ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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46話:姫さまのお頼み

「珍しいね、サイトが朝一の授業に出るなんて」

ルイズは、けっこう驚いた声を上げる。

「うん、まあ、なんとなくな」

才人は、あいまいに微笑む。

 

彼としては、ルイズの顔を今日は見ていたい気分であったのだ。あれだけの煩悩を抱えているからこそ、むしろ、今日は近くでルイズの顔をじっと見ていたい。

 

まじめなルイズは、授業中は、教師の方を向いてノートを取っているけど、たまに才人の視線に気がつくと、ニコッと微笑みかけてくれる。あの天使のような笑顔、実に見てみたいものである。

そんな欲求に駆られた才人であった。

 

さて、ルイズが珍しいと思ったのは、才人が来たのが生徒たちから特に人気のない『風』のギトーの授業だからである。若くとも、傲慢で権威に頼りがちな教師である。

 

ギトーは、風が最強の系統だと述べ、キュルケに、巨大な火球を放ってもらい、瞬時にして風の魔法で火球を消し去り、キュルケをも吹き飛ばす実演をしてみせた。

 

それを土台にさらに風が最強だと説明しようとしたところ、金髪のカツラと、やたらと豪華なローブを着たコルベールが現れて、ギトーに一言断ったあと、

「今日の授業は、すべて中止です!」と宣言した。

 

それから話を続けようとしたところ

、金髪のカツラがずり落ちて、ハゲ頭を露出させてしまい、教室中が爆笑した。それを一喝して黙らせたあと、コルベールは言う。

 

「本日はトリステイン魔法学院にとって、めでたい日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶほどです。……恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問のお帰りにこの魔法学院に行幸なされます」

 

よって、歓迎式典の準備をおこなう。生徒諸君は正装し、門に整列すること、と告げると、生徒たちは、一斉に緊張した面持ちとなった。

 

魔法学院の正門をくぐって、王女様御一行が現れると、整列した生徒たちは一斉に杖を掲げる。真っ先に学院長のオスマンが御一行を迎えた。馬車が止まると、召使いたちが駆け寄って、馬車の扉まで真っ赤な絨毯を伸ばした。

 

呼び出しの衛士が、王女の登場を叫ぶ。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーりーーー!」

だが、馬車の扉が開いて現れたのは、マザリーニ枢機卿であった。

学生たちは、一度落胆する。だが、マザリーニは、次に降車する王女の手を取った。学生たちが歓声を上げる。

 

アンリエッタ王女は、バラのように微笑み、優美に手を振った。

ルイズは、ひとまずアンリエッタ姫を見て、安堵の表情を浮かべた。お元気そうで何よりです、と。

 

ついでに、姫さまの近くにいた、羽根帽子を被った貴族に目を向ける。ああ、ワルド子爵か、とルイズは思い出した。互いの父同士が戯れに6歳のルイズと婚約させたが、それ以来、一切連絡のない婚約者。

婚約は、もう自然消滅してしまっているだろう。姫様の近くに仕えられるなんて、ずいぶんと出世されたものね、と思っていた。

 

隣のキュルケは、ワルド子爵を見つめて、顔を赤らめていたが、ルイズは何とも思わなかった。彼女は瑠璃とかラルクとか、守りたい者、一緒になりたい者のために、命を賭けて戦う戦士たちに本当の格好良さを見出していたために、特に外見だけで惹かれることはないのであった。

 

なので、学生たちの解散が告げられると、姫様とワルド子爵に色めき立つ周囲に意に介さず、とっとと無人の図書館に向かった。彼女にとっては調べ物にあてる時間が増えただけの日であった。

 

夜。食事を終えたあと、ルイズは、またも本と格闘していた。才人にとっては、いつもの光景である。彼は、ルイズがいつもの時間にファ・ディールの冒険を話し出すことを心待ちにしていた。

 

しかし、その時、ドアがノックされた。規則正しく、初めに長く二回、それから小刻みに三回……。

 

ルイズは、ドアを見つめて驚きの表情を浮かべた。そして、急いで扉を開けた。才人が誰だろうと思っていると、漆黒の頭巾で正体不明の人が、周囲を警戒しつつ、急いで部屋に入り、後ろ手でドアを閉める。

 

ルイズは急いで訊ねる。

「お忍びですか?」

黒頭巾の人は急いで口元に指を当てる。それから、杖を取り出して、短くルーンをつぶやく。光の粉が、部屋の中を舞った。

 

ルイズは小声で訊く。

「ディテクトマジックですか?」

黒頭巾の少女はうなずいた。

「どこに耳目があるかわかりませんから」

そして、部屋のどこにも聞き耳を立てる魔法の耳や、のぞき穴がないことを確かめると、黒頭巾を脱いだ。

 

同時に、ルイズは膝をつき、頭を垂れる。

「アンリエッタ姫様……」

才人も思わず息を呑んだ。また1人輝いて見える人が登場したと思った。

 

それからアンリエッタは、畏まるルイズを昔話をして和らげた。幼い頃に、殴ったり、髪の毛を引っ張ったりして、まあ2人ともずいぶんとお転婆だったんだなあ、と才人は思った。

 

アンリエッタは、儚げにつぶやく。

「あの頃は毎日が楽しかった。王国に生まれた姫なんて、籠の中の鳥同然。飼い主の気分で、あっちに行かされたり、こっちに行かされたり」

 

それからアンリエッタは、ルイズの手を取り、寂しげに笑いながら言う。

「結婚するのよ、わたくし」

「……おめでとうございます」

すぐさまお望みのことではないと思ったルイズが沈痛な表情で言った。

 

ここで、アンリエッタは、才人に気付いて、ルイズに訊いた。

「ところで、お邪魔でしたかしら?」

「いえ、何もそんなことは」

「だって、そこの方、あなたの恋人なんでしょう?」

「いえ、違います。わたしの使い魔ではありますが」

ルイズは、即座に言った。

 

アンリエッタは、首をかしげる。

「使い魔? 人にしか見えませんが」

「ええ、れっきとした人の使い魔です」

 

ルイズに恋人ではないと言われて、才人はとても、心が抉られた。いや、わかってるんだけど、そこまで即答しなくてもさあ!

 

ふんだ。どうせ頭も顔も戦った経験も、全然釣り合いませんよ、こっちは!

 

もう地球に帰りたい。ルイズ、早く俺の帰る魔法を見つけてくれよ。そして、こんな釣り合わない使い魔じゃなくて、ちゃんともっと立派な使い魔を召喚してくれよ、と才人はがっくりとうな垂れながら思った。

 

「はあ、人を使い魔にしてしまうなんて……ルイズ、あなたは昔から変わったところがあったけれど」

「彼曰く、誤って召喚ゲートに入ってしまったそうなので、彼を帰還させるために骨折りしている次第です」

 

ルイズは、淡々と事実を述べているだけなのだが、才人の心をさらに痛めつけていた。

 

 

「何か縁があって~」とか召喚初日に言っていたじゃないか! ウソつき! 本当に俺のことなんか眼中にないんだ。あれだけ優しくても、うわーん! と才人は心の中で嘆きに嘆いた。

 

それからアンリエッタは、言うか言うまいか逡巡しながらも、

「ルイズ、言っていいものなのか、実はとてつもない悩みがありまして」

ルイズは即座に食らいつく。

「何でもおっしゃってください! 何やらとても深刻なご様子! このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、粉骨砕身、姫様のために捧げる所存です!」

ルイズの力強い言葉に、アンリエッタはかなり驚き、そして、笑顔を浮かべた。

 

「今からお話しすることは、誰にも話してはいけませんよ」

ここで切り替えの早い才人が、席を外そうか、と言うと、アンリエッタは首を振った。

「いえ、メイジと使い魔は一心同体です。席を外さずともけっこうです」

 

それからアンリエッタは話し出す。

ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったこと、アルビオンの貴族が反乱を起こし、今にも王室が崩れそうなこと、反乱軍が勝利すれば、次はトリステインに侵攻してくるだろうこと。

 

それに対抗すべく、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶ、そのためにアンリエッタ王女がゲルマニアに嫁ぐことになったこと。

 

「なるほど、ご説明、感謝申し上げます」

とルイズは、同情しながら頭を下げる。

アンリエッタは、なおも話し続ける。

「それで無礼なるアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を阻止する材料を必死に求めています」

ルイズは、

「それで何か、姫様の婚姻を阻止するようなものがあるのですか?」

「ええ……。残念なことに」

「おっしやってください! それは一体なんですか?」

 

アンリエッタは、両手で顔を覆って、苦しそうに言う。

「わたくしが以前送ってしまった、手紙です。それが、アルビオンの貴族たちの手に渡ってしまったら、彼らはすぐさまゲルマニア皇室にそれを送るでしょう」

「その内容は?」

 

「それを言うことは、はばかられます。しかし、読んだら、ゲルマニアの皇室は……わたくしを許さないでしょう。婚姻は破談となり、トリステインとの同盟は無かったことになり、そして、トリステインは、一国であの強力なアルビオンと相対することになるでしょう」

ルイズは、落ち着いて訊ねる。

「その手紙はどこにあるのですか?」

 

「アルビオンです」

「アルビオン! ということは、既に敵の手に?」

「いいえ。その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱軍ではなく、彼らと戦っているウェールズ皇太子が……」

「そういうことですか」

ルイズは、納得する。

 

アンリエッタは、顔を両手で覆ったまま、ベッドに体を伏せる。

「ああ、終わりです! ウェールズ皇太子は、反乱軍に捕まってしまうでしょう! あの手紙も露見してしまう! そうなったら、トリステインは一国で、アルビオンと対峙しなければなりません!」

 

ルイズは、冷静さを崩さずに言う。

「わかりました。では、わたしが……」

「無理よ! できないわ、ルイズ! あなたを貴族と王党派が争っている渦中のアルビオンに行かせるなんて」

「落ち着いてください、姫さま。わたしが必ずやり遂げてまいります」

「ああ! このわたくしを助けてくれるというの、ルイズ! かつてのお友達」

ルイズは、ためらいなく言い切る。

「アンリエッタ姫さまの心を晴らし、祖国の危機を招来する危険を回避できるならば、やらないわけにはまいりません」

すると、アンリエッタは、感極まった声で言う。

「なんと頼もしい! これが真の友情と忠誠なのですね! 感激します。わたくしは、あなたの友情と忠誠を生涯忘れません!」

 

才人は、これから危ない所に行くというのに、相変わらず笑っているルイズと、やたらと感情的なお姫様を交互に見つめた。

 

ここで、才人は口を挟む。

「あの、ルイズ?」

「なに、サイト?」

ルイズは、相変わらずの笑顔を才人に向けた。

 

「俺も行くの?」

ルイズは、即答する。

「別に行かなくてもいいわよ。あなたが行きたくないと言うなら、わたしは尊重するわ」

 

うっ、と才人は言葉に詰まる。

コイツはいざ危険な目に遭ったら、魔法楽器を出してどうにかするつもりなんだろう。そうするだけの力も経験もある。俺なんかが行っても足手まといじゃないか、と思った。

 

でも、この少女は魔法楽器をできれば使いたくない、と言っている。そうなると、新たな災厄を招じかねない、と。なら、ここは、俺がフーケ戦の時みたいに、魔法楽器を使わせないようにしないと。あの時と同じように、うまくいくかわからないけど。

 

「俺も行く。使い魔として、ルイズに付き添います」

ルイズは、首をかしげる。

「危険なところよ? 別に来なくても……」

「いいよ。俺は行くって決めたんだ」

「? そう……」

ルイズは、よくわからないという顔つきをしたが、強く止めることはなかった。自らも何度も危険に飛び込んできたから、才人を止める言葉を思いつかなかったというのもある。困っている人を助ければ、元の世界に繫がっているかもしれない、という理屈を才人は鵜呑みにしているのではないか、と推測した。実際のところ、ただのわたしの経験則で必ずしもそうとは限らないのだが。

 

アンリエッタ姫は、大いに喜びながら告げる。

「ありがとうございます。『土くれ』のフーケを捕まえたあなた方ならきっとやり遂げてくれると、信じています」

いや、フーケを捕まえるのと、訳が違うんだけどな、とルイズは思う。あれより簡単か難しいか、わからないけど、全然違うことは姫さまはご理解してくださらないようだ。まあ、こちらもこんこんと説明するつもりはないけど。

 

ルイズは訊ねる。

「いつ旅立てばよろしいですか?」

「アルビオンの貴族たちは、王党派を国の端まで追い詰めていると聞いています。なるべく早急に」

「では、明朝、出発させていただきます」

 

それからアンリエッタは、才人の方を向く。そして、左手を伸ばした。手の甲を上に向けて。

「わたくしの大切な友達をどうかよろしくお願いします、使い魔さん」

アンリエッタは、ニッコリと笑った。それは一般の民に見せる笑顔であったが、才人は、俺モテてると解釈した。

 

でも、この手の甲を見せる仕草がわからない。ルイズに目を向けると、それは、「キスをしていいということよ」と教えてくれた。

 

え、そうなの? と才人が驚いていると、才人はすぐさま姫さまの手を引いて自分の唇を姫さまの唇に押し当てようとしたらーー才人の意図に気付いたルイズに、素早く首根っこを引っ張っられて止められた。

 

「な、何だよ?」

「だ~れ~が、唇にして良いってっ言ったの!」

アンリエッタは、大きく目を見開いて固まっていた。才人は、慌てて勘違いに気がつき、アンリエッタから離れる。

 

「す、すみません、俺、うっかり」

「か、構いません。忠誠には報いるところが必要ですから」

ここで、扉が勢いよく開かれた。

「貴様っ! 姫さまに何をしてるんだ!」

叫んだのは、いつか才人と決闘したギーシュであった。

 

ルイズは、叫ぶ。

「ギーシュ! あなた、立ち聞きしていたの!」

ギーシュは、言う。

「可憐なバラのごとく美しい姫さまのあとを追いかけて、ドアの鍵穴から覗き見ていたら……この平民が、不埒な真似を」

才人が応酬するように叫ぶ。

「何だよ、お前! また決闘するのか?」

しかし、ギーシュは、才人を無視して、アンリエッタに頭を下げる。

 

「姫さま! この困難な任務、ぜひともこのギーシュ・ド・グラモンにお任せあれ!」

と叫ぶ。ここで、ルイズは、額に手を付ける。ーー魔法楽器が自由に使えないと、あなたのせいで、難易度が遙かに上がるじゃない!

 

そんな主人の機嫌を察した才人も叫ぶ。

「おい、ギーシュ! ここは俺とルイズで十分だ! お前は俺に決闘で負けたんだから、引っ込んでろよ!」

ギーシュは、才人を無視して、アンリエッタに懇願する。

「ぼくも姫さまのお役にたちたいのです!」

 

アンリエッタは、呆けたような顔で問いかける。

「グラモンとは、あのグラモン元帥の?」

「その通りでございます。その息子であります!」

「あなたも、わたくしの助けをしてくださるの?」

「当然であります。任務の一員に加えてくださったら、これはもう望外の喜びであります」

 

ルイズは、悲痛な叫び声を上げる。

「姫さま! 少数精鋭という言葉があります! ここは、わたしとサイトだけで十分です! 彼はサイトに決闘を挑んで敗れた身! 勝者だけが付いてきてくれれば、それで十分です!」

 

「まあ、何を仰るの、ルイズ。味方は多い方が心強いでしょう。あのフーケを捕まえた時だって、あなたは3人で行ったでしょう」

「姫さま~! 正直申し上げますが、あの時、活躍したのはこのサイトだけです。わたし含めて後は見物していたに過ぎません! わたしは使い魔の主人として行く義務はありますが、ギーシュには特に同行する理由はありません!」

 

すると、アンリエッタはたしなめる。

「まあ、ルイズ。ダメよ、そんなお友達を悪く言っては。グラモン家と言えば、勇敢な血筋を継いでいる家系。彼もその血を継いでいるようですわ。わたくしは、彼にもお願いします」

 

ルイズは、ああ、と取り返しのつかない出来事を見たかのような悲痛な声を上げた。

 

それからアンリエッタが、よろしくお願いします、ギーシュさんと言うと、ギーシュは姫さまに自分の名前を呼ばれた感激のあまり、仰向けに倒れた。

 

アンリエッタは、唇をかむルイズに向き直る。

「それでは明朝、アルビオンに向けて出発してください」

「……了解しました。以前に姉たちとアルビオンを旅したことがありますが故に、地理には自信があります」

「アルビオンの貴族たちは、あなたたちの目的を知ったならば、色んな手段を駆使してあなた方を妨害するでしょう」

 

アンリエッタは椅子に腰かけ、ルイズの羽根ペンと羊皮紙で手紙をしたためる。その表情は憂いと羞恥を帯びていた。

書き終えると、アンリエッタは手紙を巻いて杖を振った。すると、巻いた手紙に封蠟がされ、花押(かおう)が押される。その手紙をルイズに渡した。

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐさま、くだんの手紙を渡してくださるでしょう」

 

そして、アンリエッタは、右手の薬指から、指輪を抜いてルイズに手渡す。ルイズは、一瞬だけ顔をしかめた。

「母君から頂いた水のルビーです。お守りとしても、旅の資金として売却しても構いません」

ルイズは、深く頭を下げる。内心、珠魅の死体を持っている気分だな、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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