リューネちゃん、まだ雛の状態にも関わらず完全武装状態になる。
「格納鍵インベントリア……?」
「あー、それそれ。今日呼んだ理由のひとつがそれなんだよ」
シグリンデがペンシルゴンとオイカッツォを見れば、ペンシルゴンは困ったというように。オイカッツォもうんうん、と頷いていた。
「そうだね……とりあえず、それがなんなのか。ってことと、それの『中身』の話をしよう」
そうしてペンシルゴンが。相当リューネのことが気に入ったのか、膝の上に乗せて背中から抱きしめたまま説明をしたのは、この『格納鍵インベントリア』の能力と、その中身についてだった。
まず、能力。アクセサリースロットをひとつ固定枠として使用する代わりに、無尽蔵のアイテムインベントリを得ることが出来る。そして、仮にPKされた場合でもこのインベントリア内部のアイテムは略奪されることはない。シャンフロは所持アイテムの重さと、ステータスによっては移動速度が変化する仕様だが、アイテムをインベントリアに格納しておけばアイテムを持ちすぎた、という場合に起こる移動速度の減少をなくすことができる。
そして、空間転移能力。MPを消費することで、インベントリア内部の格納空間と呼ばれるスペースに移動が可能である。これはただの出入りだけの機能に見えるが、その実かなり強力なものである。要するにインベントリアとは一種の隔離シェルター、安全地帯として機能する。
続けて中身だが、これについてはペンシルゴンはこの『格納鍵インベントリア』はウェザエモンとの戦いでの戦利品であることから、恐らくはウェザエモンが保有していた『遺産』なのではないかと推測された。それは、『規格外武装』と呼ばれる武器や『規格外戦術機』と呼ばれる、神代の技術を用いて作られた鎧や機械の獣のようなものだった。
これらは現状観賞用以外の用途はない。正確には、サンラクがそれらを稼働させるための部品のようなものをユニーク絡みで修復を試みているらしいが、最近は音沙汰がない状態。
「ふむ……便利だけど、私にとってのメリットはそこまでない、かな?」
「ありゃそれまたなんで?無尽蔵のインベントリだよ?しかもシェルターとしても機能する」
「そもそも私はそこまで多くのものを持ち歩かないし、この転送機能も私にとってはちょっとデメリットかも。緊急回避としては使えるかもしれないけど、ターゲットが切れるってことにもなるでしょ?」
「まあ確かに、シグリンデの戦い方を考えるとそうかもね。でも装備周りをインベントリアで保護できる、っていうのは強みじゃないかな」
「そうだけど、私の『ファフニール』にしても『黄金の円環』にしても、完全に固定枠装備なんだよね。だから仮にPKされてもプレイヤーに紐づけされてる装備だからロストしない。PKに負けるつもりもないけど」
「うーん……というか本当ランカーPKで今のシグリンデ相手って無理だと思うんだよねえ。なら、このインベントリアはどうするの?流石に使わずに放置、ってのはもったいないよ?」
「それなんだけどね、ちょっと考えた ――リューネ、こっちきてくれる?」
呼ばれ、ぴょんっ、と。ペンシルゴンの膝の上から跳ねるようにして立ち上がったリューネはシグリンデの座る椅子の前まで歩いてくる。ペンシルゴンは少し名残惜しそうにしていた。
「リューネ、右手のスカウトグローブちょっと外してもらっていい?」
「うん、いいよ。どうしたの?お姉ちゃん」
彼女は言われるままに【ライブラリ】の職人謹製のスカウトグローブを外してテーブルの上に置くと、首を傾げて右手を前へと出した。
「このインベントリアはリューネ、あなたが使って」
「え……えええっ!?」
会議室にはリューネだけではない。ペンシルゴンとオイカッツォの驚きの声もあがった。
◆ ◆ ◆
「こ、これってとても貴重なものだよねお姉ちゃん!?わたしもさっきの話聞いてたけど、この中には嘗ての時代のすごい遺物だってあるんだよ!?」
「ちょ、おまっ……流石にどういうつもりなんだシグリンデ?」
「カッツォくんやリューネちゃんの言う通り。……ちょっと私も動揺してるんだけど、なんでそう考えたの?」
ペンシルゴン達の言葉はもっともである。『格納鍵インベントリア』は神代においても希少品である可能性が高い。しかも、最強種の一角、ウェザエモン踏破の報酬であり、恐らく現時点ではシャンフロ内部において唯一無二の装備品だ。
転送機能を用いた緊急回避、無尽蔵のアイテム保管、そして今のところ観賞用としか価値はないが今後どうなるかわからないウェザエモンの遺産の数々。それら全てをシグリンデは、リューネへと渡すと言ったのだ。
「落ち着いて、私も考えあってのことだから」
「オーケー……聞きましょうか」
「まずインベントリアの格納機能だけど、これは別にその能力を無駄にしないと考えた時私が持っている必要もないんじゃないかなと思った。基本的に私はアーサー達や【ライブラリ】の人達、他の関係者の人達と一緒に動いてる。ソロの時もあるけど、そういった時でもそこまで荷物は沢山持たない。そして、基本的に行動する時はリューネも一緒に行動する」
「……なるほど。そういうこと、盲点だったわ。要するにリューネちゃんが基本的に一緒な以上、アイテム関係を預ける場合はリューネちゃんに預ければインベントリアに収納ができる。そもそも持ち物自体は基本的に少ないから、素材関係とかで例外が出たり、たまに発生するアイテムを預けるってことぐらいしかやらない以上そこまで多用しない、ってことね」
「うん。仮に、アーサー達からのアイテムの受け渡しがあっても、リューネを通して受け取ればそれで解決する。といっても、インベントリの話は私にとってはあくまでオマケくらいの考えなんだ」
「ほほう?無尽蔵のインベントリをオマケとは中々だね」
「私が最重要視したのは、転送機能を用いた防衛手段と、ウェザエモンが残したと思われる倉庫内部の遺産だよ」
どういうことかとペンシルゴンもオイカッツォも首を傾げた。先程、シグリンデはそれらの機能について自分にはメリットは薄い、と言っていたのだ。
「私にとってはこの転送機能や装備固定の関係でウェザエモンの残した装備関係っていうのは恩恵が少ない。でも、それは私の場合。――リューネはそうじゃない」
「……なるほど、シグリンデ。悪いこと考えるな」
「こういう普通じゃ考えつかないようなことたまに思いつくから予想がつかないのよね、私の妹は」
その言葉だけで二人は察した。そう、つまりは応用なのである。
シグリンデの武器は固定されている。巨大な、錆びたような黄金の刃を持つ剣槍だ。それはジークヴルムとの繋がりを証明するものであり、示すものである。同時に、ジークヴルムからシグリンデへとかけられた祝福にも関係している。よって、彼女は他の武器を使用できない。ヴァイスアッシュをして、『完成された至高の武器』と言わしめたその武器を振るえるが、他の主武装武器となる武器を持てない。
だが、リューネはそうではない。彼女は極めて特殊な存在であるが、それを考慮しなくとも高い遠距離適正に高火力のスカウト系ビルドである。メイン武器は【ライブラリ】のとある老職人によって土台が作られ、ヴァイスアッシュがそこに補助する形で手を加えた恐らくシャンフロ内部においてこちらも唯一無二の最高の武器とも言える黒い、艶のある大弓だ。
リューネはメインとして大弓を使用しているが、サブ武器の所持や武器の持ち替えは可能だ。よって、現時点では可能性の話だが、ペンシルゴンの言う規格外と名のつく装備を使用できる可能性がある。これが、シグリンデがインベントリアをリューネへと与えようと考えた1つ目の理由である。
「転送機能についても、自分よりリューネちゃんが持ったほうが強力に使えるから、ってことよね?」
「うん。リューネの弱点は相手に接近されること。そして、突然の強襲や奇襲による接近戦への対応はできなくはないけど、近接武器は不得手で使えない。だったら、その弱点を補うだけの手段を与えてあげたらいい」
「あー……考えただけでおっかねぇわ。距離取られると一方的に撃たれる上に遮蔽物に隠れても『屈折矢』で撃てるなら撃ってくる。接近しようにも基本的にガードという名のトッププレイヤーが居て、接近できたとしても大矢の散弾撃ちで対抗されるか『転送』で逃げられる。待てよ、しかもインベントリアを所有してるってことは投擲武器関係とかアイテムの類は諸々備蓄し放題か?歩く決戦兵器じゃんもう」
オイカッツォが顔をひくつかせてそんな感想を言うが、その通りである。インベントリアは使い方では武器庫兼火薬庫となり文字通りリューネという高火力の射手兼砲台を、殆ど隙のない決戦兵器に変える。
リューネは超高火力型の、遠距離型スカウトビルドだ。だが、その大火力の代償として弱点もある。使用している高威力の折りたたみ式の無限弾丸能力を持つ大矢だ。威力は極めて高いが、通常の矢と比べると取り出し、展開、番えという工程を要する。つまり、『展開』という折りたたまれた大矢を矢の状態にする工程が増えているのだ。いくらその動作を最適化しても、その工程まるひとつの時間を埋めるのは難しい。よって、これは明確な隙となる。
だが。インベントリアの『転送』は接近された際の弱点をカバー可能にする。それだけではなく、インベントリアの能力によってその内部には機動力を優先とするために大量に所持できなかった投擲武器やアイテムなどを所持できる。火力と自己防衛能力、そして機動力全てを兼ね備えることが可能になるのだ。
特に。自己防衛手段が増えるというのは、シャンフロをプレイしていない時にも活動しているリューネにとっては大きい。例え極力他のプレイヤーと行動を共にしているとしても、身の安全を確保する手段は『一つでも多いほうがいい』。それに、可能性の話としてゴルドゥニーネの頂点個体がまた襲ってくることもあるかも知れない、ともシグリンデは考えていた。
もっとも。有事の際の対策は当然している。そのための身内関係者への協力依頼だ。そして、リューネは『完全体となったジークヴルムの権能を持っている』。同時に、その存在は彼の眷属として、黄金の竜王にして世界の守護者に護られても居るのだ。
「まあ、諸々の理由から考えたら私が使うよりリューネが使ったほうが断然メリットも大きいからリューネに渡すことを考えたんだ。基本私やみんなと行動するなら、インベントリの機能も使用できるから解決されてる。 ……どうかな、リューネ。それ、使ってもらえないかな?」
「本当にいいの……?だってこれ、すごく貴重なもので……」
「私が使うよりその性能を活かせるんだから、むしろ使って、ね?」
「じゃあ……これを使って、もっとお姉ちゃんや竜王様、みんなの役に立てるように頑張るね!」
シグリンデが差し出した『格納鍵インベントリア』をリューネは受け取ると、グローブを外した右手の手首に装備する。すぐさま生体同期が完了し、彼女を所有者として認識した。
■完全武装決戦兵器娘リューネちゃん
この時点で少なくとも二体の最強種の因子持ちかつジークヴルムの権能の一部を保有、しかも遠距離に対しての超適正の上にプレイヤー側の最高峰クラフターとヴァイスアッシュが実質コラボして作り上げた武装持ち。そこにインベントリアを装備することで完成した見た目は美少女、中身は決戦兵器な存在。
有効戦闘距離2000メートルという距離を持ち認識できる範囲の相手に対しての高威力狙撃に『反射矢』による跳弾狙撃、更にはこのスキルを応用しての遠距離攻撃に対しての防御リフレクターも持っている実質的な衛星砲。インベントリアを装備したことで緊急回避手段と無尽蔵の火薬庫を得て他三人の許可さえあればウェザエモンの遺産も使用可能になった。稼働が安定さえすれば、やろうと思えばガ◯ダムの某シルエット感覚で装備を換装可能で、オトモ感覚で規格外戦術機も呼べる。なんなら護衛で歴戦の開拓者がついているのでまずはそこから突破しないと手が出せない。
実はある理由から神代兵器への超適性・特殊適正持ち。
なお、この時点では遺産の方は稼働できないので使用できない。
また、インベントリアの共有機能を利用してほか三人へのアイテムを供給可能。これを利用してリューネが作成可能な『バフのかかる食事』を作り置きして収納していたりする。サンラク達はいつでもおいしい上にとんでもバフアイテムが使用可能なため、実はリューネには頭が上がらない。実質ほぼ無条件で常時僅かと言えどステータスが上がっていることになるため、バッファーとして見てもトンデモ能力を持っている。
■あとがき
シグリンデがインベントリアを持つ場合、実はメリットよりデメリットのほうが多かったりします。アクセサリースロットを一枠確定で潰すことから、現状メイン武器とスロット一枠を固定している状態から更に固定を増やすこととなるため、装備自由度が減ります。加えて、インベントリアの遺産も運用は不可能で、緊急回避としての運用もデメリットにしかならなかった。実質、スロットを一枠潰しての無尽蔵のインベントリというくらいしかメリットがないのだが、『メリット大半潰す私が装備する必要ないのでは?』という考えに至った。その結果がリューネへの譲渡でした。
その結果完成したのが、後方支援に実質的なバッファーも出来るという機動力のある弓スカウトビルド娘。相手が飛行能力持ちでもすぐにぶち抜かれる。