鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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姉として、妹として

「選ぶのはお前だ、好きにしろ、玲」

 

「……いきなりすぎて、頭が追いつかない」

 

「まあ、だろうな。私も急に押しかけて色々と話しすぎた。だが、話しておかなければならないことだったからな」

 

 姉である斎賀百の来訪、なにか用事があるのだろうと察しては居たが、姉から話された内容は玲にとっては先程までの浮ついた気分を吹き飛ばし、真剣な心情へと変えるには十二分過ぎるものだった。

 

 まず、姉である百は『これがある意味最重要だ』と言って伝えたのは、シャンフロ内部ではまず漏らすことは出来ないとんでもない話だった。それは、ギルド【黒狼】からの離反、そして再編成についてだった。加えて、それにあたり自分をギルド【旅狼】へと移籍させる、というものだった。

 

 ギルド【黒狼】内部の不和、それについては玲も知っていた。元々、【黒狼】は玲にとっては自分の姉。斎賀百がサイガ-100として立ち上げた、打倒リュカオーンを目的とするクランだった。だが、斎賀姉妹のゲーム内部での名声や、百に付き従うメンバーの才能やカリスマ性に惹きつけられて勢力は拡大。今やトップクランとなっていた。

 

 巨大化した組織、特にオンラインゲームにおけるこういったクランというものは力を持つと同時に厄介なことにもなる。人が増えすぎたことによるトラブル、設立目的を忘れてのクランとしての行動に、トップクランに所属しているという優越感に浸ろうとする者達の台頭、クランの権力を使っての過激な行動、考えだしたらそれこそ山ほど出てくる。

 

 【黒狼】もそれに該当していた。今のクランは、当初の目的とゲームとしての冒険を主軸にして活動するべきだという『サイガ-100派』、そしてトップクランとして君臨し続けるために多少過激なことをしてでも、【旅狼】や【ライブラリ】に対して圧力をかけるべきだ、という『リベリオス派』に分かれていた。

 

 だが、勢い的に有利なのは姉の派閥だった。少し前までは多くの新参メンバーや、トップクランとしてあり続けるべきだという過激な考えを持つ派が有利だったのだが、つい先日起きたとある出来事により、それは逆転していた。

 

 『連合戦争』。クラン連合とPK連合の、シャンフロ始まって以来最大規模の大規模PVP。それを主導したのは、今やPK界隈のトップクランに返り咲いた【阿修羅会】のクランリーダー、オルスロット。その大規模戦の結末も、互いに甚大な被害を出したものの、最終的に敗退したのはクラン連合という結末。事実、この『連合戦争』で最後まで生き残っていたのも、サイガ-0やサイガ-100などといったランカーに該当されるプレイヤーだけだった。

 

 過激な思想を持つリベリオス派のプレイヤー達もその戦いには参戦していた。もっとも、PKの保有する資産を奪い取るチャンスなどという邪な考えで参戦をしているものが多かったが。その結果は悲惨なものであり、苛烈を極めたその戦いで戦果を挙げられず、リベリオス派のプレイヤー達は全滅。逆に逃がしていたメイン装備以外の資産の大半をロストするという結果になった。

 

 連合戦争の後は悲惨だった。敵対派閥である斎賀姉妹や、サイガ-100派のプレイヤー達から見ても、冷たい視線を送らざる得ないほどに。

 

 失った資産を取り戻すために、トップクランの権力と圧力を使い中堅プレイヤーを半ば恐喝したり、扇動する形で人員を集め。そうして再びPK界隈のプレイヤー達を襲撃した。だが、連合戦争の後にそんなことが起こる可能性すらも見越していたオルスロットは、逆にその血迷って行動したプレイヤー達を罠にはめて壊滅させた。再びリベリオス達は資産をロストすることとなったのだ。

 

 過激な思想、一般プレイヤーからも嫌われ始めるほどの行動に度重なるPKへの敗北。その結果、勢いづいていたリベリオス派は今や勢いを失い、更には大手クランやトップクランからの信用すらも失っていた。

 

「お前には感謝しているんだぞ、玲。お前の才能、重ねられた知名度、そういったものが私達を助けてくれたことは少なくない。だがな……元々、お前はゲームに慣れるためという目的でクランに所属していたんだ。その才能や知名度にいつまでも甘えるわけにはいかないし、それは姉としてどうなのかとも思った」

 

「そ、そんな。私は姉さんやマッシブダイナマイトさん、他の皆さんにすごく感謝してる。沢山の知識や経験を与えてくれたおかげで、今の私があるんだから」

 

「私も、私達も日に日に成長していくお前を見るのは楽しかったさ。『最大火力』の獲得を目指しているマッシブダイナマイトさんでさえ、お前が先に『最大火力』を獲得した時に自分のことのように喜んでいたのだから。……お前はもう十分に成長して経験も積んだ。だから、もういいと思ったんだ」

 

「姉さん……?」

 

 妹は強くなった、元々才能はあったのだ。その才能は一気に芽吹き、気がつけばシャンフロ内部でも最強クラスのプレイヤーとして認知されていた。そして経験も重ねた。まだ不足はしているところはあるが、それでも基礎はできていると思った。

 

 

 だから。ここから先は妹の物語だ。

 その物語を、想いを集団としてのいざこざに縛り付けてはならないのだ。

 

 

「シャンフロでの歩みは、玲。お前の物語だ。物語とは自ら描くものだ。それに、居るんだろう?ペンシルゴンの所には、お前の想い人が」

 

「えっ!?な、なんでそれを……」

 

「あの時、連盟会議にも居た以前より話題になっていた彼。サンラクくんじゃないのか?大方予想はついていたさ。あの場では平静を装って沈黙していたが、どれだけお前の姉をやっていると思っているんだ。他の人間にはわからなくとも、私にはバレバレだったぞ?かなり動揺していただろ、あの時」

 

「う、うぅ……」

 

「恥じることはない。お前は出来た妹だ、きっとこれから上手くいくさ」

 

 そう、自分にとって出来た妹だった。百は自分の性格を熟知している、どんな人間かもだ。仕事はちゃんとこなすが、生活が雑で私生活は人に見せられたものではない。服装だってオフの時の服装は雑で、ジャージだったりすることが大半だ。食生活だって面倒、という理由でカップラーメンやコンビニ飯、インスタントや出前などで済ませがちだ。自分で言うのも何だが、とても雑な人間だろう。事実、友人である永遠やその妹の悠乃からはあまりの私生活の雑さに唖然とされたり、食生活を心配もされたりした。

 

 そんな自分と比べて、妹は出来た人間だ。興味がないことに対してはとことん冷たいというか、眼中にすら入っていないことがあるのは玉に瑕ではあるが、私生活は規則正しく、料理もできるし愛想もよく頭もいい。見た目だって確かに姉としての贔屓は入っているかもしれないが、美少女という分類に入るだろう。自分の妹ながらとても完璧でかわいい妹だと思う。

 

「お前はどうにも奥手というか、慎重過ぎるところがある。時にはもっとストレートに行ってみろ、きっと良い結果が出るはずだ。なに、姉としてのアドバイスだ」

 

「でも、その。もし失敗したらとか考えちゃって」

 

「失敗や変化を恐れていては何も始まらないぞ?そうなった時に考える、というのはたまにはいいものだ ……まあ、姉としては妹の恋路を応援する所存ではあるが。先程の話は全て事実だ、少しづつでも整理してくれ」

 

「その、ちょっと信じられないんだけど……あのシグリンデさんが、悠乃さんっていうのも?」

 

「ああ、本当だ。私も知ったのはつい先日だが、本当に驚いた……。あいつもサイガ-100の中身が私だということは知ってるし、サイガ-0の中身がお前だということも知っている。だから、私の方は少しクランのことてゴタついているが、今後はペンシルゴン、いや。永遠や悠乃を頼ってくれればいい。二人も理解は示してくれているし、私の方はちょっと面倒なことになりそうだからな」

 

「私だって、姉さんの力に――」

 

「それは駄目だ。玲、お前はお前の気持ちに従え。私が蒔いた面倒事に付き合うことはないし、それを私は許さない。 ……安心しろ、ちょっと過激な思想を持つ奴等をぶん殴って、関係者でクランを離脱するだけだ。 ……クランが大きくなりすぎて、こうなったのは私の責任でもある」

 

 百は、【黒狼】に対して見切りをつけようとしていた。今の現状、それを考えての結果だった。派閥争いに耐えないトラブル、統一性のない組織としての動きに、最近は高まるクランに対する悪評。集団として成立しないそれは、最早醜悪な蠱毒と言ってよかった。

 

 だが、そうなったのには自分の責任もあると考えていた。設立当初、流れに乗りに乗り、後先考えずにクランの名声のためにと大きくしてしまった自分にも責任はある。だからこそ、ケジメだけはしっかりつけなくてはならないのだ。

 

「離脱後は、まあ身内だけで小さなクランでも立ち上げるつもりだ。私達の本来の目的は、リュカオーンの打倒と世界の開拓だ。なに、別に今生の別れというわけでもあるまい。新生後は、改めて【ライブラリ】や【旅狼】、他の交友のあったクランとも改めて交友を再開して初心に帰って目的を定めていくつもりだ」

 

「……このことについて、永遠さんや悠乃さんは?」

 

「永遠には話してある。悠乃にもそのうち伝わると思うがな。永遠としては、戦力が増えることは大歓迎だそうだ。それに、あいつとしても責任を持ってお前の面倒を見ると言っていた」

 

 それに、と続けて

 

「元々あった新大陸探索の計画も進めなくてはならないし、【ライブラリ】の考察では最強種についての手がかりもそちらにあるのではないのかと予想されている。リュカオーンに関して明確な手がかりが現時点でない以上、あるとすれば新大陸だとな。本来の目的のためにも、これは必要なことなんだよ」

 

 伝えることは伝えた、と言わんばかりに満足気に百は一息つく。

 

「まあ、こんな話だからゲーム内部では出来ないしメッセージで話すようなことでもないと思ってな。夏休みなんだ、その意中の相手……リアルでは陽務君、だったか?彼とデートのひとつやふたつしてくればいい」

 

「な、ななっ、なんで姉さんが名前を!?」

 

「いや、なんでも何もお前が良く独り言で口走ってるからだろう……さっきも部屋の中で一人だと思って口にしてたじゃないか」

 

「う、うぅ……」

 

「では私は行くぞ、玲。 ――デートが決まったら言え、デートスポットのチケットのひとつやふたつ、うちの出版社のコネで確保してやろう。妹のためだからな、うん」

 

「ね、姉さんのバカーッ!」

 

 ははは、と茶化すように笑っていた百はふと思い出したようにして。

 

 

「そうだ、思い出したぞ。 ……玲、その彼とはゲーマーなのか?」

 

「え?う、うん。ゲーマーというか……変わったゲームが好きというか……」

 

「ふむ、ならば……玲、お前にプレゼントをやろう」

 

「え?」

 

 そうして、なにやら百がジャージのポケットからスマホを取り出して操作したかと思えば、玲のスマホに着信音が鳴った。なんだろうと思ってみてみれば、それは思わず玲でさえも目を見張るものだった。

 

「これって!?な、なんで姉さんがこんなものを!?」

 

 メッセージアプリを通して送られてきたのは、とあるチケットだ。それも、恐らく欲しがるものは山ほどいるだろうという。

 

「仕事柄もらったんだが、投げる相手も居なくてな。せっかくだ、お前にやる。例の彼でも誘って楽しんでこい」

 

 スマホに表示されるデジタルチケット、そこには『GGCプレミアム入場券』と記されていた。

 

 




 拙作においては、楽郎君の相方は玲ちゃんルートです。

■オルスロット
 知略謀略は永遠譲り。連合戦争の後、どのような事態になるかというのは大方予想しており、それを利用するために策を用意していた。リベリオスとその派閥は揃ってボコボコにされた。最近はよく京極とつるんでいる。

■玲と悠乃の関係
 玲からすると、姉を経由して知り合った一時期勉強を見てもらっていた相手、なんなら永遠とも顔見知り。ペンシルゴンが永遠だということは玲は知っていたがまさかシグリンデの中の人が悠乃だとは想定していなかった。

■百のアシスト
 姉からの恋する妹へのアドバイスとアシストで少なくともレジギガスではなくなったしなんなら積極性が出た。この時点でGGCでのデートが確定している。なお、楽郎から玲に対してのこの時点での評価は『そういえばシャンフロやってるって言ってたけどゲーム好きなのかな?』『高嶺の花』。告白されたら驚きはするがオーケーするし大事にもする。

■GGCプレミアム入場券
 GGCという大規模イベントにおいて様々な優遇措置を受けられたりするチケット。百がGGCの特集関係者ということで貰っていたが、本人は使う予定もなく宙に浮いていた。試遊ブースの優先試遊権利や最新ギアの体験など、ゲーマーである楽郎が見ると目の色を変えるし腰を抜かすほどに入手困難な物。
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