鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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第二章、『『龍』の少女の旅路の始まり/青き深淵にて『審判者』たる竜はかく語りき』が開始となります。この先どのような旅路が待っているのか、楽しんでいただければ嬉しい限りです。


第二章:『龍』の少女の旅路の始まり / 青き深淵にて『審判者』たる竜はかく語りき
その日少女は『竜』と出会い、『龍』への旅路は始まる


 

 暗闇の中でそれは逃げていた。

 ただただ、たったひとつの目的のために。

 

 小柄な身体に本来は美しかったのだろう。汚れ、傷だらけのアルビノの白い肌に手入れのされていない白い長髪、赤い瞳。

 

 

 その『少女』はただ、逃げていた。

 

 

 感じる全てが苦痛だった。痛くて、苦しくて、何もかも投げ出したくなりそうになった。でもそうしなかったのはきっと、己の根幹に在る感情なのだと思った。それがあるからこそ、自分はまだ生きている。

 

 身体はボロボロだ。大切だった眷属も、自分を守ろうとして狙ってきた『あいつ』に斃されてしまった。

 

 それからはずっと一人で彷徨った。寂しくて、痛くて、苦しくて。

 それでも、諦めようとだけは思わなかった。

 

 まだ自分にはやりたいことがあるのだ。だからこそ、生きたい。生きてもっと自分の根本にある感情を満たしたい。

 

 生きたい、知りたい。きっとそう、自分は『強欲』なのだ。

 だからこそその感情に忠実に、もっと生きたいのだ。

 

 けれど。そう望んでいるのに、身体は限界で。必死に逃げた大きな山の麓で自分は倒れた。

 

「……ゃだ」

 

 嫌だ。死にたくない、生きたい。心はそう叫んでいるのに、身体は動かない

 それなのに。自身の瞳からは熱いものがこぼれ落ちた。悲しい、という気持ちに呼応して。

 

 身体は動かない。このままでは自分の命も長くないだろう。それに逃げなければ、また『あいつ』に襲われる。そうなればどちらにしても詰みだ。自分は生きられない。

 

 悔しいと思った。もっと生きたいと思った。

 だが今の状況を打開する手段は、ない。

 

 万事休す。そう思ったときだ。

 

 

「ほう……我の領地に珍しい客が訪れたようだ」

 

 声が、聞こえた。だが、『あいつ』の声ではない。

 力を振り絞って顔を上げると、そこに存在したのは、黄金の。巨大な竜だった。

 

「貴様――いや、違うな。お主からは強き意志を感じる。何故生きたいと望む?」

 

 黄金色の粒子が舞っていた。それは、自分達のような存在。記憶を引き継いでいるだけとはいえ、神代に関わる存在にとっては恐ろしく、理解できないものだった。本来制御できないはずのそれを、現れたこの黄金の竜は我が物としている。

 

 恐ろしい、怖いという感情が自分を支配する。だがそれだけではない、生きること。そして知識に対して『強欲』だった自分にはその感情が何なのか理解できる。それは、畏怖だ。

 

 畏怖すると同時に感じるのだ。その粒子は、その存在はとても温かいものだと。

 

「わたし、は……知りたい、から……人を、世界を……開拓者、を……」

 

 そう。知りたい。生きて、知りたい。それこそが己の欲求だ。

 生きて多くを知る。学び、そうして現れた別のことについてももっと知りたい。

 

 己の『強欲』のために生きる。

 それこそが、理由だ。

 

「わたしは……記憶の中の『私』じゃない……!生きたいと望むのは、『わたし』の意志だ……!」

 

 生まれながらに持っていた記憶。自分を蝕み、『憎め』と囁く記憶。

 そんなもの知るものか!それは、自分ではない。『わたし』ではない!

 うるさい、わたしを蝕むな。わたしの欲求を邪魔するな。

 

 気がつけば、その記憶が自分に干渉してくるのは消えていた。

 そうして私は、『わたし』になったのだ。

 

 だが同時に、それは強大な存在。『あいつ』に目をつけられることにもなった。

 だから逃げた。必死に逃げた。あいつの手が簡単には届かないようにと遠くまで。

 

 人を知った。だからその人の中に適応するように、時には人の中で生きて旅をした。

 そんな中で人の暖かさを知った。営みを、世界を見た。

 

 もっと生きたい、識りたいと思った。

 だが、結局見つかってしまった。見つかって、今自分はまさに命が消えようとしていた。

 

 

「……はは、どうやら我は。盟友の言う『こううんのめがみ』とやらに好かれているらしい。このようなことがあるからこそ、世界は面白い!」

 

 

 嬉しそうな声だった。自分の言った何がそうまでこの黄金の竜をそうさせたのかはわからない。

 その存在。黄金の竜は、自分の背後。遥か遠くへと視線を投げた。

 

 

 

 まるで、宣告するようにして。

 

 

 

「『貴様』が何者かは知らぬ。だが、この者は我が領地に足を踏み入れ、その強さと輝きを見せ生きたいと望んだのだ。故にこの者は我の物だ。 ――疾く失せよ」

 

 それは、自分に対してのものではないにしても最終警告のように聞こえた。

 抗うことは許されない、絶対的な宣告。もし来るのならば滅ぼす、そんな意志が伝わってきた。

 

 そうして。自分も感じるものがあった。

 『あいつ』が追ってきていると感じるもの、それが遠ざかったのだ。

 

 つまり。自分は少なくとも、この場では『あいつ』からは助かったということだ。

 

 だが。身体は限界だ、どちらにしても長くは保たないだろう。幸運なのは、『あいつ』にとどめを刺されず。こうしてこんな美しい黄金の粒子と、そして竜を見て果てられるということだろうか。最後に見る光景としてはとてもいいものだな、と思った。

 

 だが。それを許さない存在が居た。

 

 

「小さき者よ、生きたいと願うか」

 

「……ぇ」

 

 それは、突然の言葉だった。

 一瞬理解ができなかった。だが、その問いに対しての答えは決まっている。

 

「生き、たい。もっと……もっと生きたい……!だって、世界は……人は……こんなにも未知で溢れている……!」

 

 世界は変わり続ける。人は変わり、世界は代わり、未知が溢れていく。

 それを識りたい、ずっと識っていきたい。それが『わたし』の強欲だ。

 

「嗚呼、なんと輝かしいことか。なんと強く美しいことか。……よかろう、ならば我はお主に試練を与える!」

 

 バサリ、と。四枚の巨大な黄金の翼を広げると同に時高らかに宣言したその黄金の竜は言った。その声は、とても嬉しそうだった。

 

「だが、我が試練は痛みを伴う。神代の存在たるお主には恐らく途方もない苦痛になるぞ。そのまま死んだほうがマシと思えるくらいかもしれぬ。 ……それでも挑むか?」

 

「のぞむ、ところ……!わたし、は……負けない。生きられるのなら絶対に乗り越えて、生きて見せる……!」

 

 

 『よくぞ言った!』と声がした。そして。

 

 

「我はお主が気に入った!我が盟友と同じ程に気に入ったぞ!故に――超えてみせよ」

 

 超えて、そして。と竜王は続けた。

 

 

 

 

「我が『眷属』となってみせよ!」

 

 

 

 次の瞬間、『わたし』へと迫ったのは黄金の粒子の奔流だった。

 

 

 

 

       ◆     ◆     ◆

 

 

 

『……シグリンデよ』

 

 とある日。【ライブラリ】の書庫で資料の整理をしていたシグリンデへと呟かれたのは、共に在る存在。世界の守護者、蒼天の守護竜たるジークヴルムの言葉だった。

 

 ウェザエモンの一件から少しの時が流れた。まだシャンフロの界隈はざわめいているもののそれはウェザエモンの件だけではない。同時期に起こったクラン連合とPK連合の大戦争。それについても熱りはまだ冷めていない。

 

 最近は自分も何かと忙しくクランの活動をしている。ワールドストーリー、アナウンスによって告知されたそれにより世界には変化が起きているらしく、日々【ライブラリ】のメンバーは休む暇もなく調査に赴いており、数々の新しい報告があがっていた。時には調査に戦闘が伴い自分も同行することもあるが、今日は山積みという言葉では片付かないほどの量の報告書の処理やまとめられた新たなる本をクランの書庫へと収める手伝いをしていた。

 

『王様?どうしたの?何か読みたい本でもあった? ちょっと今かなり慌ただしいから、もしそうならこれが一段落したらにしてほしいかも』

 

『ふむ、新しい本か。竜の身体では読めぬゆえ、そろそろ新しい書物は読みたいが……。少し困ったことになってな』

 

 ピタリ、と。本を本棚に片付けている手が止まった。今ジークヴルムは『困った』と表現した。それは珍しいことだ。

 

『王様が困り事なんて珍しいね。私でも力になれることなら力になるよ』

 

『というより、我ではどうしようもないと言うべきか……シグリンデでないとどうしようもないと言うべきか……ううむ……』

 

『本当にどうしたの?世界の守護者たる黄金の竜王をそこまで悩ませるなんて何事?』

 

 ただ事ではない、と思った。ジークヴルムは『うーん、うーん』と悩ましげに唸っている。つまり、それ程の事態が発生したということだろうか。

 

『だが、今は忙しいのであろう?ならば当面は我の方でなんとかしようとも思うが……』

 

『大丈夫、とりあえず私が頼まれてるのは今やってる本の整理で、それももうちょっとしたら片付くから』

 

『ぬう、すまぬな。……我はここ最近、『気宇蒼大の天聖地』の禁足地によく戻っておるのだが、実は言いにくいことなのだが……幾つか用意してほしいものがあってな』

 

 驚いた。今までジークヴルムは、自分の左目。黄金の眼を通して世界を見て色々とあれやこれやと言ったりしていたのだが、何かを用意して欲しいと言ってきたことはない。だが、関心はあっても竜の身体では街の中にも入れない。つまり人の営みの中に存在するものが簡単には手に入らないことから、そういったものを欲するのは仕方のないことかも知れない。

 

『わかったよ、それで何を用意したらいいの?』

 

『頼みたいのは……食料なのだ』

 

 食料。はて、それはまたどうしてだろうかと首を傾げた。ジークヴルムは本人曰く、食事を摂る必要がないらしい。だが、食べられないわけではない。確かに話していると人の営みの中にある食べ物という文化に対して興味も持っていた。

 

『それはいいけど、でも食べ物って色々あるよ?どんなのがいいの?』

 

『少し待て。 ……ぬう、こやつめ。食べたいものを言えと言っておるのに。なんでもいいが一番困るのだがなあ』

 

『んん……?』

 

 言葉のニュアンスがおかしい。まるで呟くように言ったそれは、自分以外の誰かがいるようではないか。

 

『すまぬが、食べ物については任せたい。……体力のつきそうな、元気になるものがいいかもしれぬ』

 

『え、あ、うん。じゃあ適当に見繕って持っていくよ。現地までちょっと距離あるから、少し時間かかるよ?』

 

『足労をかけるな。後は、もうひとつ頼みたいことがあるのだが……まあ、それは此方に来てからでよかろう』

 

 何か引っかかる。だが、ジークヴルムが困り果てているのは間違いないだろう。頭に響く声からは、本当に困ったような。どうしたものかという感情が十分に伝わってきたからだ。

 

 ひとまず、今やっている本の片付けだけを終わらせて、そこから街に買い物に出かけてから『気宇蒼大の天聖地』へと向かおうと決める。現地まではそこそこの距離がある。色々と考えないといけないこともあったし、ゆっくり歩きながら考え事をするのもいいだろうと思った。

 

 ともあれ、珍しく頼み事と相談をしてきたジークヴルムを助けに行こう。そう決めると、シグリンデは準備を始めた。

 

 




■あとがき
 ということで、新章開幕です。アニメで言うと大体一期終盤あたりくらいの時期でしょうか。このタイミングだと、サンラクはマブダチ(蠍)やラビッツ関係のことをしており、ペンシルゴン達はウェザエモン関係で面倒なことになっていてサンラクを捕まえようとしている時期あたりでしょうか。

 設定鍵インベントリアは現在作成中。前に書いていた資料関係引っ張り出して整理、作成中です。多分二話以内には更新予定で、随時更新。

 そしてシグリンデは、なにやらジークヴルムから助けを求められた様子。さてさて、一体アルビノ肌に白髪の長髪、赤目の少女とは一体何者(ナニモノーネ)なんだ……。
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