私は技量がないので頑張って調べながら書いてます。難しいね
すっかり日が昇り始めていることに気づき目が覚める。
まず視界に入ったのは知らない天井。昨日入った酒場とも自宅とも完全に異なるそれに困惑しながら、少し違和感の感じる左隣を見た。
規則正しく上下する毛布の中にいたのは下着姿のエメラルドグリーンの髪がかなり長い女性。昨日飲みに行ったうちの仲間の一人である。
あまりの衝撃に体が跳ね起き、意識が一瞬で覚醒する。
少し肌寒い。北部とはいえ、こんなに寒いものなのか? そう思い自分の身体を見直す。
……下着一枚だけであとは裸であった。
もしかしてこれ、やったのでは?
困惑する意識。ばらばらになった記憶の断片をかき集め、昨日の出来事を思い出す。
男二人、女二人で酒場に入り、他愛ない話で盛り上がって……みんな酒が回った頃に二軒目へハシゴして……少し酒が回りすぎたところで、隣で眠る彼女に介抱してもらって……そこから記憶が穴の開いたようにすっぽりとなくなっている。
どうしよう、こういう時どうすればいい?
頭を抱えていると、ともに眠っていた女性が目を覚ました。
僕を見るや否や、彼女は頬を赤らめ言った。
「昨日、激しかったね?」
やらかしてるぅぅぅぅぅぅ!!??
「えっと、その……ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ、あなたには彼女さんがいるもんね」
女性はゆっくり立ち上がり、そばのタンスを開くと男物の衣服を僕に差し出した。
それを受け取ると、彼女は僕を風呂へ案内される。
「身体を流してね、彼女さんにバレたくないでしょ?」
そういうと、彼女は風呂につながるドアを閉じた。
言われた通り洗髪し、身体を洗う。使っている石鹸が僕と同じ種類の石鹸だった。妙な偶然もあるものだな、と思いつつお湯で流していく。
風呂から上がり、渡された服に着替える。
女性の家のタンスから出てきたこともあってか、その服からフローラルな香りが漂う。サイズもぴったりだった。
「似合ってるね。さすが私が選んだだけ……コホコホ」
ベッドに座っているか彼女から言葉が飛んできた。
下着だけだった彼女も真っ白のワンピースを着込んでいる。
「はは……ありがとうございます」
「敬語なんか使わずタメ口でいいよ。彼女さんともタメ口なんでしょ?」
「それでいいなら、そうさせてもらうよ。それと、彼女とはタメ口じゃないよ」
「そうなの? たしかエルフの彼女さんなんだよね。年がかなり違うから、根がまじめな貴方なら敬語で話しちゃうのもうなずけるかも」
人差し指を頬にあてながら考え込むような仕草を見せると、納得と言わんばかりに身体を動かす。
「エルフの彼女さんと年が近い私、話しやすいのどっち?」
「え?」
「ううん、ごめん。何でもないよ。それより早く帰った方がいいと思うわ。彼女さんも心配するよ」
「それもそうだ」
玄関口に置かれていた荷物の中身を確認すると、女性へ別れを告げる。
「体調がよくなかったりしたら、すぐに教えてね」
そう言い残し、僕は女性の家を去った。
「私の体調が悪くなったりしたら教えて、ね。私、貴方のそういうところすごく尊敬。でもお姉さんはそんなことないから大丈夫よ」
閉じた扉の向こうへ去っていく彼へ語りかけるように言葉を並べていく。
抑揚はあるがしかし、どこか人間とは異なる思考を感じさせるような喋り方だ。
「人類っていつも私を感動させてくれる。エルフを恋人に持つなんて、どうすればそんなことできるの?」
前髪の隙間から二本の角が現れた。小鬼のような角の大きさのそれはただならぬ威圧感を放つ。
「私、あなたのことに今までより興味が湧いちゃった」
そのつぶやきは、当の本人に聞こえることはなかった。
♦♦♦♦
帰宅早々、ゼーリエさんがすさまじい覇気を纏いながら玄関で立ったまま凝視していた。
僕は自宅に入る勇気が出ずゼーリエさんと見合った状態になってしまっていた。
何もしゃべらず、ただ沈黙だけがこの場を支配している。
彼女は笑みを浮かべ言った。
「朝帰りとはいいご身分だな。早く入れ」
入れと言われても僕の家……と軽口を叩ける雰囲気ではなかった。彼女は微笑んでいながら怒るタイプなのだ。
はやくこい、と言うが言葉の節々に怒気をはらんでいる。
間違いなくブチ切れている。
彼女が踵を返し、リビングへ消えていく。歩みを刻む事に家が揺れている錯覚を覚えてしまう。
「その……ごめんなさい」
「何を謝る? 帰りが遅れたことか?」
彼女は振り返る。口は笑っているが、目が笑っていない。
「それとも、知らん女の匂いをこれでもかと付けて来たことか?」
そう言うと彼女は言葉をこぼす。
「その臭い匂いを消せ」
「不愉快だ」
ピシャリと言い放ち、奥の部屋へ消えていく。
浴室に入れば、籠の中に着替えが用意されていた。お湯も張られていて、タオルや石鹸も補充されている。
僕のいない間、彼女が代わりに保ってくれていたのか。
そう思うと、感謝と同時に自分に対する苛立ちを感じた。
「僕はバカだな……」
湯船に浸かりながら独りそう呟く。
それは湯船から昇る湯気の中に消えていった。
その後、ゼーリエさんにひたすら謝り倒し何とか許しを得た。その後数日間は彼女に付き合いきりで過ごした。
◆◆◆◆
寝静まった深夜。今日は一段と月が大きい。
ややピンク色へ染まる大きな月だ。
彼はベッドで眠っている。いつも通りの寝方に見えるが、僅かに異なるのは彼の寝相だ。
いつもは棒のように真っ直ぐ眠るが、今日の彼はどこか他人に甘えるような寝方だ。それこそ、隣に誰かが眠っていたような。
余程彼と
私はその考えに少し腹を立てる。
しかし、何故こうも私は腹を立てている? いつも一緒にいる彼が女と共に朝帰りしただけで、それ以外に変わった点はなかったはずだ――
考えをまとめれば、自ずと答えは出た。
「これが嫉妬か」
いよいよ、私の心も彼と共に過ごす間に人間へ近づいているようだ。
しかし、彼と付き合ってからかなり経つが、あいつがゼンゼと話していようとこうも腹を立て無かった。
一体どういうことだ?
よくよく頭を働かせる。
今日のあいつがいつもと違ったところを探る。時間、態度、声色、口調……そして、匂い。
女と同衾しただけでもかなり腹立たしいが、大してそこに私は怒りを抱いていないように思える。ならば、私はあいつの何に腹を立てたのか?
あぁ、そうか。匂いだ。女特有と言っていい香り付きの衣服をあいつが着る分にはいい。あとから生活すれば自然と取れていくものだ。
だが、あいつの中には私が好まない匂いがあった。
濃い香りの中でも僅かに付いた死臭。
それでこそ、七崩賢のような大魔族クラスからしか香らないような死臭……私はそれに反応していたのか。
あいつの傍に大魔族がいて、私はそれに気が付かなかった――その事実に少しばかり魔力の制限が緩む。
魔力の解放により、僅かばかりに大地が揺れた。
テーブルの上に置いておいた紅茶が零れ、木の板を濡らしている。
「自制が効かないな。私も未熟だな」
それにしても、と意識を街全体へ向ける。
一つ、膨大な魔力がオイサーストより北へ向かっていくのが見える。恐らくそれがあいつに近づいた者なのだろう。
次近づけば容赦は無い、とそれへ圧をかけておく。
「……魔力探知の範囲から抜けたか」
さて、と彼が眠るベッドへ潜り込む。
抱き着けば、暖かい彼の体温が私を包んだ。それに呼応するように彼が私へ抱き返してくる。
私は彼の胸へ頭を預け、エルフの耳で彼の鼓動を聞く。
「ゼーリエ、何して……」
起きたか? と見上げ顔を見るが、どうやら寝言だったようだ。見たことない顔をしている。どんな夢を見ているんだ、と心の中で笑う。
しかし、呼び捨てか。それもありだな。敬語に敬称、私が彼と付き合うときに少しでも威厳を保ちたいからそうしろと言ったが……撤回してもいいかもしれないな。
ギュッと抱き着く力を強める。魔力はあるが単純な力はそこらにいる女子とそう大差ない。だからどんなに強かろうと苦しくなることは無い……はずだ。
「好きだよ……ゼーリエ……」
「私もだ」
彼の温かい腕の中で目を閉じる。
何があろうとお前だけは守ってやる。そう心に誓いを立てながら私は眠るのだった。
◆◆◆◆
エメラルドグリーンの髪をした少女の魔族は、森の中を歩いていた。
先程当てられた途方もない魔力による純粋な覇気に、彼女は小刻みに震えた。しかし、彼女の顔には柔らかな笑みが浮かぶ。
向かう場所は北側諸国……帝国領の少し前、要塞都市ヴェイド……あぁ、人類の呼称を用いるとするならば。
黄金郷、と呼称される場所へ彼女は歩みを進めていた。
今日話した彼は興味深い。今まで「お話」した人間の中で、エルフを恋人にした者は存在しなかった。ぜひ彼の経験を……人生を知りたい。
「ふふ、楽しみね。彼……どんな人生で、どんな経験をしてきて、どんな――」
すぐに会えるだろう。そんな予感がする。
彼が求めそうなもの……恋人がいるのなら、指輪? それならきっと、私がいる所へ来るはずだ。
指輪が多く売られていて、数々の人間がそこへ指輪を求めて訪れる街がある。かつて「お話」した冒険者がそう言っていた。そこへ通ずる街道にでも潜伏すれば、彼には会えるだろう。
あぁ、無いはずの心が震える。これが楽しみという感情なのだろうか?
彼の言葉が楽しみだ。もう一度私に出会い、私と「お話」した後に、彼はどんな――
「どんな、死に際の言葉を遺すの?」
ふふふ、と笑う声は闇夜に溶け込んでいくのだった。
まだ続きます。
UA3500越えありがとうございます。これからも皆さんの心をホンワカさせられるような物語を届けられるよう頑張ります。