「イレベンタルか、最近はクラン関係のことしてたからあまり来なかったなあ」
イレベンタル。先日行われた大型アップデート前ならば、現在新大陸への港町として賑わっているフィフティシアへと向かうための中継地点となる街。新大陸が実装された後でも、多くの方面に対してルートがあるこの街はプレイヤーが多く歩いており活気づいている。
特徴的なのは、噴水の中央に巨大な石剣が刺さっているオブジェクトだろう。レンガ造りの町並みが多い中でその広場と噴水は特に目立っており、その様相は街の外からでも見えるほどのものだ。
街中を歩くのは、シグリンデとリューネの二人だ。今回の件はサンラクのユニークに関わる可能性もあるということで、【ライブラリ】から戦力は借りていないし、姉であるペンシルゴンにも伝えてはいない。なので二人だけという状態なのだが、周囲のプレイヤーから時折視線は向けられるものの絡んでこようとするプレイヤーは居ない。
それは【ライブラリ】が出した通達。『メンバーに対して過度な干渉を行う場合、それをハラスメント行為と認定してクランとしての対応を行う。また、そのような事態があった場合、今後【ライブラリ】は一般に対して開示する情報を大幅に制限する』というものが大きく関わっていた。シャンフロは何かとハラスメントに対しての罰則が厳しいこともあり、特に『一般向けに情報開示を大幅に制限する』というのが効いていた。なので、無理矢理絡んでこようとするプレイヤーはほぼ居ない。
加えて、リューネは数多くのプレイヤーから可愛がられている存在でもある。『保護者会』と呼ばれる集団はとにかくシャンフロ内部では影響力や実力があるプレイヤーで構成されており、こちらも迂闊に手を出せばその保護者達の怒りを買うことになる。よって、手出しはできない。
「わあ……大きな剣が噴水に刺さってる……!た、倒れたりしないのかな?」
「確かイレベンタルのある剣は、この街が作られる時にはもう刺さっていたらしくて、あれを中心として街を作ったらしいよ。かなり深くまで刺さっていて、あの剣が地脈の水脈を突き刺して、そこから吹き出る水があの噴水の水や町中の水路の水なんだって」
「これだけ大量の水が全部湧き水……?もしかして、すごい水なんじゃ……」
「私もクランの書物で呼んだだけだけど、このイレベンタルは水資源がかなり豊富なんだって。実際、他の街と比べるとここの水は品質が良くて、他の街から水を仕入れに来るって人もいるみたい。結構料理とかでも重宝されるらしいし、汲める場所で汲んで持っていく?リューネ、料理に水とか結構使うでしょ」
「うん、欲しい!」
「じゃあちょっと寄っていこうか、サンラクとの待ち合わせまで少し時間あるし、沢山ビンに保管してもインベントリアに入れておけば重量もないしね」
しばらく歩いて、目的の湧き水を結構な量の瓶へと入れるとそれをインベントリアへ。そうして暫く街を歩きながら思うのは、今日のことだ。
サンラクはメールで、『気になることがある』と言っていた。その返答に対して手伝うという内容を伝えると同時に、どういうことなのか軽く説明して欲しいと添えると、簡単にだったが説明があった。
彼としても、明確な確証があるわけではないらしい。だが、直感が今回の気になっている件は、リューネに関わっている気がしてならないとのことだった。なので、正確にはサンラクからの依頼は『フィフティシアまでの同行』ではなく、『フィフティシアに到着した後のその何かにも同行して欲しい』ということだった。
「……サンラクが私とリューネを戦力として欲するほどの何か、ということなのかな」
ぽつり、と呟いたその言葉は機嫌良さそうに水を汲んではインベントリアへと収納しているリューネには聞こえない。その様子を微笑ましく見ながらも、シグリンデの頭の中では今回のことについて考えていた。
サンラクの実力は理解していた。姉からも知り合う前から彼の実力についてはよく聞いていたし、実際にウェザエモンとの戦いでは背中を預けて戦った。だからこそ理解できる、彼のゲーマーとしての素質やバトルセンスや直感とも言えるそれは超一流だと。
そんな彼が戦力として自分たちを呼んだということは、相当な何かだろう。少なくとも準備は万全にしててきたつもりだが、油断はできないと思っていた。
暫く街中を歩いていると、約束の時間前になった。少し早めに集合場所に行っておくか、そう思いリューネと共に合流場所へと向かう。
「……あれ。あの人って」
合流場所が見えてきて、最初に見えたのは予想もしていないものだった。
巨大なアバターに、白銀の鎧。そしてその姿は、見覚えがある。
というよりは、自分もある意味では知り合いだ。リアルでは何度か顔を合わせたことはあるし、本人の姉の関係で交友関係もある。
「あ、ええと、こ、こんにちは?」
ぎこちなく挨拶わしてきたのは、シャンフロ内部でもトッププレイヤーにして、彼女の姉である百からは聞かされているがリアルではも知り合いでもある相手。斎賀玲こと、サイガー0だった。
◆ ◆ ◆
サイガー0、斎賀玲は迷っていた。どうしたらいいのか、と。
想い人であるサンラクこと陽務楽郎からフィフティシアまでの同行の誘いが来たときはそれはもう舞い上がった、意中の相手とゲームである。冷静になって客観的に見てデートでないにしても、それでも好きな相手とゲームができるというのは心が踊る。
そんな直後、訪問してきた姉からもたらされたのはとんでもない提案と情報だった。自分の【旅狼】への移籍の提案、そして最近何かと話題になるプレイヤー、シグリンデという人物の中の人のことである。
天音悠乃。その相手とは玲は姉を通じて知り合った。それはもう最初は驚いた、自分でも知っているほどの有名な相手だったからである。楽郎へと秘めたる想いを持つようになり、シャンフロを始めて多少なりとも自分もゲーム業界への関心というのは出てきた。だから、時折雑誌なども読むようになっていたし、姉が勤めている出版社が出している雑誌にも目を通すようになった。
そこでよく取り上げられるのが、天音悠乃という声優だった。人気のアニメ番組にも声優として出演している他、ゲーマーとしても有名なようでよく企画や案件でゲームの配信などを行っている人物だった。最初に見た玲の感想は、ふわりとした背中ほどまでの紺色の髪に優しそうな顔わしたお姉さんといったものだった。
そんな相手がある日、実家の応接間に居たのだからそれはもう驚いた。聞けば、オフだったらしいのだがそのついでの色々と内々の打ち合わせらしく、だが姉である百の部屋は散らかっており正直話し合いなど出来たものではない。なので、家からも近い実家の応接間で打ち合わせをしていたということだった。
それからは玲は悠乃にとてもよくしてもらっていた。色々話を聞いてもらったり、ゲームの話をしたり。その中でこちらも自分も名前くらいは知っていた彼女の姉である天音永遠とも知り合うことになったのだから、とにかく姉の百つながりでできた驚くべき交友関係だった。
そんなよくしてくれる姉の知り合いののお姉さんねというべき相手がシグリンデというプレイヤーの中の人と聞かされた。それはもう驚いたし、どう接するべきかと考えている最中まさか今回の他の同行者がその本人だとは思わなかった。
確かにサンラクは待っている時に話をしていて『他にも同行者が居る』とは言っていた、その時は二人きりでないことに少し気落ちしたが合流する相手がリアルではよく知るお姉さんだとは思わない。思わずぎこちない挨拶となってしまって、挙動不審となるがどう対応すべきかというのは頭の中ではまとまらない。
『詳しい話はまた今度。適当に合わせて、玲ちゃん』
ピコン、という音と共に送られてきたのは個人間のプライベートメッセージだ。それを見てシグリンデを見れば、笑顔で軽く片手を振っていた。
ともかく、今はサイガ-0としてのロールプレイを続けても良さそうだ。
「ん?シグリンデ、サイガ-0氏と知り合いか?」
「知り合いというか、ゲーム始めた頃に少しお世話になったことがあって。一応顔見知り、かな?」
「なら今回の同行は都合が良かったかもしれないな、知り合いなら意思疎通とかも出来やすそうだし連携も問題なさそうだ」
「にしてもサンラク、人が悪いよ。サイガ-0さんまで一緒なんて驚いた」
「あー……それについては悪かった。ちょっと色々と急いでて、説明を忘れていた」
「急いでた、か。まあそれなら仕方ないね」
含みのあるサンラクの言葉から、シグリンデは何かを察した。それだけ急いでフィフティシアまで行かなければならない理由、それがある。そして、それが彼の直感で言う自分やリューネに関わることかもしれない、なのだろう。
「とりあえずご挨拶を。お久しぶりです、サイガ-0さん。お会いするのは久しぶりですね」
「え、ええ。そうですね。ご活躍はうちのギルドマスターから色々と聞いています。今日はよろしくおねがいします」
なお、この時所謂中の人である玲としては、テンパりながらもなんとかロールプレイを続けていた。まさか同行者がよく知る人物だとは思わないし、相手が自分のことを知っていることも予想外だ。
「……じー」
「わ、私がどうかされましたか?あー……えっと」
「あ、ごめんなさい!私はリューネと言います、お姉ちゃんの妹のようなものです!」
「お姉ちゃん……?」
「私がお姉ちゃんです」
「えぇ……?」
「お姉ちゃんです、いいですかサイガー0さん」
「アッハイ」
圧に負けてしまったサイガ-0は、そのままリューネへと『よろしくお願いします』と言葉を返した後。
「私の何かが気になったんでしょうか、リューネさん」
「気になったと言うか、なんというか……うーん……私にもよくわからないんですけど……」
「気にしないで言ってみてください、私は何言われても気にしませんから」
「あっ、変なことじゃないんです! ――懐かしい感じがして」
どういうことかとサイガ-0は思う。リューネは最近話題になっている存在ではあるが、こうして会うのは始めてのはずだ。にも関わらず懐かしいというのはどういうことか、そう考えてあることに気がついた。もしかすると、自分ではなく自分の持ち物なのかもしれない、と。
「もしかして、これですか?」
そうして彼女は自分のメイン武器である
本人は気がついていないだろうが、それはサイガ-0からすると『嬉しそう』に見えた。
「あっ、そうです。この子です!……うーん。なんと言ったらいいのか。すごく懐かしい?感じがして、ちょっとだけ触ってみてもいいですか?」
「大丈夫ですが、刃物なのでお気をつけて」
「では、少し失礼しますね。 ――ああ、本当に」
『本当に、懐かしい』
近くの自分にしか聞こえないほどの小さな声。彼女がまるで別人のようなトーンで言ったそれを聞いてゾクリ、とサイガ-0は何かを感じ取った。それは、現実世界での武術などの経験故か。
すぐさまリューネは我に返ったようにして『あ、あれ?私今何か言ってましたか?』と、どうやら今自らが発した言葉について自覚がないような発言をしていたが、サイガ-0はそれ以上にとてつもない何かを感じ取って固まっていた。
理由はない。ただ、感じ取ったのだ。『もしかしたら、道を誤っていれば何かとんでもないことになっていたのではないのか』と。このリューネという少女が今ここに居なければ、何かとんでもないことになっていたのではないのかという予感だ。
だが。次の瞬間、そんな予感めいたものが吹き飛ぶほどの事態となった。
――『『■■』クエスト、「封印中により閲覧不能」を受諾しました』
何か、言葉だけでは言い表せない何か。それに彼女は触れた気がした。
■サイガ-0
予想は大体的中している。ジークヴルムの完全覚醒、開拓者側につくという展開、それに起因しての偶然でのリューネの保護。それがなければとんでもないことになっていた。
しかしそのようなことにはならず、リューネは開拓者側についた。その結果として、偶然サイガ‐0と出会ってしまったことにより『とある存在』が反応、その存在に関わるとんでもないクエストのトリガーを玲ちゃんは引いた。なお、現在は封印されていて進行も内容確認もできない。クエストのみの存在が浮上した。
■今年最後のあとがき的なもの
今年最後の本編更新で爆弾をぶっ込んでいく。玲ちゃんとんでもないトリガー引いちゃったね……もう逃げられないゾ。
一体リューネちゃんって何者なんだ、本当にゴルドゥニーネの複製体?
本編関係ないですが投下を忘れていた設定鍵を今年中に投下するかもしれない。