目の前で起こったこと、それが理解できなかった。
動きを止めたのは時間にすれば一瞬だろう。だが、その刹那の時間でシグリンデの頭の中には様々なことが駆け巡った。なぜウェザエモンが瞬間移動したのか、なぜスキルを封じたはずなのにスキルを撃てたのか、なぜ反応も許されずサンラクが斬られたのか。
それは動揺であり焦りだ。ここまで一度たりとも焦らず、動じなかった彼女はその事態に動揺を隠せなかった。刹那の時間の動揺、だが。その間動きが鈍り反応が遅れる状態だったのは事実だ。無防備、と言ってもいい。
『無防備を晒すな!来るぞ!』
「ッ……!くっ!」
手遅れになる一歩手前。そこで彼女を現実へと呼び戻したのは、竜王。ジークヴルムだった。慌てて此方へと向いたウェザエモンの攻撃をパリィで捌くと一度下がる。同時、戦闘不能になったサンラクのリカバリーをとも思い対応しようとしたが。
「っぶねぇ!直感に従って正解だったぜ……」
「サンラク!? ……ごめん、私が」
「気にすんな、切り替えていけシグリンデ!あんなもん想定外だ、俺も意味がわかんねぇ!」
どうやらサンラクは己の直感で対応策を実行していたようだ。サンラクからすれば、ウェザエモンが視界から消えた瞬間とてつもなく嫌な予感がしたのだ。だから、咄嗟に『再誕の涙珠』を頭上へと放り投げた。
事実として、意味がわからなかった。端から見ていれば、突然ウェザエモンが瞬間移動したと思ったらサンラクが斬られたのだ。
そうして今度は。ウェザエモンはシグリンデを見た。
「――然らば」
ゾクリ、と。嫌な感じがした。
「我が窮極を超えぬ限り、この身は斃れること非ず。 ――【晴天大征】!」
構え、ウェザエモンがシグリンデへと踏み込んだ。だが、攻撃は全て対応できる。連続して放たれる【断風】、合間に織り交ぜられる【雷鐘】。それを捌きながら考える。一体、何が起こったのかと。そしてもし、先程と同じことが起こっているとすればサンラクに対して発生したあの【天晴】というスキルは、自分へと放たれる。
とにかくシグリンデは攻撃を捌くことに専念した。それは、先程のジークヴルムの警告があったからだ。ウェザエモンの猛攻、それを凌ぎながらジークヴルムへと聞いた。先程のあれは、なんだったのかと。
『以前、我が聞いた英雄譚。ウェザエモンの話をしたことはあるな。あの中で語られていた、『森羅万象、理さえも断ち切る窮極の一太刀』というのが恐らく先程の技だ。これは我から見ての推測だが、【晴天大征】とは即ち因果律を捻じ曲げるための前準備。あの技を発動してからの一定時間その全てが奴の指し示す因果律の果て。つまりは【天晴】へと繋がる』
『まさか……あの時、私がウェザエモンの技を封じたせいで、その結末が早まったってこと?』
『そうだ。我も気がつくのが遅かった……。だが、もうわかったであろう。【晴天大征】を発動してからの一定時間と結末は覆すことはできぬと』
『じゃあ、どうやってあの【天晴】を攻略したら……。さっきのサンラク、仲間の状況を見る限り回避も封じられていた。全てを捻じ曲げるということは、最終的にウェザエモンによって斬られるという結末が残るだけ。だとするなら、真っ向からその結末を打ち破るしか ――そうか』
『気がついたか?はは、そうよ。真っ向から叩き潰してやろうではないか。かつての残滓と未来へと歩む我等、どちらが強いかということを教えてやればいいのだ。最近の世代の言葉で言うなら、そう……『しんぷる』であろう?』
楽しそうな声だった。ああ、そうだ。とも思う。
口元には笑みが浮かんだ。そうだ、楽しまなくてどうするのだと。
今ここには自分が望んでいたすべてがある。挑むべき強敵、共に在る竜王、信じられる仲間。
『――そうだね、シンプルな答えだ。ウェザエモンと私達。どっちが強いか、はっきりさせようか王様!』
一定時間。30秒の時間が経過する。そうして放たれるのは、窮極の一太刀。
「――【天晴】ッ!」
通常なら回避不可能の一撃。結果だけを残し、あらゆる事象を無視する一撃必殺。
だが。今ここに居るのは。
「
新なる世界の守護者となった最強種、天覇のジークヴムル。
そしてその竜王が共に在る盟友として選んだ開拓者なのだ。
次の瞬間、ウェザエモンの【天晴】が空を切った。
それは、訪れるべき結果を発生させることができなかったということだ。
◆ ◆ ◆
【天晴】が失敗した。正確には、成立しなかったウェザエモンは即座に距離を取った。
目の前で起こった事象、それに対してサンラクは驚いていた。
何故ならば。自分に放たれたものと同じ【天晴】がシグリンデへと放たれた瞬間、彼女の姿が消えたのだ。そして次の瞬間、再び彼女はウェザエモンの懐に飛び込む形で現れ、無防備なウェザエモンに対して【光輝龍爪】を叩き込んだのだ。
叩き込まれ、シグリンデの存在を確認し。そしてウェザエモンが下がり今に至る。
「シグリンデ、今お前一体何を……」
「【天晴】は回避できない。多分だけど結果だけを残す攻撃。だから……撃たれる瞬間に、対象を存在しない状態にした」
「なるほど、なるほど。 …………はい?」
意味がわからないと思った。要するに、『攻撃対象を対象の取れない状態にして処理する、攻撃に入っているため対象は取れないが攻撃は処理する』ということだろうかと考えて、つまりどういうことなのかと混乱した。現代より昔には、言葉の処理が難しいカードゲームがあったそうだが、それに似ているなとも思った。
「説明が難しいんだけど、スキルで私はあの場所に存在してないってことにした後、リスポーン扱いで再度存在する扱いにした……と言ってもわからないよね」
「えーっと?つまり……攻撃対象を見失った【天晴】は、そのまま発動されたけど対象が居ないので不発、ってことなのか?でもあれって多分回避不能の理不尽攻撃だろ、どうやって ――リスポーン判定、そうか。それなら避けられるのか。なんて回避方法なんだよ」
【天晴】は、いかなる事象でも全てを捻じ曲げて相手を『即死』させるという技だ。だが、『即死』という効果は、対象。つまりプレイヤーが存在していなければ発動せず、リスポーンというのはプレイヤーで言えばシステム側の仕様。そしてシャンフロの世界で言えば、『諦めない限り立ち上がる力』であり、それは神代世代の力ではなく後の世代の力であり、理の外のものでもある。
だからリスポーンという事象を発生させればその瞬間はそこには『誰も居なかった』ということになり、例え【天晴】だろうと不発となる。しかし、サンラクからすればリスポーンという自分達プレイヤーで言う、システムの力をスキルで使えるものなのかという疑問は残った。
そんな話をしている内にウェザエモンの攻撃、【晴天大征】が再び発動。今度のターゲットはまたサンラクだ。攻撃モーションはわかっている。だからひとまず作戦会議だ、というようにサンラクは回避しながら話を続けた。
「といっても、何度もは使えない。今の色々な時間制限のない特殊な状況下でも、後使えて2回だって王様が言ってる」
「とんでもないスキルだけど、後2回か。……それまでにあの【天晴】を攻略しなきゃ、直に手持ちの蘇生アイテムも尽きて全滅だ。どうする」
「私も悩んだ。……悩んだけど、シンプルな答えだよサンラク」
「おお、何か名案があるのか?」
「相手が理不尽攻撃をしてくるなら、真正面から叩き潰してどっちが強いかわからせてあげよう」
「なるほどなるほど。 ……なるほど?」
サンラクの頭の上に疑問符が浮かぶ。だが、目の前の仲間、あの外道の妹は満面の笑みである。彼には聞こえていないが、ジークヴルムも『そうだ!やるぞ盟友、そして強き者よ!』と言っている。
「ウェザエモンの言葉からして、多分今のウェザエモンは無敵状態。どれだけダメージを叩き込んでも倒れないし、自壊もしない。条件は恐らく」
「あの【天晴】の突破、か?だとするなら尚更だ。あれをどうやって……」
「私とサンラク、二人の最大火力をあの【天晴】に叩き込む。パリィは私が、同時のタイミングでサンラクはあの刀身に攻撃を叩き込んで」
「……ははっ。なるほど、いい作戦だ。回避できないなら正面からってのはそういうことか。いいぜ乗った、どっちにしてもそれ以外はなさそうだ」
「ただ、問題があって。私の最大火力の技を発動させるには、条件がある。そのために――」
「おう、言ってくれ。俺は何をしたらいい」
申し訳なさそうに、シグリンデは言った。
「――ごめん、後2回くらい戦闘不能になってもらうかも」
そんな事を言った。
直後、ウェザエモンが【天晴】のモーションに入ると同時。
そのモーションにシグリンデの【狂騒龍牙】が叩き込まれ、再びサンラクは戦闘不能となった。
◆ ◆ ◆
「詳しく説明してくれシグリンデ」
「私の最大火力のスキルは、【狂騒龍牙】と【光輝龍爪】を3回ずつ当てないと発動できないんだ。だから、今のウェザエモン相手だと最悪2回は【天晴】を時短で発動させることになる。つまりターゲットがサンラクに集中してたら、2回は戦闘不能になって貰わないといけなかったってこと」
「言っといてもらって助かったわ……。こっちも最大火力に向けての調整とかあったんだが、オーケーだ。俺はいつでも行けるぜ、リキャストも戻ってるし切り札も用意できた」
ウェザエモンの【晴天大征】。それを捌きながらシグリンデはサンラクへと答えた。『いきなりでごめん』と言葉を添えて。サンラクからすれば無問題だ。いつも彼女の姉のペンシルゴンには事前の話も何もなく突然とんでもないことをやられるなど日常茶飯事だったからだ。それと比べれば、ちゃんと説明もしてくれて申し訳無さそうにしてくれても居るシグリンデは本当にペンシルゴンの妹かと何度も思った。
「それじゃ……覚悟は良い?」
「いいぜ、理不尽を真っ向から叩き潰すって言葉を聞いてからワクワクしてるんだ。 ――それに、俺もあのウェザエモンをぶん殴らないといけない理由がある」
自分を信じてお守りを預け見送ってくれたエムル、きっと過去に何かしらの縁があるのだろう。とても悲しげに、懐かしそうにウェザエモンの話をしていたヴァイスアッシュ。そしてその兎の親分は、挑戦者としての度胸を認め手助けまでしてくれた。
何よりも、あの強大な相手に挑み、真っ向から勝利してみたいという気持ちはゲーマーとしての心を。とてもワクワクさせて楽しい気持ちにさせた。そうだ、自分はゲームが好きだから、楽しいからこそゲームをしているのだ。きっとそれは、今ともに戦うシグリンデも同じなのだろうと思った。
頷きを返され、シグリンデが最後の一発。3発目の【光輝龍爪】をウェザエモンの【雷鐘】へと叩き込む。そして起こるのは、定められた結末への時短。すぐさまウェザエモンは【天晴】の発動モーションに入り、シグリンデを回避不能状態とする。
だが。本来回避不可能のそれに対する手段は、まだ回数を残している。本来、通常の時間軸。つまりこのウェザエモンとの戦いの場のような特殊な場以外では、時限制の強化スキル中に一度しか発動できないスキル、
サンラクとシグリンデ、二人の準備は整った。そうして幸運。サンラク風に言えば乱数の女神は、ここでシグリンデに味方する。勝負に出る【晴天大征】のフェーズ、そこでターゲットされたのは、シグリンデだった。
■
元々の権能は、
なお、ジークヴルムの場合『まだだ!』という言葉とともにこれが発動される。加えて、再構築時に本人の能力が上昇した状態でリスポーンし、更に諦めず立ち上がる限り無限に成長を続ける。相手が強敵や倒すべき強大な敵であればあるほど、能力上昇や成長度合いが上がる。
シグリンデの場合は、【竜王顕現】発動中に本来一度だけ発動できるスキル。一部例外を除いて殆どの攻撃に対して一度だけ確定回避をすることが可能。存在自体をデスペナの発生しないリスポーン扱いとして、その場に再構築する。再構築時、僅かな時間だが無敵時間も発生する。
■あとがき
『まだだ!』
「まだだよ!」
多分将来的にこんな感じになる(ゲロ)
後々出てくるエムル枠が某糞眼鏡みたいにはなりません。
【天晴】をシグリンデのスキルで止められなかったのは、【晴天大征】が発動時点でその過程から結果まで、つまり連続するウェザエモンのスキルと最後に来る【天晴】を発動時点で確定させているため無効化できなかったのと、発動時にスキルとしての連続するものではなく、行き着く結末をゲームシステムとして確定させているため止められなかった。ウェザエモン側の内部処理が最優先になっていて、スキルでの無効化が追いつかなかった。
なので、連続するスキルと【天晴】というセットで確定された結末を、シグリンデが止めてしまってその前提であるスキル部分だけがカットされた。結果、時短で【天晴】が発動した。
なお、【天晴】を不発の扱いにしただけなので、攻略扱いにはなりません。割とシグリンデはゲーム内部ではバーサーカーで脳筋。『パワーで解決しようか王様』『よいな!面白そうだから我も興が乗ったぞ!』なんてことをやる。また、乱数の女神にはかなり愛されている。
マッシブダイナマイトさんとはとても相性がいい。そのうちキョージュ繋がりで会う。
まだシグリンデは最大火力スキルを残しています。