鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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人と竜が紡ぎし、彼岸へと贈る希望の詩 其の四

 

『なんだよ、それ――』

 

 大好きな姉から伝えられたのは、言葉を失うような。そんなとんでもない情報だった。もし、何も知らずにそれが起こっていたと思うと久遠はぞっとした。

 

 少し前の突然の姉からの電話。あまり好きではない方の姉からシャンフロを始めたと聞いた時はそれはもう驚いた。しかも、今シャンフロ内部で話題に尽きないプレイヤーにもなっていた。見たことのない武器を扱い、たった一人で有名なPK集団を返り討ちにした。まさか所属クランが【ライブラリ】だとは思わず驚いたが、ある意味では安心もした。少なくとも、自分達の悪名高いクランには関わらせるつもりはなかったからだ。

 

 あまり好きではない方の姉は、性格がアレで色々とドス黒いのは知っていた。しかも嬉々としてPKなんてのをやるような人間だとも。だからおそらく自分に気を遣って【阿修羅会】に入ると言った時もそれなりには感謝していたし、きっと本人もPKとして楽しんでいるのだろうと想っといた。実際、廃人共をPKしてる姿はとても楽しそうにしていた。

 

 だが、久遠としては好きな方の姉。悠乃は別だった。自分達のクランがどういった趣向のクランかは理解している。そうして、いくらゲーム内部のシステムとしてPKが認められているとしてもシャンフロで嫌われているのもまた然りだった。最近は運営からの締付けも厳しくなって、闇討ちや格下狩りなんてものをメインにして、他クランやPKKからも隠れるようにもしていた。

 

 嫌われ者だというのはわかっている。PKを自分達が楽しんでいるというのもわかっている。だから、自分達に関わらせて大好きな姉に迷惑をかけるのは嫌だった。だからゲームを始めたと聞いた時も、名前だけを好きではない方の姉から聞いて関わらないようにしていた。

 

 本当は昔みたいに、一緒にゲームをしたいとも思った。大好きな姉が楽しそうにゲームをするのを見るのが楽しくて嬉しかった。だけど。シャンフロでは自分には関わらせないと決めていたのだ。そのほうがいい、そう思ったから。

 

 なのに、どうして。

 どうしてウェザエモンのことを知っているのだと思った。

 

「……私は、久遠がPKをしているのは別にいいと思うんだ。間違っていない、とも思うよ」

 

『……え?』

 

驚いた。てっきり、自分達のやっていることについて何かを言われるのではないのか。知られてしまって、嫌われたり失望されたりするのではないのかと内心恐怖していたからだ。

 

「ゲームシステムとして容認されている行為で、なんなら対人要素っていうのをシャンフロはゲームとしてのひとつの売りとして広告だって打ってる。悪いことをしているわけでもないんだし、不正行為やデータの改竄をしているわけでもない。久遠がやっているのは、ゲームシステムの中での遊び方だよ」

 

『……悠乃姉に嫌われると思ってた』

 

「嫌う?まさか。久遠はただゲームをプレイして遊んでいただけだよ? ……ただね」

 

 姉は、そこで言葉を切った。久遠としては、自分のやっていたことに対して他人に対してはともかく、姉に対しては後ろめたさがあった。だが、それを姉はまさかの『なんの問題もない』と言った。驚くと同時に、少し安堵もした。

 

「久遠がそうやって、対人要素を楽しむためにシャンフロというゲームをプレイするように、私もシャンフロというゲームでやりたいことがある。やってみたいことがある。そして今回は、それが永遠のやろうとしていることと一致していた。 ……ねえ久遠、私にゲームの楽しさを教えてくれたのは、久遠だよ?」

 

 覚えている。仕事が忙しく、時期によっては殆ど帰ってこない両親。既に姉達は当時独り立ちしていて、家に帰ると真っ暗な部屋と、メモが書かれた紙に決済ができるカードがポツンと置かれていた。そんな自分に寂しい思いをさせないように気を遣って、よく家に顔を出して相手をしてくれたのが姉だった。

 

 小学生の頃の自分は一人でよくゲームをしていて、隣でよくそれを見ていたのが姉だった。ある時、自分が言ったのだ。『悠乃姉もやってみる?』と。当時はゲームなど殆どやらないと言っていた姉だったが、きっと自分に気を遣ってくれたのだろう。やってみようかな、と言ってゲームをプレイした。

 

 楽しそうに自分の勧めたゲームをする姉は次第にゲームが好きになっていた。家に顔を出してくれている時、よく話すのはゲームの話題だった。楽しそうに遊んでいる姉、それを見るのが好きだった。自分にばかり気を遣ってほしくなかったからだ。

 

 同時に、近くで見ていたからわかった。きっと、あまり好きではない方の姉よりも遥かに早く気がついていた。この優しい姉は、途方もないセンスや才能を持っているのだということに。そうして、この姉がゲームで楽しそうにしているのは、強者への挑戦と未知の解明と踏破。その世界そのものへの冒険だということに。

 

「私はあの世界で挑んでみたいし知ってみたいと思ったんだ、最強種について。あの世界について。だから私は、ウェザエモンに挑む、挑みたいと思う。……だから今回は、もし久遠が私達を止めに来るなら、私は久遠の敵になる」

 

 電話先で、言葉に迷ったように姉は言った。

 ああ、そんな風に気を使わないでくれ。そう思った。

 

『なんで永遠姉の策略……それを事前にリークしたんだよ。だってそれは、悠乃姉が永遠姉を裏切るってことも』

 

「永遠の目的は、ウェザエモン討伐のために【阿修羅会】を足止めすること。狙いはあくまでクランであって久遠じゃない。だから私は永遠と取引をしたんだ。あまりこういうのは、永遠や久遠みたいに得意じゃないんだけどね」

 

 優しい姉は悪巧みというのが上手くはない。壊滅的に下手と言っていい。姉の人柄から、というのもあるがとにかく嘘や誤魔化すというのが下手だった。

 

「襲撃の情報を久遠に教える、そして私と話してその上で久遠がウェザエモンの打倒を阻止するためにこちらに来るなら……私が自分の手で、久遠をPKする。だからこれは、宣戦布告。もし私達を追ってくるなら、全力でかかってきなさい久遠」

 

 きっと、この優しい姉がこう出た場合のこともあのあまり好きではない姉は想定済みなのだろうと思った。結局のところ、この大好きな姉が敵に回るという時点で自分に勝ち目はない。

 

 自分は、いくらシャンフロという世界で暴虐を尽くし悪逆非道の数々を行ってきたとしても。いくら他人を顧みず、一方的にPKをしてきたと言えど。この姉、大好きな姉にだけは手を出せない。気持ち的な意味でもそうだが、自分ではきっとこの姉には全力で戦っても勝てないとわかっている。あの常軌を逸した天才的なセンス、それとやりあって勝てるとは到底思えない。

 

 織り込み済みなのだろう、あのあまり好きではない方の姉は。だから自分へのリークを許した。自分が抱いている大好きな姉への思いをも手玉に取られて利用されていると思うと、腹が立ったがどちらにしても詰みだ。このリークがなかったとしても、襲撃されて詰んでいる。

 

「もし。もし此方を追わないなら、これはお姉ちゃんからのアドバイス。……といっても、これくらいしか思いつかなかったんだけどね。久遠はこの時点で襲撃を知っているというアドバンテージがある。だから、それを利用すればいいんだよ、久遠」

 

『襲撃を、利用?……けど永遠姉は恐らくトップクランをけしかけるつもりだろ、そんなの今のウチの戦力じゃ』

 

「状況は工夫次第、だよ。これは私も永遠から聞いた話だったけど、昔は阿修羅会って結構大きなクランだったんだよね?それに、PK関係の人脈もあったとか。シャンフロは対人要素も売りにしているんだから   ――大規模な対人戦をしたい人も居るんじゃないかな?」

 

『……そうか。ははっ、なるほど。 あーほんと、きっと悠乃姉から襲撃の情報が伝わるって想定した時点で、永遠姉はこれも想定してそうなのが癪だけどな。わかった、わかったよ悠乃姉。俺達は【墓守】のウェザエモンを諦める。そっちも追わない。それよりも面白いことを思いついた』

 

 この状況を利用しての、自分がシャンフロというゲームで目的としていた遊び。つまりは、対人戦やPK。それを考えて久遠は心底自分に呆れ果ててため息を付いた。口元には、悪巧みを思いついたような笑みを浮かべて。

 

『本当なら、俺になんか伝えずに永遠姉の策略を実行してれば全て片付いたのに、気ぃ使ってくれたんだろ悠乃姉は。ありがとな。……俺は、ただPKや対人戦がしたいだけで別にユニークモンスターの打倒だとか、そういうのには興味がない。シャンフロだって、対人がしたくてやってるようなもんだしな。けど、最強種って存在がどれだけやべー奴等かってのは聞いたことはあるし、ウェザエモンで思い知らされた。 ……それを倒すのはきっと偉業なんだろうよ。だから、悠乃姉。 ――幸運を祈ってる』

 

 電話を終えて久遠はため息を付いた。また余計な気を使わせてしまったと。これがもし自分とあまり好きではない姉とのやり取りなら、全部終わった後に言い争いでもして、それで最後にはきっと丸め込まれて。そんな結末だったのだろう。きっとこの大好きな姉は、自分達の、家族の関係が拗れるかもしれないと気を遣ってくれたのだろう。本当に、いつも頭が上がらない。

 

 そうして、その姉からのアドバイスを頭の中で咀嚼する。状況を利用して、自分が望む展開へと導く。自分だって、あのどす黒い策略家の姉と、人当たりがいいのに戦闘狂なところがある姉の弟だ。ならば、この状況を精々あのあまり好きではない方の姉への当てつけにして、大きな祭りにしてやろう。それに、かつてないほど大規模な対人戦と考えると、無性に血が騒いだ。

 

 忘れていた感覚を。対人狂としての感覚を久遠は思い出したような気がした。そうして、悪巧みを思いついた彼は、準備を始めた。事態が起こるのは今夜、どれだけの人が集められるかもわからない、どれだけのかつての対人狂が乗ってくるかもわからない。だがきっと、面白いことになる。そう考えて、かつての仲間達にメールを打った。

 

 

 『今夜、シャンフロ最大規模の祭りにお前達を招待したい』 と。

 

 

 




■天音久遠
 悠乃の天才的な才能を覚醒させた元凶。恐らく誰よりも早く大好きな姉の才能に気がついていた。楽しそうにゲームをしている姉を見るのが大好きだった。悠乃の案件配信などもちゃんとチェックしており、心の何処かではシャンフロでいつか大好きな姉とも遊べたらいいなとは思っているが、自分の立場やクランなどの諸々のしがらみについては理解しているのであえて関わらないようにしていた。

 少なくともトップランカー複数相手にしてを斬り伏せられるだけの実力、冷静な時なら大局的に戦況を見れる観察眼とシャンフロの内部でもトップレベルに強いPK。ゲームでは素で『身体は闘争を求める』というタイプ。ウェザエモンの一件時点で武力的には0.4悠乃、知力的には0.6永遠くらい。ハイブリッドの未完成なやべーやつ。本人が努力家、負けず嫌い、多才というせいで戦えば戦うほどどんどん武力と知略が上がる。ジャンプ主人公かよお前。

 シャンフロやってるのは単純にPKと対人戦がやりたかったから。なので最強種関係にはそこまで興味がない。ウェザエモンも仕様を利用できるからという理由で利用していただけで、こだわりがあるわけでもない。そのウェザエモンを利用するという方針も、運営からの締め付けが厳しくなった結果として人材育成やクラン運営、戦力強化など諸々を彼なりに考えた結果。ただ、それが原因でPKとしての矜持が薄れていたのは事実だったが、何気ない悠乃の一言で火がついた。

 ウェザエモンを諦める代わりに、永遠への当てつけと思いついた悪巧みでどんでもないことをやらかす。祭りのはじまりである。

■天音悠乃
 何気ないアドバイスでシャンフロ史上とんでもない出来事を引き起こすことになるお姉ちゃん。無自覚にとんでもない爆弾を投下した。本人にその気なしで「火を点けろ、燃え残った全てに」なんてことをやった。

 弟が大好きなブラコンにして、久遠に熱い視線を向けている彼の周囲の人間にとってのラスボス。そもそも周りに人がいる状態で久遠が友人から異性の話を振られて『悠乃姉みたいな感じかなあ』と言ったのが原因。彼に熱い視線を向ける異性の大半がそれで撃沈されたが生き残ってる者も数名居るらしい。なお本人はアピールに無反応である。

 PKについては別になんとも思っていない。むしろ肯定派であり、シャンフロという傑作ゲームでそういったプレイスタイルを取るのはひとつの遊び方と考えている。ただ、降りかかる火の粉は容赦なく払う。
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