2009年1月4日
「あけましておめでとうございまーす!」
コンクリート打ちっぱなしの寒々しいレッドトルーパーのコマンドルームに、場違いなほど明るい声が響いた。
声の主である
「はい、おめでとう。えらい大荷物だね」
「おめでとう。あらお土産?」
ブックカバーをかけた文庫本から顔を上げた
「ええ、2年ぶりだったもんですから。あれ持って行けこれ持って帰れの入れ食いでしたよ」
「親孝行、したいときには親はなし。ま、子供でいられるうちは貰えるものは貰っておかなきゃな」
「はは、祖父祖母含めまぁー元気でしたけどねえ」
「ホントに多いわね。ご家族にお礼しなくちゃ・・・」
「いえいえ!値の張るものはないのでお気になさらず、副隊長」
普段は作戦会議や立体映像を使った机上シミュレーションに使われる大型の机に、バサバサと店を広げた紗希が両の手をパタパタと振った。
遠慮の見られる副隊長を横目に、隊長は「これと、これと」とばかりに自分の分を確保していた。
「隊長、調整中のチェスターの件ですが・・・あ、三奈元さん、おかえりなさい」
「ただいまカッキー!・・・と、只野さん。あけましておめでとうございます、二人とも今年もよろしく!」
「「おめでとうございます」」
二人連れ立ってコマンドルームにやって来たのは
いきなりの新年のあいさつに面食らった二人は、反射的にペコペコと頭を下げる。
ここに
「こういう風景を見てると日本人だなぁって思うよ」
「なんです?」
「いや、このお辞儀の応酬がさ。知ってる?黒船が来航した時、お辞儀する侍のチョンマゲをはじめて見たアメリカ人は頭に拳銃が乗ってるって大騒ぎしたんだってさ」
「隊長、またですか・・・いえ、でもありえなくもない話ですね」
例によって真偽不明の薀蓄を披露した乱堂にため息をつきつつ、ほんの少し信じている雰囲気もある香里。
隊長と副隊長によるこんなとぼけたやり取りもまた、レッドトルーパー隊の日常であった。
「あ、そうだ隊長!日本の文化の話でしたら」
一通り垣原と只野相手に土産話に花を咲かせた紗希が、ニコニコと良い笑顔で乱堂を見た。
同時に、何かを受け取るように重ねられた両掌を差し出す。
「なんだよ」
「もーわかってるくせに!お年玉ですお年玉!」
「ああ、あったねそんな文化も。俺海外暮らし長いから馴染みないんだわ」
屈託のない笑顔を向けてくる紗希の視線から、乱堂は手にした文庫本で顔を覆って避難する。
そんな隊長の姿を見やった副隊長は、また小さくため息を一つ。
「去年もそうやって逃げたじゃないですか!副隊長からもなんか言ってやってくださいよ!」
「でもね三奈元さん、成人してからお年玉というのも変でしょう」
「じゃあ副隊長は何歳まで貰ってたんですか」
「え・・・大学出る年までは貰ってた・・・かしらね?」
「成人してるじゃないですか!あたしまだ23なんでセーフですよね!」
急に矛先を向けられた香里は、顎に指を当て思い出しつつ正直に答えた。
育ちのいい副隊長の家庭環境を計算に入れた紗希の頭脳プレーである。
「おい、いらんこと言うなよ東條ぉ…あ、ほら。俺なんて老い先短い分老後の貯えが必要なんだよ、年寄りにたかるなよな」
「この高齢化社会で40代がなに言うてるんすか」
「そーだそーだ!カッキー言ってやれ!」
関西人の血がそうさせるのか、今まで紗希を苦笑いで見ていた垣原が隊長のボケチックな言い分にすかさずツッコミを入れた。
それを加勢されたとばかりに理解した紗希の勢いも増す。
「そうだ只野。お前独り身で余裕あるだろ?新入の年長者として威厳を見せるチャンスだぞ」
これは本格的にうるさくなるぞ・・・と覚悟を決めかけた乱堂だったが、さらに矛先をずらす作戦に出た。
この喧騒の中で、我関せずを決め込んでいる三十路の新入隊員に丸投げすることに決めたのだ。
只野自身、別に隊内で軽んじられているわけではないのだが、隊長・副隊長は置いておいても、先輩格の三奈元・垣原両隊員が年下であることもあって一定の距離を置き接しているのは見て取れた。
うん。これは隊の円滑な人間関係に繋がる、ひいては作戦行動の効率化にすら影響する極めて重要な命令だ、と乱堂は心中で自己正当化した。
「独り身、ですか・・・」
紗希の土産を手に取っていた只野が、かわいらしいマスコットが描かれたビスケット箱を殊更ゆっくりと置き、呟いた。
「うわ・・・」
「何ハラスメントになるんやろ今の」
「そのうちピッタリの形容詞が生まれるわ」
乱堂以外の三人が、コソコソ話をしつつ只野から距離を取る。
「ええ独り身ですよ。おかげさまでね!こちとらしがない一警備員から引き抜かれて早半年、パートを掛け持ちする妻に楽させてやりたい一心で入隊しましたよ。それが何ですか?野戦訓練から射撃訓練、専門用語の座学に、しまいにゃ飛行機の操縦まで叩き込まれて!寝る暇もないし、やっと家に帰れても泥のように眠るだけで非番を消化する日々!」
怒髪天を突くとはまさにこのことかとばかりに、椅子から勢いよく立ち上がった只野がディバイトランチャーばりの連射速度で思いの丈をぶちかまし始めた。
その勢いに完全に気圧された乱堂は、その場を動く隙すら与えられずただただ受け身に回っている。
「さっき僕も散々愚痴られたんすよ」
「相当溜まってたのね・・・」
「時限爆弾タイプだったんだ只野さん・・・」
もはやスペースビーストもかくやという程の大爆発を見せる只野に、レッドトルーパーの精鋭たちは身を寄せ合って嵐が過ぎるのを待つしかない様相である。
「完全にオーバーワークなんですよ!おまけに完全隠密組織だから身内にすら仕事の内容話せないし!そりゃ生活もすれ違いますよ!信じられます?朝起きたら書置き一枚だけ置いていなくなってたんですよ!
これは相当前から計画的に進めていたと見てますね俺は!しかも!しかもですよ!家電製品までごそっと持って行かれたんですよ!炊飯器は!炊飯器は使うだろっ独身でも!!」
最早何に対する怒りかもわからない雄たけびを上げた只野が、ドン!と音をたたて椅子に座り直した。
(炊飯器・・・)と口内で声に出さずに呟いた乱堂は、やっと終わったと胸をなでおろす。
「そういうわけで今は諸々係争中ですので、物入りなんです!大体お年玉なんてね!俺なんか高校生の頃には・・・!」
くるっと避難中の紗希に向き直った只野の勢いは先ほどと何ら変わりなかった。
残念、終わっていませんでしたね。
うわ、まだ続きそうだ・・・とコマンドルーム全体が暗い雰囲気に包まれそうになったその時。
『第三種警戒発令。レッドトルーパースクランブル。レッドトルーパースクランブル』
けたたましいサイレンとともに、緊急出動を告げるアナウンスがコマンドルームに響き渡った。
すっと居住まいをただした乱堂に続き、肩で息をする只野を含めた四人の隊員も表情を引き締める。
警光灯が室内を照らす中、装備品ロッカーへと走った五人は素早くヘルメットを被った。
続けて黒と赤を基調とした特殊スーツの上からベストや膝当てといったプロテクターを装着していき、武器庫から組み立て済みのディバイトランチャーを取り出す。
「只野、今日の昼飯何食べた?」
「は?え、日替わりBランチですが」
ブーツを確認しながら乱堂は横にいる只野に声をかけた。
余りに場違いな内容に、只野は一瞬返事が遅れてしまった。
「よし、俺と只野はチェスターβ。三奈元、垣原でチェスターα。東條、αで頼む」
「了解」
手早く指示した乱堂は、TLTが誇る
各隊員たちもそれに続く。
「出動!」
乱堂の号令と同時に、各隊員の乗り込んだケージが射出された。
レッドトルーパーのコマンドルームは関東近郊のダムに偽装したTLT-J第三基地フォートレスフリーダムの下層に位置している。
射出されたケージはそのまま上層のコンテナハンガーに直結しており、そこから各々が指定のチェスターに乗り込むのだ。
「Chesterα All Green.只野、さっきは悪かったな」
「いえ、僕の方こそ失礼しました」
複座型のα機の後部ガンナー席で計器の最終チェックをしていた只野に乱堂が声をかける。
実戦の前の緊張で先ほどの熱などとっくに冷めてしまっていた只野は、少しばかり気恥ずかしくなった。
「この後も、さっきの勢いで頼むぜ」
「・・・了解。ストレスはビーストにぶつけてやりますよ」
「よぉし、その意気だ」
入隊してわずか半年、いまだに慣れない実戦への恐怖や緊張を和らげようとする隊長の意図を悟った只野は、努めて軽い口調で返した。
前席に座る乱堂のヘルメットが愉快そうに揺れたのを見て、只野は自分がいつになく冷静になれていることを実感した。
発進アナウンスを受け、ダム側面の発進ゲートから三機のチェスターが闇夜に消えていく。
それは比喩的表現ではなく、
その場に残されたのは、目に見えない飛行機が放つ風切り音のみ。
今日もまた、レッドトルーパーの小忙しい日常が始まる。
こういったノリの作品になっていくかと思います。
イメージ的には、もしも現代にウルトラマンネクサスが放送していたらTUBURAYA・IMAGINATIONで配信してそうなシットコム的な映像作品です。
あ、BDの映像特典とかかもしれない。