鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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鉛筆騎士王と相談事

「ええっと……アーサー?大丈夫?」

 

「これが大丈夫そうに見える……?ちょっと待って、頭整理させて」

 

 場所はサードレマ。その街の中に存在する裏通りにひっそりと開店しているNPCカフェ『蛇の林檎』。店舗が極めて難解な場所にあるため、基本的にこの店には殆ど人が入ってこず、天然の隔離エリアに近い隠れ家のような場所。

 

 最近はよくここで外道仲間であるサンラク、そしてオイカッツォと相談などをしているのだが今日は違った。店内のテーブル席に座っているのは、ペンシルゴン。そして、あまりこの店では見慣れないプレイヤー、開拓者だった。

 

 アバターの背丈やスタイルはペンシルゴンとよく似ている。灰色の軽鎧にショートジーンズに皮のロングブーツ、鎧の色と同じ灰色のコート。どちらかと言えばくたびれた、という印象を抱かせるその色彩の防具に対して、プレイヤーの容姿は目立っていた。腰まである白混じりの空色の長髪をサイドテールにしており。そして特に他人の目を惹くのは、その瞳の色。右の蒼の瞳。

 

 

 そして左の『黄金』の瞳だった。

 

 

 虹彩異色症。俗に言うオッドアイであり、現在のシャンフロではかなり珍しい。そもそもの話として、ペンシルゴンもシャンフロの莫大なキャラクタークリエイトシステムを全て暗記しているわけではないが、記憶が正しければキャラクターメイクの時点でアバター、つまるところ開拓者の目の色をオッドアイにする設定は無かったはずだ。

 

 プレイヤーネーム、シグリンデ。そして俗に言うこの中の人は、自分の双子の妹、天音悠乃である。

 

 蛇の林檎でこっそりと、それもペンシルゴンとしてはサンラクやオイカッツォには秘密で妹と会って聞いた話は彼女の頭をオーバーフローさせた。とにかく情報量が多すぎた。

 

「つまり……ゆ――じゃない。シグリンデ、貴女は山の上でランダムエンカウントとして確認されている『天覇のジークヴルム』と接触、そのまま戦闘に突入して、傷まで負わせた。そこでジークヴルムに武器と装備を貰っただけじゃなくて、呪い?みたいなものまで貰ったと。その左目は、受けたその呪いみたいのが関係していると」

 

「まあ、大まかには。でも思いっきり翼を叩き切ったつもりだったんだけど、ダメージがないみたいに再生されちゃったけどね」

 

「……で、その呪いのような何かの詳細については、見せてくれた通りで、諸々の装備周りも同様と。これ、誰にも見せてないよね?」

 

「勿論。真っ先にアーサーに連絡したんだよ? ……まあ、私も『王様』と戦った後、本当疲れ切っててセーフエリアですぐログアウトしたんだけど」

 

「王様?」

 

「うん、ジークヴルムってなんというか……『天覇』って言うのもあって竜達の王様みたいなものって感じがしたから。だから王様」

 

「うちの妹はなんとも独特の感性というか、まあいつものことか。しかし呪い……本当に呪いなのかな」

 

 ペンシルゴンの疑問点はまずそこだった。ユニークモンスターから呪いをかけられた例は存在している。何より、自分の外道仲間であるサンラクがいい例でもあるのだが、この呪いについて共通していることがある。それが、呪いをかけられた部位に対して装備をつけられなくなるということだ。

 

 更に特有なのが、呪いを受けた場所に傷のようなものが残る。だが、妹。シグリンデにはそれが発生していない。

 

「シグリンデ、貴女が受けた呪い……かは怪しいから、あえてそのステータス表示通りジークヴルムの『刻願』(こくがん)と呼ぼうか。それによる効果は、特定の武器。あなたがジークヴルムから貰ったとかいう、その特殊な武器以外の武器を使用不可能にする、って効果でいいのよね」

 

 シグリンデはジークヴルムと戦った際、手持ちの武器を使用して戦闘していた。だが、その最中で武器が破損、継戦は困難かと思われた中でジークヴルムから『それを使ってみよ』と、空中から地面に投げるようにして渡されたのが、『指輪』と、巨大な刃を持つ『剣槍』だった。

 

 黄金色のシンプルなリングに、石座には透き通るような、だが濃い蒼色をした宝石のようなものが存在している指輪は『黄金の円環』という名前のアクセサリー装備。左手の人差し指に存在するこれも『刻願』の効果により外すことが不可能となっている。

 

 そして、何よりもペンシルゴンを驚かせたのは武器だ。

 

 今のシグリンデのアバターは現実とそう変わりないほどの身長である。姉であるペンシルゴンと同じくらいの身長。165センチ程の身長の彼女が手にしたのは、その背丈よりも大きな。長い柄と巨大な両刃から構成される『ファフニール』という名前の剣槍だった。

 

 蛇の林檎に来る前、人目のない場所で見せてもらったそれは異質だった。まるで大剣とも思えるほどの両刃を持つそれの柄も刃も錆びついており、一見武器としての性能は期待できなさそうに見える。だが、ペンシルゴンはその武器を見てゾクリ、となにかを感じたのだ。見た目はこうだが、この武器はその切れ味を失ってはいないと。事実、シグリンデはこの武器を使って、ジークヴルムと戦ったという。

 

 間違いなくまだなにか別の、とてつもないものを秘めていると感じさせた。そして、少なくともペンシルゴンはこのような『剣槍』をシャンフロで見たことがない。『廃人狩り』(ジャイアントキリング)としてPKに勤しんでいた頃も、廃人連中がこんな武器を持っているのは見たことがない。

 

 これほどまでに異質で巨大な武器を、妹。シグリンデは片手でも軽々と扱ってみせる。彼女のビルドはSTR寄りのアタッカービルドだが、それにしても片手で扱えるというのは、例の『刻願』や『指輪』が持つ何かが関与しているとしか考えられなかった。

 

「うん、装備周りについてはアクセサリー枠1枠と、それから武器スロットは完全に固定かな。後は……あ、そうだ。職業(ジョブ)とスキル周りもこの指輪をつけたら変化したかな。今は ――『竜騎士』になってる」

 

「ここで更に情報の波を浴びせないでくれるかなあ我が妹……」

 

「あ、あはは……ごめん。こういうのは、相談するならオル君よりアーサーのほうがいいかなと思って」

 

 オルスロット。シグリンデの可愛がっている弟でもあり、ペンシルゴンの弟でもある。確かに、こういった内容は愚弟より自分のほうが適任だし、何より愚弟が知れば何をするかわからないとも思った。もっとも、愚弟からしても大好きなほうの姉のことではあるため、変なことはしなさそうではあるが。

 

「それは正解。あの愚弟に相談なんてしてたら、今頃は『ねーちゃんのために!』なんて騒ぎ出して、後先や周囲からの諸々考えずにクランフル動員で接待されてるよ。……んー、なるほど。それでシグリンデ、さっきも聞いたけどその左目もジークヴルム関係だよね」

 

「多分、ね。恐らくだけど『刻願』っていうのがこの眼の色の変化だと思う。装備関係と職業以外の影響だと、さっき説明した感じ」

 

 シグリンデの受けた『刻願』は、異なる部分はあるが最強種からの『呪い』に似ていた。

 

 まず、装備の制約。これは少し変わっているが、特定の武器しか使用できないというのは、呪いのかけられた部位に装備がつけられないというのと似ている。次にNPCとの対応補正なのだが、ここは少し変わったところがある。

 

 シグリンデの場合、この補正効果に加えて動物系モンスターへの補正、そして特定の知能の高いモンスターと意思疎通が可能になるらしい。これについても、ペンシルゴンからすればとんでもないことと思うと同時。厄介の原因になりかねないとも思っていた。

 

 最後に、デバフ・呪いなどの無効効果。これについてはメリットとも言えた。シグリンデのビルドは、とにかくパリィとジャストガード、カウンターで攻撃を捌きつつ、STR主体の大火力にバフを重ねて相手を制圧するフロントアタッカーだ。常に最前線でDPS、つまり火力を担当するロールからすれば、敵からのデバフ効果を無効にできるというのは破格の能力だ。

 

「正直とんでもない事態だと思う。でも……ユニーク関係、か」

 

「アーサー?」

 

 心配そうにこちらを見る妹。シグリンデに対して苦笑して『ああ、大丈夫』と返答する。

 

 確かに妹の持ってきた、というよりは手にした力は強大だ。確認できただけでも、少なくとも野放しには出来ないと思ったしするつもりはなかった。打算、というよりは妹が心配だというほうがペンシルゴンとしては大きい。

 

 少し考える時間が欲しいが、ウェザエモンとの決戦。もし、ユニークに関わってくるのなら、そこに手を貸してもらうのもいいかも知れないとも思った。少なくとも、この妹の戦力は本人のプレイセンスという意味合いでも、今の純粋な武力という意味でも破格だ。

 

 だが。ペンシルゴンは腑に落ちないことがある。

 

「ねえ、シグリンデ」

 

「ん、どうしたのアーサー」

 

「ジークヴルムと戦った後……クエストが出なかった?ユニーククエスト、もしくは語尾にEXってつくやつ」

 

「出てないかな。……というより、ちょっと王様が色々イラっとすること言ったから、私が反論して。それでフラグでも折っちゃったのかも」

 

「えぇ……?何言ったの」

 

 むすっ、と。妹には珍しく、『私は悪くない』というように不機嫌そうにして。

 そうして、言ったのだ。

 

 

「『刻願』を私にかけてる時かな。自分を斃せだのどうの言ってたから、言い返してやったんだ」

 

 

 そうして、シグリンデは告げた。

 

 かの竜王。天を統べる黄金の竜の期待を、当人の予想を遥かに上回る方向で裏切った言葉を。

 少なくとも黄金の竜王はその時思ったのだ、  ――見つけた、と。

 

 

   ――『私は、竜を『狩る』のではなく『駆る』。だからその願いは聞けない』

 

 

 




■天音悠乃/シグリンデ
 永遠と瓜二つの妹。髪は永遠より短く、姉と同じ色の髪のセミロング。永遠のほうが大人びた雰囲気と評するなら、悠乃は清楚なお嬢様でかわいい系。姉より若干タレ目で口元にはいつも笑みを浮かべているお姉さん。弟に甘い、ブラコン。怒らせるととても怖い。キャラクタービルドはSTR主体のフロントアタッカー。俗に言う筋バサ。真正面から相手を迎撃するスタイルで、タンクも出来る。

 メイン武器は柄が長く刃が大剣ほど巨大な剣槍。本来、何かに騎乗して使用されるはずのそれを軽々と振り回して、大火力の攻撃とパリィやジャストガードを主体として攻めていく。

 キャラクターのバトルモチーフは、ダークソウル3の無名の王、ファイナルファンタジー14のエスティニアン。

■ファフニール
 シグリンデのメイン武装である巨大な剣槍。見た目はダークソウル3の無名の王の持っていた竜狩りの剣槍。拙作的には竜駆りの剣槍といったほうがいいかもしれない。

■黄金の円環
 シグリンデのメイン装備品。ジークヴルムから貰った黄金の指輪。台座には蒼い宝石が埋め込まれている。

■ジークヴルムの『刻願』
 シグリンデの左目に刻まれた、天に座す竜王の呪いであり願い。
 しかし彼女はそれを否定した。否定し、別の道を示した。
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