戦利品の確認も大詰めとなった。『真理書』についてはクランへと持ち帰ることが決まっており、インベントリアについてはリューネの装備となった。ここまではペンシルゴン達と共通のものだったようで、あと一つ。固有のものが残っているらしい。
ペンシルゴン曰く、固有枠はメンバーそれぞれが違うものとなっているようだ。なのでシグリンデが手持ちを確認してみると、あった。恐らく固有のドロップ品と思われるものが。
それは、名を『無白黒淵ノ外套』といった。
見た目は白いフードの付いたロングコートなのだが、その見た目はあるものと酷似していた。嘗て出会い、そしてバハムートを探せと告げた『遠き日のセツナ』。彼女の纏っていた白い研究衣服とよく似ており、言うならばその研究衣をベースに戦闘用にデザインしたものという考え方がしっくりくる。
表地は何者にも染まらないような白、だが裏地は光さえも通さないような黒。早速シグリンデが装備してみて思ったのは、とにかく軽い。にも関わらず防御能力は前衛寄りのもので極めて高いものだったため、そのままメイン装備として使うこととなった。
しかし全員が気になったのは、この外套のデザインだ。どちらかといえば現実世界寄りのデザインで、現時点でのシャンフロの文明レベルでは少し似つかわしくないデザインだった。そして、元々のコートは裾のあたりにクランエンブレムを刻印していたが、今回のこれはエンブレム刻印が不可能となっている。
他には今のところ特に変わった所はないようだった。だが、前衛向けの極めて性能の高い防具というだけでも貴重だ。少なくともステータス値を見てペンシルゴンが言葉を失い『なんで尋常じゃない防御補正と筋力補正ついてんの?おかしくない?防具で火力上がるってこれどういうこと?』『そもそもこのEXスロットって何?え、見たことないんだけど……』と言っていたが。
なお、それまで使用していたペンシルゴンが【阿修羅会】の宝物庫から拝借した灰色のフード付きコートはリューネへと譲渡された。これはウェザエモンの件直後に分かったことだが、当然オルスロットには拝借したことがバレた。だが、ペンシルゴンがシグリンデへとあげたと伝えると『シグ姉なら別にいいよ、どうせ下手すりゃ何処かの誰かが火種作った連合戦争で盗られてたかもしんねーし』『ちなみに、あれ略奪品じゃなくてユニーク関係品の激レアだから』と言っていた。思わずペンシルゴンは胃が痛くなった。
そんな性能が高い灰色コートは、現在リューネがスカウトジャケットの上から羽織っている。裾にある【ライブラリ】のエンブレムはそのままのため、これで【ライブラリ】関係者だということも見てわかるだろう。よからぬことを考えるプレイヤーに対しては極めて強力な威嚇だ。
元々シグリンデが着ていた灰色コートを着ているリューネと新しく手に入れたコートを着ているシグリンデが並んでいるととても姉妹感があって、ペンシルゴンはちょっと羨ましくなったという。自分もいいの探そうかなと考えたという。
「さて、まあ私達の用件はウェザエモンの戦利品関係が主だったんだよね。後は報告とちょっと聞きたいことがあって」
「ん?どうしたの?」
「報告っていうのは、私達クランを作ったんだ。まあ色々あって最終的にはクランリーダー私になったんだけど……その報告と、挨拶回りと言うか、根回しと言うか。ほら、ウェザエモンの件ではおじいちゃんとかそっちの幹部の人達にも骨折ってもらったでしょ?だからその関係の御礼と、クラン関係の挨拶とか色々。おじいちゃんって今日居る?」
ペンシルゴンはただの腹黒い外道だと思われがちだが、ちゃんとしっかりするところはしっかりしている。それどころか、本人はそんな素質まったくないと思っているが、人の上に立つ指導者としても、複数のプレイヤーを率いる指揮官としても極めて高い才能を持っている。サンラクもオイカッツォも口にしないだけで、ガチモードで慢心おふざけ一切なしのペンシルゴンと戦略ゲームしたら勝てるか、と考えたら口を揃えて『ガチのあいつは無理ゲー、特に笑顔消えてたら絶対無理』と言うだろう。といっても、そんな本気モードになることは滅多に無いのだが。基本的に彼女はのらりくらりと自由気ままで、刹那主義の享楽家である。
「キョージュさんは今日は居ないかなあ。ちょっと前に二、三日空けるとか言ってた。そういえば、キョージュさんもアーサー達に話があるとか言ってたね」
「お、ナイスタイミング。でも今日は不在なら後日かなあ、悪いんだけどクラン作った件と、私が話したいって言ってたの伝えてもらっていい?」
「わかった、伝えるよ。えっと、後聞きたいことがあるんだっけ?」
「それなんだけど、多分シグリンデの感じみるとそっちも知らなさそうだよね……サンラク君の行方、知らない?」
はて、とシグリンデは思う。結論から言うと、知らないのだ。
というのも、ウェザエモン戦の後はゲーム内部でペンシルゴン達と頻繁に会っていたわけではない。常にまとまって行動しているわけでもないし、それぞれやることもあるだろう。加えて、現在の自分の所属は【ライブラリ】。そっちのことでもやることはあったりもして、行動を把握しているわけでもない。ウェザエモンの件の事後処理にリューネの件、ラビッツの件にリアルの仕事関係と色々あった。
特に仕事はなんとか山場は越えたが、少し立て込んでいた。近々開催されるGGC、グローバル・ゲーム・コンペティションという大規模なイベントのことで色々と話が出たのだ。それにあたって、よく配信で一緒にやることが多い『ツ担々辛麺』など、配信者やプロゲーマー、イベント関係者との打ち合わせが立て込んでいた。自分は声優業がメインなのだが、と思ったが事務所からも『こっちの方面のスケジュール調整したから問題なし、ヨシ!』などと言われた。
なんでも、聞く所によるとGGCのゲスト枠についてエキシビションマッチを行うプレイヤーに『ゲストの希望通るかは別として出すだけ出せるんだけど、どうする?』と開催側が言ったらなんと格闘ゲーム界においての世界最強、シルヴィア・ゴールドバーグから自分の指名が入ったらしい。なのでGGC関係の話が回ってきたのだ。
「サンラクの行方?ううん、知らないけど、どうかした?」
「【ライブラリ】関係者のところに来たりとか、そんな話とかない?なんでもいいんだ」
「うーん……そういえば、キョージュさんが数日空けるって話す前にサンラクとエイドルトで会ってちょっと話したとか言ってたような」
「素晴らしい情報をありがとう。カッツォくん」
「よし任せろ、絶対捕まえてやるから覚悟しろサンラク」
「えーっと……?ごめん、何かあった?」
そんなことを言うと、疲れたようにしてペンシルゴンとオイカッツォはため息を付いた。
「シグリンデ、ウェザエモンの件の後色々とゴタゴタしてたでしょ。特に、何かと絡んでこようとするプレイヤー居たでしょ」
「居たね。でもそこまで強引に手を出してくるような相手は……あー……そういう」
「察しが良いね我が妹。【ライブラリ】は極めて厳重な警告に加えて、下手なことすればもう情報開示はしないという告知。更にはあなたの近くには殆ど誰かしら一緒に行動もしてたから関与できなかったのよ。加えて、前のPK集団壊滅させた件とかもあるし ……後、PK連中や対人連中には愚弟がかなりキツく釘刺してたし」
「ん?最後なにか言った?」
「いやなんでも。つまり、シグリンデには関与できないけど、私達には後ろ盾みたいなものがないから思いっきり狙われた訳なんだ。特に、私はトップクランにも名前が知られてるし知り合いも居るからキツかった……現在進行系でウェザエモンの件で話聞かせろってメッセも飛んできてる……」
実を言えば、シグリンデ限定で裏では弟であるオルスロットが動いていた。ウェザエモンの踏破者ということは当然とてつもない強者と認識されている。しかも、シグリンデの場合以前のPK集団を壊滅させた件でも名前が知られている。なのでPK連中や対人連中からは狙われる可能性があったのだが、それに対して裏でオルスロットが釘を差した。『もし手を出したら、出したやつ全員俺が直々にPKして地獄の果てまでキルし続ける』と脅しまでして。
というのも、オルスロットとしては打算や先を見据えての理由もあった。まず、大好きな姉に迷惑をかけたくないという理由が最も大きい。そのほかの理由としては、ウェザエモン戦当日の同時刻に発生した、クラン連合とPK集団の通称『連合戦争』。それによるPK界隈のダメージは少なくなく、ただですら締め付けの厳しいPKや対人プレイヤー達を今余計に人員や戦力を減らすのはしたくない、という考えだった。客観的に見て、まず手を出して勝てる相手ではない。加えて現在は【ライブラリ】や【午後十時軍】、その他身内関係諸々の戦力とも交戦をしなければならない可能性を考えると、絶対に喧嘩は売っていけないという状態だった。
「で、そんな中サンラク君はそういった面倒事から逃げるようにして姿を晦ましてるのよ。メールを送っても無視、だからちょっと捕まえようと思って。彼に会いたいって人達も居るし、サンラク君と私達が関わり合いがあるってバレてるからサンラク君関係でも追われててねー……」
「ヤバイ眼をした奴等に取り囲まれて、サンラクの居場所教えろとかウサギがどうのって言われたこともあったよ俺は……」
自分には後ろ盾がある。【ライブラリ】という後ろ盾だ。その強力な力のお陰で諸々の件でそこまで災難に遭う、ということはあまりない。だがそもそもの話として、その後ろ盾や今の縁のキッカケを作ってくれたのは姉であるペンシルゴンだ。加えて、オイカッツォもまたウェザエモンという強大な相手を共に戦った仲間でもある。
本当に疲れ切っている二人を見て何かできることはないだろうか、とシグリンデは考えていると。
――「すまないね、シグリンデ君達は居るかね?予定が早く終わったのでね、少し顔を出せたらと思ってきたのだが」
コンコン、と会議室の扉がノックされて聞こえてきたのは、今の現状にとっては天の助けに等しい存在の声だった。