「えーっと……アーサー?これはどういう状況……?」
「お、来たねシグリンデ。あー……血肉に飢えたゾンビの群れに、無慈悲にも信頼していた相手に投げ込まれたエムルちゃん……的な?」
「サンラク?」
「待ってくれ話を聞いてくれ、頼むから真顔でコンソール操作するのやめてくれ!なんかヤバイ相手に連絡してそうって直感が言ってる!」
「最近知り合ったリアルで兎飼いのPKの知り合いが居て」
「察したけどサンラクくんマジでヤバイ相手だよ」
思わずサンラクは物凄い速度でペンシルゴンを見た。見れば、彼女は両手を合わせて合掌している。そうしてサンラクも察する、ペンシルゴンが煽り散らかしたり今の自分の様子を見て笑い転げない当たり本当にヤバイ相手だと。
「ストップ、ストップだシグリンデ!ちゃんとエムルには後で謝罪とスペシャルラビッツパフェと魔導書に最高級人参……誠意を見せて謝る!」
送信ボタンを押す一歩手前でサンラクがそう慌てて静止し、シグリンデはジト目とともにその送信を取消した。
「友達がひどい目に合わされた、なんて知ったらリューネが悲しむからね。ちゃんとエムルにも謝るんだよ?」
「エムルがひどい目に会う、リューネが悲しむ、その姿を見た保護者の皆さまが動き出す……いくえ不明。おいィ?俺、マジで不味いことになる一歩手前だったかもしれん……ちょとsYレならんしょこれは……?」
ひとまず群がられているエムルを助けることから始めるよう、そう思いサンラクは『手伝えカッツォ!』と言って無理矢理エムル救出へと同行させると、そのまま最初よりは多少マシになったクラン【SF-Zoo】のマスター、荒ぶる『Animalia』達のもとへと歩いていく。
そうして、ひとまず二人になったペンシルゴンはシグリンデへと近づくと周囲には聞こえないように言葉を紡いだ。
「……リューネちゃんは?」
「王立図書館でセートさん達と一緒にいる。一応、今日は夜あいてたからってハンゾウさんも一緒」
「なら安心だね。おじいちゃんも色々対応してくれてて助かった。【真理書】のほうは?」
「そっちを今夜、リューネと一緒に再度確認してみるつもりらしいよ」
「【ライブラリ】の分析考察にも期待してるけど、何かリューネちゃんが気がついてくれるといいんだけど……」
今回、リューネも同行させて欲しいと打診があった。それを打診してきたのは、【黒狼】だ。
リューネにはかなり特殊な事情があり、しかも最強種。未だその存在を【旅狼】と【ライブラリ】しか知らない『無尽のゴルドゥニーネ』に関わるNPCでもある。その情報が漏れた、ということはまずない。とすると、別の理由から彼女を呼んで欲しいといってきたということだ。
彼女はとても人気のあるNPCでもある。確かにシャンフロでは人気のあるNPCというのは存在している。『聖女イリステラ』などがいい例だろう、その人気からファンによってクランが結成されるほどだ。その例に漏れず、リューネにもファン、というよりは沢山の保護者のようなプレイヤー達が居る。今日、【ライブラリ】で情報の討論と護衛にあたってくれているハンゾウもその一人だ。
数多くの、しかも中にはトップランカーも居るプレイヤーから大事にされているということはそれだけ知名度もある。ただですら珍しいクラン専属になっているNPCでましてや所属は今何かと話題にもなる【ライブラリ】である。つまり【黒狼】は、そういった彼女に対するプレイヤー達からの評価や情勢から何かを感じ取った可能性が高い。
が、今回の会談で【ライブラリ】。キョージュは同行させてきてほしいという提案を拒否した。そしてその同行拒否の意向は、ペンシルゴンも同じだった。かわりに、今回の会談に【黒狼】が必ず食いつく餌を用意した。
それがサンラクの持つ『夜襲のリュカオーン』に関する情報だ。無論、彼に対してその情報を餌にするという話は通してある。サンラクとしても、リュカオーンのモーションについてくらいなら確かに貴重な情報かもしれないが、下手にリューネへと注視が向くのは不味いと判断していた。トップクランがそんなことをするとは考えにくいが、同行を拒否したことを深堀りして監視でもされたらたまったものではない。もっとも、そんなことをすれば保護者の皆さまが黙っていないだろうが。
「シグリンデ、あなたの事とリューネちゃんのこと。【黒狼】に何か感づかれたと思う?」
「王様にもゴルドゥニーネにも繋がる情報はひとつも見られてないし、それはないと思うよ。……アーサーも予想してると思うけど、多分リューネを同行させようとしたのは人型の、それも限りなく人に近いNPCをクラン所属にさせる方法を聞くためだと思うよ」
「やっぱりその線か……最悪なのはユニーク関係の可能性だったけど、そこはまずないと踏んでた。どちらにしても、人型NPCをクラン専属にさせる方法って内容で突かれるのは避けたかった。あの子の事情が特殊すぎて、その質問に対して答えられる回答がないからね」
「会談の場で嘘を言うわけにもいかないしね。だからキョージュさんもそのあたりのこと考えて拒否したんだと思うよ」
「まあ、今後突かれると面倒だし……モモちゃんには悪いけど、ちょーっと脅させてもらおうかな?」
「アーサー……もしかして保護者の人達を使って釘刺すつもりじゃ」
「下手に周囲を突かれ、嗅ぎ回られて活動が阻害されるのは嫌ってのと、後そんなことしたらやってること小さい女の子に対するストーカーでしょ?アウトだよアウト、リューネちゃん怖がるかもしれないし。だから保護者の皆様にご報告を、ね」
「【黒狼】というかそのリーダーの人大変なことになると思う……。というか、その人知り合い?すごい親しい感じだけど」
「あれ……あれ?話してなかったっけ」
「何が?」
とりあえず【黒狼】へとちょっとお仕置きするのは確定か、と考えつつ言ったその言葉。それに対してペンシルゴンは疑問符を浮かべた。
「サイガ-100、クラン【黒狼】のリーダーなんだけど……。あー……そうだ言ってない。シグリンデは向こうとも関わること無かったから、面識もないし話してなかったか。んー……まあ、今のうちに話しておくかあ。そのサイガ-100って人、リアルでも知り合いなんだけどね。シグリンデも知ってる人だよ、あなたが食生活改善した人」
「…………アーサーと私の知り合い、『サイガ-100』、サイガ、斎賀……え。うそ」
「本当の本当で大マジだよ」
「だってこの前も仕事で打ち合わせしたけど、ゲームなんてしてる素振り無かったよ?」
「一回矯正されたから、だらしないところあなたには見せたくないのよきっと……」
名前こそ出さないが、ペンシルゴンからのヒントで『サイガ-100』なる人物の正体がシグリンデにもわかった。というより、身内であり姉繋がりの友人でもある。つい先日も、姉にも知らせていない案件。現在公にされていないGGCに自分も恐らく出演するということで、事前の取材に来ていた本人に対して。
『百、大丈夫?なんかいつもより疲れてるような……』
『ちょっと色々あってな……悠乃、昼飯なのだが……新作カップ麺を』
『ツ担さんイチオシの『超激辛モンスター級』とかいう注意書きたくさん書かれてるカップ麺ならいいよ』
『すまない今日はちゃんとしたもの食べる。あれは人の食い物じゃない』
などというやり取りがあったばかりだ。
『斎賀百』。リアルではシグリンデ、悠乃や永遠と同じ24歳。容姿端麗で文武両道で現在は出版社に勤めている。悠乃にとってはよく知る友人で、永遠と違い今の業界関係の専門学校へと通っていた悠乃も交友のあった相手である。
あまりの食生活と私生活がとんでもなくだらしがなく、永遠と悠乃からは最早行き突くところまで行き着いたのではないのかというそれを改善することは難しく。結局、悠乃の努力が実を結んで食生活の一部と部屋が俗に言う『汚部屋』でなくなり改善された、という過去がある相手でもある。放り込むだけ、という形で洗濯は高額な全自動機がするようにもなったし、あまりにも永遠と悠乃から煩く言われたこともあってちゃんと毎日風呂にも入るようになった。
少なくとも、最低限度は人としての矜持を保てるようになった残念過ぎる美人な友人、それが『斎賀百』である。
残念な美人ではあるが本人はちゃんとした格好をしていればただの美人、それもトップモデルの永遠に引けを取らず、彼女とは別タイプのトップモデルと言っても通じる程の容姿である。過去には、百の勤めている部署の、彼女の直属の上司にあたる人物が『天音姉妹が友人と話している絵なんてどう?』と言って、三人揃っての写真を取り雑誌に載ったこともあった。その際はそれを掲載したものが怒涛の勢いで売れ、話題になったという。百の名前は伏せられていたが、『この美人誰?』『これが出版社の社員ってマジ?』などと騒がれたこともあった。
「世の中って狭いなあ……。ちなみに、私のことについて話してたりするの?ほら、私はアーサーと違ってリアルと見た目違うし」
「ちょーっと【黒狼】がきな臭いと言うか、面倒なことになってるみたいでね。話してない。まあでも、モモちゃんが原因じゃないし、今のシグリンデには色々と後ろ盾があるから教えてもいいんじゃないかな。 ……っと、ほら。来たみたいだよ。おじいちゃんも一緒みたいだ」
見れば、キョージュ、そしてそれに並ぶようにして話しながら歩いてくる姿があった。赤色の長髪、銀色の騎士鎧。そして、リアルの彼女よりだいぶ小さめにキャラメイクされている女性の象徴、胸部装甲。
「……マイナス詐称すごくない?」
「それは私も思ったし言った。まあリアル知ってるとねぇ……」
お互いに苦笑いする。永遠や悠乃もそこそこにあるほうではあるが、彼女のそれと比べると小さく見えてしまう。しかも、本人は多少矯正されたとは言えかなりだらしのない生活を送っており、食生活もまだまだいいとはいえない。それでもあのスタイルを維持できているのだ、意味がわからないと二人揃って思っている。
どうやら、話し込んでいた二人も此方に気がついたのか。軽く手を振ってきた。
今日のペンシルゴンとキョージュが書いた絵。その役者が揃った。
■斎賀 百
悠乃と永遠の友人。悠乃は姉経由で知り合った。永遠はファッション誌関係でよく仕事が一緒になることがあり、悠乃もゲーム雑誌や声優関係の雑誌、映像作品雑誌などでよく一緒になる。実は学生時代、悠乃に生活環境を改善させられたのだがその時に地獄を見た。以後、最低限人としての威厳を保てるだけの生活を心がけるようになった。趣味はシャンフロとカップラーメン、ラーメン屋の食べ歩きとレビュー。悠乃の知人であるトッププロゲーマー『ツ担々辛麺』とはラーメン仲間。一度永遠と悠乃と共に写真に写ったことがあるのだが、その時は読者から『この美人誰?』『出版社の人?モデルさんじゃなくて?』などと騒がれた。以後、社畜の美人キャリアウーマンとして人気が出た。
原作との相違点は、かなりの妹溺愛家。所謂シスコン。シャンフロを妹である玲が始めてからはそれはもう人が見ていないところでは過保護というレベルを通り越した状態を見せていた。現在の【黒狼】関係のいざこざに妹を巻き込みたくはないと考えているようで、何かを画策している模様。
■兎飼いのPKの人
リアルで兎を5匹飼っている兎愛好家。兎のために家を買う程に兎が大好き。シャンフロではトップレベルのPKなのだが、同じPKでも平気でPKする。最近はとあるカウンター存在である賞金狩人の存在と切り結んでその後に一緒にデザートを食べるのが日課らしい。主に出入りしているクランは【SF-Zoo】で、兎達によりよい生活を送らせてあげるためにリアルで生物の専門家に色々と教えを請うている模様。その対価として園長などの用心棒を請け負っている。
シグリンデとリューネとは図書館で調べ物をしていたら知り合った。よくリューネにお菓子をあげているとても、すごく、尋常じゃなく強いお兄さん。