鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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人と竜が紡ぎし、彼岸へと贈る希望の詩 其の七

「ははっ……流石私の妹、本気モードがここまでとは」

 

 ウェザエモンの第二フェーズ。現在、視界の中で行われている激闘を見てペンシルゴンが呟いたのはそんな言葉だった。

 

 彼女は現在動けない。というのも、自分が用意した切り札の準備をしているからだ。『対価の天秤』という、シャンフロ内においてはトップクラスの反則アイテムの準備をだ。

 

 『対価の天秤』は黄金の天秤商会というNPCによって運営される所の所有物である。レアリティはシャンフロ内部でも最高レアリティのユニークアイテム。そして、その効果は反則もいいところの性能だった。捧げられた対価、つまりプレイヤーが保有するアイテムの価値の高さに応じてその効果量が変動するのだ。

 

 主な効果は7つある。対価に応じてマーニ、HP・MPの回復、ダメージブースト、経験値の獲得、財宝への変換、ランダムなアイテムのへの変換、一定時間のステータス強化である。そして今回ペンシルゴンが選択するのは、『一定時間のステータスブースト』だ。

 

 ウェザエモンとの戦いはレベルが強制的に50へと調整される。当然、割り振られていたステータスについてもプレイヤーの割り振っていた傾向に応じて調整される。だが、この『対価の天秤』の能力を使用することで、ここにいる全員のステータスを底上げできる。それは、極めて大きなアドバンテージになるのだ。

 

 ペンシルゴンが今回のために用意したのは、自前で4000万マーニ、そして【ライブラリ】のキョージュからウェザエモン戦後の情報提供をシグリンデに認めさせる、という契約のもとの融資が2000万マーニ。合計6000万マーニでスキルポイントに換算すると600ポイント、ブースト効果時間は30分。そうして彼女はその全てをここに居る全員へと振り分けるつもりだった。

 

 だが、その準備はまだもう少しかかる。莫大な量のアイテムやマーニを天秤へと捧げる作業が必要であり、ウェザエモン戦の最初から殆ど動けないのはこのためだった。ブーストがない状態では流石のサンラクヤオイカッツォもレベル50強制の制約によりきつそうにしているが、ペンシルゴンは妹。第二フェーズから参戦したシグリンデを見て戦慄した。かつてないほど集中した妹を見て。

 

「あなたの相手は……『私達』だよ。ウェザエモン!」

 

 第二フェーズの開幕から、シグリンデが参戦。そうして彼女が最初に発動したのは、『黄金の円環』と呼ばれる装備の能力だった。1秒毎に体力を割合で消費する代わりに、全てのステータスと特定の攻撃に対する補正能力、体力が低ければ低いほど効果が上がり、そして自分の持つ特殊なスキル。『刻願』を強化するというものと聞かされた。最初はウェザエモン相手に自傷スキルなど危険すぎる、と思ったがそうではない。理に適っているのだ。

 

 どちらにしてもウェザエモンの攻撃はどれもが直撃すれば即座に戦闘不能だ。体力など最大まであったとしても、ないに等しい。ならば、すべての攻撃に対応する前提で体力を限界まで落としてステータスを限界まで底上げしたほうが戦える。

 

「タンクとヘイト管理助かるぜ、シグリンデ!」

 

「こっちに向けるように頑張ってるけど、やっぱり暴れる!たまに敵視振り切ってランタゲになってるかもしれないから気をつけてサンラク!」

 

「その時はバッチリ回避して痛いのお見舞いしてやらぁ!こんな感じにな!」

 

 時折敵視を振り切るようにしてサンラクへとターゲットを変えるウェザエモン。その攻撃をサンラクもまた紙一重で回避して、お返しだと言わんばかりに攻撃を叩き込み、シグリンデの近くまでダッシュ。敵視を渡すように動いた後、再びウェザエモンの背後へと回る。

 

 

 そうして、現在。その妹、シグリンデの戦う姿にペンシルゴンは息を呑んだ。元々ゲームセンスが高いのは知っていた、案件配信などもよく見ていた。だが、ここまでなのかと。というよりは、今まで見たことのあるもの以上の動きをしているのではないのかと。

 

 妹の眼は真剣そのものだった。そのオッドアイは鋭くウェザエモンを捉えており決して逃さない。共闘するサンラクへのサポートやフォローも完璧だ。タンクというロールをしながらDPSというロールを完璧にこなしている。そして、その口元には、強敵と戦うのが楽しいというように笑みが浮かんでいた。

 

「どうやっても一撃で戦闘不能とわかっていても、体力を1まで減らしてのあの精度の戦い方。……正気の沙汰で出来ることじゃないよ」

 

 正気の沙汰ではない。体力とは即ち、プレイヤーにとっての命そのものだ。それが低い状態であれば気にするのは当然の心理であり、1ともなれば焦りを見せるのは当然のこと。だが、シグリンデは全くそんな素振りを見せていない。むしろ、今の状況を楽しんでいるようにさえ見え、一度たりとも相手の攻撃に対する処理をミスしていない。

 

 ウェザエモンの攻撃は基本的に防御不可能である。それを絶対的な精度のパリィで弾き返し、紙一重で回避しながら懐へと飛び込み。攻撃のチャンスを見つければその巨大な剣槍でカウンター攻撃や致命攻撃を叩き込んでいる。

 

 当然、敵対するモンスター。つまりウェザエモンの敵視の殆どはシグリンデへと向けられる。常時敵視を向けられており、しかもウェザエモンという強大な相手と対峙しながら体力1を維持し、真正面から攻撃を捌いているのだ、この妹は。

 

 そうして恐らくではあるが、既にこの妹。シグリンデはもう『覚えている』。事前段階での【ライブラリ】による動作の分析と最適化、第一フェーズでの実際に視るという工程でのフィッティング。時間は十分あった。ウェザエモンのモーションは既に既知となっているのだ。

 

 第二フェーズ開始5分。ウェザエモンはサンラクとシグリンデによって完全に抑え込まれている。そして、召喚された『麒麟』もオイカッツォによりなんとか抑え込まれている。そうして、遂にペンシルゴンの準備は整った。

 

「……よし!みんな、おまたせ!この私の全財産を叩いた切り札、全部持ってけ泥棒!」

 

 準備は整った。対価を注ぎ込んだ天秤が発動し、選択した効果を発揮する。合計で600ポイント、一人当たり150ポイントのステータスブーストが発動する。

 

 サンラクはSTMとLUCを。オイカッツォはVITとSTMを。シグリンデとペンシルゴンはSTRとSTM。ステータスブーストによる影響はすぐに現れる。サンラクはSTM増加に伴い、行動のリソースが増えた。よって、更に手数が増える上に行動回数が増えることで手札も増やせるようになった。オイカッツォも同様だ。振り落としのモーションを誘発させ、抑え込むのに苦労していたがサンラク同様STMに余裕が出たことにより安定が出てきた。

 

 特に劇的な変化があったのはシグリンデだ。いくら彼女のカウンター能力が優れていると言っても、全ての行動にはスタミナが伴う。特に、ジークヴルムの加護により片手でも扱っているとは言え、大型武器を使用してのカウンターはスタミナ消費が大きい。だからここまでは、彼女は最低限の動作での回避を織り交ぜてスタミナを調整しながらカウンターを行ってきた。

 

 それがペンシルゴンによるブーストで不要となった。レベル50ではあり得ないスタミナ値を獲得し、スタミナ調整ということをする必要がなくなったのだ。よって、ここからは殆どの攻撃を受けで捌くことが出来る。

 

 状況は極めていいとペンシルゴンは思った。更には、内容は不明だがまだシグリンデの切り札というのも残っている。第三フェーズ。推測するに最終フェーズは未知ではあるが、想定していたよりも蘇生アイテムの消費は殆どない。最初の様子見の段階でサンラクとオイカッツォが1つづつ蘇生アイテムを使用したくらいで、まだストックはかなり残っている。

 

 

 そうして。第二フェーズ開始から10分が経過した。

 

「……なんだ?止まった?」

 

「さて、問題はここから……!みんな、集まって!」

 

 

 

 ウェザエモンが項垂れるようにして沈黙のを見てサンラクが疑問を呈する。それまで大暴れしてた騏驎も静かに沈黙し、それまでの戦闘が嘘のように静寂が訪れた。

 

 

 ペンシルゴンは全員に集まるように指示すると、アイテムを準備しながら言葉を続ける。

 

「倒した……というわけじゃないよな」

 

「ここからが多分本番で、完全に未知。まだメンバーがマシだった頃の阿修羅会でもここまで来たのは一度っきり。便宜上第三形態と呼ぶけど……その時はウェザエモンの初手で全滅した、って説明はしたよね」

 

「ああ、確か全体攻撃で成すすべ無く全滅……だったか?」

 

「ええ。いくら防御バフを固めてもダメだった。けど……言ったでしょ?対策はあるって」

 

 そうしてペンシルゴンはアイテム。青色の意匠の凝ったポーションの瓶のようなアイテムを全員に見せる。

 

「多分だけどあの全滅攻撃はギミック。それを攻略しないと全滅するっていうものだと思う。そして……サンラクくんの話と今回協力を取り付けた【ライブラリ】のトップ陣の考察から、ある可能性に行き着いた」

 

 ペンシルゴンは二人の話からある可能性を考えていた。サンラクからの『死に損ない』と言い表された言葉、【ライブラリ】の導き出した考察の結果、それを裏付けるように確認したオイカッツォの言葉による確認。

 

 

「防衛機構というシステムに自分自身を組み込んだと考えれば全てが納得できる。つまり、ウェザエモンの正体はアンデッド!シャンフロの聖女ちゃん特製の聖水。対アンデッドとしては最強クラスのこれを喰らえ!」

 

 ペンシルゴンがポーション瓶をウェザエモンに投げつける。パリンと小気味の良い音を立てて墓守のウェザエモンに瓶が命中し、瓶が割れて中身のうっすらと青く発光する水を墓守のウェザエモンは浴びることになる。 

 

 

 

「……ォォォオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 変化はすぐに現れた。俯くようにしていたウェザエモンの鎧には所々ヒビが入り、大気を震わせるほどの咆哮をあげると同時、悶えるような動作をする。

 

 

 

「ペンシルゴン!」

 

「ビンゴ!大丈夫、全体攻撃のモーションじゃない!」

 

 悶え苦しむ動作を止めた墓守のウェザエモンの肩、腕、腰。各部の装甲が割れるように弾け、全身の亀裂から血が噴き出すように青い炎状のエネルギーが噴出する。

 

 

 壊滅確定の全体攻撃の阻止の成功。つまり、ここからはペンシルゴンも完全に未知のフェーズ。恐らくは、最終フェーズだ。

 

 

 

「ア……アア……コニ……」

 

 

 突然、ウェザエモンがゆらりと立ち上がり何かを話し始めた。思わず警戒するが、どうやらすぐには襲ってくるような素振りではない。

 

 

「ソコニ……居ル……ノカ……」

 

 ウェザエモンの視線は、シグリンデ。そしてその左目へと向けられていた。シグリンデはジークヴルムに『呼んでるのかな』と言ったが『……よい。言葉は最早不要だ』と言葉が返ってきた。どうやら、ジークヴルムとしてはもう方針は決まっており、言葉をかわすつもりもないようだ。

 

 

「アリ、ス……認証、キー、断片……黄金ノ……竜王……。人ト、竜ノ歴史……彼ノ願イモマタ……ハハ。ソウカ……」

 

 断片的な言葉。アリス、認証キーということに心当たりはこの場の全員がない。だが、黄金の竜王という言葉にはある。それは、シグリンデが最も深い関わりを持つ相手。ウェザエモンと同じく最強種である『天覇のジークヴルム』だ。

 

 

「フロンティア、ハ……成サレタ……」

 

『我が盟友よ、終わらせるぞ。此処からは我も共に征くぞ ――準備はよいな』

 

『……勿論。言ったでしょ。私は王様、あなたとなら誰にも負ける気がしない』

 

 ウェザエモンの言葉が途切れる。同時、シグリンデは一歩前に出て、真正面からウェザエモンと相対した。ウェザエモンの視線が向けられる。そして、『……ハハ』と小さく笑い納得したように頷いて。

 

 

 再びとてつもない威圧感とともに、刀を構えた。

 

 

 

「――征くぞ、二号計画(セカンブドプラン)の申し子達よ。 ……未来を望むのならば、我が誓いと刃を超えて見せよ!」

 

 

 対して、シグリンデも武器。かの竜王から賜った剣槍、『ファフニール』を構えた。

 息を吸い、覚悟を決める。ここからは極限の戦いだ。

 

 だからこそ、彼女は切り札を切った。

 

 

 

 

「――『竜王顕現』(ドラゴンインストール)

 

 

 

 風が吹き荒れた。黄金の風が。

 

 劇的に何かが起こったわけではない、だが。その得体の知れない何かを発動した直後の彼女の眼は。

 

 両目が、黄金と蒼が混ざりあった二色。まるで黄昏時の色のような眼をしていた。

 

 竜王顕現(ドラゴンインストール)、それがシグリンデの切り札だ。本来ならば、効果時間の制約付きで莫大なリキャストタイムも発生するが、今回ばかりは訳が違う。ジークヴルムに言わせれば、今のサンラク達の戦っている世界は、ウェザエモンの権能によって時間が止められた世界だ。

 

 本来ならば、その力は強力が過ぎる故に限られた時間しか発動できず、短い時間内で多用も出来ない。そう制限をジークヴルムが掛けているのだ。世界そのもの、理すらも捻じ曲げるその力は今の世界に影響を与えかねない。もし影響が出れば、ジークヴルムの敵であり、危惧している『厄災』が想定より遥かに早く訪れる可能性も考えられたからだ。

 

 マナの完全制御、それは開拓者の持つ能力だ。ジークヴルムが持つ権能は、強力だが不完全なもので、神代の人間には制御できなかったものを無理矢理形にしたに過ぎない。だが、最早それは不完全なものではない。マナを完全制御できる盟友、共に歩む者を得た今完全なものとなったのだ。

 

 

 

 理を、世界を。始原や神すらも滅ぼせる神始鏖殺(ラグナロク)の権能。

 それが人と竜の力、竜王顕現(ドラゴンインストール)なのだ。

 

 

 

 ウェザエモンとの戦い、その最終局面が始まろうとしていた。

 




竜王顕現(ドラゴンインストール)
 シグリンデの切り札。時限制の能力で、本来の強化時間は99.9秒・リキャストは毎日0時にリセットされる。発動中は両目が黄金と蒼が混ざりあった二色の眼に変化する。『刻願』によるバフ無効効果の対象にならず、効果中は『刻願』の性能が一部変化する。

 その強化時間内で大幅にステータスと機動力、各種補正値を上昇させる。更に、その時間内限定で完全体となったジークヴルムの権能を一部専用スキルとして行使可能になる。『黄金の円環』の各種能力と効果は重複する。

■あとがき
 竜王顕現(ドラゴンインストール)と『黄金の円環』の攻撃モードを起動して体力が1の状態の時のシグリンデのイメージはフルクロス同時開放にトランザムとハイパーモード重ねて覚醒も入れて近接振りに行ってるような状態。こんな呪文で伝わる人どれぐらい居るんでしょうか。

 簡単に言うと背水状態になればなるほど強化される超絶強化。背水状態でなくともかなりの強化能力が発動する。加えて効果時間中は最強種由来の能力を持つスキルが使用できる状態。効果が『黄金の円環』と重複するので、シグリンデが持つ中では両方発動している時限効果中が最大限の火力と制圧能力を発揮できる。

 これを使うということはそれだけの相手ということなので、ジークヴルムもこの状態ではシグリンデに憑依して表に出ている状態。強者との戦いだとウッキウキでサポートしてくれる。

 作者はこのあたりの話書いてる時はGUILTY GEARシリーズの『Ride the Fire!』を流しながら書いてました。
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