息も絶え絶え、と言った状態でオイカッツォとペンシルゴンはその戦いを遠目で見ていた。変形し、より一層凶悪な猛攻を見せていた『騏麟』を倒すことには成功した。だが、ペンシルゴンの武器ストックは底をついており、オイカッツォも限界だった。
視線の先、行われているのはウェザエモンと二人の戦い。その最終局面だった。
「……すげえ。あれが、シグリンデ。天才と言われた『天音悠乃』か」
「ちょっと、ゲーム内ではリアルの名前は……って、どういうこと?カッツォくん」
本来ゲーム内部でリアルの名前を呼ぶのはご法度だ。幸いにして、ここは隔離エリアで自分達しか居ない。それをわかった上でオイカッツォは呟いたのだろうと思ったが。
「ペンシルゴン、お前の妹さんさ。プロゲーマーの間でなんて言われてるか知ってる?」
「案件とかでプロの人と配信してるのとかは知ってるけど……何かあるの?」
「『規格外の天才』だよ。声優業とかあっち方面の業界で話題になってなきゃ、こっちの業界の企業がスカウトにすぐ飛びつくレベルでの天才だよ」
「確かにゲームのにセンスは飛び抜けてるとは思うけど……そんなに凄いの?うちの妹」
「世界最強の格闘ゲーマー、そいつが『プロじゃないのが悔やまれる』って言うレベルでだよ、妹さん。こうしてシグリンデの戦いを見たら嫌でもわかる、あれは天才だ。とんでもなくヤバイ、ぶっちゃけ悔しいけどプロの試合でも今の俺じゃ勝てない」
プロゲーマーとしてのオイカッツォ。魚臣慧は、日本においては最強の格闘ゲーマーである。総合戦績は世界ランク内でも8割、世界規模という枠組みで見てもトップレベルのプロゲ―マーである。そんな彼から出た、『勝てない』という言葉。それにペンシルゴンは驚いた。
「あいつは俺のライバル……シルヴィアと同類だ。そうしてそのシルヴィアも、シグリンデのことを『残酷なほどに正確無比なカウンターセンス。怖いけど、同じくらいにワクワクする』とまで称した。それほどまでに規格外なんだよ」
「……そう。でも、あの子が私の大事な妹なことに変わりはないよ。どうあれ、私はあの子が負けるとは微塵も思ってない。むしろ向こうにはサンラクくんも居る、きっととんでもない方法でウェザエモンを打倒して見せる。そう信じてる」
「ははっ、そうだな。クソゲーで培ったセンスを持つサンラクに、プロ達から規格外と称されたシグリンデ。二人がどんな方法であのウェザエモンを倒すのか、確かに楽しみだ」
いつだって妹は自分のことを信じてくれた。絶対の信頼を向けて、最高の姉だと言ってくれた。だからこそ、自分も思う。シグリンデは、悠乃は最高の妹なのだと。そう思うから、絶対の信頼を自分も向けられるのだ。
自分にできることは、ない。このままウェザエモンとの戦いに加勢するのは悔しいが邪魔になるだけだろう。だからこそ、信じるのだ。最高の外道仲間と、そして最高の妹が勝つ未来を信じて。
◆ ◆ ◆
ウェザエモンとの戦いは最終局面を迎えていた。サンラク、シグリンデ共にそれぞれが保有する最大の火力をぶつける準備は整った。ミスは決して許されない、だが二人は冷静だった。むしろ、楽しそうでさえある。
強敵に挑む挑戦心、それを超えたいと望む欲。極度の緊張感に、刹那の時間で繰り返される攻防。それら全てが楽しいのだ。
勝たなくてはならない、ウェザエモンを終わらせてやらなければならない。だが、それが惜しいと思えるほどに楽しいのだ。
『これ程か、神代の英雄よ……!ふはは!防衛機構として組み込んだ状態でこれなのだ、一体あの時代のお主はどれ程の猛者だったのだ!? ……ああ、叶わぬと理解しているがあの頃に会いたかったものよ』
シグリンデの眼。現在は黄昏色となっているその両目を通して見えるウェザエモンの戦いぶりを見てジークヴルムは称賛した。あの時代には、これ程までに『
『……だがな、嘗ての英雄よ。ここは最早、新世代の時代なのだ。故に、幕引きと行こう』
準備は整った。条件がすべてクリアされたことにより開放される、シグリンデの最大火力。完全体となったジークヴルムの権能の一部とはいえ、絶大な威力を誇る切り札。そのために、ジークヴルムは完全制御が可能となった自身の黄金のマナを盟友へと送った。
『――さあ征くぞ盟友よ!嘗ての英雄に教えてやろうではないか、どちらが強いのか。そして今の世代の強さを!』
『楽しそうだね王様。……私も楽しいよ。真っ向勝負で叩き潰す!』
そうして、時間が訪れる。同時、サンラクが行動不可能となったシグリンデの近くまで加速し、ありったけのスキルブーストに切り札の準備をする。
「――晴天大征、流転と手向けを以って終極と為す」
「晴天転じて我が窮極の一太刀。我、龍をも断つ……!」
その言葉に対して、ジークヴルムは不敵に笑い言ってみせた。
『受けて立つ。断ってみよ、勝つのは我等だ』と。
「【天晴】ッ!」
放たれる必中、一撃必殺の一撃。その一太刀は全ての事象を捻じ曲げて、相手を真っ二つにして斃すという結果のみを残す。今までは二人は蘇生や特殊回避を使用して凌いできた。だが、今回は違う。
防げないならば、真正面から最大の火力で圧倒してねじ伏せる。それが、二人の作戦なのだ。
「――
「――
それは、奇しくも同じ黄金の輝きを纏う攻撃だった。
シグリンデの放った最大火力の切り札、【
そして、サンラクの放つのは
二人の最大火力の切り札。それが同時に叩き込まれる。
そうして。拮抗状態の中、動きを見せたのは――ウェザエモンだった。
変化が起こったのは、ウェザエモンの持つ刀だった。ふたつの超高火力に耐えられず、刀の刀身にヒビが入ったのだ。そうして、真っ二つに折れると同時、ウェザエモンの腕に亀裂が入った。その亀裂は広がっていき、同時。勢いを押し殺せなくなったウェザエモンはサンラクの斬撃と、シグリンデの極光の斬撃を同時に受けた。
数瞬の静寂の後。折れ、空中へと飛ばされたウェザエモンの刀が地面へと刺さった。そうして。顔を見合わせて一息ついたようにしたサンラクとシグリンデはウェザエモンに向かって。
「窮極の一太刀」
「攻略完了だよ」
勝敗は決した。
シグリンデとジークヴルム。そしてサンラクは、神代の英雄であるウェザエモンを打ち破ったのだ。
◆ ◆ ◆
「……見事。よくぞ我が窮極を見切った」
既に刀は折れ、その白い鎧はボロボロでひび割れている状態。最早限界なのは明白であり、いつ自壊してもおかしくないほどの破損状況でウェザエモンが紡いだのは、勝者への祝の言葉だった。
「晴天転じて我が窮極の【天晴】、言葉は移りて祝に転ず……天晴である。まことに、見事であった。次代を担う末裔たちよ。そして」
ウェザエモンはそのままシグリンデを見た。正確には、彼女の左目を。
彼は理解していた。その黄金の瞳は、かの竜王の因子であり。そしてその先には、その竜王が。『彼』が嬉しそうに、誇らしげに話していた竜王が居ることを。
「礼を言う、黄金の竜王よ。最早、悔いは……ない」
ジークヴルムは静かに休息地で目を閉じた。そして、シグリンデに『伝えて欲しい』と言ってある言葉を言った。
「神代の英雄、ウェザエモン。貴方の強さに敬意を。……黄金の竜王から伝言があります」
「……呵々。それは、よい……向こうへの手土産だ」
「――『後のことは任せよ、世界は我が守る。故に、安らかに眠り向こうで彼や番と人の歩みを見ていよ』だそうです」
ああ、安心した。とウェザエモンは思った。
自分は妻を、刹那を失い心が折れてしまった。そのせいで贖罪のために永遠に彼女の墓を守る存在となってしまった。そうして、自分達、神代もまた負けてしまった。滅びて、次の世代に希望を託すのが精一杯だった。
それが、想定以上の希望の輝きとなっていることに安堵したのだ。不完全だった竜王は完全な存在となり、世界を守りし竜王となった。次世代に芽生えた希望、開拓者と共に在る正真正銘の希望となったのだ。
きっと、『彼』も安心するだろう。誇らしいだろうと思った。きっとかの黄金の竜王はもう負けない、人や開拓者と手を取り合い、神すらも退け討ち倒すだろうと確信した。
「天を統べ、世界を……蒼天を守る。まさにその有り様、『蒼天の守護竜』とでも言うべきか。ああ……安心した……」
この場にいる全ての人間。『二号計画』の末裔である開拓者達へとウェザエモンは告げる。安心した、と。そして、静かに歩みを進めて折れた刀を手に持つと、中央の桜の木。墓標の下へと歩みを進めていく。
「……我が、身……朽ち果て……眠、る」
ゆっくりとした足取りで、墓標へと進むウェザエモンがそう呟く。
その声は既に限界を感じさせるもので、足取りすら安定していなかった。
「未来は、紡がれる。世界の守護者と共に、開拓者達は、歩んで征く……」
遂に、墓標の前。満開の桜の木の下へと辿り着いたウェザエモンは、手にしていた大太刀を桜の近くの地へと突き刺すと、そのまま墓前に祈るようにして膝をついた。
「刹那、永い間待たせてすまない。今……俺もそこへ征く」
限界だった身体で、彼はその言葉だけははっきりと言いきった。最後にそう言って、彼の身体が崩れていく。頭からまるで灰となるように崩れ、崩れ去った残滓は風と、桜の花に抱かれるようにして空へと消えていった。
■
元々の権能は
なお、己を弾丸とした本人は使用後、
更に本人使用のものはリキャストが存在していない。
シグリンデの場合は保有する攻撃の中での最大火力スキル。例えるならば某型月の運命に出てくる
黄金のマナを制御可能な限界まで『ファフニール』の刀身へと収束させて超大な光の刃を形成。そのまま光の刃での斬撃と薙ぎ払った方向に膨大なマナの暴走を伴う光の波を発生させ、直進方向に存在する全てを灰塵と化す決戦技スキル。
■シルヴィア
実は悠乃の大ファン。最初、本気でプロ業界にスカウトしようと考えていたが断念した。彼女を知ったのは、息抜きにゲーマー配信特集を見ていた時。そこでたまたま米国のトッププレイヤーの一人がプロアカウント使って乗り込んでボコボコにされた出来事を見た。とにかく初見時から背筋が冷たくなるような感覚と、慧と戦ったときのようにどうしようもなくワクワクするのを感じた。
が、慧から彼女がプロではないと聞かされてとてつもなくしょんぼりしていた。それでも興味は尽きないので、声優と聞いて悠乃の出演している作品やラジオ、配信をチェックするようになった。実はたまにお忍びで変装して彼女が出演するイベントにも参加している。過去にボコボコにされてときめいてファンになったという米国在住筋肉モリモリ長身男性とはフレンズであり同好の士。
拙作では慧との仲は良好、ライバル関係だが一緒にVC繋いで配信見たり話したり、日常的な会話もしている。勝負事ではお互い火花を散らしているが、普段はわりといい雰囲気である。基本的に彼と話す時は日本語のため、かなり流暢に日本語を話す。慧とちゃんと向き合いたいという気持ちから日本語を勉強し、また悠乃がキッカケで日本アニメのファンにもなってそこでも覚えた。たまに変な日本語やスラング、アニメの名言を話す。
現代では技術も発達して、基本的にオンラインでの試合も多く、世界大会レベルの試合は自国以外の外国で行われることが多い。特に最近はシャンフロなどの影響もあってか大会関係は日本での開催が多い。なので彼女としては、『練習とか打ち合わせはオンラインでも出来るしチームの所属だけ本国にして日本に移住してもいいのでは?』と最近考え始めている。