「それで、愚弟はなんだって?」
「ウェザエモンは諦める、って言ってたよ。……こうなるのもアーサーの予測の内?」
「まあ、ね。正直シグリンデに襲撃の情報をリークしていいよって言った時点で、想定はしてた。愚弟があなたからリークを聞いてどう動くかとかも予想はついてたし」
「実は私から今回の件のお詫び、って訳じゃないけどちょっとアドバイスした」
「ちょっと待ってそれは想定していない。何言ったの?」
「ふふ、秘密。オル君やアーサーみたいに悪知恵が働くわけじゃないから、ただの浅知恵だよ? 大丈夫、オル君約束は守るって言ってたし。 ……そういえば妙なこと言ってたかな。アーサーへの伝言なんだけど」
「とてつもなく嫌な予感がするんだけど、なんて?」
「『こっちはこっちで祭りをさせてもらうからな、見てろクソ姉貴』だってさ」
「本当に何アドバイスしたの!?ねえ!?」
「私とオル君だけの秘密だよ?弟には甘いのです、ふふん」
思わずペンシルゴンは『秘匿の花園』へと続く洞窟を歩きながら頭を抱えた。とてつもなく嫌な予感がすると。結果的にウェザエモンの件で【阿修羅会】や愚弟の邪魔が入らないのはいい、主目的とする打倒に専念できるからだ。
だが。ペンシルゴンは胸騒ぎがしていた。妹は確かに自分や、ああ見えて知恵が働く愚弟のように悪巧みを画策するようなタイプではない。だからこそ読めないのだ、一体この妹はどんなアドバイスをしたのかと。ともかく言えることは、もし本当にとんでもないことになっても自分はノータッチだ。無関与を貫こうと決めた。
そうしているうちに、洞窟を抜けた。視界に写るのは一面の赤。彼岸花の花畑と、空にあるのは満月と星空。いつもはセツナの待つ枯れた木。桜の木の下よりも少し離れた位置には、既にサンラクとオイカッツォが到着しておりなにやら話をしているのが見えた。
「やあやあお待たせ、何の話してたの?」
「ん?おお、待ってたぜ二人共」
「おーっす。いやさあ、サンラクがいい感じにキマるエナドリ紹介してーって言うもんでさ、紹介してたとこ」
「オレ ライオットブラッド スキ」
「ライオットブラッド?あー……あれかあ。私あれの特濃とかいうの苦手なんだよね」
ぐるん、とサンラクの首がシグリンデのほうを向いてその青色の鳥頭が凝視した。今、聞き捨てならないことが聴こえたというように。
「シグリンデさんや」
「さんはいらないよ? ええっと、どうかした?なんか獲物を見つけたハシビロコウみたいな顔してるけど」
「その特濃というのについて詳しくお話を」
「これ話していいやつなのかなあ……アーサー?」
「まあいいんじゃない?モノは希少品だけど売ってるものだし」
サンラクは落ち着くことが出来なかった。自分の大好きなエナジードリンク、ライオットブラッド。その新フレーバーについての話をオイカッツォから聞いたと思ったら、今度はその特濃とやらの話が出てきたのだ。しかもどうやら、シグリンデやペンシルゴンの反応からして只者ではなさそうな雰囲気である。
「サンラクとかオイカッツォならわかるかな……?私がよく案件配信で一緒にやってる『ツ担々辛麺』さんって居るんだけど」
「ああ、あの被り物被ってバトロワ系のゲーム配信してる人?確かルインズ・ウォー・ハウンズシリーズを歴代全部やってて、最近実装されたバトロワモードではワールドランカーの人だろ?サンラクレベルでエナドリじゃないけど辛い麺類が好きな人でもあるな」
「最近だとラーメンとかのCMにも出てるよな、お茶の間にあの被り物したプロゲーマーが滅茶苦茶嬉しそうにラーメン宣伝してるの流れてまとめサイトとかでも話題になったよな」
「あの人が珍しく麺類じゃなくてドリンク系でおすすめしたのがそれなんだよ、『試合前はこれがよく効くんですよ、試合終わったら激辛ラーメンが私のルーチンです』って言ってた」
「あの人身体本当に大丈夫なのか……?エナドリの後に激辛ラーメンって……」
「最近は一緒に案件やってる他の出演者さんとあの人の食生活について色々改善してるところ。話が逸れたね、それであの人曰く、濃度が米国品の3倍とかあるらしくて、一日に1本しか飲まないほうがいいやつなんだって。確か有名な格闘ゲーマーの……そう、そうだ。シルヴィア・ゴールドバーグさん?も愛飲してるとかってツ担さん言ってたよ」
思わず内心でオイカッツォは顔が引きつった。シルヴィア、なんてものを飲んでいるんだと。確かに時折メールなどでは『ニホンのエナジードリンク、ちょっと薄い!濃いのいっぱい!特濃飲みたい!』とは言っていたが。
実はオイカッツォはあまりにもシルヴィアがエナジードリンクを常飲しているものだから、心配になったことがある。サンラクも中毒者といえど、それは日本で販売されている国内向けの濃度だ。米国在住とはいえ、同じ人間。本国の濃度のものをあれだけガバガバ飲んでいると本当に大丈夫なのかと思った。なので、『あんまりエナドリ飲み過ぎもよくねーから、はいこれ。日本の玉露っていう種類のお茶。がぶ飲みはせず、少しづつ飲んで楽しむんだこれは』と言って過去に日本に来た時渡したことがある。
彼は気がついていないが、シルヴィアはオイカッツォ。魚臣慧が好きである。そんな相手からプレゼントを貰ったのだからそれはもう舞い上がった。貰った玉露茶もとてもおいしかったらしく、最近では休憩時にはのんびりと優雅にお茶を飲んでいたりもする。
「おお……おお!なんだその心が踊りだすようなものは!?是非後で買えるところを教えてくれ、でも国内で売ってるのか?」
「一応取り扱いしてる所はあるみたいだよ、最近はゲーマー向けの用品店とか増えたし。ツ担さんが使ってるって言ってたところ後で教えるね。 ……でも私はオススメしないよ、コップに一杯だけ飲んでギブアップした」
「まあサンラクくんなら行けるんじゃない?あ、でも本当に一日一本にしとかないと多分倒れるよ。買う時も色々と注意されるんじゃないかな。ちなみにシグリンデが飲むの諦めた残りは私が飲んだ。飲めなくはないけど……うん、もう飲みたくないかな」
ペンシルゴンはその時のことを思い出した。シグリンデがコップ一杯でむせ返り、自分は飲めなくはなかったが口の中の後味が地獄だったのと、部屋の中が数時間エナドリの匂いが漂っていた。後日、『お試しにどうぞ』と言って渡してきたツ坦々辛麺にはもっと身体大事にしろと伝えた。
「……さて。いい感じにアイスブレイクもしたところで。そろそろ行こうか」
全員の表情が真剣なものへと変わった。そう、これから四人が挑むのは最強種。このシャングリラ・フロンティアにおいて、七体しか存在していないと言われていいる一角であり、同時に途方も無い強さを持っている相手でもある。
ペンシルゴンは考えられる限りの作戦と用意をしてきた。そしてサンラクやオイカッツォもまた入念に事前にもらった情報を分析し、戦闘のイメージを組み立ててきた。
シグリンデもそうだ。秘密裏に【ライブラリ】の一部プレイヤーに渡されたウェザエモンの情報。それは、あらゆる方向からアプローチを掛けられ、分析され。そしてその情報は彼女へと渡された。そうして、ここに来る前には『武運を祈っている』と、キョージュ達からも激励された。
恐れはなかった。むしろ、強大な相手と戦える高揚感のようなものがあった。強敵の踏破、それはゲーマーとしては挑みがいのあるものであり。そしてその最中とは、心が踊るものだと思っているからだ。
それに。今回は心強い味方も居る。過去の残滓に幕を引く、そう言って力を貸してくれるのはかの黄金の竜王。そして、シグリンデにはある切り札があった。それは、今回のウェザエモンとの戦いで要ともなるものだ。
一通りの確認を終えて、『さて』と。ペンシルゴンが言い全員にパーティー招待を投げる。それを3人が承諾し、最終確認の後、彼女が準備した決戦用のアイテム、貴重な蘇生アイテムなどを分配した。
「作戦は以上。……行こうか」
ウェザエモンとの決戦の場。花園の中心に出来た空間の綻びに足を踏み出した。
決戦が、開始される。
◆ ◆ ◆
空間のほころびを潜ると、そこは異世界だった。正確には、元いた場所とよく似ている異世界、ではあるが。
山の山頂を平らにして凹ませたようなエリア。その中央に存在しているのは、巨大な桜の木。草木一つないその平地の中、中央の桜だけが満開に咲き誇り、桜の花びらが舞っている。風も音はなく、静かで。ただ時間が止まった中でその桜の木だけが生きているようにその樹体を揺らしていた。
そしてその根元には、簡素な墓標があり、それは確かにそこに存在した。
―――『ユニークモンスター 【墓守】のウェザエモンと遭遇しました』
無機質に流れるシステムアナウンス。息を呑んで全員が、【墓守】のウェザエモンを見た。
錆があるわけでもない、ひび割れ風化しているわけでもない。ただ、そこにあり続けるかのように存在する。いわば、機械的な存在。それが、静かに立ち上がる。
「…………」
一切の肌を見せない全身を覆う白と黒の機械装甲、顔すらも覆い尽くしたそこにはヒロイックなロボ特有のツインアイカメラ。双眸に光が宿り、身体の各部が微かに駆動音を立てながらも、こちらを見た。
「サンラクくん、それじゃ頼んだ」
「わかったぜペンシルゴン。それじゃ、よく見て確認してくれよなシグリンデ」
了解した、というように頷きを返すシグリンデ。それを確認すると、サンラクは深呼吸して双剣。『帝蜂双剣』を構えた。
事前にペンシルゴンからは、知る限りの情報を共有されている。まず、戦闘条件。ウェザエモンに対しては一切のダメージが通らないことが確認されており、恐らく特殊勝利系ではないかと推測されていた。よって、第一フェーズを10分。そして第二フェーズを10分。合計20分間、ウェザエモンの攻撃から生存することがまず求められる。
だが、それも簡単ではない。ウェザエモンの攻撃は苛烈を極めるからだ。しかもレベル差150を強制されていることもあり、掠めたら即時戦闘不能に繋がる。更に言えば、ウェザエモンは戦闘に参加しているメンバーの数でステータスが変動する。よって、大規模レイドではなく少数精鋭での戦闘が推奨された。
だからこそペンシルゴンは最初、それに立ち向かえると信じられる二人を駆り立てた。それが、サンラクとオイカッツォだ。クソゲーで鍛えられた飛び抜けたプレイヤースキルと、生粋のアクションゲームへの才能。それを持つサンラク。そしてプロゲーマーとしての実力もさながら、相手を分析し徹底的に詰めることを得意とするオイカッツォ。二人ならば、そう思った。
そこに想定もしていない報告と、結果的に心強い味方となってくれたのがシグリンデだ。想定もしていない、最強種が最強種との直接対決に関わってくるという事態。何よりも、シグリンデ。自分の妹もまた、サンラクやオイカッツォとは違う方面での規格外、天才と言えた。
「さあて――お手並み拝見!」
決戦が、開始された。
■あとがき
前回の話はなんというか、賛否が分かれたようで。久遠くんは今後もちょい出のキャラくらいですが、あの展開は最初から決めていたのでまあなんというか。
久遠くんは永遠に祭りやること読まれてるんじゃないかなとか思ってましたが、リークした時点で弟にもう勝ち目ないのは想定してましたがとんでもないことやらかすのは想定外だった。後々頭を抱える。
『ツ担々辛麺』さんはオリキャラ。立場的には悠乃とよく案件配信をしている人。一風変わった被り物と『激辛命』や『らいおとっぶらっど』と書かれた変Tをよく着ている。筋肉質の体つきの割には食生活が終わっていて、よく共演者から食生活を矯正されている。最近少しマシになった。
実はウェザエモン戦後というか、原作で言う竜災あたりまでは添削前状態で出来上がってます。ちょっと作者週末は多忙のため、ウェザエモン戦終了までは駆け抜けるという意味合いでも週末投稿がちょっとわからないという意味でも二度目の更新となりました。
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