鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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人と竜が紡ぎし、彼岸へと贈る希望の詩 其の十一

 ――『『黄金の竜王』と共に、過去の残滓に安らかな休息を与えました』

 

 ――『黄金のマナに対する深度が上昇しました。それにより、竜王の権能が行使可能になりました』

 

 

『決戦スキル【竜王顕現(ドラゴンインストール)】とそれに内包されるスキルを使用可能となりました』

 

 

 

 ウェザエモンが消え、世界が崩れていく。桜の木が枯れていき、そして崩壊の後に4人が立っていたのは『秘匿の花園』だった。見渡す限りの彼岸の花。星星が存在する夜空と。枯れた桜の木。そして、無機質に表示されたシステムメッセージが現実へと意識を戻していく。

 

 激戦で実感のなかったものが込み上げてくる。自分達は勝ったのだ、と。そしてセツナやジークヴルムが願っていたように、過去に囚われもう自分では倒れられなくなっていた嘗ての英雄に休息を与えることができたのだと。

 

『シグリンデよ、礼を言う ……そして見事だった。お主と強き者達の戦いは我の心を震わせた』

 

『それはちょっと違うよ、王様。私達四人だけじゃない。私達開拓者と、黄金の竜王……ううん。ウェザエモン風に言うなら、世界の守護者する『蒼天の守護龍』の勝利だよ。正直、王様が力を貸してくれなければもっと激戦だったと思う』

 

『ふむ、そうか……我とお前達の勝利か。ハハ……なんとも心地の良い響きよな……』

 

 嬉しそうに、その言葉を咀嚼するようにしてジークヴルムは呟いた。

 

 しかし、周囲の景色は元の場所。夜の風景と彼岸花の花畑に戻ったが、クエストクリアの表示は出ていない。

 

 

「終わった、のか?」

 

「クエストクリア表示はまだみたい ―――ッ!」

 

 

 桜の木の下へと視線を移したペンシルゴンが驚いたようにして、『せっちゃん』と呟いた。

 

 全員がペンシルゴンの視線の先を見る。そこには、崩れて空に散っていく、ウェザエモンの大太刀、そしてそれの上に手を添えるようにして立つ、セツナの姿があった。

 

 

「アーサー、シグリンデ。それにオイカッツォとサンラク。 ……成し遂げてくれて、ありがとう」

 

 

 儚げな笑顔。だが、感謝の想いを込めてセツナは告げる。そんな彼女に対して、四人は歩み寄る。

 

「あなた達四人だけじゃない。黄金の竜王、あなたも本当にありがとう。あの人を、眠らせてくれて。本当に今の貴方は私達にとっても希望よ。きっと、あの人も。『彼』も、そして……『刹那』も貴方のことを誇りに思っているわ」

 

 その言葉に対して違和感を覚えたが、ジークヴルムは『そうか、やはりお主は』と呟いてそのまま沈黙した。

 

「……きっと、『刹那』も安心してくれたと思う。怒っているかもしれないけど。もしかしたらきっと、あの人は向こうですごく叱られてるかもしれないわね。『彼』と『刹那』二人から正座させられて、こっぴどく色々言われてるかも。ふふ、想像したら少し笑ってしまうわね。神代最強の英雄が、正座させられてお説教だなんて」

 

 やはりおかしい。まるで、その言い方では自分が刹那ではない、という言い方だからだ。 

 

「セッちゃん……セツナって貴女のことでしょ?」

 

「いいえ、アーサー。私は確かに『セツナ』ではある。けれどあの日死んだ刹那本人とは違うの。彼女の願いが、『もしも恋人がずっとずっと私の死に囚われるのなら、どうかやめてほしい』という想いが生み出した残滓、謂わば筆跡まで完全に再現された写本のようなもの。役割を終えれば消える存在。それが、私」

 

 

 

 その言葉の後、彼女の半透明だった身体が少しずつ薄くなっていく。

 

 

 

「待って、セッちゃん!」

 

「悲しまないで、アーサー。彼女の願いに世界が応えた時点でいつかはこうなることは決まっていたの」

 

 

 消えゆく身体で4人を見回した後、真剣な表情になって言葉を続ける。 

 

「貴方達は開拓者。『二号計画』の末裔。……もし、あなた達が自身のルーツを。世界の真実を知りたいと願うなら、バハムートを探しなさい」

 

 続けて。セツナはシグリンデを見た。

 

「シグリンデ。あなたは開拓者の中でも、きっと幻想種との関わりの中核となると思うわ。人と竜が刻む歴史、それは私達の時代でも成し得なかったこと。その先は未知で、無限の可能性に満ち溢れている。……きっと、この先貴方たちには数々の困難が待っていると思う。多くの謎にぶつかることもあると思う。でも、あなた達と黄金の竜王ならば、どんな苦難さえも乗り越えていけると信じている。私達でも乗り越えられなかった絶望さえも、超えられると信じている」

 

 セツナがシグリンデの左目を見た。真剣に、託すように。

 

「黄金の竜王。どうか人を、開拓者を。そして『世界』をお願い」

 

 その言葉はセツナへと聞こえることはない。だが、ジークヴルムは『確かに任された』と言い、セツナもまた、目を閉じて頷きを返した。

 

「バハムートが何なのかって疑問は在ると思う。でも、私からはそれについて答えることは出来ない。だからどうか、此処から先は自分で見つけ出して、自分で答えを見つけてほしい。きっと、それが未来を切り拓く者。『開拓者』だと思うから」

 

 身体が殆ど消えかかっている状態。残されている時間はもう少ないのだろう。

 

 そんな中、彼女はペンシルゴンを見て

 

「……最後に。アーサー、これはセツナとしてではなく私自身が貴女に贈る言葉」

 

 それはただの写本としてではなく。自分を想い、願いを叶えるために全力を尽くしてくれた彼女への言葉。きっと、同じ世界で生きていたなら。仲の良い親友となれただろうという想いを込めた言葉。

 

 

「いつも「私」に会いに来てくれてありがとう。大好きよ、アーサー」

 

 

 その言葉に対して、ペンシルゴンは何かを言いかける。だが、すぐにその言葉を飲み込んで、笑顔を作る。見送らなければならない。ちゃんと前を向いて、自分の言葉を伝えてくれた『彼女』に。

 

 

 

「……こちらこそ!」

 

 

 

 目元には涙を浮かべ、だが笑顔で手を振るように。見送るようにしながら言葉を送る。そんなペンシルゴンに対して彼女もまた、笑顔で。そして手をふるようにして。光の粒となって、消えていった。

 

 

『墓守のウェザエモンは永い眠りについた』

『セツナの残滓は遠き日の願いを終えた』

『ユニークシナリオEX「此岸より彼岸へ愛を込めて」をクリアしました』

 

 

 セツナが消えると同時。クエストクリアのメッセージとシステムメッセージが表示される。

 セツナの願い。そして、ペンシルゴンの望み。それは今ここに叶ったのだ。

 

 

「……改めてだけど。サンラクくん、カッツォくん。そしてシグリンデ。私の我儘と無茶に付き合ってくれてありがとう、本当に感謝してる」

 

「なんだよ改まって。俺達はやりたいと思ったから乗ったんだぜ?強い相手、無理ゲークソゲー、そんな理不尽をぶっ飛ばしたり踏破すんのは最高に楽しいからな」

 

「そうそう。俺もまあ、個人的な目的でウェザエモンみたいな相手と戦ってみたかったってのはあったし。いい修行にもなったよ。シャンフロにおいて初めてのユニーク討伐って称号だけでも十分な栄誉だよ」

 

「私も、色々とアーサーにはユニーク関係のことで骨を折ってもらったし。それに、未知の強敵と戦うのは楽しかった。これだけ集中したのも久しぶりだよ」

 

 

 もう一度ペンシルゴンは心の中で感謝する。外道仲間二人に、そして付き合ってくれた妹に。

 

「よし……さぁて、報酬確認と洒落込もうか!」

 

 自分のセツナへの思い入れとは別として、シャンフロにおける規格外の存在。ユニークモンスターを倒したのだ。つまり、それ相応の報酬も期待していいだろう。インベントリを確認しようとした、その時だ。

 

 巨大な鐘。ゲームマスターアナウンスが出現し、カラーン、カラーンと荘厳な鐘の音が鳴り響き。そうして。その言葉を全てのプレイヤーへと通達した。

 

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

 

『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の討伐を確認いたしました。討伐者はプレイヤー名、サンラク。オイカッツォ。アーサー・ペンシルゴン。シグリンデの4名です。さらにユニークモンスターの討伐に伴い、ワールドストーリー「シャングリラ・フロンティア」の進行を報告させていただきます』

 

 

 

        ◆     ◆     ◆

 

 

 

 シャフロ全体に告知されたアナウンス。それをウェザエモンを踏破した四人に関わる者達は、それぞれの場所で聞いていた。そうしてそんな中のひとりでもあるオルスロット。天音久遠はどことなく嬉しそうにして空を見上げた。

 

 

「……やったんだな、シグ姉。それから、クソ姉貴」

 

 

 彼の呟いた満足げで嬉しそうな言葉とは正反対にそこは地獄だった。周囲ではアナウンスを気にすることなくプレイヤーへと襲いかかりPVP、PKを仕掛けるプレイヤー達。むしろその全体アナウンスに呆気に取られて動きを止めたのがチャンスだと言わんばかりに襲いかかっていく。

 

 かつて【阿修羅会】の根城だった、断崖に漂着したような大きな船は今は炎の手が上がっており、船の上の近くの浜辺。他にもいたるところにプレイヤーが倒れている。それは、PKである者。そうではない者様々だ。

 

「オルスロット!隙ありだ!」

 

「うるさい。気分に浸っているのを邪魔するな」

 

 不機嫌そうに言って、無造作に彼は『殺戮者の魔剣(スローターブリンガー)』を横薙ぎにして襲いかかってきたPKKを両断し、そのドロップ品には目もくれず近くのPK仲間に『やるよ、好きにしろ』とだけ言って再び空を見上げた。

 

 今のこの惨状、それを起こしたのはオルスロットだ。大好きな姉からの、小さなアドバイス。そこから考えて思いついたのがやがて大きな策略となり。そうして、遂にはシャンフロ内において過去最大規模の大乱闘を引き起こすことになった。

 

 ウェザエモンなんかよりも間違いなく面白いことになる。そう思ったその策略だったが時間がたりなさ過ぎて人が集まるかもわからなかった。だがやってみる価値はある、そう思って彼は去っていった仲間やPK連中に連絡を取った。

 

 

 『今夜、お前達を最大規模の祭りに招待したい』と銘打って。

 

 

 そうして集まったのは、彼の想像を超える数のPK達と、かつての歴戦の猛者のPK達だった。

 

 そこには、強い相手と戦えると聞いて飛んできた『京極』、話を聞いて何かを感じ取ったのか飛んできた『サバイバアル』。他にも、多くのPK達が集った。シャンフロでかつてないほどの大規模な大乱闘、そう聞いた有名PK達から瞬く間にシャンフロ内部のPK達にその話は伝わった。

 

 『【阿修羅会】が祭りをやる』『乗るしかないこのビッグウェーブに』『仕事してる場合じゃねぇ!今日は半休使って早退だ!』『オルスロットが男見せたぞ、逃げるやついる?いねぇよなぁ!』など、シャンフロ、リアル問わずに様々な場所で盛り上がりを見せた。

 

 しかも相手はトップクラン連合だという。そう聞いてPK達の多くは更に盛り上がった。PKとは嫌われ者だ、だからトップクランのメンバーやPKK達から狩られる対象となることもある。だが、やられたらやり返すのがPKの流儀だ。多くのトップクラン達に対してやり返したい、お礼参りの時間だ、というように時間が少ない中PK達は準備を重ねた。

 

 その果てが今の惨状である。参加した大手クランやトップクランは大打撃を受けており、だがPK達の被害も甚大だ。それでも戦闘はまだ続いている。『まだまだ祭りはこれからだ』と言わんばかりに。

 

 正直に言って、オルスロットからしてユニークモンスターなどどうでもよかった。ウェザエモンもただ、使えるから使っていただけだ。それよりも面白いことが出来るのなら、そのウェザエモンというリソースを捨てても良かった。だから捨てたのだ。そうして、それは正解だとも思った。

 

 なぜならば。今、これほどまでに楽しいからだ。

 

 血肉沸き立つ闘争がある。奪うか、奪われるかという瀬戸際の戦いに心が踊る。

 己の刃で、計略で相手が沈む。それはなんと面白いことか。

 

 ああ、だが。今はこうも思うのだ。

 

 挑んだからこそ理解できる。あの最強種の強さに。それを踏破したという偉業。それを成し遂げた大好きな姉に、今は心からの称賛を、と。

 

 

「……ま。こんな楽しい祭りのキッカケを与えてくれたクソ姉貴にも今回は感謝しといてやるよ」

 

 彼はそう呟いて、次の獲物。強敵を求めて燃える船上を歩き出した。

 




■『幻想種』との関わり
 主に竜や精霊、幻獣など神話や叙事詩、伝承などに出てくる存在に対して強く関わることになる。現状のシャンフロという世界においては、そういった幻想種の頂点に君臨するのは完全体となったジークヴルムであり、世界の守護者に付き従う幻想種も多い。中には『竜種』に該当するワイバーンやドラゴン、『龍』の素質を持つ蛇やトカゲなども該当する。

 竜王を慕い、崇拝する幻想種達からすればその竜王と共に在るシグリンデとは、竜王同様付き従うべき相手である。即ちそれは、開拓者でありながら幻想種達と共にある王であり皇帝、『竜皇』他ならない。ジークヴルムに対して付き従う幻想種やそれに関わりのある者と意思の疎通、友好関係の構築が可能となる。

■『連合戦争』
 何気ないアドバイスをした結果それが全てを焼き尽くす大火になったことを知らないし無関係な大好きな姉(悠乃)と、ウェザエモンのために足止めとして用意した計略が利用されるどころかとんでもないことになってしまったあまり好きでない方の姉(永遠)。


 オルスロットが引き起こした、シャンフロ史上最大規模のPVP戦争。クラン連合とPK連合による大戦争。装備の質や物量という点ではクラン連合が優位だったが、対人慣れしているという強力な武器や、奇襲や闇討ち・乱戦慣れしているというPK達の経験、明確な司令塔が居なくとも『ただ相手をPKする』という目的を遂行する信念により最終的にクラン連合が撤退。お互い無視できないほどの大きなダメージを受けたが、実質勝利したのはPK連合だった。

 特にウェザエモン踏破時に告知されたワールドアナウンスにより生まれたクラン連合の隙は致命的であり、ユニークモンスターなどより相手をPKするということを重要視していたPK連合はその隙を強襲、一気に形勢を押した。

 この件の後『阿修羅会』は新たな信念と理念のもと再始動。オルスロットの功績や、二人の姉から受け継いでいるその才覚が目覚め始めたことと、それに気がついたPK達から支持を集めPK界隈においてのトップギルドへと返り咲くことになる。

 なお、オルスロットは暴れ馬とも言える『殺戮者の魔剣』を完全調伏済み。『黙って俺に従え』と言ってとある存在を叩き伏せた。連合戦争により更にその才覚が目覚め始めたせいで、トップクランやプレイヤーからしても手がつけられなくなりつつある。

 
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