「待たせてしまったようだ、すまないね。いやはや、もう少し早く来るつもりだったのだがつい話に花が咲いてしまってね。だが、妻が元気そうで何よりだったよ、サイガ-100君」
「ははは、いえいえ。マッシブダイナマイトさんは本当に楽しそうにしていましたよ。アップデート当日だって、うちのクランの招集を跳ね除けて『この私の『路』を邪魔することは何人たりとも許さない』と叫びながら新大陸に向かいましたし」
「……すまない、本当にうちの妻が迷惑をかけたようで」
「いえいえとんでもない!確かに、『連合戦争』でマッシブダイナマイトさんが参戦してくれていれば、と思うことはありますがそれを強要することは私にも出来ませんでした。あの人にはただ信ずる道、あの人風に言うなら『路』というものに付き済んでくれている方がいいんです。そのほうが、恥ずかしい話ですが今のうちのクランや、多くのプレイヤーに対して力と元気を与えてくれるのですから」
マッシブダイナマイトはパワー信奉者、いわば力の輩だ。そして、己のパワーと己自身こそが最も信用できるものだと信じ。そして。パワーとは多くのことを解決し、逆境を、悲しみを、絶望すらも跳ね除けるものだと考えている。
彼女、もといこの世界では彼は有名だ。パワー、つまりSTRに主軸を置いたビルドであり、ゲーム内部において最高クラスの物理火力を持つプレイヤーでもある。真正面からパワーを以て相手を叩き潰す。それは、キョージュもよく気にかけている知識の輩であり、【ライブラリ】の最高戦力の一人とも言えるシグリンデとよく似ていた。
しかし、己の妻は似ているシグリンデにはないものを持っている。確かに、妻は努力して【最大火力】の称号を獲ろうとしているが取れていない。実力だけで言うならば、シグリンデの規格外さもあるが彼女には届かないとも思った。だが、妻の強さとはそこではない。パワーであり、パワーではないものなのだ。
最前線で揺るがず、パワーによって敵を粉砕し、他の味方を鼓舞し、その力強い在り方で周囲全員にパワー、士気を与える。マッシブダイナマイトという一人のパワーは伝播し、周囲の者達の持つパワーが目覚め、やがてそれは巨大な力となる。
プレイヤーとは即ち人間だ。人間である以上、気持ちの強さやモチベーションなどといった精神的な要素は大きく関わってくる。それが低ければ低いほど、個々の持つ能力は十全には発揮されない。だが、妻の在り方はそれを引き上げ、最前線で戦い大声を叫ぶだけで最高潮まで持っていく。それが、どれだけ強大な素質なことか。
シグリンデを個においての才覚だとするなら、マッシブダイナマイトは群においての才覚。似ているようで、それぞれ方向性の違うものを持っているのだ。
そうして。そんな妻の力強さに自分は、燐堂報ノ介は惚れたのだ。
「……私も、あの人には助けられてばかりです。最近はちょっと、リアルでも大変で。こっちでもゴタゴタしていて。でも、疲れ切った所にあの人から激励されたり、相談に乗ってもらったりして。元気が出て頑張れています」
「ふむ、そうか……。おっとすまない。アーサー・ペンシルゴンは既に存知だと思うが、サイガ-100君に紹介しよう。色々話題にもなっているから知っているかも知れないが、うちのクランの若きエースのシグリンデ君だ」
言われ、一歩前に出てペコリ、とシグリンデはお辞儀をした。
「はじめまして、【ライブラリ】所属のシグリンデです。こんばんは、サイガ-100さん。 ……大変でも、ちゃんとご飯は食べてね」
「あなたが『図書館の執行者』……。ああ、はじめまして、私はクラン【黒狼】のリーダー、サイガ-100だ。どうぞよろ ――んん?」
何かが引っかかるような感覚をサイガ-100は覚えた。最後の言葉、それは初対面の相手に対して言う言葉だろうか。そもそも、自分の食生活が自覚しているが雑というか、適当なことなど親しい友人しか知らないはずだ。
そして見れば。彼女の後ろに居るペンシルゴンが、笑顔で自分を指さした後、シグリンデを指さしていた。そこから考えられるのは、ペンシルゴンの関係者ということだ。ペンシルゴンの関係者で、自分の私生活を知っている。となると候補は片手で数えるくらいしか居ない。そこまで考えて、『まさか』と思った。
「お前、まさかゆ……コホン。まさか、あいつか!?」
「えーっと……昨日ぶり?」
確定だ。昨日会っていて、ペンシルゴン。つまり永遠の関係者となると一人しか居ない。
「嘘だろう……?まさか、有名になっていたのがまさかお前……あー……そうだな。シグリンデだったとは」
「私もまさか、モモがシャンフロやってるとは思わなかった」
「それはこっちの台詞だまったく……」
そんなやり取りを見てキョージュはといえば、『リアルで知り合いだろうか』くらいに思っていた。なお、この時点でも後ろのほうではサンラクとオイカッツォ対荒ぶるゾンビたちによるエムル争奪戦が続いていた。そろそろ終わりそうではあるが。
「さて、全員揃ったようだね。ちょっとそこ、そろそろ始めるからいい加減終戦しなさい」
ペンシルゴンがそういうと、ゾンビの群れ。【SF-Zoo】の面々は渋々といったように従う。その瞬間を逃さずエムルは逃走。そのままサンラクのもとへ……と思いきや、シグリンデの後ろに隠れるようにしてしまった。
「えーっとエムル……?サンラクはあっちだけど……」
「サンラクさんは私を裏切りましたわ……暫くは信用できませんわ……。正直、先程のあれはヴォーパル魂見せても尊厳が失われそうになるほど怖かったんですの……」
「やっぱり連絡しておくかあ」
「うおい待て、待て待て!エムル悪かった!スペシャルラビッツパフェ食べ放題に新しい魔導書二冊、それから最高級人参と最上級ポーションも詫びとして用意するから許してくれ!」
「つーん、ですわ。謝罪の意は受け取りますが、この『話し合い』とかいうのか終わるまではサンラクさんに近づきません。信用ならないですわ」
そのままエムルはシグリンデの肩へと飛び乗ると、ジト目でサンラクを見ていた。そんなやり取りをしているのだから、周囲の面々からも訝しむような視線がサンラクへと突き刺さる。完全にゾンビの群れにエムルを投げ込んだサンラクの自業自得である。
ともあれ。役者は揃った。改めて一同は、エイドルトにも存在するNPCカフェ『蛇の林檎』の個室へと移動するのだった。
◆ ◆ ◆
会合の前半、主にサンラクに対する各クラン。といっても【黒狼】と【SF-Zoo】からの質疑応答は概ね順調に進んでいた。そもそもこの場が【旅狼】と【ライブラリ】による画策だと知られないために、【ライブラリ】側からも演技としてウェザエモンについての質問をしたりもしていたが、それか悟られることは無かった。
各クラン、といっても【SF-Zoo】のクランリーダーである『Animalia』以外には付き添いとなるプレイヤーが立ち会っている。【黒狼】からは『サイガ-0』が、【旅狼】にはサンラクとオイカッツォが、【ライブラリ】にはシグリンデがという形である。
立ち会いながら話を聞いていたが、気になったのは【黒狼】への釣りエサとして提示することとなっていた『夜襲のリュカオーン』についてのことだ。情報を提示するのは知っていた。だが、具体的にどんなものなのかというのは提示するまでサンラク以外知る者は居なかった。
話されたのは、主にリュカオーンのモーションについての話し。そして、サンラクが斃されたという最後の攻撃についての話だ。続けてサンラクとサイガ-100が話を続けているうちに、シグリンデは気になったことを聞いてみることにした。
『王様、聞きたいことがあるんだけどいいかな』
『我も見ていたから察しはつく。リュカオーン……あの忌々しい駄犬は、たまに我の領地を我が物顔で散歩するなんとも厚顔無恥なやつよ。しかもあやつ、我が居ない時に必ず現れて好き勝手して去っていく本当に忌々しいやつなのだ』
『犬っていうよりその自由さは猫みたいだね……』
『まあ別に、我の領地で悪さをしているわけではないから別に気にしないと言えばそうなのだが……あやつ、話しかけても一切反応しないのだ。聞いてはいるようだし、恐らく話すつもりがないのだろう』
『猫みたいに自由な犬……ふふ、ちょっとかわいいね。でも、それが狼って生き物か』
『我もあやつとは偶に顔を合わせるが、いつもあやつは好き勝手してそのまま何処かに帰ってゆく。昔のことを言えば、我と奴はそもそも生まれが違う故、詳しいことも知らぬのだ』
ランダムエンカウント。それは、ジークヴルムと同じタイプで、偶発的にフィールドで出会うことが可能な特別な存在を指す。そしてリュカオーンもまた最強種でありながらそれに該当し、目撃証言や戦闘報告だけならばジークヴルムと同じくらい多い。
ただ、具体的な情報は殆どないといっていい。大抵が目撃した、戦った止まりである。というのも、戦闘してもすぐに倒されているプレイヤーが大半であり、またリュカオーンに関するクエストも発見されていない。
『もし奴がそちらに殴りかかってくるのであれば、少し躾をしてやってもよいかもしれぬな。ははは』
ジークヴルムは駄犬と称したが、戦闘という中で躾をして従う相手だろうか、そう考えた。気がつくと、話し合いは殆ど終わっていたようだ。
■マッシブダイナマイト/燐堂桜
ゲーム内部では滅茶苦茶厳ついマッチョ。STR軸のDPSタンクも可能なハイブリッドビルド。リアルではお淑やかな老婦人、実はいいところの家系出身だったりする。
悠乃より少し年上の息子が一人居る。最近、夫を引き込んだ方法と似た方法で息子をシャンフロに引き込もうとしている。本人は娯楽というだけではなく技術や学術的観点から割と乗り気の様子。
■燐堂さん家の息子さん
オリキャラ、ネームドの人物。リアルでは助教で、某ミ◯ヨワールドの草の国の書記官のような見た目をしている。最近、両親共々からシャンフロを推されて娯楽としても技術という点でも興味を持ち始めている。楽郎や悠乃とは別方面での規格外の才覚を持っている。
■リュカオーン
よくジークヴルムの縄張りを散歩していたのだが、最近は何かを探すように徘徊している。それに対してジークヴルムも『探し物か?』と声をかけても反応を返さずそのまま恐らくは探し物を続行した。その姿には曰く、何か哀愁を漂わせていたという。
ゴルドゥニーネの頂点個体とエンカウントした時は攻撃されたのもあるが別の理由でブチ切れして完全敵対になった。
■悠乃
リュカオーンの話を聞いて犬飼いたいなぁとか考えていた。