をかけに行く。
「惜しかったな、二位だってよ。現役の水泳部相手ってのはさすがに厳しかったか」
「別に、勝ち負けなんて気にしないから。それよりあなたは自信あるの?」
「当たり前だろ。ビリにはならない」
「・・・・・・それ、自慢することじゃないわよ。男子は勝ち負けにうるさいと思っていたけれど」
「オレは競い合うのが嫌いなんだ。事なかれ主義だからな」
一位なんて最初から諦めている。須藤も同じグループだからな。補習さえ回避出来ればそれで十分だ。
結果は須藤が25秒を切っての一位。オレは36秒少し。どうやら10位のようだ。
「よーし、僕もやるぞー」
そうか、浅羽は第二レースか。
「随分やる気だな」
「5000ポイントほしい、絶対に!」
フンスフンスとやる気に満ちていた。
浅羽は平田の横のスタート台に立つ。
「よろしくね、浅羽くん」
「平田も一緒なんだ」
「きゃー!」
「ん?」
女子から黄色い歓声が上がる。浅羽は平田の身体を見て納得した。須藤の肉体は男から見て惚れ惚れするものだが、平田の身体は女史が惚れ惚れするものらしい。華奢だがしっかりしている。俗に言う細マッチョというやつだ。女子の平田への声援を聞いて、池が唾を吐く仕草をしている。
「モテモテじゃんね」
「ははは・・・・・」
「よし、位置に着いたな。始めるぞ」
先生の一言で第二レースの全員が飛び込みの姿勢を取り、ホイッスルが鳴ると同時に一斉に飛び込んだ。
「意外と速いな」
綾小路の隣に来た須藤が冷静に言った。先程、女子の歓声を浴びていた平田のことが気に入らなかったのか『叩き潰してやるぜ』と言ってたのが嘘のようだ。だが、須藤の言うように平田の泳ぎは早い。このままいけば一位を取るだろう。この場にいる全員がそう思った。
「おい見ろよ!浅羽のやつ、めっちゃ早いぞ!」
男子の一人が大声を出し、全員の視線が浅羽に行った。
「アイツ、50mをクロール無呼吸でやってんのか!?死ぬぞ!?」
「にしても早すぎないか、あれ!他のやつら置いてけぼりだぞ!」
「行けー!そんなモテモテ男なんて叩き潰せー!」
最後の池の私怨はともかく、浅羽の泳ぎの速さは異常だ。須藤もさすがに目を見開いている。平田が一位という誰もが思った予想を、浅羽がひっくり返し一位をもぎ取るという結果で終わった。
女子の歓声とは別の歓声がプール内に響き渡る。
「先生、浅羽のタイムは!?」
池が食いつくように聞く。
「し、信じられん・・・・・・20秒ジャスト・・・・だと」
タイムを切った先生が思わずストップウォッチを二度見する。
「うおおおお!すげぇ!」
「ぶっちぎりの一位だろ!」
「浅羽ー!お前は俺たちの光だー!」
プールから上がりこちらに歩いて来ている浅羽に男子たちは駆け寄る。
「なに、どうしたの。みんな」
「浅羽!平田に勝ってくれてありがとう!」
「は、はあ・・・・・・」
「お前、可愛い顔してやるじゃん!」
「うるさいな、可愛いは余計だよ」
決勝が残っているのにすでにお祭り騒ぎの中を先生が駆け足で寄ってきた。
「浅羽!是非とも水泳部に入らないか!?お前なら日本、いや世界も目指せるぞ!!」
「クソ嫌です、それより5000ポイントほしいです」
「いいや、この際ポイントなどどうでもいい!!お前には水泳部に何としても入ってもらうぞ!!」
「嘘でしょ・・・・・」
興奮気味の先生の誘いを躱したつもりが、とんでもないカウンターが飛んできた浅羽は逃げるように綾小路の所に駆け寄る。教師があそこまで本気で勧誘するなら教師の目から見ても相当だったのだろう。世界を目指せるというのもあながち冗談ではないのかもしれない。
「スポーツ出来たのか?」
「え?まぁ、それなりに」
「お前、一体何してりゃあんな・・・・・・」
須藤は信じられないものを見るような視線を向ける。50m20秒台は世界記録並のタイムだ。それを無呼吸でやってのけ、疲れた様子も一切見せない浅羽に恐怖にも似た何かを須藤は感じたのかもしれない。
「平田くん、一位にはなれなかったけどすっごく格好よかったよ!」
「そうかな?ありがとう」
「ちょっと、なに平田くんに色目使ってんのよ!」
「はあ?色目使ってるのはそっちじゃないの!?」
「きーっ!」
等など。浅羽に負けはしたが、平田の人気ぶりは池が思っていたほど落ちなかったようだ。
「やめたまえ、私を巡って争いをするのは。私は皆のものなのだよ、仲良く見ていたまえ」
何をどう聞いたらそうなるのか。高円寺は自分への歓声と勘違いしたらしい。
「なあ・・・・なんで高円寺のやつブーメランなんだ・・・・?」
「さ、さあ?」
一応ブリーフ型水着は学校の指定で認可されているが、このクラスでそれを履いているのは高円寺しかいない。女子はどことは言わないが高円寺の強調ぶりに顔を背けている。
第三レースの注目はやはり高円寺。スタート前の作り込まれた姿勢はアスリートのようだ。肉体も高校生とは思えないほど完成されている。
「私は勝負になどに興味はないが、負けるのは好きじゃないんでねぇ」
聞いてもないのに自分で言う。だが、それを言ってのけるほどの実力を高円寺は持っていた。
浅羽ほどではないが、間違いなく速い。
「23秒22・・・・・」
先生も二回目の二度見をしている。
「いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は絶好調のようだ。悪くないねぇ」
ざばりと上に上がってきた高円寺は余裕の笑みを見せ、髪をかきあげた。息が切れている様子もなく、本気を出して泳いではいない。
「燃えてきたぜ・・・・・・!」
須藤は負けたくないのかメラメラと闘志を燃やし始めた。
「来たまえ、浅羽ボーイ。私と一曲踊ろうじゃないか」
「え、僕?」
高円寺からの突然の誘いに、座っていた浅羽は立ち上がる。
「あ、決勝戦か」
「頑張ってこいよ」
綾小路の応援にブイサインで返す。浅羽、それは勝ってからやるものだぞ。
「随分と実力を隠すのが上手なようだねぇ、浅羽ボーイ」
「やだな、高円寺。隠してなんかいないよ」
「私の目は誤魔化せないよ。才能を隠すのもまた卓越した才能がいるものだからねぇ。その身体、実によく練り上げられている」
高円寺がこちらを挑発するように見る。
「・・・・・冗談はよしてよ、高円寺」
「はっはっは!今はそういうことにしてあげようじゃないか」
その後の上位5人による決勝戦は、その他を寄せ付けない実質浅羽と高円寺の一騎打ちとなった。
「あの二人、化け物かよ・・・・・」
「でもやっぱり浅羽の方が早かったな」
「すげぇ・・・本当にあれで同じ高校生なのか?」
プールから上がると、すでに高円寺が仁王立ちで立っていた。
「まさかこの私が土をつけられるとはねぇ」
「たまたまだよ、高円寺もすごかった」
「はっはー!やはり、君は面白い。認めよう、浅羽ボーイ」
「えっ」
「君こそ、私の生涯の友であると」
「い、いや、大丈夫です」
「照れることはない。この高円寺六助に初めての敗北をもたらした君は、生涯の友と呼ぶに相応しいからねぇ」
「あ、あの・・・・・」
ブーメランパンツの男が大手を広げて訳の分からない事をいえばこうもなろう。
「さぁ、浅羽ボーイ。私と共に夜まで語り明かそうじゃないか」
「ひぇ・・・・」
浅羽は綾小路と堀北を探し、目が合ったが二人揃って視線を逸らす。
(そんな・・・・!?)
「ーーーと言いたいところだが、生憎今日はデートの先約があるのでねぇ」
そう言いながら大手を振ってプールサイドを後にした。高円寺の背中を見送りながら浅羽は大きく息を吐いた。
「あれ?もしかしてゲテモノに目をつけられた・・・・?」
浅羽は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。