ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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あらすじでも書きましたが、ルイズのファ・ディールでの冒険を読みたい方は、FANBOXの方にいらっしゃってください。


37話:異世界から帰還した者、異世界人を召喚する

再び召喚ゲートが開いて、ルイズが歩いて草原へと降り立つと、見慣れたトリステイン魔法学院の外壁が、真っ先に目に入った。それから、ミスタ・コルベールを中心に、心配そうに自分を見つめている、マントを着ている学友たち。

 

コルベールが心配そうに声をかける。

「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか?」

 

ルイズは、はっとして、ファ・ディールに行く前の記憶を呼び起こし、慌てて頭を下げる。

「すみません、ミスタ・コルベール。うかつな行動をとってしまいました!」

しばらく、頭を下げていると、周りからどっと笑い声が聞こえてくる。

 

「おい、ルイズ。自分からゲートに入って、使い魔を迎えに行こうとしたのか?」

「でも、それでも連れて来られなかったみたいね」

「まったく、何やってるんだか」

 

ルイズたちは、自分に向けられる嘲笑を懐かしく聞いた。とはいえ、ちっとも嬉しくはないが。

 

コルベールは厳格に言う。

「ミス・ヴァリエール、二度とこのような奇異な振る舞いは、起こさないように」

「はい、申し訳ございません」

ルイズは謝りつつも、異世界ファ・ディールで過ごした時間の流れは、この世界では反映されていないことに気がつく。状況から察するに、彼らにとっては、ほんの一瞬の出来事に過ぎなかったのではないか。

 

コルベールは、続ける。

「とにかく、君の使い魔召喚は、明日改めて行います。もちろん、私の監督の下で。いいですね?」

「はい、ミスタ・コルベール」

ルイズは、そういえば、これが今日最後のチャンスだったと言われていたことを思い出した。

 

とりあえず、自分の失踪が大したことにならなくて、ほっとした。

 

 

 

様々な嘲笑を浴びながら、ルイズは、魔法学院の自分の部屋に戻る。今はまず、1人になりたい気分であった。

 

部屋の中の、木製の机も、大きなタンスも、自分の匂いのしみ込んだベッドも、全てが懐かしく映った。

ルイズは、さっそく、スカートのポケットから、瑠璃からもらったふくろを取り出す。そして、魔法楽器をつぎつぎ取り出していった。

 

夢幻ではなく、本当にファ・ディールに行ったと言える、何よりもの証。何度も弾いた激流の魔法を発動するハープに、突風魔法を発動するハープ、大地を隆起させるフルートなどをルイズはじっと見つめた。

 

そして、確信する。ーーこれらの魔法楽器は、たぶん使うことはないだろうと。

いや、そもそも使えるのだろうか?

ルイズは、試しに1番地味なブラックミストという静かな闇の魔法を試してみる。すると、黒い霧が部屋の中央部で生まれて、消えていく。ああ、使えるんだ、とルイズは思った。

 

しかし、これらの魔法楽器は、この世界ハルケギニアでは、間違いなく異端視される。こんな演奏(詠唱)時間も短くて、術者の精神力を消耗することなく何回でも使え、ドラゴンだろうが巨大な悪魔だろうが、状況にもよるが、きちんと効力を発揮する魔法は、この世界では大変危険なものと見なされるだろう。もし露見したら、王立魔法研究所、通称アカデミーで、バラバラにされるに違いない。

 

いや、没収されて使えなくなるならまだいい。問題は、争いの火種にならないか、ということだ。このたくさんの魔法楽器、むろん自分が生き延びるためでもあるが、しかし自分の魔法が使えないコンプレックスが情熱となって作り出された、言ってしまえば大量魔法兵器群。こんなのが悪者の手に渡ったら、たまったものではない。

 

ならば、使わない方が自分のためでもあるし、何より他の人のためである。自分で無用な争いを招きたくはない。知恵のドラゴンを殺めたような愚行は、犯してはならないのだ。

 

なので、結局、とても悔しいが、“ゼロのルイズ”でいた方が安全なのだ。親からため息をつかれ、クラスメートたちから嘲笑される状態が1番安全なのである。

 

だから、緊急時以外、これらの魔法楽器は使わないようにする。まあ、向こうの世界ファ・ディールとは違って、日常的にモンスターと戦わなければいけない運命にあるわけでもないし、誰が好き好んで魔法学院の一生徒でしかない自分に、戦ってくれ、と頼みに来るものか。そんなことは今までなかったし、これからもないだろう。

 

ルイズは、魔法楽器をふくろにしまい、ポケットに入れる。まあ、危うくなったときに備えて、というより部屋に置いて盗まれたりしないようにするためだ。

 

入っている魔法楽器は、全て攻撃魔法。この世界のように水の魔法で癒やすとか、土の魔法で加工するとかは一切できない。だが、危険な存在が至るところを闊歩しているところに行かない限り、使うことはないだろう。

 

なお、この時のルイズは、魔法楽器を処分しよう、とは全く思いつきもしなかった。それは、魔法楽器が、彼女の「魔法が使えないコンプレックス」を解消してくれたのもあるし、これらの魔法楽器群のおかげで自分は生還することができた、という恩もある。あるいは、やはり魔法楽器群を持つことで、自分は他者を圧倒することができるという感覚を持ち続けたいのかもしれない。とにかく、いずれにせよ、大変な危険性を認識しつつも、ルイズは魔法楽器を持ち続けることを選んだわけである。

 

それから、ルイズは、自分の制服を脱いで、ネグリジェに着替えて、自分の匂いの染みついたベッドに入る。

 

それから、ファ・ディールでのあまりにも多すぎる思い出の数々、自分が元の世界に戻ったがために、きちんと魔法の研究をしないと、二度と会うこともない人たちを思った。

 

いや、使い魔召喚のサモン・サーヴァントを使えば、自由に行き来できるのだろうか? しかし、そんな不確実な魔法ではなく、きちんと安全な方法で、あの世界と行き来したいものだと、ルイズは思う。

 

ルイズは、ファ・ディールでの思い出に浸りながらも、泣かなかった。必ず珠魅たちとの思い出が混じるために、もはや泣くわけにはいかない。この体が石になったら、この世界の人では助けられないだろうから。だから、常に笑って笑って、喪失の悲しみではなく、また再会できる希望で胸を満たした。

 

 

 

「ミス・ヴァリエール、準備はよろしいですか?」

「はい、ミスタ・コルベール」

翌日、ルイズは1人だけ、コルベールの監督の下で、開けた草原で、使い魔召喚の儀式を行うこととなった。

 

もっとも、ルイズとしては、どうでもいいと思っていた。別に使い魔召喚ができなくて、2年生への進級ができなくても、殺されるわけじゃない。実家に帰ればいい話である。生きるか死ぬか、そんなことが当たり前のような日常は終わったのだ。たかだか学校の進級くらい、どうでもいいと思えるようになったのだ。

 

でもまあ、やるだけやってみよう。

わたしのサモン・サーヴァントのゲートは、ファ・ディールに繫がっているのだろう。だから、そこから、何かしらモンスターが出てくるはずだ。まあ、暴れ回ったりしなきゃいいけど、そうなったら、自分でどうにか戦ってなんとかしよう。魔法楽器もポケットにあることだし、ミスタ・コルベールは人がいいから、たぶん何があってもここだけの話にしてくれるだろう。

 

そう思いながら、虚空に杖を向けて、久しぶりにサモン・サーヴァントの呪文を詠唱する。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴンよ。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」

そしてーールイズの予想を完ぺきに裏切る使い魔が召喚された。

 

 

 

「あなた、だあれ?」

ルイズは、召喚ゲートから現れた、自分と同年代ぐらいの少年の姿に首をかしげる。

あちこち逆立っている黒髪、目は髪の毛の色と同じように黒色。

青を基調としているが、程よく白色も混じるフード付きの上着に、灰色のズボンを着ている。しかし、ルイズには、どれも見慣れぬ服であった。

 

 

しかし、少年は辺りをきょろきょろ見回すばかりで答えない。すごく目を丸くしている。それから、目の前にいるルイズと、コルベールに目を向けた。

 

「お、お前たちこそ誰だよ?」

少年は警戒心を露わに、ルイズとコルベールを交互に見た。声が震えているので、不安でもあるようだ。

 

そんな目線に見慣れていたルイズは、少年にニコっと、安心させるように首をかしげて笑って見せた。

すると、少年の頬はたちまち赤くなった。

それから、少年の質問に答える。

 

「わたしは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズでいいわ。あなたのお名前は?」

「俺は、平賀才人だ」

「ヒラガ、サイト?」

キョトンとしたルイズの首の傾きは、より大きくなる。

 

少年の方が質問を続ける。

「じゃあ、ルイズさんとやら。ここはどこなんだよ?」

少し口調が和らいだ。

ルイズは、もう一度、笑顔で答える。

「トリステイン魔法学院よ。知らない?」

「しっ、知らない!」

また少年の目があちこちをさまよう。

 

一方、ルイズの目は、少年をじっと見つめていた。顔ではなく、服に。

どこの服だろう、ドミナ、ロア、ガト、ポルポタ、ジオ……いずれの住民の服でもないような気がする。

見慣れない生地の服とズボンである。

 

ルイズは、後ろに控えているコルベールに目を向ける。

「ミスタ・コルベール、どう思われますか?」

「春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。古今東西、人を使い魔にした例は聞いたことがないが、使い魔召喚の儀式は、ありとあらゆるルールに優越する。彼には、君の使い魔になってもらうほかない」

「でも、混乱しているみたいです。猶予期間を与えては?」

 

すると、コルベールが厳しい口調となる。

「君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? しかもこうして、日をまたいでまで。早く契約しなさい」

「でも、今のままでは彼がかわいそうです。もう少しお話させてください」

ルイズが頭を下げると、コルベールは、ため息を吐き、「なるべく早くしなさい」と告げた。

 

ルイズとしては、迷っていた。どう見ても、目の前の男の子は、混乱しきっている。別に自分としては、進級できなくても、構わないのだが……。

 

とりあえず、才人という少年に笑顔のまま近づいてゆく。そして、なるべく優しい口調で問いかける。

「ねぇ、あなた?」

「な、なんだよ」

才人は、警戒心が抜けきらない。

「どこから来たの?」

「東京だよ」

「トーキョー?」

そんな地名は聞いたことがない。確かにファ・ディールを隈無く回ったわけではないかもしれないが……。

 

才人はさらに付け加える。

「地球の、日本の、東京」

ルイズは、困ったように首を振る。ついでに、全ての単語を知らないことと、見慣れない服からなんとなく察した。

 

「あなたは、召喚ゲートを通って来たのよね」

「ショウカンゲート? あのデカい鏡のようなやつか?」

「そう。それで……ここから、帰る方法、わかる? そのトーキョーというところに」

才人はぐるりと周囲を見回してから、答える。

「いいや、わかんねぇ」

 

ルイズは、ああ、マズいと肝を冷やしながら、才人に近づき、その耳元に囁きかける。コルベールに聞かれないためである。

 

突然の、甘ったるい匂いのする美少女の接近に、才人はドギマギしながらも、しかし優しそうな雰囲気に安心して、逃げることはしなかった。

 

「ねぇ、わたしが今から言う言葉で、知っているのがあったら教えて。ファ・ディール、ドミナ、ロア、ガト、ポルポタ、ジオ……この中で知っているのある?」

「……いいや、一つもない」

 

厳密には才人は、ドミナから、世界史で出て来たドミナトゥスを思い出されたが、たぶんこのルイズとやらの言っている意味ではないだろう。まさか、古代ローマ時代でもあるまいし。……違うよね? それすら、自信が無くなる才人であった。

 

ルイズは、ほぼ確信する。それから、才人から距離を取って、訊ねる。

「ハルケギニアって知ってる?」

「いいや、知らない」

「あなたの世界に、月は2つある?」

「いいや。月は一つしかないに決まってるだろ」

才人の答えに、ルイズは苦笑してしまう。これはこれは、大変なことになった。一難去ってまた一難、である。

 

とにかく、才人がハルケギニアでもファ・ディールでもない異世界人であるならば、早々に身分を与えなければマズい。

そうしないと、彼をここに置く大義名分がなく、追い出されて野垂れ死にだ。

 

ルイズは、少し自分がティアマットに重なってしまったことに嫌気が差す。彼ほど意図的でも非道でもないが、しかし、自らのつくった召喚ゲートをくぐらせてしまい、帰るアテが無くなった男の子を、その命を持って人質とするのだから、本質的には変わらない。ルイズは、「マイホーム」を持っていないのだから。

 

ルイズは、申し訳なさそうに才人に告げる。

「ねぇ、サイト」

「なんだよ」

「わたしは、あなたを使い魔にしないと、食べ物とか寝るところを与えることができないの」

「な、何でだよ」

才人は、怒ったような反応をする。当然だと、ルイズは思った。

 

「だって、あなたには身分がないもの。『ミス・ヴァリエールの使い魔』という身分がなければ、このトリステイン魔法学院に置くことはできない。少なくとも、わたしには、そんな力は無い。だから、申し訳ないけど、わたしの使い魔になってくれないかしら?」

「なんだよ、それ! ふざけてるのかよ!」

ルイズは、真剣な眼差し、真剣な声で告げる。

「いいえ、本気の話よ」

 

才人は、絶句した。何なんだよ、それ。俺の寝食がコイツに握られているって言うのかよ。ふざけんなよ。と、才人は、目の前の少女を怒鳴りつけてやりたくなった。

 

だがーー先ほどのルイズの反応と質問は、才人をも少し落ちつかせていた。このルイズさんとやらは、地球も日本も東京も知らない。才人は、日本や東京は、国際的な知名度が相当高いと信じている。さらに、よく知らない単語を聞いてきた。まるで、知ってて当たり前だという風に。

 

極めつけは、月の質問だ。こんな状況で、月が1つか2つかなんて、聞くだろうか? 

いや、あり得ない。とすれば、ここには、本当に月が2つ見えるのだろう。そうなると……。少なくとも、月が2つ見える、どこかの地球から遠く遠く離れた惑星なのは、間違いないだろう。

 

そんな状況下で、反抗して何になる? どこに逃げれば助かる? ルイズの問いかけも、言い方を変えれば、自分の使い魔になれば寝食は保証してくれる、ということだ。なんか悪そうな人には見えないし、顔はまあ、とっても可愛い。こうなったら、使い魔とやらになってもいいんじゃないか、とサイトは、心が傾いた。

 

「わかったよ、なってやるよ、使い魔とやらに」

しぶしぶ、横柄さを隠そうともせずに、サイトは言い放った。

 

ルイズは、申し訳なさそうに、言う。

「ありがとう、感謝するわ」

ルイズは、それから、持っていた杖を才人の目の前で振り、杖を才人の額に置く。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

それから、才人に唇を近づける。一気にいった。

 

「もごっ!?」

ルイズは自らの唇を、才人の唇にぶつける勢いで重ねた。

才人は、ビックリ仰天固まってしまう。使い魔の契約ってキスのことかよ! 俺、ファーストキスなんだぜ!

才人がそうこう思っている内に、ルイズは、唇を離した。さすがに頬が赤い。ファ・ディールでは、モルモルボールという、キスをしてくるモンスターはいたが、ルイズが受けることはなかったので、正真正銘のファーストキスである。

 

「ミスタ・コルベール、コンタクト・サーヴァントも終わりました」

「うむ。よくできたね。これで、晴れて君も2年生に進級できるな」

コルベールは、嬉しそうに言う。

 

それから、才人が倒れて、悲鳴を上げる。

「ぐああああ!! 熱い!!」

ルイズは、振り向いて答える。

「あ、ごめん。言い忘れてた。使い魔のルーンが刻まれているの。すぐ終わるから、安心して」

確かに、体の熱さは一瞬であった。

才人はすぐに落ち着きを取り戻す。

 

その間に、コルベールが、使い魔のルーンの刻まれた才人の左手の甲を屈んで確かめる。

「ふむ……珍しいルーンだな」

しかし、じっくり見た後、コルベールは、今日はこれで解散するとルイズに言って、空を飛んで去って行った。

 

才人は、空飛ぶコルベールに驚愕する。

「な、なんだよ、アイツ! 何で空飛べるんだよ!」

「魔法だけど? まあ、空が飛べない魔法のところもあるわね」

ルイズは、さすがに才人の世界に魔法すらないとは予想していなかった。

 

それから、ルイズは、桃色の髪をかきむしってから言う。

「………………はぁ。とりあえずわたしの部屋に来て。そこで落ち着いて話をしたいから」

しかし、才人は動かず、妙な提案をする。

「なあ、ルイズ。俺を殴ってくれ」

「はあ? 何言ってるのよ、あなたは?」

さすがにルイズも呆れる。

 

「これは、全部夢なんだろ! もしくは、ドッキリなんだろ! なあ!?」

ルイズに対して思いきり叫ぶ才人に、ルイズは、落ち着いて首を振る。

「信じたくない気持ちはよくわかる。わたしもそうだったから。でも、現実を見ないと。少なくとも、前には進めないわよ」

 

しかし、才人はやたらと粘る。

「そろそろ起きたいんだ。ネットサーフィンがしたい。今日の夕食は、ハンバーグなんだ!」

「………………。何を言っているのかはわからないけど、とりあえず夜まで待って、月が2つあるのを見たら、嫌でも現実だってわかるわよ。さあ、とにかくわたしの部屋に来て。あなたの話を聞きたいから」

殴ってすらくれないのかよ、と才人は情けない声を上げて、自らの頬を思いきり引っ張った。

 

ルイズは、本当に、間違った人間を召喚してしまったと思った。

 

 

 

さて、才人の話曰く、自分は先ほどまで東京という所にいた。ノートパソコンを修理して帰宅する途中であった。これでインターネットができるとわくわくしていた。出会い系に登録したばかりで、彼女が見つかるかもしれない、と思っていた。

 

ところが駅から家に向かう途中、突然光る鏡のようなものを発見した。人がゆうゆう通れるほどの大きな縦長の鏡であった。

 

驚いたが、すぐには通ろうと思わなかった。落ちている石を鏡に投げたら消えた。家のカギの先端を差し入れて引き抜いてみたが、何ともない。

それで、才人は、くぐっても大丈夫だと思って、好奇心がざわめいて、くぐってしまった。そして、くぐったらーー

 

「なるほどね」

とルイズは、何度もうなずいた。ゲートをくぐる前のくだりは、ほとんど何を言っているのかは、さっぱりわからなかったが。

 

とりあえず、2人はルイズの部屋で、テーブルごしに向かい合わせのイスに座っていた。

才人は、ルイズから渡されたパンをもぐもぐと食べていた。。

 

そして、話を聞き終えたルイズは、イスから立ち上がり、頭を下げた。

「ごめんなさい。わたしのせいだわ」

才人の、胸中としては、そうだよ、お前のせいだよと追い打ちをかけたい気分であったが、そうは言わなかった。頭を下げている女の子にそこまで言いたくはなかったのだ。

 

だが、これだけは訊きたかった。

「俺、これから、どうすればいいんだよ」

才人は、もはや異世界であることは受け止めていた。というのも、夜になったら、確かに月が2つあるのを見てしまったからだ。ついでに、空飛ぶ国も。これでもはや、地球だと言うのは無理があった。

 

頭を上げたルイズは、また桃色の髪を掻きながら、言う。

「どうするって、そりゃ、元の世界に戻る手段を探すしかないでしょうね」

「どうすりゃいいんだよ」

ルイズは、首を振る。

「わからないわ」

才人は、激昂する。

「そりゃないだろ!」

ルイズは、あまり動じずとりなす。

「ごめんなさい。でも、とにかく調べてはみるわ。でも、異世界と繫ぐ魔法は、まだ発見されてないの」

 

「さっきの、その、『サモン・サーヴァント』とやらをもう一回やってみりゃいいんじゃねぇのか」

「それも、今はできないわ」

「なんで!?」

 

「あの呪文をもう一度使うにはね、呼び出された使い魔が死なないといけないの」

「……なんだって」

才人は、おののきの声を上げる。

 

ここで、ルイズは、盛大なため息をつく。

「こんなことになるなら、あの時、試しておけばよかったわ。サモン・サーヴァントをくぐったらどうなるのか」

 

『あの時』とは、ルイズがあの世界ファ・ディールにいた時、チョコボを使い魔にしようと、使い魔召喚ゲートを作り出した時のことである。

その際に、自分が召喚ゲートをくぐれば元の世界に戻れるかもしれないと考えて、くぐろうと思ったことがあったのだ。結局、どこに繫がっているのかわからなくて、余計にややこしくなるかもしれないと、思ってやめたが。

 

ちなみに、2人が、与り知らぬことを言うと、あの召喚ゲートは、才人の部屋に繫がっており、もしルイズがくぐっていたら、東京の才人の部屋に現れたし、才人がくぐっていたら、ファ・ディールに召喚されていて、確かに余計にややこしいことになっていた。

 

ルイズのつぶやきを聞き流して、才人は、

「他に方法はないのかよ……」

と、もはや消え入りそうな声で訊ねてみた。

 

ルイズは、そうねぇ、かなり微妙な答えかもしれないけど、と前置きして、

「もしかしたら、あなたは何か縁があって、この世界に召喚されたのかもしれないわ。それで、この世界の人の役に立てば、ひょっとしたら、帰る道に辿り着けるかもしれないわ」

それは、ルイズが結果的にファ・ディールで、世界征服を企むティアマットを打倒し、世界を混沌に陥れようとしていたアーウィンを倒し、珠魅たちを蘇らせ、マナの木を復活させた経験則によるものであったが、そんなことを知らない才人からすれば、

「でも、そんな保証あるのかよ。人助けを続ければ、帰る道が見つかるなんて、ちょっと想像がつかないぜ」

となる。

 

ルイズは、謝る。

「ごめんなさい。そうよね、こんなこと急に言われても、受け入れられないわよね……ごめんなさい」

サイトは、ふぅ、と一息つく。ここまで謝られると、さすがにこれ以上怒ろうという気にならなくなる。

 

それにどうだろう。ルイズが召喚ゲートの魔法を発動したのは事実だとしても、くぐったのは自分ではないか。自分が余計な好奇心を出さなければ、この世界に来ることはなかったわけである。そう考えれば、自分にも非があると言える。ルイズばかりを責めるのはあんまりだろう。

 

そう考えると、サイトは、笑顔を浮かべた。確かにどうしようもない状況だが、もう目の前にいる女の子を困らせたくはない。最初見たときの、優しい笑顔を浮かべてくれた時の、耀く宝石のような笑顔の方が似合っている。そう考えると、胸から優しさがこみ上げてきた。

 

サイトは、落ち着いた声で疑問に思っていることを訊ねた。

「それで、この左手の変な文字は?」

「使い魔の印のようなものよ」

「使い魔って、何するのさ」

「普通なら、主人の目となり、耳となり、主人のことを身を呈して守るんだけれど、あなたの場合は、何もしなくてもいいわ」

「そうかい」

そう言われると寂しい気もする才人であったが。

 

「それで、今日はどこで寝ればいいんだ? 見たところ、ベッドが一つしかないんだけど」

「……空き部屋から、寝具を持ってくるわ。それで寝てちょうだい」

「その空き部屋とやらで、眠ればいいんじゃねぇの」

「ここは、女子寮なの。あなたのことは、まだ知れ渡っていないから、周りの女子生徒が怯えたり、抗議しにくるかもしれないわ。それに、いつまでも空き部屋とは限らないから、もし誰か来たら、あなたはたぶん追い出されちゃう。ずっとここで眠った方がいいわ」

「フローリングの上に布団かよ」

「そういうことになるわね、なるべく早くベッドを注文するから、しばらく我慢してくれる? 今、布団を持ってくるわ」

才人は、確信する。なんだ、こいつやっぱり優しいじゃねぇか。こんな女の子を困らせるのは、やっぱり良くねぇ。

 

部屋を出ようとするルイズに、才人は朗らかな声をかける。

「あ、俺も手伝うよ」

ルイズは、意外そうな目を向ける。

「別に良いのよ。わたし1人でできるわ」

「いいって、いいって。俺の寝る所なんだから」

気前よく言うサイトを、不思議そうな目で見つめるルイズ。どうして、こんな状況で笑っていられるのだろう。わたしが、ファ・ディールに来た時は、怒るか落ち込むかどっちかだったのに。才人の切り替えの速さに驚くルイズであった。

 

それから、2人は、寮の管理人と話し、空き部屋のカギを借りて、寝具を持っていった。

 

ルイズは1人でできるとは思ったが、やっぱり男の子の力は強かった。異世界を踏破したと言っても、足の速さくらいしか、身体能力は向上していないルイズにとっては、やはり頼りがいがあるように映った。

 

窓を開けて寝具のホコリを払うと、それで才人の寝床を整えた。才人は床に敷く毛布と体の上にかぶせる毛布を工夫して、枕の上に頭を載せた。

ルイズは、ベッドの上に乗りシーツを天井から吊り下げ、即席のカーテンをつくってネグリジェに着替えた。それから、ベッドに横たわる。

 

そして、才人に確認をとってから、指で弾いて、部屋の灯りを消した。

 

ルイズは、寝床の中で思う。大変なことになった、本当に彼を元の世界に戻せるのかしら、と思いながら、不安でなかなか寝付けなかった。

自分にはアーティファクトという手がかりがあった。しかし、この世界にはそんな物が存在しない。ファ・ディールのように、わたしが自由に動ければ良いけれど、今回はそうもいかない。学生という身分がある。これを蔑ろにすると、自分の立場が危うくなるだけではなく、サイトの身分も危うくなる。実質的に魔法学院か、その周辺で手がかりを探さなければならないのだ。

 

それにしても、自分の魔法は一体なんなんだろう。こうも異世界と通じてしまう。バドやシエラから、強力な魔力を持っていると言われたが、こんな操りきれず、あちこちに迷惑をかける魔法ではマズい。何とか制御できるようにならないと。

 

一方、才人の方は、これが、出会い系で会った女の子なんだ、と思い込もうとしていた。いやー、出会い系で、桃色の髪に、すっごく顔の可愛い、少し痩せている、なんだかとっても優しい女の子に会ってさ、その子にちょっと異世界までご招待されたんだよ。だから、お父さんお母さん、しばらく帰れません。ずっと、じゃないと思う……思いたいけど。可愛い女の子との暮らしを存分に満喫してから、帰ります……と、わりと脳天気に考えていた。まだ、ルイズという少女をちっとも知らないからこそできることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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