ゼーリエに彼氏をはやしてみた。   作:宵闇蓮

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今回短めです。長らく期間を開けてしまって申し訳ないです。
フリーレンを読み返したり、アニメを見直したりしているんですが、感覚が失われてしまいました。頑張って取り戻します。


ゼーリエと旅行(上)

「黄金郷に行ってみたいな」

 

「……もう一度言ってみろ」

 

「え? 黄金郷に――」

 

「ダメだ」

 

 夜。二人並んでベッドに座わり、各々の時間を過ごしていた。ゼーリエさんは自分に背中を合わせている。

 

 ふと漏れたその言葉は、静かな部屋に溶けたひとりごとになるはずだった。しかし、長い耳にそれは拾われ、そして間髪入れずに否定された。

 黄金郷。それは、数十年前、大魔族により黄金へ変えられてしまった悲劇の城塞都市――ヴァイゼのことを言う。

 ゼーリエさんから話を聞いたことはあった。ヴァイゼを黄金へ変えた大魔族――マハトと戦ったこと、そして当時の彼女の弟子たちが黄金郷一帯を結界で封印したこと。

 当時、話を聞いても「そんな場所があるのか」と思う程度であったが、ここ最近になって「黄金で出来た町がある」との噂を耳に挟むことが多くなってきた。

 

 どうやら本当にあるらしいのだ。黄金郷が。

 

「一目見てみたいんです。遠くからでいいですから」

 

 彼女の耳元でささやく。ぴく、と肩がはねた。

 

 どうしても通したい願いがあるときは、耳元でささやくと通りやすい。右耳だとより通りやすくなる。

 

「…………いいだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 すこしズル技を使ってしまったが、結果的に願いが通ってよかった。

 

「だが、条件がある」

 

 彼女がベッドを立ち、隣に腰かけた。ぎし、とベッドがきしむ音が夜の寝室に響く。

 

 ふわりと石鹸のいい匂いが鼻孔をくすぐる。彼女が肩に頭を乗せたのだ。

 その行動にドキっと心臓が跳ねる。

 

「黄金郷へ行くなら、私と常に行動を共にしろ」

 

 それは端から承知である。自分に魔族から身を守る力はほぼないに等しい。情けない話だが、戦闘に関してはゼーリエさんに任せるのが一番である。

 

 彼女は守られるより、守ることの方が上手だからだ。少し不器用なだけで。

 

「ずっと一緒にいるつもりです。片時も離れませんよ」

 

「口が上手だな。それと――」

 

 チュ。頬にわずかな湿り気を感じ、そこを見やる。

 

 頬にキスするゼーリエさんが視界いっぱいに収まる。

 

「――好きだ、本当にな」

 

「……僕も好きだよ、ゼーリエ」

 

 彼女の長い長い人生の孤独。それを埋めるように、濃厚な夜をすごした。

 

 

 

 一週間後。

 

 いつもよりやや遅めに目を覚ます。身体の上に足を乗せて爆睡するゼーリエさんを退かして、朝食の準備をすます。

 

 彼女を起こし、食卓を囲み、お互い旅行に向けて準備を終わらせた。

 

 路銀の確認をし、家の戸締りを確認する。ゼーリエさんに頼み、強盗が入らないよう人除けの結界を張ってもらった。玄関のドアには封印魔法を張り、アリの子一匹入れない家が完成した。

 

 オイサーストを出て、大陸魔法協会が用意してくださった馬車に乗り込む。

 

 透き通る快晴が、ぽかぽかと北部高原を暖めている。

 

 向かい側に座るゼーリエさんと目が合う。頬杖を突きながら外を眺めていた彼女が微笑む。

 

 その顔を見て、自分の浮足立つ心がより脈打つのを感じる。

 

「いざ行かん、黄金郷!」

 

「はしゃぎすぎるなよ」

 

 呆れたように言うが、彼女の微笑みは太陽にも負けないくらいに輝いていた。

 

 

 

♦♦♦♦

 

 

「黄金郷に行ってみたいな」

 

「……もう一度言ってみろ」

 

 最初、彼が黄金郷へ行きたいといったとき、私は耳を疑った。

 なぜなら、彼はいままで黄金郷に興味を示さなかったからだ。

 

 数十年前、レルネンら当時の弟子たちと共に黄金郷へ赴いた話をしても興味を示さなかった彼が、今になっていきたいと言い出した。

 あの場所は北部高原でも特に危険な場所。私がとっていた弟子たち(一級魔法使い)もその地で命を散らしている。

 そんな危険な場所に、彼を連れていくことなどもってのほかだ。

 もし万が一、彼に何かあったら? ケガをしたり、命を落としたりでもしたら? そんなことは、絶対に――

 

「ダメだ」

 

 「すべてが黄金で出来た町がある」という噂が流れ始めている。この街もその話で持ち切りだ。

 その黄金目当てで何組もの冒険者が黄金郷へ入り、そして帰ってくることはなかった。あの黄金は、魔法で鑑定すれば「金」と出る。しかし、溶かせないし絶対に破壊できない。例えるなら塩の見た目をした砂のようなものなのだ。

 

 考えを巡らせていると、右耳付近に吐息を感じた。

 

 まさか――。そう考えたころには、もう手遅れだった。

 

「一目見てみたいんです。遠くからでいいですから」

 

 彼の甘い声が、私の脳を支配した。砂糖のように甘い声色が私の判断力を鈍らす。

 

 弱点を突かれた。そこまでしてでも、黄金郷を見たいのか。

 

 ……折れてやる。

 

「……いいだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

 仕方がない。ただ、私もついていくことにしよう。

 なにより、彼と旅行がしたいのは私もその通りだからである。黄金郷は見た目だけ見れば美しいのもあるし、遠目でみるだけでも良い旅になりそうだ。

 それに、最近は逢引らしいこともしたかったから、良い暇つぶしになりそうである。

 だが、注意すべきことはしっかり叩き込む。

 

 さて。

 ベッドから立ち上がり、彼の隣へ座る。

 先ほど耳元でささやかれたからか、スイッチが入ってしまったようだ。

 希薄だと言われる「愛情」が増幅するのを感じる。言い換えれば、好きがあふれると等しい。

 

 まず手始めに、頬へキス。

 彼は少し驚いたと言わんばかりの表情を浮かべるが、すぐに優しい笑顔に戻る。

 私の気を引いた笑顔である。

 

「――好きだ、本当に」

 

「……僕も好きだよ、ゼーリエ」

 

 そこから、濃厚な夜をすごした。

 

 

 一週間後。

 家に人除けの結界を張り、ドアに軽い封印魔法を施した。

 街から出て、魔法協会に用意させた馬車へ乗り込む。

 走り出した馬車から外を眺めれば、川のように流れる緑が目に映る。

 

 ふと向かい側の彼を見ると、笑顔でこちらを見ていた。その顔を見ておもわず笑みがこぼれる。

 

「いざ行かん、黄金郷へ!」

 

「はしゃぎすぎるなよ」

 

 きっと彼とならどんな困難も乗り越えられるだろう。この先の旅路が楽しみでならない。

 

 




北部高原には、いつも「死」がつきまとう。

キャラ崩壊ごめんなさい……
上があるので中があります。つまり続きます。
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