「はじめまして、アーサーの妹のシグリンデといいます。とても仲の良いお友達だと聞いています。よろしくお願いします」
「……ゴ、ゴテイネイニ ヨロシクオネガイシマス」
「あー……えーっと……よろしく?」
サンラクとオイカッツォは言葉を失った。特に、サンラクなど固まってしまい言葉遣いもカタコトになる有り様だった。
現在目前で礼儀正しく愛想のいい笑顔で挨拶をしてくれているのは『あの』ペンシルゴンの妹だという。突然、ペンシルゴンからは『ちょっと話があるから今日の夜蛇の林檎まで来てね』とだけ雑に連絡されて、実際に来てみればこれである。
サンラクとオイカッツォからすればペンシルゴンとはそれはもう言葉では簡単に表せないほどの畜生であり外道である。邪悪の化身と言っても過言ではない。『バレなきゃ犯罪じゃない』『全部砕いて混ぜれば何も残らない、つまり私の勝ち』『成すすべなく叩き潰される相手を嘲笑うのは最高の御馳走、それが格上なら尚更』などなど、そのドン引きするような発言集だけで本を出せてしまうのではないのかというほどである。
付き合いが長いこともあって、二人はペンシルゴンの中身が天音永遠ということも知っていた。それを知っているということは、妹である悠乃の存在も知っていたのだが、実際に会ってみて実感する。なんでドス黒い邪悪な姉に対して妹がこれだけ真っ白なんだと。
「あー……えーっと……お伺いしても?後、堅苦しいのはなしで大丈夫だよ」
「なら、そうさせてもらうね? えっと……オイカッツォさん? それで聞きたいことって?」
「カッツォでいいよ。ちょっと身内しか居ないから聞きたいんだけど、あー……ペンシルゴンの妹ってことは。あのゲーマー声優の?」
「うん、そうだよ。その認識であってるよ」
「うわ、マジか……ガチのトッププレイヤーじゃん」
オイカッツォ。正確には、魚臣慧は驚いていた。今目の前に居るのは、プロゲーマー界隈でも何かと有名な天音悠乃なのだと。
彼女はただ人気の高い声優や姉共々そのルックスに人気があるというだけではなかった。度々案件で配信されているゲームプレイ実況。そこで彼女本人はそんな気は一切ないのだろうが、プロからすると戦慄するほどのことをやっていた。
有名な死にゲーのRTA放送で全世界3位のクリアタイムを記録。プレイスタイルはカウンター型で進行。数時間に及ぶゲームプレイ間、戦闘では一度たりともカウンター行動をミスせず、ガード不能攻撃は最低限度の動作で回避。通常のマップ探索では結構なロスがあったものの、戦闘においては恐らく歴代走者の中でも最速のプレイヤーに並んでいた。
格闘ゲーム界隈でも有名だった。というより、彼女がとある案件でやらかした。
ギャラクシア・ヒーローズ:バーストの案件配信。視聴者参加型で、配信サーバーでマッチングした相手と対戦するという企画だったのだが、悠乃は全勝を維持するという形で配信が続いていた。それを見た海外の格闘プロゲーマーが『ここで飛び入り参戦して盛り上げてやろう、ついでにあの連勝も止めてやる』と意気込んで、プロのアカウントをそのまま使用して参戦。
結果、ボロ負けした。
しかも悠乃は対戦中今まで以上にニッコニコの笑みを浮かべており『覚えたよ』『こんにちは!おやすみなさい!』『カウンター取れる!はいドーン、バースト!』などと言いながら世界上位ランクのプロをボコボコにする始末。それが配信されているのだから視聴者は唖然としたという。なお、そのプロはその件で何かがときめいたのかファンになった。悠乃のリアルイベントなどでは筋肉モリモリの長身米国在住男性の姿が度々目撃されている。
その配信を慧のライバルでもある全米最強の存在。シルヴィア・ゴールドバーグも見ていたのだが、その感想は『ク、クレイジー……』『ケイ!あの人はどこのプロなの!?対戦したい!プロじゃない?あはは、ナイスジョーク!』と興奮気味だった。
慧と当時、ボイスチャットを繋ぎながら配信を見ていた彼女は、悠乃のカウンターを『残酷なまでに暴力的で完璧な芸術技。ニホンでは……カミワザ?そう、神業』と称した。小細工などしない真正面からその力を叩きつける有り様を、シルヴィアは美しいと思ったのだ。慧から改めてプロではない、と聞くと残念そうにしていた。
そんな案件でのやらかしも一度や二度ではなかった。といっても、どれもがゲーマーからは好印象だったり、視聴者をエンタメとして楽しませたりするもので。時には超広大な探索型ゲームで迷子になって数時間彷徨い『ここどこぉ……おうち……ベースキャンプ帰るぅ……』などと涙目になっていたこともあり視聴者を爆笑させていた。
なので世間的なゲーマー界隈からの評価は、『人気声優だけど普通に配信者とかプロゲーマーとしてもやっていけるしゲーム中捕食者みたいな笑顔と言葉を発するおもしれー声優』というものだ。
「俺、妹にあの天音姉妹と知り合いですなんて言ったらとんでもないことになりそうなんだが……。妹のほうはこうなのに姉はどうしてこうなった」
「どういう意味かなー?サンラク君ー?」
「自分の胸に手を当ててよく聞いてみろ。お前の数々の悪逆非道が蘇ってくるはずだ」
「やだなあ、昔から言うじゃない。汚いは褒め言葉、勝ったほうが正義で騙して悪いがって」
「こんなこと言ってるけど、アーサーは本当にいい姉なんだよ?私の自慢の姉」
「ごめんちょっと自分の心と向き合って少しくらいは懺悔してくるわ」
嘘だろ、あのペンシルゴンが悔い改めた。そうサンラクとオイカッツォは目を疑った。長い付き合いの外道仲間だからこそわかる、まず自分達が知る中ではありえない光景だからだ。
「でも、あー……その。ええと」
「ん?俺がどうかしたのかシグリンデ」
「人の性癖をどうこう言うのはアレなんだけど……ゆ、ユニークな格好だね?サンラク。ごめん、他意はなくて!シャンフロにバードマンなんて種族居たのかなって思っちゃって」
サンラクは崩れ落ちた。そしてその姿を見て、ペンシルゴンとオイカッツォはといえば腹を抱えて身を震わせ大笑いしていた。
太古の昔ネットスラングにもなった『orz』というポーズを綺麗に取り、悲しみと怒りに身を震わせた。だが、それは決して言葉を選んで出来るだけオブラートに包んでくれた光属性のペンシルゴンの妹に対してではない。全ての元凶、憎きリュカオーンに対してだ。
おのれリュカオーン。絶対に許さんからな。
サンラクは心の中でそう叫んだ。
「違うんだ、これは全てリュカオーンって諸悪の根源が居てだな……」
「リュカオーンって、最強種の?えっと、ほら。私の左目も最強種絡みでこうなってるし似たようなものだよ。お揃いだよお揃い!」
「必死のケアが心に染みて涙出そうだ……。 ――んん?左目が、最強種絡み?」
「あー、えーっと……うん。今日はそのあたりの話を二人にって、アーサーが」
突然出てきた最強種の情報。それと同時、それまでふざけ倒していたサンラクとオイカッツォの表情が真剣なものとなる。
そこで二人はある噂のことを思い出す。それは、今シャンフロで話題となっている、ある噂だ。
ある有名なPKクランが、戦闘ガチクランではない【ライブラリ】に喧嘩を売って全滅した。
しかも、たった一人の。オッドアイのプレイヤーに一方的に全滅させられたという。
そして、ペンシルゴンの妹。シグリンデはオッドアイである。
「……まさか」
噂には続きがある。そのプレイヤーは、身の丈以上もある巨大な見たこともない武器を使う。襲ったPK集団のメンバー曰く、ガタガタと震えて命乞いをしたが『逃さないよ』と捕食者のような笑顔で言って武器を振り下ろされた。
そして【ライブラリ】が、必要以上に当人に対して踏み込んでくるようなら、相応の対応を行い、今後クランで得た情報について一般に向けて公開することを停止する。と、極めて厳しい警告を発信したという。
現在巷では、そのプレイヤーのことをある呼び方がされている。
【ライブラリ】、図書館に牙を剥く存在を狩る
「――
「え、なにそれ」
「妹よ、それ今あんたが巷で言われてる二つ名だよ」
「私が知らないところですごく血腥い名前がつけられてる、シャンフロこわい」
その当人がこれである。現在その本人はサンラクとオイカッツォの眼の前で、気の抜けるような会話を繰り広げている。これだけ見ればただの仲の良い姉妹である。だが、見方を変えれば片や邪悪の化身とも言える鉛筆戦士、片や執行者などと恐ろしい名前をつけられている存在である。
二人も思った。『シャンフロこわい』と。
「コホン!じゃあ自己紹介と軽い雑談は済んだところで、今日の本題に入ろうか。今日、二人を呼んだのは察しているかもしれないけどある提案と。そしてある話をするためだ。 ――うちの妹、シグリンデをウェザエモンの打倒のメンバーに引き入れたい。そのために話を始めよう」
■サンラクとオイカッツォ
やっぱりどう考えても嘘だろこの光属性戦闘民族ゲーマー声優があのペンシルゴンの妹だなんて。とか思ってる。こんな外道共の集まりに連れてきて大丈夫?後から【ライブラリ】からブチ切れされない?とも思ってる。
一番信じられなかったのは妹の一言でペンシルゴンが多少とは言え悔い改めたこと。二人は明日世界が滅びるんじゃないのかとも思った。
■シルヴィア
ギャラクシア・ヒーローズ:バーストの配信を見ての最初の感想は『精度がおかしい』『なんでそれ取れるの?意味がわからない』『狂ってる』というものでパソコンの前で宇宙猫みたいになってた。曰く、『もし対戦するなら大量のパターン用意してない状態では絶対に攻めたくない相手』『流れに乗って攻め込んでも対策用意してないと絶対狩られる』とのこと。後ほど慧からただの声優でゲームの配信とかは趣味や案件と聞いて驚いていた。機会があれば是非話してみたいらしい。
おっと、GGC編がこっちを見ているようだ。
■図書館の執行者
某ヒラコーの神父様みたいな存在だと巷では噂されている。色んな憶測なども入り混じった噂が飛び交っているが、『図書館に敵対した存在を狩りに来る存在』というのが共通認識。大体あっている。普通にキョージュとかから『サーチアンドデストロイ』とか言われると実行する【ライブラリ】の忠犬にして狩人。
襲ったPKの供述では、『笑顔浮かべながら『逃さないよ』と言ってくる』『断頭台の刃が迎えに来る』『終わりを執行する天使』などと言われていた。