ウェザエモンの踏破。それにあたって問題が残っている。だが、それは高いプレイヤースキルや知識などではどうにもならない問題だった。つまるところ、人同士の問題。心や精神、気持ちの面での問題である。
ユニークモンスター、【墓守】のウェザエモン。情報は一切シャンフロ内には流れておらず、ペンシルゴンがサンラク達やキョージュ、【ライブラリ】に漏洩させるまではその存在すらも確認されていなかった。今の今まで情報とウェザエモンというリソースは特定のプレイヤー達だけで秘匿、占有されていた。
【阿修羅会】。それが、今の今までウェザエモンに関係するあらゆる情報を独占していたクランである。
そのクランが。正確には、彼女。ペンシルゴンがウェザエモン、そして彼女が今回の打倒に乗り出すキッカケともなる大きな存在。セツナと出会ったのは本当に偶然であった。『千紫万紅の樹海窟』、当時そこに素材を取りに来ていたペンシルゴンが偶々エリアの一部に違和感を覚えて、それで隈なく調べてみたら見つかったのが『秘匿の花園』だった。
そうしてペンシルゴンは、最初からウェザエモンを打倒するつもりで居た。
偶然見つけた『秘匿の花園』、そこで出会ったNPCのセツナ。AIだとわかっていても、現実の人間と変わりのないほどの彼女は間違いなくアーサー・ペンシルゴンというプレイヤーから見てこのシャングリラ・フロンティアという世界で生きている。生きていた存在だった。
感情移入した。セツナは生真面目で、大人しくて、しっかりもので。どことなく自分の大切な妹と被ったというのもあるだろう。何度も話して、何度も他愛のない話をして。時には、彼女の昔のことを聞かせてくれた。だからこそペンシルゴンは、天音永遠としてではなく、セツナの友人であるアーサー・ペンシルゴンとして、彼女の願いを叶えたいと思った。
だからこそ、【阿修羅会】を巻き込んだ。ウェザエモンを一人で倒すのは不可能だ。どうするべきか、そう考えて彼女がウェザエモン踏破のために『駒』として使おうと思ったのは、自らの所属するクランであり、そして弟がクランリーダーをしているクランだった。
PKへの締付けが厳しくなる前。その当時の【阿修羅会】は戦力的にもかなり強豪だった。PKとして、必ず相手に対して宣戦布告をしてから戦うという変わり者であり、本来嫌われ者である筈のPKでありながらその立ち振舞から高い人気がある『京極』を始めとして、特に濃いメンツである有名なPK達が揃っていた。
戦力的には当時のシャンフロにおいては、トップクランレベル。それもレイドを主体とするクランにも引けを取らない、プレイヤースキルだけで言えば京極などの一部のメンバーは突出した実力の持ち主であったことから、ペンシルゴンは弟とクランメンバーを煽動。『偶然ユニークモンスターと戦えるクエストを見つけた』と言って、ウェザエモン戦まで持ち込んだ。
だが。結果は惨敗であった。初見の時点で圧倒的なウェザエモンの力の前に瞬く間に壊滅。そこから闘争本能に火のついた一部のメンバー達により何度もトライアンドエラーが繰り返されたが、殆どが全滅。ただの一度だけ到達できた、第二フェーズのラストも強制全滅の全体攻撃により失敗。
芳しくないウェザエモン討伐。次第にメンバーの士気は薄れていき、そうしてそんな最中。運営からのPKに対する締付が厳しくなった。そうして、アイテムや資産のロストを防ぐために保身に走り。だが自分より格下の相手をPKしたりアイテムなどは奪いたい、という考えからとても保身的で。陰湿なやり方を取るクラン方針に変わっていった。それによって、『京極』をはじめとする歴戦のPK達はその方針に納得がいかなかったり、ある者は『自分が求めるものはもうここにはない』と言い切り、次々と去って行ってしまった。
後はもう駄目だった。ペンシルゴンとしても、どうしようもないと思わせるほどに。PKの方針は彼女からするとつまらないものとなってしまい、ウェザエモンについても諦めるのではなく、ユニークモンスターの仕様を利用した体の良い養殖場として使用されるようになった。
ペンシルゴンは焦った。『駒』がなくなってしまった、ということではない。ウェザエモンを打倒するつもりが、セツナが大事に想っているウェザエモンがその存在を利用されるという結末になってしまった。それは、己の望んでいた未来ではない。セツナへと届けたかった結末ではないのだ。
そんな時に、彼女にある情報が齎された。それが、サンラクがシャンフロを始めたという情報だった。そこからオイカッツォもシャンフロを始め、そうしてひらめいたのだ。『この二人ならば、やれるかもしれない』と。
そして。想定外の事態が起こった。最愛の妹がシャンフロを始めた。しかも、自分の知らないところでとんでもない状況にまでなっていた。だが、今の状況の妹を戦力として迎えること。それは、現状ウェザエモンの打倒をより確実にできるものと言っても良かった。
周囲を利用して、駒のように扱い、そうして知略謀略を画策する。それが天音永遠、アーサー・ペンシルゴンという存在だった。それを自覚もしており、他人など利用できれば、使えるならそれに越したことはないという考えも持っていた。だが、彼女にとってただひとつの例外は妹だ。妹をそんな自分の汚い考えに利用したくない。そう考えていた。
しかし、破格の戦力となることは間違いない。プロゲーマー顔負けのゲームセンス、今のシャンフロというゲーム。世界において極めて高い希少価値であるユニークモンスターとの共存に類のない武器。最終的にペンシルゴンが選んだのは、自分の打算も計画も全部妹に打ち明けて『力を貸して欲しい』と頼み込むというものだった。そうして、妹からも了承を得られてウェザエモン打倒への戦力は更に盤石となった。
今の自分の全てを。それを使ってウェザエモンを倒すつもりで居たのだ。セツナへの贖罪と、彼女の願いを叶えるために。
だが。ある意味では最大の問題が残っている。
ウェザエモンの存在と情報を知っていたのは、ペンシルゴンと【阿修羅会】。そして、ユニークモンスターの仕様を利用したレベリングというのは今でも行われている。とすれば、必ずウェザエモンとの戦いの前か後で【阿修羅会】、弟とはぶつかることになる。
ペンシルゴンとしては、それをなんとかするために強引な手を使うつもりで居た。PKクランとしてシャンフロでは嫌われ者の悪名、だからこそ情報屋にクランの拠点情報をリークすれば、多くの因縁があるトップクラン達は拠点を攻撃するだろう。そうすれば、【阿修羅会】は終わりだ。弟は襲撃への対応に追われ、ウェザエモンでのレベリングどころではなくなる。
しかし、ペンシルゴンはその策をすぐには実行できなかった。その直前で妹のことが判明したのだ。妹が戦力として加われば、弟との敵対は必須。そして妹は、弟とそうなることを知れば悲しむだろう。黙って実行すればきっと妹は傷つくし、思うこともあるだろう。そう考えて、ペンシルゴンは妹へと弟のことと【阿修羅会】についても打ち明けた。自分が【阿修羅会】を捨てるつもりだ、とも。
そこで妹は考えるようにした後、言ったのだ。
『……でも、もしアーサーが無断でそれをやったら、きっと溝ができるよ』
『少しだけ、その策は待ってくれないかな。 ――私に、考えがある』
◆ ◆ ◆
シャングリラ・フロンティア、夏の大型アップデート当日。その日の昼過ぎ、悠乃の姿は自宅にあった。予定していた案件や仕事は事務所に無理を言って午前の内に終わるようにスケジュールを組んでもらっており、今日の昼からと明日は休みを取っていた。
そうして。そこそこに長い時間、自室のベッドに座ったまま静かに携帯端末を見ており考えるようにしていた彼女は、意を決したようにしてある番号をコールした。
それは、弟。天音久遠の番号だった。
「……もしもし、久遠?ごめんね、いきなり電話して」
『悠乃姉!?どうしたんだよ、って……仕事は?』
「今日は午前だけ。久遠も夏休みでしょ、お父さんやお母さんは今忙しいこともあるかも知れないけどちゃんとご飯は食べてる?休みだからって、羽目を外し過ぎちゃだめだよ?」
『飯はちゃんと食べてるよ。羽目は……まあ、結構外してる』
「あはは、素直だね久遠は。 ――ね、今時間いい?」
『ん?いいけど、というかどうしたんだよ。ってか、シャンフロで色々騒がれてるけど大丈夫なのか?俺も【ライブラリ】に所属してるとか、PK集団返り討ちにしたとか聞いて驚いてさ。まあ悠乃姉のプレイヤースキル考えればランカーでもかないっこな――』
「そのシャンフロの、話なんだ」
『……真面目な話、みたいだな。声でわかるよ、マジの時の声のだし』
電話先の弟。久遠も察した、何かあると。少なくとも今の優しいほうの姉の声は、いつもより少し低く、真面目なトーンで。それは決まって、大事な話をするか本気でキレている時かのどちらかのものだった。
「【墓守】のウェザエモンについて話があるんだ」
どうしてそれを。何故大好きな姉がそれを知っているのだと思い、久遠は電話先で言葉を失った。
■ペンシルゴン/天音永遠
拙作では色々と捏造した。ウェザエモン関係を最初に発見したのはペンシルゴン、そしてセツナと関わっていくにつれてウェザエモンの打倒を考え始めたが結果は失敗。しかも、その存在を利用してのレベリングという最悪の結末を辿ってしまったのでかなり焦った。
妹も戦力に迎えられたはいいものの、妹に対してだけは駒として扱えないのがペンシルゴンだった。結果として、弟の問題はシグリンデが対応することとなった。
■オルスロット/天音久遠
リアルでは姉達と同じ紺色の髪の少年、永遠譲りで尋常じゃなく見た目がいい上に頭もよく努力家で多才。悠乃譲りというか小さい頃はずっと一緒にゲームをしていたこともあって、拙作ではゲームのセンスもだいぶ高い。永遠と悠乃の才能を合わせたハイブリッドで未完成の天才にして秀才。なお、性格は拗れている。感情的になりやすく悪態をよく付くし口も結構悪い。だが悠乃には頭が上がらない。
ウェザエモンの仕様からの利用方法を思いついたのは彼で、【阿修羅会】でその仕様を利用することを決断したのも彼。色々と彼なりに葛藤があったらしい。大体運営の仕様変更のせい。
■シグリンデ/天音悠乃
姉と同じで本気でガチモードになると笑顔が消えて目が据わる。真剣な時は声のトーンが下がるので、姉と弟はそれで色々と察する。なお、仕事柄その真面目モードの声の演技はかなり評判がいいらしい。永遠と久遠ぐらいじゃないと演技とガチの見分けがつかない。
作者の脳内ではCVはLynnさん。FF14のスフェーンっぽい声のイメージ。7.2のアレとかアレのシーンで6絶作者は昇天した。ガチギレスフェーン様最高でした。メインヒロインでは?いやメインヒロインでしょ暁入らない?
ウェザエモン戦終わったくらいで設定鍵を投下予定。