ゼーリエに彼氏をはやしてみた。   作:宵闇蓮

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今回短め。


ゼーリエと願望

 ゼーリエさんには結婚願望はあるのだろうか。 

 彼女が支部へ出ている間の昼間、作り置きのシチューを食べながらふと考える。

 以前、本屋にてエルフとは何かを調べた際、それには『エルフに生殖本能や求愛本能が乏しい』と記されていた。同様に、『結婚願望も少ないだろう』とも。

 『だろう』とは推測、即ち著者も分からないということだ。ならば、それを確認するのはどうか。

 もうそろそろ彼女も多忙になってくる。一級魔法使い選抜試験が三週間後に迫っているからだ。時間を取らせる訳にもいかない。

 思い立てば即行動はこの世界で生きる術だ。

 皿を洗い、服を干し、戸締りを確認して外へ出る。

 行きつけの酒場へ歩いていると、いつぞや見かけた三人組がそこにいた。

 雪のような白髪ツインテールのエルフの女性、藤色の長髪の女性、燃える赤髪の男性。それぞれの身なりから恐らく、魔法使い、魔法使い、戦士だろう。

 ツインテールの女性がこちらをまじまじと見てくる。変なところがあるのか、それとも何か感じ取ったのか……僕から感じ取るものなどきっと無い。

 

「ねえ、そこの君」

 

 ふと声をかけられた。抑揚の少ない冷静な声だ。

 

「なんでしょう?」

 

「ゼーリエの恋人?」

 

 彼女がそう言うと、後ろの二人がすぐさま両隣に立つ。

 

「フリーレン様、初対面の人にそれは失礼でございます」

 

「そうだぜフリーレン。ゼーリエが誰か知らないが、初対面にも関わらず踏み込んだ質問はするなよ」

 

 同行者の二人が彼女へ注意する。

 藤色の長髪の女性がこちらへ一礼すると、静謐な声を響かせ言った。

 

「申し訳ありません。フリーレン様にはキツく言っておきますので」

 

 その声に、ツインテールの女性……フリーレンと呼ばれたエルフの女性はびくっと肩を震わせた。赤髪の戦士も「可哀想……」と呟いている。

 

「いえ、お気になさらず」

 

 この場はそれにて別れた。

 ……フリーレン、この名前は魔王を打ち倒した勇者一行の、それもエルフの魔法使いと同じ名前だ。

 まさか本物? いや、そんなはずは無いだろう。もう八十年近く前……おとぎ話のようなものだ。エルフとはいえ、今はご隠居なされていることだろう。

 そうだ、この話をゼーリエさんへ聞かせよう。エルフは数が少ないから滅多に会わないと聞く。きっと喜んでくれるだろう。

 

 

 夜、自宅にて。

 食卓を囲むゼーリエさんに対し昼の話をしたところ、露骨に嫌な顔をされた。

 そんなに嫌なのか、と思いつつ彼女へ一つ、今朝考えた問いを投げてみる。

 

「ゼーリエさんは結婚願望とかあるんですか?」

 

「急に何を言い出すんだお前?」

 

「僕らも付き合ってからまぁまぁ経ちますし、そろそろ……その、そういうことを考えてもいいのかな、と」

 

「……あぁ、そういう事か」

 

 ゼーリエさんは食卓に並ぶ料理を口に運びながら、笑みを浮かべると言った。

 

「確かに、お前からプロポーズはされているからな。そろそろそういう事もあってもいい」

 

 思い起こされるのは過去の記憶。魔法を授けると言った彼女に対し、きれいな花畑を出す魔法を望んだときに言い放った言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『きっと貴女にとってもこの魔法は特別なのは分かります。……でも、それでも、僕はこの魔法が――きれいな花畑を出す魔法が、僕は欲しい』

 

『どうか、僕の人生をかけた些細なエゴに付き合ってはくれませんか?』

 

 もはやプロポーズに他ならない。だが、今度はムードのある場所でそれをしたい。

 

「ええ。次はムードのある場所で、ちゃんとした物を渡せたらいいです」

 

「……殊勝な心掛けだな。期待してるぞ」

 

 そう言って、そっぽを向いた彼女の耳はほのかに朱色に染まっていた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 懐かしい、フリーレンの名を聞いた。他ならぬ彼からだ。

 気まぐれにとった弟子の中の一人、失敗作(フランメ)の一番弟子のことだ。

 最後に出会ったのは千年前。フランメが死に、その遺言状を届けに来た時以来だったか。まさかオイサーストにいるとは思わなかった。

 

「ゼーリエさんは結婚願望とかあるんですか?」

 

 余りに唐突な問いに少し思考が停止する。

 

「急に何を言い出すんだお前?」

 

「僕らも付き合ってからまぁまぁ経ちますし、そろそろ……その、そういうことを考えてもいいのかな、と」

 

 あぁ、なんだ。そういう事か。

 お前とならそういう事をしても構わんと伝えているはずなのだが、まだ分かっていないのか?

 ふと自分の左手を見る。薬指に輝く銀の指輪を妄想する。きっと忘れられない思い出になっていくのだろう。……それこそ、彼が死んだ後でも。

 死んだ後。そのことを想像したとき、ふと胸がチクリと痛んだ。

 ……弟子たちが先に逝ったときでもそう痛まなかったのに、想像しただけでこの痛みが走るとは。彼が私の心の中で、私の思っている以上に大きな存在になっているのだと感じると、少し嬉しくなっている私がいた。

 

「――次はムードのある場所で、ちゃんとした物を渡せたらいいです」

 

「……殊勝な心掛けだな。期待してるぞ」

 

 そう言い、私は残りの料理をかき込んだ。

 

 

 彼は夕飯のとき、余りにも楽しげにフリーレンのことを話す。彼は勇者一行の物語が好きだから、そのパーティーメンバー……しかも本物に会えたとなれば、人間ならそのような反応をするのも理解出来る。

 だが、そのフリーレンよりも凄い魔法使いが前にいるにも関わらず、彼は嬉々としてフリーレンの話をする。

 正直妬いてしまう。

 あぁ、そういえば今日は……

 

「ゼーリエさん、どうぞ」

 

「……」

 

 ギュッと抱き着く。

 最近彼にはヒヤヒヤさせられることが多い。今日ばかりはやり返してもいいだろう。

 

「着いてこい」

 

「……久しぶりですね、ゼーリエさんから誘われるのは」

 

「可愛い彼女の意趣返しだ。黙って受け取れ」

 

 自分で言うのもあれだが、と心中で思っておくことにする。彼はにっこりと笑みを浮かべながら、私の後に続き寝室へ入っていく。

 

「今夜は寝かせんぞ」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

 エルフに一年に数回あるかないかの()()()をする日だ。

 今日、彼が誰のものなのか分からせてやる。

 その決意を胸に、寝室に明かりを提供するロウソクの火を消したのだった。




そろそろ選抜試験編書こうと思います。思うだけで作品本編のフリーレンの活躍などは多分書きませんが。
そろそろ戦闘描写も書いてみたいなと思い始めた今日この頃。
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