鉛筆騎士王に寄り添うは、黄金の竜騎士   作:無名のカヤ推し

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砕かれた神話、紡がれる竜詩

 ――『あれって【ライブラリ】のキョージュじゃないか?隣の子誰だ?』

 

 ――『コートに目立たないけどクランシンボル入ってるからメンバーだろ。 ……あれ?シャンフロにオッドアイなんてシステムあったか?』

 

 ――『オッドアイだ!おい誰か話かけてこいよ』 『やめとけって、【ライブラリ】だぞ』

 

 

 やはりと言うべきか、自分の眼は周囲の眼をかなり集めていた。とにかく出来るだけ関わらないように、気にしないようにしているがやはり聴こえてくるヒソヒソとした声というのは気持ちの良いものではない。

 

 だが。接触してこようするプレイヤーは殆ど居ない。それは、自分が【ライブラリ】のメンバーであるという抑止力が働いているのもあるだろう。姉から貰ったコートにはシャンフロのペイントシステムで、灰色のコートの裾あたりにクランシンボル。開かれた本の上に剣と羽が描かれているシンボルがペイントされている。それは、端から見ても自分が【ライブラリ】のメンバーであると証明するものだ。

 

 加えて、現在町中を一緒に歩いている相手の存在も大きい。【ライブラリ】のクランリーダー、キョージュと呼ばれる相手である。

 

 【ライブラリ】はトップクランではあるが、【黒狼】などのように攻略などに特化したクランではない。構成メンバーの中には、ランカーと呼ばれる実力者の中に名を連ねる者も居るが、戦闘や攻略を主体とするクランと比べるとその数はかなり少なく、前衛職のランカークラスのメンバーに至っては一人も存在していない。

 

 キョージュ、そして【ライブラリ】がトップクランとして名を馳せており、周囲から畏怖される理由は戦闘ではない。彼がモットーとする、知識と探求。シャンフロという世界に対しての考察能力や、メンバーたちの知能の高さ。それは、シャンフロというゲームをプレイするプレイヤーたちに対して、計り知れない恩恵をもたらしていた。そしてそれは、戦闘を主とするクランも例外ではない。

 

 シャンフロには外部サイト。有志により作成されたホームページやwikiが存在している。キャラクタークリエイトから戦闘や検証まで、有志によって幅広い内容が書かれているが、その多くで参考文献とされているのが【ライブラリ】のデータベースだ。その情報が根幹に存在するからこそ、有志のプレイヤーたちは新しい戦闘の幅の可能性追求や攻略情報、検証などを行えると言っても過言ではない。

 

 多大な貢献と恩恵をもたらしているのだ、【ライブラリ】は。故にこそのトップクラン。偏に情報という分野においては、恐らくはこのシャンフロにおいて右に出るものはおらず。戦闘主体のクランもその情報を参考としていることから頭が上がらないクランなのである。

 

 そんなトップクランのクランリーダーが、オッドアイのクランメンバーを連れて歩いている。そんな様子を見れば話題にもなるのだが、おいそれとは手も出せないし話しかけられない。周囲の喧騒など気にしていない、というようにキョージュもまた街を歩いている。

 

「さて、うちのメンバーへ君の紹介をしたりもしたいが、折角だ。少し調査に付き合って欲しいと思ってね」

 

「調査、ですか?」

 

「ああ。神代の鐵遺跡で新しい遺物が見つかった、と報告があってね。調査ついでにシグリンデ君にはうちのクランがどんな活動をしているのかというのを見てもらおうと思ってね」

 

「概要だけはアーサーから聞いていますが、シャンフロという世界についての分析と考察を主体としているクランなんですよね?」

 

「大まかにはそのとおりだ。細かい一例を言えば、例えば世界観を知るために各地に存在する遺跡や神代の遺産を直接調査したり、NPCとの会話を記録して持ち帰り討論したり、やっていることは学術の調査研究や討論と同じだね」

 

「そういうの、私は好きですよ。どっちかというと、リアルでは本をよく読んだりするほうなので。小さい頃は物語を読むのが好きで、色んな物語を読むために外国とかの本にも手を出して。そういった物語を読んで、考えることが好きでした。 ……外国の物語を読むために色んな国の言葉を勉強したりして。学生時代は呆れられてました」

 

「君は随分と勉強熱心……いや、趣味に熱心とも言うのかな? はは、ならばうちのクランはきっと君には合っているかもしれないね。勿論個人としても大歓迎だが、私達としても情報が殆ない最強種の情報を知ることが出来る、というのはとても興味が尽きない」

 

「確か、最強種についてはまだ殆どわかっていないんでしたっけ。後、神代について詳しいことも判明していない、とも聞きましたが」

 

「そのとおりだ。神代の文明については詳しいことは殆ど判明していない。当時何があったのかか、何故各地に残されている遺物の惨状はあれほど酷いものなのか。詳しいことはまだ判明しておらず、今から訪れる神代の鐵遺跡のように、文化レベルが明らかに異なる遺跡などが発見されるくらいだ。しかも、まだまだ未調査のものが多い」

 

 そして、と。キョージュは続けた。

 

「最強種については現状、情報が殆どないと言っていい。遭遇した報告や戦闘報告はあれど、その存在が一体何なのか。この世界の中核を担う存在、と言っても過言ではないがサービス開始から現在まで。殆が謎のままだ」

 

 シグリンデは思った。自分が否定した、ジークヴルムのあの言葉。

 願うように言ったあの言葉はもしかすると、その神代や最強種に関わりがあるのだろうかと。

 

 

 『英雄となり、我を斃せ。

  その輝きで未来を照らし進め。

  それが、我の願いである。  』

 

 

 自分はそれを否定した。

 勢いで、ありったけの否定の言葉をぶつけた。

 自分の望む未来は、そうではないのだと。

 

 シグリンデは、かの竜王が最初に言っていた未来を選ぶつもりはない。

 だが、どうしてそんなことを言ったのか教えてくれる日が来るのだろうか。

 

 お前のその道を見守っている、そう言った竜王は。教えてくれるだろうか。

 

 

            ◆     ◆     ◆

 

 

 キョージュは予定通り、新しく見つかった遺物とその部屋を調査。そこそこに広い部屋だったため、時間の少しかかる調査の予定だったものが、シグリンデの協力により作業予定時間が短縮。更に、その部屋の中でギミックを発見。地頭のいいキョージュとシグリンデの二人は、協力してアイディアを出し合いながらそのギミックを突破。神代の鐵遺跡の下層部。未調査区画への通路を発見することにも成功した。

 

 その通路の先の最初の区画だけでも確認すべく進むと、突然天井から現れたのは白いアーマースーツのような見たことのないモンスター。明らかに神代の鐵遺跡の適正レベルではない新種のモンスターだった。

 

 キョージュは戦闘系ビルドではない。そして、戦闘方面をそこまで得意としているわけではない。戦い方は単純明快で、キャスター。魔法職らしく後方からの魔法攻撃を撃つというものだったのだが、それは優秀な前衛が居てこそ成立する。キョージュとしては、今回クランについての説明と実際にどんなことをしているのかということを見せるため、というくらいの認識でシグリンデを連れてきていたため、折角見つけた未調査区画だが一度撤退して、調査部隊を編成すべきか。そう考えていた。

 

 だがキョージュは知らなかった。シグリンデが自分の妻。マッシブダイナマイトにも引けを取らない、超攻撃型。しかもとてつもなく優秀なフロントアタッカーだということを。

 

 

 ――『え?どうしたの王様。言葉にしなくていい……念話……ああ、わかったよ。次からそうするね。 『指輪』を使ってみろ、って?使い方は……バーっとやってガーっとやってドカーン?感覚派なんだね……』

 

 

 撤退すべきか、そう考えていると後ろから聴こえてきたのはそんな言葉。思わず驚いて後ろを振り向いた。王様、というのは彼女。シグリンデから竜王。ジークヴルムへの呼び方だ。聴こえてきた言葉からして、今彼女は竜王と会話していたのではないのか?そう思って大慌てした。

 

 だが。それとは別のことですぐ驚かされることになる。彼女、シグリンデはシャンフロでは見たこともないような武器。彼女の背丈よりも長く、巨大な刃を持つ『剣槍』を右手に持つと、自分の前に出てきたのだ。

 

『キョージュさん、この先に進む必要があるんですよね。あれを倒せばいいですか?』

 

『そうだが……だがあれは明らかに適正モンスターではないぞ』

 

『ちょっと私にやらせてくれませんか。私も、クランメンバーとして役に立てるということを証明してみせます』

 

 十分に証明してもらっているし、莫大な情報を提供してもらっている以上返すのはこちらなのだが。そうキョージュは内心思っていたが、そのままシグリンデは武器を構えた。

 

 相手は、明らかにエリア適正ではない白いアーマースーツの異形が三体。それと対峙した彼女は。

 

 

 ――『謳え、黄金の円環(ニーベルング)

 

 

 そこからは一方的だった。強いてキョージュがその戦いにもなっていないそれ以外で言うとすれば、彼女の体力が減り続けていたということくらいただろうか。

 

 ニーベルンゲンの歌。学術に精通している彼はその話を知っている。黄金を守護する邪竜、ファフニール。英雄ジークフリートの悲劇にクリームヒルトの復讐劇。

 

 思えば、彼女。シグリンデにはかの神話との共通点がある。だが、内容は正反対だ。同時、思うのはジークヴルムについても同様のことが言えるのではないのと考えた。

 

 

 強者、英雄を探し続けているジークヴルムは己にとってのジークフリートを探していたのではないだろうか。

 

 そうして、竜王が見つけた竜殺し足り得る相手がジークフリートではなくファフニールとなることを選択していたとしたら?

 

 黄金の竜王ジークヴルム。

 ファフニールは黄金の守護者とも呼ばれる黒竜としても描かれる。

 そして、その名が持つ意味の一つは『抱擁するもの』。

 

 何かに辿り着きそうだったキョージュは、眼を閉じて頭を軽く振った。そう考えるには早計だ、と。もし、竜殺しの英雄足り得た存在が、その意志を否定して黄金の守護者となるのなら。

 

 それは、新たなる。人と竜の叙事詩(サーガ)の始まりではないのだろうか。

 

 脳が震える、とは今のような状態を表現するのだろうと思った。今、自分は。そして自分達クランは歴史の、未だ嘗てない叙事詩の目撃者となっているのではないのか。

 

 無意識に口元には笑みが浮かんでいた。そうして、そう長くない思考の海から戻ったときには既に、敵対していたモンスターは、完全に打倒されていた。

 

 




■黄金の円環
 シグリンデがジークヴルムから貰ったアクセサリー、『刻願』の効果により外すことが不可能になっておりアクセサリースロットを1つ確定で埋めている。通常時と効果発動時で能力が変化する。シグリンデのアクセ枠の固定主力装備。

■キョージュ
 ジークヴルム関係なしにしても逸材が加入してくれてご満悦。考古学とか色んな分野の難しい話でもシグリンデがちゃんがついてくるし、なんなら割といろんなことに興味示してくれるので嬉しい。内心で『彼女もしかしてセートくんや毘猩々 磐斎くんくらいに有能では?』と思ってる。

■あとがき
 ジークヴルム周りは、父親的存在だった『彼』を見ても多分ニーベルンゲンの歌がモチーフかなと思っています。シグリンデの名前とか武器の装備関係諸々もそのあたりをモチーフにしてます。『黄金の円環』は太古の昔にロードオブヴァーミリオンっていうゲームがあったんですがそこのジークフリートと同じような能力。

 ただ拙作では、かの神話や叙事詩を参照していますが竜殺しの物語ではありません。シグリンデは竜殺しの神話を否定し、新たな竜詩を紡ぐことを選びました。

 ジークヴルムから見れば英雄の超逸材見つけて、言葉濁しながら『我斃して英雄になって世界のこと任せたいんだけど』と言ったら『うるさいこっちはお前と仲間になって冒険したいんだよ逃さんぞ』と言われたようなもの。シグリンデちゃんが英雄(主人公)でジークヴルムがメインヒロインかもしれん。

 なお、ジークヴルムは結構な頻度で話しかけてくる。今の世代の世界が相当に新鮮で竜の身体では見れなかった街の中とか人の生活とか、時代の流れそのものを見れてめっちゃウッキウキで竜生謳歌し始めた。

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