鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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嘗て、人々が生きていた過去

 ヴァイスアッシュの口から語られたこと。それは、断片的ではあるが神代の文明についてのことだった。当時の人々がどんな暮らしをしていたのか、どれほどの文明レベルだったのか。そうして、そんな過去の世界において人々は確かに生きていた、ということだった。

 

 具体的なことは彼は何も言わなかった。だが、昔のウェザエモンのことや、セツナ。正確には、『天津気 刹那』という人物についての断片的な情報。といっても、どんな人物であり、どんな日常を過ごしていたのか。ということを語ってくれた。

 

 そんな中でシグリンデはあることを聞いた。それは、ウェザエモンの口から出たアリスという人の名前だ。それについて聞いたところ、確かにヴァイスアッシュは驚いたようにしていたが、『それについては答えらんねぇ、すまんな』とだけ返された。

 

 

 明確にわかったこと、だがある意味では大きなことはひとつだ。

 確かにその過去で、人々は生きていたのだ。必死に生きて、未来を望んで生きていたのだと。

 

 確かに過去の人々の軌跡は、そこにあったのだ。

 

 

「ジークヴルムのやつがまだ口を閉ざしている以上、俺等からはなにも言えない。だがな……俺等は嬢ちゃんや、共にウェザエモンの奴を打倒したというその仲間の開拓者。お前さんたちのような、未知を踏破し未来へ進む強ぇ奴等は、この世界の希望だと思ってる」

 

「それは、そのまだ語ることの出来ない何かに対して、ということですか?」

 

「ああ、そうだ。それについては肯定しよう。この先に待つのは、『ひとつの時代と世界を終わらせた存在』だ。そんな奴等や、世界、神を敵にしないとならねぇかも知れない。だがな、お前さん達開拓者は希望だ。それすらも超えられると、俺等は今回のウェザエモンの件で確信した。開拓者の中には特に強い輝きを持つ奴等も居る。それは、嬢ちゃんであったり、その共に戦った嬢ちゃんの仲間であったり、ウチの国の客人であったりだ。 ……開拓者だけじゃねぇ。小さい嬢ちゃん、お前さんもその未来への希望だと俺等は思ってる」

 

 突然、リューネへと視線が向けられた。その視線は真剣で、だが慈しみと期待に満ちていた。

 まるで、『こんな奇跡さえも起こるのだから世界は面白い』というように。

 

「俺等はな、小さい嬢ちゃんは開拓者とともに歩む新たな可能性の塊だと思っているんだ。お前さんの事情は知っている。その身にジークヴルムの因子を宿し、そして『あいつ』の因子を宿す。それはつまり、『龍』であり『竜』でもあるということだ。今はまだ小さな小龍かも知れねぇ。だが、お前さんが開拓者とともに歩む限り、その先にあるのは『新たな頂点たる存在』だと思う。 ……だからよ、開拓者と歩んで沢山学んで、沢山経験して、それで、思うままに考え、悩んで歩いて見るといい。俺等は期待してるんだ、開拓者の嬢ちゃんにも、そして小さい嬢ちゃんにもよ」

 

 その言葉に込められているのは、期待と希望だと感じた。同時に、気になることも出てきた。もし、『新たな頂点たる存在』というのがプレイヤーで言うところの最強種なのだとしたら。

 

 リューネは、そこに至れるだけの可能性と素質を持った、全く新しい存在ということになる。そしてヴァイスアッシュの言うとおりだとすれば、そうなったリューネはジークヴルム同様、人の側に立つ『最強種』になる可能性もあるのかと感じた。

 

 

「励めよ、小さな嬢ちゃん。俺等もジークヴルムも。そしてそこの開拓者の嬢ちゃんや、お前さんに良くしてくれる開拓者も健やかな、希望に満ちた未来を願っていると思うぜ。 ……本当にすまねぇが、今俺等から語れることは無いんだ。 ――そういやあ、ビィラックが妙なことを言ってたな。小さい嬢ちゃんの持ってる弓がどうの、とか言ってたか」

 

 思わずシグリンデとリューネは顔を見合わせた。確かに、ラビッツを案内してもらっているときに仲良くなったビィラックには、本人が鍛冶をしているということを話されて、鍛冶場で自分の持つ『ファフニール』と、リューネの持つ特殊な金属で作られた大弓を見せた。

 

 その時は大層に驚かれたものだ。特に『ファフニール』については、『こんなとんでもないもの、畏れ多くて触れん。かの竜王が直々に与えた武器をこれだけ近くで見れるだけでも鍛冶師としては最高の経験じゃけぇ』と言うほどだった。曰く、触れることは許されない至高の武器なのだという。

 

 そして、続けて見せたリューネの武器。【ライブラリ】に所属する、シャンフロ内部でも高名なクラフターが発見された希少鉱物を使用して作り上げた黒い大弓。銘はつけられておらず、担当者からは『好きな名前をつけて愛用してくれると嬉しい』とだけ言われていたその弓は今は無銘のままの傑作であった。

 

 それを見たビィラックは、またもや言葉を失っていた。

 『今の開拓者は、こんなとんでもないモンを作れるのか?』と。

 

 武器製作について詳しくない二人は首を傾げていたが、ビィラックとしては冷静で居られなかった。恐らくは、神代の時代に存在した鉱物。それを使用し、これ以上無いまでに加工され、使用者専用に調整された逸品なのだという。特にビィラックが興味を寄せたのは、折り畳みという形式を取った展開式の大矢を収める、腰に装備する専用のアローホルダー。そこには開拓者の能力と技能によって、『無限弾倉』の能力が付与されており、矢が減っても自動的に補充されるという能力を有していることだ。

 

 更にはこの大弓本体もさながら、専用の大矢は魔力の伝達率が高くなるように設計されている。それはつまり、物理主体と魔力主体、そして両方の属性を付与した状態で矢を放てるということだった。

 

 独特な設計に、開拓者ならではの能力付与や調整。それはビィラックの鍛冶師としての魂を震わせた。そうしてリューネに是非詳しく見せて欲しい、と頼み、承諾を得て。そうして徹底的に調べるとそれはもうビィラックは満足そうにしていた。新しいインスピレーションが湧いた、とも言っていた。

 

 だが。そのときに彼女が感じたのがある違和感だ。それは、言うならば『この武器は殆ど完成されているが、まだ改良できる』ということだった。

 

 しかし、神代の素材を使用している以上、これは神代の武器とも呼べなくはない。ならば、今の自分には触ることは出来ないものだが、どうしても気になったこともありヴァイスアッシュへと報告をしていたのだ。

 

「流石に開拓者の嬢ちゃんの持ってるとかいう剣槍は俺等も触れねぇ。というか、それはもう完成されてる至高の武器だ。……だがな、小さい嬢ちゃんの持ってる大弓については、ちょいとビィラックから気になる話を聞いてな。もしよければ、これから鍛冶場まで付き合ってくれないかい。何か力になってやれるかもしれねぇ」

 

 それは願ってもないことだと思う。断る理由もない、そう思いシグリンデとリューネは了承の意を示すと、ヴァイスアッシュに続いて鍛冶場へと向かった。

 

 

       ◆     ◆     ◆

 

 

「なるほどなァ……こいつは本当によく出来た武器だ。俺等から見ても、文句の付け所が殆ど見当たらねぇ、最高の武器と言ってもいい」

 

 ラビッツの兎御殿にある鍛冶場。そこにはシグリンデとリューネ、そしてビィラックとヴァイスアッシュの姿がある。

 

 ビィラックは『また親父が金槌握るんけぇ!?』と目を輝かせて大興奮であり、シグリンデとリューネにそれがどれだけ凄いことなのかを語っていた。その間、ヴァイスアッシュはといえば引き続き金床の上に置かれた黒塗りの大弓を真剣な眼で確認していた。

 

「この強度に軽さ、だが弓には必要不可欠なしなやかさも兼ね備えて、どれも完璧に調整されているのも凄いことだが、確かにこの弓に使われている金属は神代に存在したもんだ。どこで見つけたかはわからねぇが……少なくとも、あの時代以上のものと言って過言じゃねぇ。これは嬢ちゃん、お前さんの開拓者仲間が造ったのかい」

 

「はい、クランという開拓者の集まりがあるんですが、そこのまとめ役をしている方のご友人が同じ集まりに所属していて。それで、リューネが保護されたときに色々と世話を焼いてもらっていたんですが、その時に作って貰ったそうです。開拓者の間でも高名な職人で、鍛冶以外にも色々なものを作ることをやっている方です」

 

「今の時代にはとんでもねぇ多才な奴がいるもんだな……。少なくとも、鍛冶以外でもこの弓の出来と同等かそれ以上と考えると、最高峰の職人と言っていいな。こんなものを見せられたら、俺等も職人としての魂が疼くってもんよ。 ――さて、これは中々に面白いぞ。どうやら、今の俺等は楽しくて仕方ないらしい」

 

 見れば、ヴァイスアッシュの表情には楽しそうなものが浮かんでいた。『どうしてくれようか』というようなものだ。

 

 彼からすれば、この黒い大弓は傑作だった。『神匠』たる己から見ても文句が出ないほどに、使用者である少女に最適化され、今後のことも考慮されて作られたものだ。下手に弓本体に手を入れてしまえば、調整されたそれ自体を崩壊させかねない。だが、ヴァイスアッシュは感じていた。それでもなお、まだこの武器は高みを目指せると。

 

 恐らく、この弓の制作者は『神匠』ではない。だが、それにも関わらずこれだけのものを生み出した。ならば自分はその制作者に不可能だった視点からアプローチを掛けようと思考する。 

 

 この大弓はシンプルだ。それでいて、その構造から素材一つ一つが完璧と言ってよく、最高の出来だ。なら、そこに手を入れることは出来ない。そんなことをすれば全てが崩壊してしまうし、それはこの弓の制作者に対しての冒涜だ。リューネという使用者のためを思い作り上げた傑作を壊すことにほかならない。

 

 ではどうするか。間違いなくこの弓はまだ改良の余地を残していると己の職人としての直感が激しく訴えてくる。真剣な表情で考え、そして。

 

「なるほど、そうか……。そうしてやれば、こいつの持ち味も崩さず伸ばすことが出来る、か。」

 

 思案し、出た結論を形にするためにヴァイスアッシュはシグリンデとリューネへと向き直った。

 

「方向性は決まった。それにあたって、何かお前さん達で素材……そうさな、今の時代ではあまり見ないような素材を持っていたりはしないかい?」

 

「遺物とか、そういったものということですか?クランに確認を取ればあるかもしれませんが、そもそも使用許可が出るかもわかりませんし、手持ちでそれらしいものは何も……」

 

「あっ。なら、これは使えませんか?組長さん」

 

 そうして、リューネが取り出したのは、錆びついた。幾つもの何らかの部品が錆びたり溶けたりしてしまい、くっついたような。元々なんだったのかが最早わからない、いかにもといったような何らかの塊だった。

 

 

「……!こいつは……! 小さい嬢ちゃん、これは嬢ちゃんの持ち物かい?何処で、これを手に入れたか教えてもらうことは出来るかい」

 

「えっと、その……わからないんです」

 

「わからない?何処かで拾ったり、貰ったりという訳じゃねえのかい」

 

「わたしの事情を組長さんもご存知でしたら知っているかと思いますが、わたしは……元々ゴルドゥニーネの分け身でした。『わたし』という自我が確立して、追われるようになって。気がついたら持っていたのがそれでした。わたしが今のわたしになる前からもし持っていたものだとしたら、何か重要なものじゃないかなと思って、ずっと持ったまま逃げていました」

 

「……なるほどな。こいつは、神代の遺物だ。それも、あの時代でも希少だった鉱物を使用して作られた武器の成れの果てよ。等級で言えば、最上級の遺物と言っていい。こいつを使わせてもらってもいいかい、こいつなら、最高のものが作れる」

 

「是非、お願いします。ずっと持ったままで、何かに使えるならと思って持っていたので」

 

 それは、最高の素材だった。素材が何かあれば、と言ったのはヴァイスアッシュだったが、まさかこんなものが出てくるとは思わなかったのだ。神代においても最高峰の素材。それこそ、ウェザエモンの持っていた刀や、『規格外兵装』と呼ばれるものにも使用されている希少な素材。

 

 どうしてこの少女がそれを保有していたのかというのはわからない。だが、これがあれば可能だ。己だからこそ扱える神代の技術、それをこの黒の大弓に付与することが出来る。

 

「まったく、これだから今の時代は面白い!ついこの前、うちの客人に武器を作ってやったと思ったら、今度はこんな事になるなんてなァ。……さあて、始めようかい」

 

 バサリ、と羽織っていた着物を脱ぐと、金槌を握る。

 握る手に力が籠もっていたのを彼は理解した。今の自分は、高揚しているのだと。

 

 今ならば、最高の武器たるこの武器をより頂きへと導ける、そう感じて金槌を振り上げた。

 

 




■嘗ての時代
 確かに人々はそこに生きていた。日常があり、営みがあり、生きたいと願う人達が居た。抗う者達が居た。それを嘗ての存在は決して忘れない。忘れず、次代へと受け継ぎ。育み、拓くと誓ったのだ。

■無銘の大弓
 まだ名のない、黒く巨大な大弓。専用の大矢を放ち、絶大な威力を持つ。ヴァイスアッシュをして『傑作』と言わしめるほどのものであり、【ライブラリ】の誇るクラフター、キョージュの友人であるリアル人間国宝の作り上げた最高傑作の一つ。

 下手に手を入れると弓そのものの調整を壊してしまうため、どうやったら更に高みへと誘えるのかとヴァイスアッシュを悩ませたが、考えている彼はとても楽しそうだったという。

■ファフニール
 至高の武器たる其れは、並の鍛冶師に触れることは許されず、神匠をもってして完成された至高の武器のひとつと言わしめる。それは、新生した世界の守護者が盟友へと授けた、頂点たる一振りのひとつ。

■次代の頂点
 その旅を経て、少女は龍となり至るだろう。
 『過去』ではなく『今』の頂点たる、その存在に。

■あとがき
 リューネの武器はシャンフロ内部最高峰のクラフターと神匠ヴァイスアッシュによって完成されたとんでもない武器になりました。といってもヴァイスアッシュは大本である本体には手を入れていない。そんな無粋なことをせずとも完成していた。

 彼女の持っていた、神代の最上級遺物は所謂ウェザエモンが持っていた太刀などにも使われている、当時の最高の素材を使用した武器だった残骸。そんなものを持っていた彼女とは、一体何者なんでしょうか。

 少なくともそんなもの、当時の刹那やアリスなどの重要人物の近くでなければ、手に入らなかったはずなのに。
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