鉛筆騎士王と竜騎士の
「……どうしよう」
その日。天音永遠は頭を抱えていた。
ウェザエモンを打ち倒すと決め、そのための準備やメンバー。様々なゲームで長い付き合いのある外道仲間。サンラクとオイカッツォを引き入れることも出来た。準備は順調、だったのだが。
「流石に想定してない……どうしてもっと早く言ってくれなかったの、悠乃ぉ……」
彼女、天音永遠が頭を悩ませている原因は自分の『姉妹』にあった。
天音家には三人の子供が居る。その内の長女が、天音永遠。雑誌にもよく載っている有名なカリスマモデルである。その弟にあたるのが、天音久遠。思春期真っ盛りの弟であり、現在自分の目的のために切り捨てようとしている『阿修羅会』のリーダーでもある。
そして、もう一人。自分にとっての妹。正確には、双子の妹が存在している。
強いて言うならば、そんな見た目が完全にお嬢様という感じにも関わらず、ゲームセンスが異常に高い。現在一人暮らしで、あまり実家には帰らない永遠だが、同じく一人暮らしの悠乃は週に一度ほどは顔を出している。というのも、妹は年の離れた弟である久遠をかなりかわいがっている節があるからだ。そして、弟もまた悠乃に対しては生意気なこともあまり言わず、仲の良い姉として慕っている。
妹のゲームセンスが目覚めたのはだいたいは弟のせいである。弟と仲の良い悠乃は、弟が小学生の頃からよくゲームをして遊んでやっていた。一般家庭とは言え、そこそこ実家が裕福だったのは両親が共働きで収入のある仕事をしていたというおかげだったのだが、その代わりというべきか。多忙な時は家に帰ってこない、などということもあった。だから悠乃は、弟に寂しい思いをさせないように、と。よく仕事の合間や休みなどに実家へと顔を出して、弟と遊んでやっていたのだ。
そんな姿を自分も見たことがある。そして、その類稀な才能。ゲームメイクのセンスに目覚めたことがキッカケで、よく案件で配信などもするようになったのだが。それをて見て永遠が感じたことは、流れの組み立て方が異常に上手いということだった。
自分が事前に策に策を巡らせるタイプだとすれば、妹は戦いの中で臨機応変に策と流れを組み立てるタイプだ。しかも、あんな自分と正反対な真っ白な性格をしておいて、戦いや挑戦を楽しんでいるのも目に見えてわかる。とある案件配信で、死にゲーとして名高いゲームの鬼畜ボスと戦いながら、満面の笑みで『あはは、強い!』『覚えたよ』『じゃあ次はこっちの番ね!』などと言ってそのまま戦いを継続したのを永遠はよく覚えている。我が妹ながら末恐ろしいと思った。視聴者ウケはかなりよかったようだが。
そうして。そんな妹から今朝方メールが来たのだ。
『永遠、私もちょっと前からシャンフロ始めたよ』と。
すぐさま永遠は愚弟。久遠へと電話をした。どういうことだお前、まさかお前が誑かしたのかと。とてつもない圧で連絡してきたもう一人の姉に対して久遠が返したのは、NOという返事。自分は関係ない、ということだった。
むしろ弟としては寝耳に水だったようだ。姉である悠乃がシャンフロを始めたと聞いて、電話先で大声で驚愕の声を上げていたほどだ。
更に言えば。つい先ほど、そこに追撃をかけるようなことが起こった。それは、妹。悠乃からの連絡であり。
――『えーっと、永遠。ちょっと困ったことになって……シャンフロ詳しいとか言ってたよね?ちょっと聞きたいことがあって』
――『天覇のジークヴルム、って相手に遭遇して。色々とんでもないことになっちゃったんだけど、相談に乗ってくれないかな』
◆ ◆ ◆
時は戻り、永遠が頭を抱えだす前。シャンフロの世界にある、とある山の山頂付近。そこには、山頂を目指す一人のプレイヤーの姿があった。
プレイヤー名『シグリンデ』。灰色の軽鎧の上に、同じ灰色のコート。ショートジーンズに皮のロングブーツというくたびれた、あまり目立たない印象を抱かせる装備の色合いに、青色の瞳に、白混じりの空色の背中まである程の髪をサイドテールにしている、女性プレイヤー。
現在、山頂を目指して山登りに勤しんでいる彼女こそ、現実世界における天音永遠の双子の妹。天音悠乃であった。
「流石シャンフロ。こんな山頂近くの環境もリアルに再現されてるんだ。うーん、気持ちいいね」
現在、彼女が登頂を目指している山はかなり標高が高い。それこそ、最寄りの町であるサードレマからかなりの距離があるにも関わらず、その高く聳え立つ山を見ることが出来る霊峰。感覚の調整が入っているとは言え、山頂付近には雪もちらちらと見えており吐く息も白い。専用の身体を暖かくするアイテムを使用しなければ、寒さによるデバフも発生するという厳しい環境だった。
この山は、登山を開始する前に出会ったNPCから聞いたところによると曰く付きの山らしい。なんでも、星空の日は山に流れ星のような何かが落ちる、とかなんとか。少しリアルのほうでも調べてみたが、そんな星空がどうのという情報はなかった。たまたまNPCの話を自分が聞いただけかと思い、引き続き情報を調べた。
わかったのは、考察クランの『ライブラリ』という所が調べてまとめあげた設定データベースの情報くらいだった。フィールドの天候によってその表情を変えるエリアであり、天候によって変化した状態の環境により出現するモンスターが異なる。また、夜の環境下の情報が殆ど存在していない。
そのライブラリによると、設定上は神代の遺物が山の何処かに眠ると考えられる場所で、所々には神代文明を思わせる遺跡などが発見されている。が、大規模な施設や遺跡については未発見であり、まだまだ調査の余地があるエリア……らしい。
実際、ここまで山を登ってきて確かに所々には普通の山にはなさそうなものは存在した。洞窟の中にどういった原理で浮いているのかわからない平べったい幾何学模様の描かれた板。生き物ではない機械じみたモンスターなどが居た。
そんな文明レベルが明らかに違う洞窟の中や、見たことのない花が咲き誇る平原、時にはNPCなのか。どうしてこんな場所にいるかもわからない、白いワンピースを着た金髪の少女が走り去っていくのを遠目で見て。
そうして、最後の険しい稜線を超えれば。
「……すごい」
山頂は最初、麓から見ると見えなかったが、そこは平坦な平地だった。これだけ寒く標高が高いにも関わらず緑の草花が生い茂っており、よく見ると草木で覆われた異なる文明の遺物。神代のものと思われる遺物が所々に存在していた。
何よりも彼女、シグリンデを感動させたのは山頂からの景色だった。
視界に見えるのは、地平線のように存在する見渡す限りの雲である。空を見上げれば、成層圏の向こう側へと手が届くのではないのかと思わせるほど、蒼い。蒼い空が広がっていた。
『――ほう、ここに到達する人間が現れるとは。見事な輝きを持っているな、人間よ』
声が、聴こえた。
普通の開拓者であれば、その声の威圧感だけで足も竦むだろう。しかし、彼女。シグリンデは声の主を見上げ、目を見開いて驚いて。
愉しそうに、笑った。
――ユニークモンスター『天覇のジークヴルム』と遭遇しました。
流れるシステムアナウンスに彼女は興味を示さない。何故ならば、彼女の視線はただひとつ。空より自分を視るその存在に固定されていたのだから。
そこに存在したのは、黄金。巨大な四枚の翼に、二足歩行型で黄金の体躯を持つ、文字通り天を統べる竜王。
その日、未来の『竜騎士』と『竜王』は邂逅した。
プロローグ的な話なので短め。
感想や評価などもらえると作者がとても喜びます。