Pokémon Cats♪ねこたちの協奏曲♪   作:コユルギミカン

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ゼラオラ

じんらいポケモン

カミナリに ひってきする スピードで はしり だいでんあつを はっする ツメで てきを やつざきにする。

てあしの にくきゅうから ほうでん。 ゼラオラが かけぬけると イナズマが ひかり らいめいが とどろく。

──『ガラル図鑑』より


ゼラオラの序曲♪オーバーチュア♪

 ──私の名前はミナ。

 

 ──私はねこポケモンが大好きだ。

 

 ──大好きで大好きで、ねこポケモンと仲良くなることを考えるだけで、幸せで心がいっぱいになってしまう。

 

 

 

 私がそう思うようになったのは、物心つく前から私と一緒にいた『じんらいポケモン』──ゼラオラのおかげだった。

 

 ゼラオラは、私の家で一緒に住んでいるポケモンで、手練(てだ)れのポケモントレーナーとしてかつて世界中を旅していた私の両親が、その旅の中でゲットしたというポケモンだ。

 

 ゼラオラは、私がまだ赤ちゃんだった頃から、一緒に暮らす『家族』の一員として、私のそばにいてくれた。

 

 だが、今よりもずっと幼い頃の私はそんなゼラオラのことを無下(むげ)に扱っていた。

 

「いやっ! こないでっ! あっちにいってよっ!!」

 

 ゼラオラは私の面倒を見てくれようとしたのか、よく私に寄り添ってくれようとしていたものだが、そんな彼に私は心ない言葉を投げかけてしまっていた。

 

 それが『ポケモン』に対する恐怖によるものなのか、それとも単に彼らのことを毛嫌いしていただけなのか、それは自分でもよくわからないが、とにかく私はゼラオラを嫌っていた。

 

 彼はひどいことを言う私に、それでも、決して怒ったり感情的な様子になることもなく、穏やかな様子で私のそばにいようとしていた。

 

 今にして思えば、彼は固く閉ざされた幼い私の心を、懸命に開いてくれようとしていたのかもしれない。

 

 

 

 そんな私が、ゼラオラへの気持ちを改めるようになったきっかけは、4歳のときに生まれて初めて行ったピクニックだった。

 

 家族と一緒に、自然(あふ)れる高原でのピクニックに来ていた私は、大自然に囲まれた光景に目を奪われ、ひたすらにはしゃぎ回っていた。

 

 せせらぐ川、風に(なび)く木の葉、閑々(かんかん)と大地に降り注ぐ()の光──そのどれもが、私にとって初めて目の当たりにするもので、私の情緒を激しくかきたてていた。

 

 そしてその心情の(たかぶ)りは、豊かな自然の中をひたすらに駆け回っていた私を家族とはぐれさせるには十分だった。

 

「ここ……どこ……?」

 

 私は、いつのまにか深い森の奥まで迷い込んでしまっていた。木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂り、太陽の光もほとんど届かないほど暗い場所で、私は半べそをかいていた。

 

「うぅっ……こわいよぉ……ママ……パパ……どこ……?」

 

 あてもなく歩き回っていた私の耳に、ガサガサッと何かが動くかのような音が聞こえた。

 

「……っ!? ……だれ……!? ……だれかいるの……!?」

 

 音の方を振り向くと、私の近くの茂みが揺れているのが見えた。

 

 恐怖とパニックで頭が真っ白になる。

 

 そして、その茂みが強く揺れガサッ! と大きな音を出すとともに、何かのシルエットが飛び出してきた。

 

「……グルルルルル……!」

 

 それは、野生ポケモンだった。

 

『かみつきポケモン』ポチエナ。

 

 それも、1匹だけではなく3匹も現れたのだ。

 

 おそらく、彼らの縄張り(テリトリー)に足を踏み入れてしまったのであろう、相当気が立っているようだった。

 

「……や……やめて……こっちにこないで……!」

 

 逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、足がすくみ絶望に染まった声を出すほかできなかった。

 

「たすけて……だれか……だれかたすけてっっ!!」

 

 力を振り絞って大声で助けを呼ぶが、それがポチエナたちを余計に刺激したのか、彼らは一斉に荒ぶる鳴き声を上げた。

 

「……グルゥアァ!!」

 

「……いやっ……!」

 

 ──私は目を閉じうずくまった。

 

 両手で頭を(おお)い、これが夢であることを必死に願った。

 

 

 ──その時。

 

 私の鼓膜に激しい轟音(ごうおん)が鳴り響く。

 

 バチィィィッッッ!!! 

 

 一体、何が起こったのか──

 

 わけもわからず、うずくまっていた顔を上げる。

 

 見上げた先には、黄色のシルエットが浮かび上がっていた。

 

「……ゼラ……オラ……なの?」

 

 ゼラオラは、私を守るようにして前傾姿勢(ぜんけいしせい)で立っていた。

 

 それは、毎日毎日見慣れている『(ゼラオラ)』の姿だったが、いつもと違っていたのは、身体のあちこちから(あお)いスパークをバチバチという鋭い音とともに(ほとばし)らせていることだった。

 

 彼は私の無事を確かめるようにチラッと後ろを向くと、少し安心したかのように表情を(ゆる)ませ、そのまま前を向いた。

 

「……グルルルゥ……」

 

 彼の前では、2匹のポチエナが後退(あとずさ)りしながら戦闘体勢に入っていた。

 

 もう1匹のポチエナは、少し離れた地面にピクピクと身体を震わせながら倒れていた。

 

 おそらく、先ほどの轟音(ごうおん)はそのポチエナに対するゼラオラからの『挨拶(こうげき)』だったのだろう。

 

 互いに攻撃のタイミングを見計らっているのか、にらみあったまま緊迫した時間がしばらく続く。

 

 私はというと、目の前に立つ『家族』の勇姿を記憶と網膜に焼き付けるのでとにかく必死だった。

 

 そして、とうとう時は動き出す。

 

「……グルァァァ!!」

 

 小さな身体とは不相応(ふそうおう)な凶暴な鳴き声とともに、2匹のポチエナが左右からゼラオラに向かって飛びついてきた。

 

「……ゼラオラッ!」

 

 思わず声を上げてしまう私の声に呼応するかのように、ゼラオラの身体が素早く動く。

 

 彼は、プラズマを(まと)った右拳を振り払いポチエナたちを迎撃した。

 

 ポチエナたちは、空中でゼラオラの拳に()ぎ払われ地面へと()ちていく。

 

 それから少し遅れて、再び(とどろ)く激しい音が森に響き渡る。

 

 バチィィィッッッ! 

 

 それは、先ほど聞いた音と同じものだった。

 

『プラズマフィスト』──それが、その時ゼラオラが放った技の名前だった。

 

 私に襲いかかった3匹のポチエナたちは、全員目を回して地面に倒れていた。

 

 

 すべてが終わった後、ゼラオラがこちらを振り向いた。

 

「……ゼラ……?」

 

 大丈夫か……? と言っているのだろう、と直感した私は、小さく(うなず)きながら答えた。

 

「……うん、わたしはだいじょうぶだよ……ありがとう……ゼラオラ……それと……」

 

 そう言うと、私はそれまで我慢していた感情を爆発させながらゼラオラにギュッと抱きついた。

 

「……いままで……ゴメン……ゴメンねっ……ひどいこといったりして……わたし……わたし……っ!」

 

 とめどなく流れ落ちる涙をゼラオラの温かい毛並みに染み込ませながら、私は彼に心からの言葉を絞り出した。

 

 成り行きで、この時初めてゼラオラに触ったが、彼の身体はとてもモフモフしていて、私にとってとても心地よい肌触りだった。

 

 それに、その匂いも感応(かんのう)的に刺激されるような、独特な香りを漂わせていた。

 

 あぁ、なんでこんなに素敵な『家族』が一緒にいてくれることに感謝してこなかったのだろう……と深く後悔し、泣き続ける(ほほ)を、何か不思議なものが触った。

 

 それはプニプニしていて、柔らかいゼラオラの『肉球』だった。

 

 彼は、私をなだめようと優しく顔に手を添えていたのだ。

 

 そんな彼の心(づか)いに胸を打たれた私は、もはや言葉にならない声を張り上げて、涙を流し続けていた──

 

 

 その後、私はゼラオラに導かれながら森から抜け出した。

 

 その頃には、すっかり日が暮れていて、夕焼けの景色が高原を満たしていた。

 

 両親には、心配をかけさせたことについて、こっぴどく怒られた。当然のことだが。

 

 だが、私はこのピクニックでかけがえのないものを手に入れることができた。

 

 ちなみに、これは後に両親から聞いたことだが、あのピクニックでゼラオラは、両親が目を離した(すき)に大自然を駆け回る私の後をついて行ってくれていたという。

 

 つまり、ゼラオラはあの日、ずっと私の近くから私のことを見守ってくれていたのだ。

 

 あんなに邪険にされ、嫌われてもおかしくないような私を、ずっと想ってくれていたのだ。

 

 

 

 ──それから、私はゼラオラを溺愛(できあい)した。

 

 朝起きる時も、お昼に外で遊ぶ時も、夜お風呂に入るときも、ずっとずっと、いつもゼラオラと一緒に過ごした。

 

 ゼラオラのことをもっと知り、もっと仲良くなり、もっとポケモンを好きになりたかった。

 

 やがて、私はゼラオラのような、ねこポケモンたちとたくさん出逢いたい、と思うようになった。

 

 あの時感じた、ねこポケモンの温もり、肉球の柔らかさ、そして香り……そのすべてを、私は心の底から愛し、憧れている。

 

 だから、私はずっと心待ちにしていた。

 

 私の知らない、ねこポケモンたちと絆を結べる、その時を──

 

 

 

 ──そして、今日。

 

 私はポケモントレーナーとして家を出る。

 

 最愛のパートナー、ゼラオラとともに。

 

 私の旅の目的は、単にトレーナーとして強くなることでも、世界中のポケモンを集めることでもない。

 

『世界中のねこポケモン』と絆を結び、彼らについて深く知ること──それが、私の旅の目的。

 

 ──ありがとう、ゼラオラ。

 

 ポケモンを……ねこポケモンを好きにさせてくれて。

 

 ──そして、これからよろしくね。

 

 まだ見ぬ、ねこポケモンたち。

 

 ──ここから始まるんだ。

 

 ねこたちの協奏曲(コンチェルト)が──

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