【原神】からかい上手のナヒーダさん【二次創作小説】   作:KM@原神

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【原神】からかい上手のナヒーダさん #33 - キスの成立条件【二次創作小説】

「アーカーシャを通じて、私は人間関係の形に興味を持って追跡してみたことがあるの…」

 

 その言葉に、なぜか心臓が早鐘を打ち始めた。ナヒーダの表情と声音に、普段とは違う何かがあるのを感じる。

 

「それって、どうやって?」

 

 思わず聞いてしまう自分がいた。

 

「実は…カップルの意識を借りて、キスという行為も体験してみたことがあるの」

 

 ナヒーダの言葉に、思わず息を呑んだ。彼女はまるで学術発表をするかのような冷静な口調で続ける。

 

「キス…だと?」

 

 結晶の空間の静けさの中、その一言が妙に響いた気がした。

 

「ええ。疑似体験だけれど」

 

 ナヒーダは少し首を傾げて、記憶を辿るように目を細めた。その仕草があまりにも自然で、ギャップに言葉を失う。知恵の神が、人間の最も親密な行為の一つについて学術的に語るという状況に、現実感が薄れていく。

 

「そして…どうだった?」

 

 聞いてはいけないことを尋ねているような後ろめたさがあったが、好奇心が勝った。

 

「正直に言うと、がっかりしたわ」

 

 予想外の答えに、思わず「え?」と声が出る。

 

「単に、口に柔らかい物体が接触する程度のことで、何が特別なのかわからなかったの。物理的には唇同士の接触に過ぎないのにも関わらず、カップルはそれにとても大きな意味を見出しているようで…」

 

 ナヒーダは真剣に眉を寄せ、本当に不思議そうな表情を浮かべている。彼女の純粋な疑問に、どう反応すればいいのか戸惑う。

 

「でも、キスをした人々は皆、とても幸せそうだったわ。顔が赤くなったり、心拍数が上がったり、ホルモンが分泌されたり…不思議ね」

 

 彼女は首をかしげ、本当に理解できないという表情だった。

 

「なぜそんな研究を…?」

 

 思わず尋ねてしまう。ナヒーダがキスに興味を持っている意図が読めず、動揺を隠せなかった。

 

「人間の行動原理が知りたかったの」

 

 彼女は学問的興味のうえで、さらに続けた。

 

「特に、キスには特殊な化学反応が伴うのよ。脳内で物質が分泌され、強い幸福感や結びつきを生み出すとか…」

 

 ナヒーダは学術的な説明を続けるが、どこか言葉に詰まるような、自分自身に言い聞かせているような印象を受ける。

 

「そうなのか…知恵だけじゃ結論を出すのは難しそうだな…」

 

 ナヒーダの手が少し震えたように見えた。彼女は結晶の壁に映る自分の姿を見つめ、しばらく黙っていた。

 

「実は…私自身も理解したいと思っているの」

 

 その声は、さっきまでの学術的な調子から、より個人的な、少し弱々しい響きに変わっていた。

 

 彼女の言葉に、心が強く揺さぶられる。普段は「知恵の主」「草神」としての威厳を保っているからこそ、知識があるのに実体験が伴っていないギャップに悩む一面に、どうしても目を奪われてしまう。

 

「カップルの幸せそうな表情を見て、私も…」

 

 言いかけて、ナヒーダは言葉を切った。

 

「ナヒーダ…も…?」

 

 思わず聞いてしまう。聞かずにはいられなかった。

 

 ナヒーダは深呼吸をし、決意を固めたように顔を上げた。

 

「私も、現実でそれを体験してみたいと思ったの。アーカーシャを経由した疑似体験や、夢境内で創り出した架空の体験ではなく…」

 

 その言葉に、心臓が大きく跳ねた。彼女の真っ直ぐな視線と、恥ずかしさも混じった表情に、どう反応していいのか混乱する。頭の中が真っ白になり、思考が停止した。

 

「あ…ああ、そう…なのか…頑張れ」

 

 やっとの思いで絞り出した言葉は、自分でも何を言っているのかわからないほど的外れに聞こえた。

 

「でも、きっと条件があるの」

 

 ナヒーダは少し落ち着きを取り戻したように、冷静に続けた。

 

「スメールの民以外という特別な条件が必要だと思うの」

 

「なぜ?」

 

「なぜならスメールの民は、みんな私の家族のようなものだから、特別な感情を抱かなかった可能性が非常に高いと思うの」

 

 彼女の説明には説得力があった。草神として国を守る立場であれば、民との間に一線を引く必要があるのは理解できる。しかし、その言葉の真の意味に気づいた瞬間、俺の心臓は再び激しく鼓動し始めた。

 

(ま、ま、まさか…??)

 

 スメールの民以外の珍しい人物で、ナヒーダが最も興味を持つ人間は…降臨者である俺だけだ。つまり彼女は…

 

 考えが及んだ瞬間、ナヒーダが人差し指を突き出し、俺を指さした。まるで名探偵が犯人を追い詰めるときのような、ビシッとした動作だった。

 

「そう、あなたしかいないわ」

 

 彼女の宣言に、完全に言葉を失った。口を開けたまま、何も言葉が出てこない。結晶の空間が回り始めたような、目眩さえ感じる。

 

「で、でも…」

 

 やっとの思いで声を絞り出す。

 

「キ、キスは恋人同士がするものだろ?カップルじゃないと効果無いぞ、多分」

 

 とっさの反論に、ナヒーダは少しも動じなかった。

 

「じゃあ、私たちは恋人同士になればいいわけね?」

 

「な、ななっ…!?!?!?」

 

 余りにも論理的かつ大胆な提案に、息が詰まりそうになる。彼女はまるで「明日の天気」を話すような自然さで、とんでもないことを言い出した。

 

「えぇと、恋人同士になるには確か、『愛の告白』という行為とやらが必要だったわね」

 

 ナヒーダは考え込むように指を頬に当てた。

 

「ふふっ、それじゃあ…」

 

 彼女が何かを言おうとした瞬間、俺は慌てて手を振った。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 思わず声が大きくなる。ナヒーダは不思議そうに首を傾げた。

 

「なぜ、そんなに焦っているの?」

 

「そ、それは…」

 

 言葉に詰まる。どう説明すれば良いのか。恋愛は草木が育つように自然に育むもので、こんな風に理論的に進めるものではないと言うべきか?

 

 それとも、そもそも異世界の降臨者と、テイワットの魔神…俺たちが恋人になるという発想がどれほど突飛なものか説明するべきか?

 

 しかし、心の奥底では別の声も聞こえていた。これは悪い話ではないのでは?ナヒーダが心の支えになったり、助力してくれれば、旅の辛さが軽減されるのでは?…そんな声を必死に打ち消しながら、言葉を選ぶ。

 

「告白というのは…もっと特別なものだと思うんだ。お互いの気持ちがあって、そしてタイミングも大事で…」

 

 何を言っているのか自分でもよくわからなくなってきた。ナヒーダは真剣な表情で俺の言葉に耳を傾けている。

 

「あ…もちろん…学術的な目的として…知恵の神としての探究心から……人間の感情や行動を理解したい……だけ……なのよ……」

 

 言いながら、彼女の声が徐々に小さくなっていく。その姿が妙に愛らしく、胸が締め付けられるような感覚を覚える。

 

「本当に?」

 

 思わず尋ねてしまう。ナヒーダは少し目を逸らした。

 

「…そう、ね…」

 

 彼女の言葉には珍しく説得力がなかった。お互いに嘘をついても、何も始まらないという雰囲気が流れる。

 

 しばらくの沈黙の後、ナヒーダが小さな声で言った。

 

「じゃあ続きはまた今度、考えておいてね」

 

 その言葉には、諦めと期待が混じっていたように思える。「今度」が「いつ」なのか、期限を決めてこなかった。

 

 普段の調子ならきっと、短い期限を決めて俺を慌てさせているはずだ。

 

 彼女は岩から立ち上がり、少し離れた結晶の壁に触れ始めた。その仕草には何か落ち着かない様子が見て取れる。

 

 俺も立ち上がったが、どう振る舞えばいいのか分からず、その場に立ち尽くした。心の中は様々な感情が入り混じり、整理がつかない。ナヒーダの提案は突飛だったが、彼女の素直さには心を動かされる。そして何より、彼女が「特別な相手」として俺を選んだという事実が、不思議と嬉しさを感じさせた。

 

「もう少し休んでいく?」

 

 ナヒーダが振り返って尋ねる。その表情はいつもの穏やかな笑顔に戻っていたが、心なしか頬が赤いようにも見える。単に結晶の光の反射のようにも見える。

 

「ああ、足がまだ疲れているから、もう少しだけ」

 

 思わず答える。まだ頭の整理がついていない状態で歩き始める自信がなかった。

 

 再び岩に腰かけると、ナヒーダも少し距離を空けて隣に座った。二人の間に流れる沈黙は、不思議と居心地の悪いものではなかった。むしろ、お互いの気持ちを確かめるような、穏やかな時間に思えた。

 

「この結晶、本当に綺麗ね」

 

 ナヒーダが小さな声で言う。

 

「ああ、綺麗だな」

 

 相槌を打ちながらも、俺の視線は結晶ではなく、彼女の横顔に向けられていた。結晶に反射する光が、ナヒーダの表情をより柔らかく、より輝かしく見せている。小柄な体型に、白に近い淡い緑の髪、そして澄んだ翠色の瞳。知恵の神として偉大な力を持ちながらも、今この瞬間は一人の少女として隣に座っている彼女の姿が、胸に染み入るように感じられた。

 

「ねえ、旅人」

 

 ナヒーダが呼びかける。彼女はまだ結晶を見つめたままだった。

 

「なんだ?」

 

「この洞窟で過ごした時間、楽しかったわ」

 

 その言葉には純粋な喜びが含まれていた。

 

「俺も楽しかったよ」

 

 正直な気持ちを口にする。洞窟に入ってからの会話は驚きの連続だったが、確かに楽しい時間だった。スメールの草神と、こんな風にプライベートで語り合える機会は貴重だ。

 

「実はね、さっきの話…」

 

 ナヒーダが再び切り出した時、俺は少し緊張した。彼女は少し恥ずかしそうに続けた。

 

「急に言い出して、驚かせてごめんなさい。とてもスメールの民には相談できなくて。でも、あなたになら話せると思ったの」

 

「いや…気にしないでくれ」

 

 彼女の素直な謝罪に、こちらも正直に応える。

 

「いつも正直だな。それがナヒーダの良いところだと思う」

 

 思わず褒め言葉が口から出る。ナヒーダは少し驚いた表情を見せ、それから優しく微笑んだ。

 

「ありがとう。あなたも、いつも誠実ね」

 

 お互いを認め合う言葉に、空間の空気が温かくなったように感じる。

 

「さて、そろそろ行きましょうか。出口まではまだ少し時間がかかるわ」

 

 ナヒーダが立ち上がり、歩き出そうとする。

 

「ちょっと待って」

 

 思わず言葉が出る。彼女が振り返ると、俺は言葉を選びながら続けた。

 

「さっきの話だけど…その…考えておくよ」

 

 曖昧な表現だったが、ナヒーダにはその意味が伝わったようだ。彼女の目が少し大きく開き、それから優しい笑顔になった。

 

「ええ、急がなくていいわ」

 

 彼女の声には穏やかな安心感があった。焦らせるつもりはないと言わんばかりの、優しい口調。

 

 足を進め始めると、洞窟の壁に映る二人の影がはっきりと見えた。少し前までの会話が嘘のように、日常的な雰囲気が戻ってきている。それでも、何かが確実に変わった感覚があった。

 

 出口への道を歩きながら、ナヒーダが不意に言った。

 

「でも、いつか答えは聞かせてね」

 

 彼女は前を向いたままだったが、その横顔には淡い期待が浮かんでいた。

 

「ああ、約束する」

 

 その返事に、彼女の足取りが少し軽くなったように見えた。

 

 一歩一歩進みながら、今日の会話の意味を反芻していた。ナヒーダの告白めいた言葉、キスへの興味、そして「恋人同士」という提案。全てが突然すぎて、まだ現実感がない。

 

 しかし、心の奥底では、あの言葉を聞いた時の高鳴りを覚えている。それは単なる驚きだけではなく、何か特別な感情が混じっていたのではないか。

 

 ナヒーダは草神としての威厳と、少女としての愛らしさが共存する不思議な存在。そんな彼女が、俺という存在に特別な関心を持ってくれたことへの喜びを、素直に認めたい気持ちになっていた。

 

 出口に近づくにつれ、死域駆除という任務を終え、これから地上へと戻る現実が意識に戻ってくる。だが、今日までの洞窟での体験は、単なる任務以上の何かを俺たちに残した。

 

 それはまだ名前のつけられない、しかし確かに芽生え始めた特別な感情だった。

 

「あの結晶の空間、また行きたいわね」

 

 出口を出る直前、ナヒーダがそっと言った。

 

「ああ、今度はもっとゆっくりと。誰かに採集されてなければいいな」

 

 俺の返事に、彼女は満足そうに頷いた。

 

 これからどんな展開が待っているのか、予想もつかない。ただ一つだけ確かなのは、結晶の空間で交わした言葉が、二人の関係に新しい可能性を開いたということだ。

 

 そして、いつか「考えておく」と約束したことへの答えを、彼女に伝える日が来るだろう。その日まで、この不思議な感情を大切に抱きしめておこうと思った。

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