鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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鉛筆騎士王の選択

 竜という存在に憧れたのは、いつだっただろうか。

 

 幼い頃、本が好きだった自分はよく物語を読み耽っていた。最初は簡単なものからはじまり、そうして徐々に難しい話や外国の伝承なんかにも手を伸ばした。

 

 そんな数々の神話や英雄譚の中で、天音悠乃という人間の興味を惹いたのは竜。ドラゴンという存在だった。現実世界には存在せず、伝承や神話、空想の中にだけ存在する生物の頂点に君臨する幻想種。雄々しく力強い翼で天空を駆け、屈強な体躯で外敵を退け、その圧倒的な力で敵を討ち倒す。

 

 

 天音悠乃にとっては、その幻想種。(ドラゴン)という存在こそが英雄に見えた。

 

 

 だが。多くの物語の中では、竜とは悪い存在として描かれることが多かった。多くの物語では、人や神々こそが正義であり英雄である。というものが多かった。そんな物語には目もくれず、己が思ったのはただひとつのことだった。

 

 

 もし、人と竜が手を取り合えたならば。どんな物語が生まれるのだろうか。

 竜の背に乗り、空を駆ける。人と竜が共に在る、そんな物語を、英雄譚を見てみたい。

 

 

 彼女の幼き日の想いは、年月を経て成就された。

 現実ではない、異なる別の世界。シャングリラ・フロンティアという世界で。

 

 

 

              ◆     ◆     ◆

 

 

 

「――人と竜が共に在る、か。なんとも、あの子らしいというか」

 

 フルダイブヘッドギアを外して、疲れたようにしてため息を付いた永遠が呟いたのは、そんな言葉だった。妹、悠乃は昔。物語に対して強い関心を示していたことは覚えている。そして、一般的に普通、とは少し違う感性を持っている。

 

 正直に言えば、まだ頭の中を整理しきれていないのはある。あまりの情報の多さというのもあった。しかし、有用な情報も多く考察に値するものも多かった。だが、同時に問題も出てくる。

 

「間違いなく騒がれる。今日は大人しくログアウトさせたけど、これからどうなるかは明白だ。……オッドアイだけでもキャラクリ勢に注目されて話題になる。そして、あの武器が人目につけば廃人連中とトップクラン共が食いついてくる。……どうする。イナゴの群れ共に妹を好き勝手させるのは論外。そんなの絶対に許さない」

 

 天音永遠は妹を溺愛している。血を分けた妹だからというのもある。言葉や態度にちゃんとしないだけで、弟のこともそれなりに大切には思っている。そんな家族が情報という餌に群がるイナゴ共に群がられる、それは我慢ならなかった。

 

 悠乃がシャンフロを始めたというのには驚いた。だが、時間の問題だろうと感じている自分が居たのも事実だ。妹のゲームセンスや時折見せる戦闘狂のような側面は雑誌などのインタビューや案件配信で世間にはバレているし、趣味でゲームをやっていたのも知っていた。プレイヤー数3000万人という超大型MMOをプレイしても確かにおかしくはない。

 

「『阿修羅会』で囲う……論外。間違いなく愚弟が暴走して何するかわからないし、そもそもPKクランだし今の阿修羅会は戦力的にもぶっちゃけ雑兵同然、京極ちゃんとかが居た頃とは天と地の差がある。評判だって悪すぎてむしろ関わるほうが問題になる」

 

 もし、自分が現在副リーダーという立場にいる阿修羅会で囲おうとすれば、あの悠乃に懐いている愚弟が本当に何をするかわからない。確定で言えるのは、妹が望まなくとも俗に言う囲われるクランの姫が一瞬で出来上がる。更に言うなら、阿修羅会に所属するということは殆どPKになれと言っているようなものである。諸々の問題を考えても論外である。

 

 今必要なのは、可及的速やかに妹の身の安全を保証できるもの。現時点では、自分が後ろ盾になってあげることは出来ない。しかし、妹の後ろ盾は迅速に用意しないといけない。自分の交友関係から、疲労した頭をフル回転させて永遠は模索する。

 

「【黒狼】……は駄目だ。あそこ今面倒なことになってるっぽいしアウト。【SF-Zoo】、アウトだね。『刻願』による動物との意思疎通が知られたらあいつら眼の色変える、ゾンビの群れの中に妹放り込むようなものだ。【午後十字軍】もやめとこう、最有力候補のひとつだけどクランリーダーが本当に過労死する。【聖女ちゃん親衛隊】はあそこ聖女ちゃん専門だからアウト。 ――と、なると」

 

 

 ペンシルゴンの理想は、最優先条件として妹の後ろ盾として不足がなく出来るだけまともなクランであることだ。そして、妹の関わったジークヴルム、つまりユニークモンスター関係について協力的でありそれを含めて受け入れてくれること。トップクランとはどこもよく言えば個性的。悪く言えば頭のおかしいクランばかりなのだが、比較的まともなところも存在しているのもまた事実。

 

 彼女の打算も含めて考えるなら、最前提の条件に加えて色々と融通の効く所で自分にもメリットの有る所がいいだろう。だが、そんな都合の良すぎるクランが果たしてあるだろうか。と考えて。

 

 

「――あるじゃないの。全ての条件を満たして、比較的まともなクランが」

 

 

 あった。トップクランで、全ての条件を満たしており。かつ、その在り方が特殊すぎるがゆえに、前線を担当できるメンバーを欲しそうな所が。

 

 瞬時に永遠は頭の中で打算と悪巧みを練りに練ってそれを形にする。それが終わるとテーブルの上においてあるスマホを手にして、そのままシャングリラ・フロンティア ネットワークパネルのシステムと繋がるアプリケーションを起動。連絡先一覧から、妹ととある人物にメールを作成した。

 

 

 

 

              ◆     ◆     ◆

 

 

「あの山に登山に向かったプレイヤーが居た? ……それはまた、珍しい話だね」

 

 ライブラリのクラン拠点。巨大な図書館を思わせるそこで、クランリーダー。見た目が完全に魔法少女をしている『キョージュ』は、クランメンバーとの雑談の中、とある話を聞いていた。

 

 そのアバターからは考えつかないほど落ち着いた、年季と知性が積み重なった声でそのメンバーへと詳しく聞かせて欲しいと伝えると、概要を確認して一言礼を言い話を終える。そして、その話題に対して興味を示した彼は思考の海へと潜った。

 

 霊峰アム・レース、それがサードレマの街からも見える、シャンフロという世界において現状確認されている山々の中でもかなり高い部類に入る山の名前だ。しかし、この霊峰は判明していることが多くなく、また調査を行おうとしても調査ができないという曰く付きの山でもあった。

 

 【ライブラリ】としても、世界考察の一環のために調査部隊を編成して訪れたことがある。だが、山頂。それどころか、標高の高い山岳部にすら到達することは出来なかった。特定の場所以降に進もうとすると、道がループするのだ。何かしらのギミックと思われたが、考察クランでもそれを解明することは出来ず調査を断念した。

 

 一度外部クラン、体力に自信のあるプレイヤーが多いクランに依頼して直接山肌からの登頂も試みてもらったことがあった。しかし、それも失敗。登山中に突然の急激な天候変化に見舞われて大半が脱落。特に体力のある者達数名はそのまま登山を続けたそうだが、突然雲のようなものに包まれて、気がつけば麓に戻されていたという。

 

 結局、判明したのはNPCからの山に関する情報と、麓周辺の環境情報、そして自分達が到達できた範囲で確認できた遺物。恐らくは神代の遺物が存在しているということだけ。何度かアプローチを変えて調査隊を編成してみたが、どれも失敗に終わっている。情報が少なすぎて、かつかの霊峰でなにか有益なアイテムやクエストがあったという報告もなく。つまりプレイヤーからすると旨味もないことから滅多に人が立ち寄らない過疎エリアでもあった。

 

 そんな場所にプレイヤーが向かった。しかもその情報を持ってきたメンバーによると、別のクエスト関係とアイテム集めで付近の麓エリアで狩りをしていたが、数時間経過してもそのプレイヤーが戻ってくることはなかったという。

 

 死に戻りも考えたが、あのエリアはもしリスポーンとなると、宿屋などではなく麓の入口に強制的に戻される特殊仕様だ。つまり、そのプレイヤーは登山を開始して数時間、少なくともクランメンバーが用事を終えて戻るまでのかなりの時間は山の中に居たということになる。

 

「気になるな……だが、そのプレイヤー名は遠目だったらしくわからない。装備の特徴は灰色の軽鎧に灰色のコート、空色の髪くらいのものだがそんなプレイヤーの見た目はこのシャンフロにはどれだけ沢山居ることやら」

 

 もし、あの霊峰について情報を手に入れているならば是非話を聞きたい。しかし名前もわからない。残念だ、そう彼は思っていると。

 

 

「……おや?珍しい相手からのメールのようだ」

 

 ふと。珍しい相手からのメール。それも、外部アプリケーションを通しての連絡が来た。

 

 相手は、アーサー・ペンシルゴン。『廃人狩り』と名高いPKと繋がりがあるのは、ちょっとした縁あってのことだったのだが、時たま情報の取引をすることはある。もっとも、最近はその頻度もかなり減っていたのだが。

 

「どれどれ ――な、ななななななっ!?」

 

 思わず、座っていた椅子から立ち上がり、目前のメッセージウィンドウ。そこから目が離せなくなり、身体を震わせるキョージュ。

 

 何故なら、そこに書かれていたのは。

 

 

『天覇のジークヴルムについての情報がある。それを渡す代わりに、頼みたいことがある』

 

 

 そんな、考察クランとしては無視できない。甘美なメッセージだったのだから。

 

 

 

 




 シグリンデの所属は【ライブラリ】になりました。この時点では【旅狼】は存在せず、ペンシルゴンの立場的に後ろ盾にはどうやってもなれませんでした。最終的に【午後十字軍】か【ライブラリ】まで絞ったが、人間性とクランとしての力、シグリンデの持つ情報をフル活用出来そうな側を選んだ。実際の決め手は、キョージュの人柄とクランの年齢層の高さ。大人な人間が多い事から妹を預けるのに値すると考えたため。

 仮に時系列が【旅狼】結成後だったとしても、妹を溺愛してるペンシルゴンは『こんな外道の集まりのクランに真っ白な妹ぶち込めるかー!』と言って別クランを斡旋していた。

 カローシスとシグリンデの相性はいいほう。お蔵入り√案で所属【午後十字軍】のカローシス×シグリンデのカロシグ√というものがあった。現在は作者の没ファイルで眠っている。今後本編に応用するかは不明。

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