ゼーリエに彼氏をはやしてみた。   作:宵闇蓮

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葬送のフリーレンって、それぞれのキャラクターが確立されていていいですよね。


ゼーリエと魔法

「魔法を使ってみたいな」

 

 穏やかな昼下がり。

 ゼーリエさんと共に森の中を散策し、いい倒木を彼女が加工し簡易的な木造の小屋を作ってくれた。その中で休んでいた時の事であった。

 心の中に湧いた僅かな欲が源泉から湧き出る水のようにどくどくと溢れてくるのだ。

 僕の隣にいるのは魔法において他の追随を許さない大魔法使い。魔法においては他の追随を許さない。あの魔王を倒した伝説の魔法使い・フリーレン様ですらゼーリエさんには及ばないという。

 そんな偉大な人物が僕の恋人なのだから、幸せ者だ。

 でも、そんな偉大さすら眠っている時は感じない。ただの少女のようにすぅすぅと規則正しい寝息を立てるのみだ。

 彼女の端正な顔にかかった横髪を優しく払い、その調子で少し頭を撫でてみる。

 なんの反応もない。規則正しい寝息を立て続けている。

 ……この際だ、少し魔が差したくらいゼーリエさんなら許してくれるだろう。

 彼女の前髪を少し払う。髪に覆われていた額にそっと口付けする。

 喉が渇いてきた。近くに流れていた川にでも水を飲みに行こう。

 横たわっていた木造の長椅子から立ち上がり、彼女を起こさないようにそっと小屋を出た。

 

「…………全く……ふざけるなよ……」

 

 ――彼は顔と尖った耳を真っ赤に染めあげた彼女が起きていた事を知らない。

 

 

 水分補給を終え小屋へ戻ると、既にゼーリエさんは起きていた。

 彼女もこちらに気づいたようだ。二人横になれるように作られている長椅子の全てを占領した彼女がこちらを見るや否や、何事もないように真顔で座り直し、自らの隣をポンポンと叩く。

 ん、と長椅子の上で胡座をかき太ももに頬杖をつきながら目で語る。

 

「お邪魔します」

 

 一言告げ、隣へ座る。

 彼女はチラチラとこちらに目線を配り、ポンと肩に頭を預けてきた。

 

「……少しでいい。このままで居させてくれないか」

 

「いつまででもいいですよ。貴方が飽きるまで」

 

「……それだと、年単位になる」

 

「それは困ります」

 

 彼女は僕に肩を預けたまま、ゆっくり眠りに落ちた。

 

 

 翌朝、ゼーリエさんに呼び出されオイサーストの協会支部へ向かった。

 受付に座る女性へ話しかけた時のことだ。

 脇の廊下から紺色の服に身を包んだ髪の長い女性が現れた――いつか会った、ゼンゼ様だ。

 世界で五十人といない魔法使いの頂点に座する一級魔法使い。

 無表情を崩さず、彼女は僕に言う。

 

「ゼーリエ様の場所へ案内する」

 

「ありがとうございます。何かゼーリエさんから聞いていませんか?」

 

「何も」

 

 端的に話し、その後会話はない。

 一本道の廊下に入った。行き止まりには窓があり、真っ直ぐ見て左に巨大な扉が設置されていた。黒の中に幾つか装飾が目立つ。

 その扉の前に一人の男性が立っている。黒髪でメガネをかけ、知的な印象を受ける男性だ。ゼンゼ様同様の紺色の服を着込む。

 

(くだん)の人間を連れてきた」

 

「お前がそうか。魔力の欠片もないこんな人間が、か。ゼーリエ様のお考えはよく分からん」

 

「ファルシュ」

 

 後ろから現れたのは熟練の老魔法使い様だ。白髪で頭を染め、顔にシワを刻んでいる。彼もまた彼女たちと同じ色をしたローブを羽織っている。

 杖をつき、柔らかな笑みを称えながらその枯れた声で黒髪の一級魔法使い様を制する。

 

「申し訳ありません。わざわざ朝早くからお越しくださったのに」

 

「ゼーリエ様はこの扉の向こうにおられます。貴方を今か今かと待っておられる」

 

 老魔法使い様がそう言うと、扉の前に陣取っていた黒髪の魔法使い様が道を作ってくださった。

 三人の一級魔法使いに見守られながら扉を押し開ける。

 天井がガラス張りで出来ていて、一本の通路を彩るように水溜まりと花畑が広がっている広い部屋に出た。

 猫背のまま地面に座り片足を水に落とし、器用に水面に浮かぶ花弁を足の親指で拾い上げるエルフの女性――まさしく、ゼーリエさんだ。

 

「ようやく来たな、待ちくたびれたぞ。レルネン、ファルシュ、ゼンゼ。お前たちは外してくれ」

 

 そう言うと、名を呼ばれた彼らは扉を閉める。足音が遠くなっていくのを確認すると。

 

「……遅い」

 

「これでも早起きしたんですけどね」

 

 彼女は水に落としていた足を上げ、ひたひたと濡れた足で花畑を囲う白いレンガに腰かけた。

 棒立ちのままの僕に対し、言葉をかけた。

 

「好きな魔法を言え。私がそれを授けてやる」

 

 この時、僕は彼女に大魔法使いの威厳を見た。後ろに咲く花の花弁が彼女を美しく彩る。

 綺麗な花畑に映えるゼーリエさん。彼ら一級魔法使いだけがそんな彼女を見られるのが正直羨ましい。

 だから、僕の求める魔法は――

 

「きれいな花畑を出す魔法……それがいい」

 

 ゼーリエさんは一瞬顔を顰め、言う。

 

「くだらん魔法だ」

 

 そう吐き捨てる。だが、その瞳には僅かな優しさが宿っていた。

 

「くだらなくなんかないですよ。例え貴女がそう言おうと、僕はそう思わない」

 

「貴女から見たら僅かな寿命の人間である僕でも、貴女の中でずっと光っていたい。何千年と経って、貴女が天寿を全うするその日が来ようと、色褪せぬ人間でいたい」

 

「きっと貴女にとってもこの魔法は特別なのは分かります。……でも、それでも、僕はこの魔法が――きれいな花畑を出す魔法が、僕は欲しい」

 

「どうか、僕の人生をかけた些細なエゴに付き合ってはくれませんか?」

 

 彼女の目を見て、僕の本心で彼女へ訴えかける。

 無表情まま動かさなかった表情を普段のように柔らかい笑みをその顔に取り戻す。

 少し弾んだ声で彼女は言う。

 

「いい目をしている。私好みの強い野心とエゴの塊のような目だ」

 

 どうやら、大魔法使いモードはそろそろ終わりらしい。

 

「きれいな花畑を出す魔法はお前にやろう。お前の一世一代のプロポーズを断るほど、私は薄情な恋人のつもりではない」

 

「プロポーズなんて……そうかもしれませんが」

 

 先刻の自分が発した言葉を思い返し、少しの羞恥心を覚える。しかし、彼女を想うこの気持ちは本物だ。

 

「一つ、聞きたいことがある。何故お前は<きれいな花畑を出す魔法>が私にとって特別だと思う?」

 

「……何となく、ですよ」

 

「そうか」

 

 端的に言うが、しかし彼女の言葉には確かな温かみがあった。

 レンガの囲いから降り、僕の左隣に彼女は立つと、そっと僕の手を握る。

 いつも僕からだったのにな、と密かに心の中で呟きながら彼女と共に魔法協会の施設を出た。

 

 

 

 ゼーリエは彼の隣で自らの記憶を辿る。

 

 思い起こすのは過去に気まぐれでとった弟子たち。皆の顔も、好きな魔法も昨日のように思い出せる。

 その中でも鮮明に思い起こすのは、隣に立つ彼だ。

 右手に感じる人肌の温かさが、彼をより鮮明なものにしていく。

 ふと彼の顔を見た。頬の緩みきっただらしない笑みを浮かべ、幸せそうにしている彼の顔をじっくりと見つめる。

 

 ゆっくりと、しかし愛しそうにゼーリエは――私は、彼に聞こえぬよう呟くのだ。

 

「私が天寿を全うする時は……お前が一番最初なんだろうな」

 

 聞こえぬ彼は、呑気に鼻歌を口ずさんでいく。

 

 まだ一日は始まったばかり。




終わりそうな雰囲気がありますが、続きます。
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