鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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『深淵』の守り手と審判者の伝説

「さて、どうしたものか……」

 

 その日、サンラクは考えに耽っていた。町中で真剣な表情で突っ立って何やら考え事をする半裸鳥頭のプレイヤーなど目立つのは当然で、彼のことを知らないプレイヤーからは好奇の視線で見られていた。

 

 現在、彼はある重要な情報を持っていた。だが、それはシャンフロ内部で手に入れた情報ではない。自分の行き場のない感情、言い表せないソレと憎きリュカオーンへの感情を解消するかの如く彼が一時的に逃避先、休息先として選んだのは別ゲーだった。

 

 『ネフィリム・ホロウ』。サンラクとしては珍しくプレイを続けているタイトルのゲームであり、それなりの人気を持つものでもある。もっとも、クソゲーではないのだがプレイの感覚というか、ゲームのメインとなる機体操作があまりにも特殊すぎて万人受けしないため、そこまで人は多くないゲームなのだが、そういったコアなプレイヤー達からは人気がある。

 

 目的としていた規格外エーテルリアクターの完成、それをビィラックを『古匠』にすることで達成した彼はそれはもう上機嫌だった。マブダチの亜種、もといレアエネミーである金晶独蠍との激戦。それを経て手に入れたレア素材による装備の作成、新しい装備に苦労して完成させたリアクターによるウェザエモンの遺産の稼働。ゲーマーとしてはとにかく心が踊った。

 

 

 だが。ある問題が発生したのだ。

 

 

 確かにリアクターがあればウェザエモンの遺産である数々の装備は使用可能になる。今後のことを見据えれば、安定稼働させるための大きな第一歩と言えるだろう。しかし、サンラクに限り重大な問題があった。リュカオーンの呪い。彼が受けているそれのせいで装備ができないのだ。つまり、苦労してリアクターを完成させたはいいが、肝心の装備が使用できない。それがリアクターが修復された後に発覚したたのだ。

 

 それはもう彼は落胆したし行き場のない感情が暴走した。だから逃避先として『ネフィリム・ホロウ』、通称ネフホロを選んでプレイした。そこで再会した、ネフホロにおいてのランク一位のルストとそのサポートをするモルド。二人から得たのは、無視できない彼としても驚くべき情報だった。

 

 

 ――『【深淵】のクターニッド、それに関係するユニークシナリオの情報を知っている。だから、取引しようサンラク』

 

 ――『そういえば……シナリオの途中で妙な話というか船乗りたちの伝承?みたいなものを聞いたんだ。なんでも、深淵の最果てには、判決を下す『審判者』たる竜が居るとか……なんとか?』

 

 

 

 前者はルスト、そして後者はモルドが発した言葉だ。その両方がサンラクにとっては無視できないものだった。

 

 ユニークモンスター、深淵のクターニッド。その存在だけは確認されていたものではあるが、殆ど名前だけの存在だった。情報についても、NPCの口伝てのもので信憑性も薄く、そして詳しいものもなかった。だが、ここに来てそのクターニッドの手がかりがまさかの場所で現れたのだ。

 

 そしてモルドの口にした『審判者』、これについてもサンラクは長年のクソゲーで鍛えられた直感から何か予感めいたものを感じ取っていた。直近で幻想種、つまり竜や龍と関係性がある存在が少なくともふたつある。黄金の竜王ジークヴルム、そして未だ不明点が多い存在ではあるが無尽のゴルドゥニーネ関係のリューネだ。その『審判者』たる竜、というのはそのどちらか。もしくは両方に関係しているかもしれないと考えた。

 

 実際にシグリンデを通してジークヴルムへと聞いてもらうのもいいだろうと考えた。少なくとも彼女からはジークヴルムは現在の開拓者、プレイヤーに対して興味や関心を持っており味方側として存在していると聞いている。ならば、もしかするといつかのヴァイスアッシュのような言葉を濁されるかもしれないが、手がかりが手に入るかも知れない。

 

 だからサンラクは取引をした。シャンフロにおいてプレイヤーも使用可能なロボットに関する情報、つまり戦術機に関する情報を渡すかわりにクターニッドに関する情報を提供してもらう。そのために、シャンフロ内部で二人と会う約束をしていた。

 

 だが。更に此処でまた問題が発生。二人と合流する予定なのは、フィフティシア。夏の大型アップデート時点で、今の大陸において最後の街であり、大きな港町でもある。そこにサンラクは到達していない。つまり、エリアボスを迅速に突破してフィフティシアに向かわなければならないという事態となった。

 

「レベルは99にはなったが……もういい加減後半エリアだもんなあ。それに明日までにフィフティシアに到達しなきゃならない。時間に余裕もないし、正直知識のないままこの先のエリアを突破するのは難易度が高い……。協力者が欲しいところだが……。ううむ」

 

 最初に浮かんだのは外道仲間である二人だが却下した。ユニーク絡みである以上、もし呼べば何を言われ問い詰められるかわからないなので却下だ。そして次に浮かんだのは、協力関係を結んだシグリンデだ。

 

「……ちょっと気になることもあるし、なんか今回のクターニッドに関係するなにかはジークヴルムやリューネに関わってそうな予感がするんだよな。最近忙しかったらしいし無理強いはできないが、出来れば来て欲しいところだしメールしてみよう」

 

 ひとまず、シグリンデ宛にメールを作成。その内容に、『少し気になることがある』とも添えて、『忙しいのは承知の上なんだが、もし可能なら手を貸して欲しい』と添えた。

 

 さて、他に心当たりがありそううなのは、と考えて。クラン連盟結成の時の面子を思い出して、そこから依頼できそうな相手を絞り込む。あの時あの場所に居て、面識があり、頼れそうな相手。

 

「あの人、手を貸してくれるかな……?」

 

 ふと思いついたのは、そこまで面識はないが、何度か助けてもらった相手。

 ダメ元だ、そう思ってサンラクはメールを作成して送信した。

 

 

 その相手は、『最大火力』。サイガ-0だった。

 

 

   ◆     ◆     ◆

 

 

 その日、サイガ-0。もとい、現実世界での斎賀玲は浮かれていた。もし家の人間に見られたなら、そのニヤニヤとして挙動不審な姿を見られた日には明らかに不審がられただろう。だが幸いにしてこの日、彼女の家族は留守にしていた。

 

「ど、どどどどうしよう!?こ、これって……あれだよね!?デッ、デート!?」

 

 全くの勘違い、もといそう思っているだけなのだが彼女の中では最早それはデートと同義だった。意中の相手とゲーム内といえど、一緒にプレイして遊ぶ。もうそれはデートと言って差し支えのないものであり、しかも申し出てきたのは相手。サンラクこと、陽務楽郎だった。

 

「これは最大のチャンス……!この機会に陽務君にいいところを見せて、好感度も上げて急接近のチャンス!」

 

「……おい」

 

「命短し恋せよ乙女、だよね!よ、よし!頑張るぞ!」

 

「おいこら」

 

「そのまま急展開であんなことやこんなことにも!?だ、だめよ玲!大人の階段を登るのは早すぎるよ!もっとこう段階を……で、でも陽務君となら……!」

 

「現実に戻ってこんか、愚妹」

 

「あいたっ! ……あれ、私は何を。って、姉さん?」

 

 自室。和風の装いの自室の真ん中で身体をくねくねさせて、それはもうもし人に見られれば怪訝な眼で見られること間違いなしな状態だった玲を現実へ引き戻したのは、彼女の姉。斎賀百だった。

 

 いつからそこに居たのか、呆れ顔、かつジト目で妹である玲を見ており、その右手はチョップの構えで玲の後頭部にヒットしていた。

 

「電話しても繋がらない、メッセージは既読がつかない、ゲームはオフライン。家はそう遠くないから直接赴いてみたらこれだ。連絡がつかないから心配もしてみれば……家族が居ないからといって、奇行は程々にしておけよ、玲」

 

「ち、ちがっ……これは、その……」

 

「あーいい。何も言わなくていい、お前の昔からの癖みたいのものだしな。大方、何かしらの妄想でもしてそれで奇行に及んでいたのだろう。人前ではやるなよ?私は知っているから別に構わんが」

 

「う、うぅ……。恥ずかしい……。 ――あれ?でも姉さんがどうして実家に?」

 

「少し話したいことがあってな。……だが、なにか予定がありそうだな。大方、例の意中の相手絡みだろう?そっちを優先してくれていいぞ、私のほうはまあ早めに話しておきたいことだが、そこまで急ぎじゃない。そういえばデートだとか呟いていたな、頑張れ」

 

「デート……陽務君とデート……え、えへへ……」

 

「姉チョップ」

 

「あいたあっ!? あれ、私は何を?」

 

「さっきやったなこのやり取り?まあいい、用事があるなら後日にするとしよう」

 

「あ、待って姉さん!大丈夫、予定は夜からだから! それで、話って?」

 

 玲としても、姉がこうして実家に来ることは珍しい。確かに現在住んでいる住居が近くとはいえ、本人は基本的に自分の住居で大半を完結させるため実家に来るのは家の関係か、なにか理由がある時以外そうないことだ。つまり、今回は理由があってのことなのだろう。

 

 最近の姉は何かと忙しそうにしていた。というのも、詳しくは知らないが、近々開催されるGGCという大規模なゲームイベントの関係での取材や特集の準備、また務めている会社がGGCにも携わるということで忙しくしていたのは知っていた。だからというべきか、シャンフロへのログイン時間も減っていた。

 

 玲と百の姉妹関係は良好と言ってよかった。昔から百はそれはもう玲のことを大切にしており、普段厳しく接しているように見えていつも気にかけており、厳しくも優しく、という形で接していた。そんな姉が大切にしてくれていることを玲も理解しており、特にシャンフロを始めた頃などは初めてのオンラインゲームということで右も左もわからない、という中でゲームについてのレクチャーをしてもらったり、人を紹介してもらったり、クランを通して色々教えてもらったりとしていた。大抵のことはそつなくこなしてしまう厳しくも自分を大切にしてくれている姉、それが玲にとっての百に対する印象だった。

 

 百の指導があったのは事実だろう。それに加えて元々持っていた、オンラインゲームに対する才能。姉と姉の知り合いという強力な有識者からの指導と、その才能ですぐに玲はトッププレイヤー『サイガ-0』としての頭角を現した。気がつけば、最大火力(アタックホルダー)という称号にユニーク武器である神魔の大剣(アンチノミー)まで手にしていた。

 

 シャンフロの中では誰もが注目するトップランカーで、トップギルドの主力。しかし、百からすればその中身はまだ未成年の、自分の大切な妹だ。年齢的にも、社会経験的にも見守る必要がある存在で、だからこそシャンフロの内部でも百は目を光らせていた。

 

 

 

「話というは、なんだ。 ……シャンフロのことで、少しな」

 

「珍しいね、別にゲーム内部とかでもよかったのに」

 

「少し、人には知られたくないこともあってな。幾つか話はあるんだが ……なあ、玲」

 

「何?姉さん」

 

 

 

 

「――近々、お前をペンシルゴンのところに預けたいと考えている。と言ったらどうする?」

 

 

 

 




■姉チョップ
 目にも留まらぬ早さで妹へと繰り出される姉の一撃。奇行をする妹を現実に引き戻す効果がある。

■あとがき
 深淵にて封を守りし存在は、新たなる風を待つ。
 そしてそれは、深淵に座する『審判者』も同じなのだ。 
 違うとすれば。審判者たる『龍』は、最果てにて次代の至天たる『龍』をも待つ。
 
    ――法廷が開かれる。真実と、未来へ至るために。
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