「え?ハンゾウさん、お弟子さんが居るんですか?」
「……『りある』の知り合いなので御座るが、何かと危なっかしく放ってはおけなかった故」
とある日の王立図書館、そこでシグリンデは珍しい人物に呼び止められ、話をしたいと言われていた。
プレイヤーネーム、『ハンゾウ』。【ライブラリ】が情報収集や調査を依頼している個人プレイヤーであり、同時に王立図書館の警備とリューネの身辺警護を自主的に行っている集団『図書館御庭番衆』の頭目、リーダーでもある。
謎が多いプレイヤーではあるのだが悪い人間ではなく、寡黙だがコミュニケーションも取ってくれる。ジークヴルムをして、ウェザエモンと同じ気配がすると言わしめるシャンフロ内においては近接型スカウトビルド、特に忍者というカテゴリでは『天地忍』という職業を保有しておりトップと言われている人物だ。
「ということは、そのお弟子さんも『忍者』関係のビルドを?」
「……如何にも。実は、その弟子のことでシグリンデ殿に伺いたいことがあり申す」
「私に?えっと、なんですか?」
珍しいこともあるものだなと思う。しかも、どうやらその話は自分のことについてでらしい。ハンゾウはリューネの保護者的集団の一人で、もし話があるならリューネ関係のことかと思っていたのだが、どうにも違うらしい。なお、現在リューネは日頃の業務の手伝いで王立図書館内で手伝いに励んでいる。館内に居る『保護者会』の人員からは微笑ましい視線を向けられている。
「……こうして会議室を借りたのは、その話に関係してのことで御座る。内密な話故」
「【ライブラリ】関係で内密で私のことと言うと……もしかして、ユニーク関係のことですか?」
【ライブラリ】のトップであるキョージュや、幹部陣から依頼されることもある通称『保護者会』という集まりのトップ。忍者系やスカウト系のビルドで構成された『図書館御庭番衆』、元PKの集まりでいかにもといったキャラメイク集団の『雷武羅理威』、全員がタンクとヒーラーかつ重装備で固められた『王立図書騎士団』。それぞれのトップはシャンフロでも名高い実力者達はユニーク関係の情報を秘匿の条件のもと教えられていた。このハンゾウは、ユニーク関係。ジークヴルムやゴルドゥニーネについては知らされているのだ。
「……如何にも。本来であれば、いくら事情を知る身といえど、そちらの事情に踏み入るのは禁忌に御座る。しかしながら、どうしてもその弟子のための力になりたくを思い、こうしてお願いに参った。お叱りも、罰も覚悟の上」
「ふふ、よっぽどそのお弟子さんのことが大切なんですね」
「……拙者の『りある』の妹のような存在故。どうか、お力を貸してはくれませぬか」
「――妹。なるほど、それは重大ですね。私もアーサーという姉が居ますし、最近はリューネという妹のような存在が出来ましたから気持ちは少しは分かります。それで、お話というのは?」
ハンゾウには日頃、【ライブラリ】の業務で世話になっている上、自分がログインしていない時リューネの身辺警護や街の外での活動に同行してもらうなど、とても世話になっていた。トッププレイヤーでPK達からも恐れられるハンゾウがこのような頼みをしてくるのには、相当な事情があるのだろうと察した。
「……今、ジークヴルム殿と会話は可能であろうか」
「えっと、出来ますよ」
ジークヴルムへと『王様ー、ちょっといいー?』と言うと『む、飛行中であるが問題ない。なんだ?』と返された。
「居ました」
「……『秋津茜』という開拓者について覚えがないか聞いてほしいのでござるが」
言われ、その名前に覚えがないか聞いてみる。
するとすぐに返事が返ってきた。
『ああ、覚えておるぞ。あの不屈の心を持つ、忍者の卵の娘であろう?』
『王様が覚えているってことは、趣味で続けてる世界巡りの途中に出会った開拓者?』
『うむ。中々に面白い術の使い方をしてな、我も一度は騙されてしまった。いやはや、この我を一度といえど騙すとは見事な術の使い方だったのだ。ゆえに、まだ卵といえど何れ強者に至ると確信してな、刻印を残させてもらった』
『滅多にもう残してない、って言ってたのに残したってことは相当だね。茜……あかね、っていうと名前的に女の子っぽいけど、変な所に残してないよね?』
『当然であろう!もし変な場所に残せば、以前左目を通して見ながら聞いていたが、開拓者達で言うところの『はらすめんと』とやらになるのであろう?我としても、強き者に対してそのような無礼はせぬ! ――問題なさそうな場所、顔に残しておいた』
『……あー』
『な、なにかまずかったか!?』
正確にはなんともいえないラインだ。女性の顔に傷をつける、というのは一般的な考え方ではアウトのような考え方をされるが、しかしなんともいえないのも事実。そもそもユニークモンスターの呪い自体がそういったアウト判定の行動や行為に該当するかも怪しいもので、実際の所は問題ない気もする。
『まあでも、王様たちみたいな存在からの刻印みたいなものは別にハラスメント的なものではないし大丈夫だと思うけど』
『ぬ、ぬう……だといいのだが……。やはり人の文化とは面白いが難しいものよな……、して、あの者がどうかしたか?』
『ちょっと知り合いが、王様がその人に対してどんな印象を持っていたかとか聞きたいらしくて』
『あの者に対してか?ふむ……そうだな。まず、忍びの者らしく術の扱いが上手く、間違いなく将来化けるだろうと思ったな。そして、何よりあの者は『絶対に諦めぬ』。どれだけ不利になっても、どれだけ追い込まれても決して諦めない。我との戦いも最後のその瞬間まであの者は弱気を見せなかった。強く、気高い輝き。絶対に消えぬ、灯火となる光のような開拓者であった。縁があれば、また戦ってもよいと思っている』
『すごい評価高いね……。わかったよ、ありがとう。空飛ぶ時は安全運転でね』
『ご安全に、ヨシ!というやつであったか? また何かあれば呼ぶがよい』
話を終えて、その内容をハンゾウへと伝える。すると、あまり表情を変えることのない彼は安堵したような表情を見せていた。
「……安心したでござる。実は、その弟子から呪いを受けたという話は聞いていたのでござるが、ジークヴルム殿とのやり取りや戦いがどんなものだったかというのは恥ずかしがられて、教えてもらえなかったゆえ。呪いには初心者には危ないもの、例えばリュカオーンの呪いのように『餌』のように見るものもある故、心配していたでござる」
「王様はなんというか、すごい気に入ってましたね。才能があるし先が楽しみと褒めちぎってましたし、再戦の機会があれば戦いたいとまで言うのは相当に気に入ってますよあれ」
「……ジークヴルム殿とは拙者も戦ったことがない故、少し弟子が羨ましいでごさるな」
すぐに彼は『失礼した、なんでもないでござる』と言ったがシグリンデは逃さなかった。
まるでそれでは、彼が別のユニークモンスターと戦ったことがあるような言い方ではないかと。
もしくは、ユニークモンスター相当の何かと、だ。
「……ジークヴルム殿に気に入られてるのであれば、それはよかったでござる。もしすかると、拙者の弟子。秋津茜と何処か出会うことがあるかも知れぬが、その時はよろしくして下さると嬉しい」
「わかりました、ハンゾウさんがそこまで目をかけるなんてなんというか、とても大事にされてるというか優秀なお弟子さんなんですね」
「……妹のような、幼馴染のようなものでござる。昔から元気なのはいいでござるが、どうにも目を離せない危なさというか。放ってはおけないと申せばよいのか。ともあれ、よろしくお願い申す」
暫くシグリンデは彼とその『秋津茜』なるプレイヤーについて話した。どうやら、やはり相当に大切にされているのだということが伺えた。
そんな相手とまさかの遭遇をすることなど、この時は知る由もなかった。
◆ ◆ ◆
ハンゾウから秋津茜なる人物についての話を聞いた翌日。市場でクラン関係のものを買い出している時にシグリンデのもとに現れたのは、一匹の鳥、鷹だった。
シャンフロではフレンドなどへのメッセージを送信した際、それがゲーム内部のものの場合、こういった鳥類が送信先へと手紙という形で届けることがある。特に意味はないのだが、世界観に合わせた演出のようなものだ。送信先の相手が戦闘中や鳥では到達できない場所にいる場合も当然あるため、その場合はインターフェースを通じてメールという形で送信される。
自分の元に現れた鷹は手紙を届けるとすぐさま図書館の窓から飛び去ってしまい、なんだろうかと思いメッセージを確認してみると、それはとある相手からの『救援要請』だった。
「お手紙?お姉ちゃん」
「うん、そうなんだけど……。リューネ、今日は今の作業片付けたらフリーだったよね?」
「予定はなかったと思うよ。どうかしたの?」
ならば、丁度いいかも知れないと思った。
送られてきたメッセージはサンラクからだった。内容は、『急ぎの用事で、時間が空いていればイレベンタルで合流してフィフティシアまで行くのを手伝って欲しい』というものだった。個人的にこうして送ってくる、ということは恐らく彼の保有しているユニーク絡みだろうかと考えた。
サンラクと自分はユニークシナリオ関係で協定を結んでいる。自分は主にラビッツ関係について口外しないことに加えて、お互いの保有するユニーク関係の事柄について可能な限り協力するという約束をしている。最近彼が何をしているのかは知らないが、自分のやっていることのついでにリューネのことやゴルドゥニーネにまつわる何かがないのかということを調べてくれていたりしており、見つけたラビッツ関係以外での文献や遺跡などについてもメッセージで報告してくれている。
そんな彼が珍しく救援を要請するとは、何か理由があるのだろうと思った。都合よく、先週のリアルでの多忙さが嘘のように近々開催されるGGCまではある程度余裕があった。
「サンラクがちょっと手伝って欲しいらしくてね、戦力がほしいんだって。リューネ、よかったら一緒に来る?」
「いつもサンラクさん、『トンデモバフ飯を食べさせてもらってる礼だ』って言って素材とかアイテムとかくれるしわたしで力になれることならなりたいな……。うん、わたしも行くよお姉ちゃん」
そうして、シグリンデとリューネのサンラクへの合流が決まる。だが、この時は予想もしていなかった。話題の人物と出会うこと、そして。リューネが己の過去に纏わる存在と遭遇し、ある出来事に発展することを。
■ハンゾウ
【天地忍】というジョブを持つバケモノ中のバケモノ。忍者であるゆえに海の上や海の中を走ったりなんなら空を走ったりする。並大抵のトップランカーが束になっても勝てない間違いなく今のシャンフロにおいて頂点ともいえる存在の一人。戦ったとしても、いつ攻撃されたのかわからず、気配すら察知できず、刃も交わすこともできず首を斬られる。全盛期で元気で健康体な忍者型ウェザエモンが襲ってくるイメージ。ジークヴルムが気配だけで称賛したのはそれを察知したからで、『間違いなく今の時代における頂点の一人であろう』と称した。
シャンフロ内では妹のような相手以外には伏せているがプロゲーマー。といっても、ガチガチなプロではなく演者としてよく宣伝案件やゲームの実況がメインのエンタメプロゲーマーのため、リアルのほうでは一度も全力を出したことがない。だからか、シャンフロではよく全力で戦闘している。対人界隈の統率をしているオルスロットが『絶対に喧嘩を売ってはいけない相手の一人』として注意喚起するレベル。辛いものが好きで、実は向こう暫くの間はリアルの大規模ゲームイベントで多忙になることが確定している。
■ツ担々辛麺
エンタメプロゲーマーの男性。奇妙な被り物をしながらゲーム配信をしており、素顔を知るものは少ない。配信時の声も被り物のせいかつボイスチェンジャーで曇った声としかわからず、高身長で筋肉質な変な被り物をした男性、ということくらいしか一般に対しての情報がない。最近は食品メーカーなどのCMなどにも出演したりした。
悠乃にとってはプロゲーマー界隈で仲のいい相手でよく一緒にゲーマー関係の仕事をする。シャンフロに手を出すキッカケとなった人物でもある。なお、永遠は素顔を知らないが悠乃は彼の素顔を見たことがある。
■サンラク
元々ゲーム関係の攻略や備考録のためにメモやノートをとっていたのだが実は滅茶苦茶報告書が丁寧。シグリンデへの自分が探索中に見つけたことについてのものや出来事についてかなり細かく報告書を書いてくれており、それをメールで送ってくれている。何やら気になる情報を見つけたため、シグリンデに協力を要請した。