ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後) 作:hobby32
宿に帰ったら、ギーシュとキュルケから帰りが遅い、とルイズと才人は言われた。
ルイズは、笑顔でごめんねごめんね、と謝ったあと、みんなに水の魔法薬を分け与えた。先ほどの山賊の襲撃もあったので、みんな素直に受け取ってくれた。タバサ以外。
ルイズは、「あれ、いらない?」と訊くと、「持っている」と言われて、そっか、とルイズは買い物袋に戻した。
そして、翌日の夜。明日、出航する前日に、1階のバーで全員で食事を取っているとーー突然、轟音と共に入り口が吹き飛ばされた。
岩でできた巨大なゴーレムが来たようである。
さらに、多数の武装した傭兵が、瞬く間にバーに入ってきた。
ルイズたちから離れた所で、一人寂しく食事をしていたワルドは、すぐに杖を振り、とっさにテーブルをひっくり返して、即席の盾をつくる。もちろん、テーブルに載っていた皿やグラスが盛大に音を立てて割れた。
タバサも、それを見て倣う。また盛大な音を立ててテーブルを盾にした。
しかしながら、ルイズの状況判断能力には恐ろしいものがあり、ゴーレムが店の入り口を破壊するのを認識するやいなや、たまたま誰もいなかったカウンターに駆け寄って飛び越え、二つのテーブルが即席の盾と化して盛大な音を立てている間に、次々入ってくる剣や弓を持った傭兵たちを見つめた。
それから、カウンターから顔だけを覗かせて、スカートのポケットのふくろを出してハープを取り、短く演奏した。
すると、食器類が床に落ちる音でハープの音はかき消されつつ、激しい水流の魔法ウォータースラッシュが、バーの中いっぱいに、あっという間に広がった。
「な、なんだ?」
「だ、誰の魔法だ?」
「スクウェアクラスの魔法よ」
「信じられない……」
才人、ギーシュ、キュルケ、タバサが、おのおの驚嘆している最中に、
「すごいねぇ。誰の魔法かしら?」
とルイズは、カウンターをまた乗り越えて素早く戻ってきて、あたりをキョロキョロ見回しながら、すっとぼけた。
そんなルイズの姿を才人は見つめて、やっぱりこれくらい強くないと異世界は踏破できないのかな、と思ってしまった。
その激流は、才人、ギーシュ、キュルケ、タバサや店の従業員や客たちに当たることはなかった。ルイズによって『味方認定』されていたからである。
「ぐおっ!」
なお、ワルドには当たった。『味方認定』されていないからである。理由は言うまでもない。ただ、盾にしたテーブルと近接していたため、全身をテーブルにぶつけただけで大してダメージは受けなかったが、帽子と服はずぶ濡れとなった。
そして、岩の巨大ゴーレムや、まず誰も逃がさないようにと入り口を固めようとしていた傭兵たちには甚大な被害を与えた。
「きゃああああ!?」
「ぐおっ!?」
まず岩のゴーレムの肩に乗っていたフーケと白い仮面の男は、ゴーレムが激流でゴロゴロと体を分解されながら転がされたために、地面に叩きつけられて気絶、あるいは消滅した。ゴーレムは、ただの岩山に戻った。
傭兵たちも阿鼻叫喚となり、次々と入りこもうとした店から、ゴロゴロ転がされながら即座に押し流され、あるいはドミノ倒し、あるいはフーケのゴーレムの岩の下敷きとなり、ほとんどの傭兵が意識を刈り取られた。
運良く激流の被害に巻き込まれなかった連中も、味方のほとんどが倒れる様を見て、即座にスタコラと逃げて行った。
ルイズ以外の4人は、そんな光景をテーブルの影から、あ然としながら見つめていた。そして、誰もルイズのネコのごとく俊敏な動きを見ていなかったがために、一体誰がこんな強力な魔法を、と結論の出せない話し合いを始める。
才人はわかっていたが、黙ったままであった。しかし、本当に魔法楽器の威力には度肝を抜かれた。
さて、ダメージは負っていないが、羽根帽子を含めて全身ズブ濡れ状態のワルドが、水を垂らしながら言う。
「諸君、ここは敵に狙われているようだ。一刻も早く出発した方が良い」
誰も濡れていない5人は、顔を見合わせる。
代表してギーシュが言う。
「そうかね。しかし、濡れた服を着替える時間くらいはあるんじゃないのかね?」
すると、才人とキュルケは大いに笑った。ルイズとタバサは冷静であった。
だが、ワルドは突っぱねた。
「いや、急ごう。追っ手が来るかもしれないからな」
ルイズたちは、宿の裏口から、桟橋へと向かう。桟橋と言っても空中に向かうので、巨木の中の階段を登ってから行くのである。異世界人たる才人は、驚きっぱなしであった。
そしてあたかも大きな実のように巨木の枝にぶら下がっているのが、飛行船である。それぞれの階にはプレートがあった。
この階段を上っていく最中、へばって一番最後尾にいたギーシュが、突如悲鳴を上げる。
「ぐあああっ!!」
一行が振り返ると、白い仮面の男から雷撃が発せられ、階段を上る速度が遅いギーシュを襲ったようである。
「ギーシュ! くっ!」
即座にキュルケが火の玉を、タバサが氷の矢を当てて、仮面の男に命中して、仮面の男は消滅した。
倒れたギーシュを、タバサが診る。どうやら背中のあたりに雷が当たったようだ。
ギーシュが、遺言を述べ始める。
「うぅ、姫殿下には、ギーシュ・ド・グラモンは勇敢に戦って死んでいったと、伝えたまえ」
直後にタバサが言う。
「この程度、死なない」
その一言で一気に場の空気は和らいだ。
ここで、濡れた服のまま、ボタボタと水滴を垂らして先頭を走っていたワルドが、振り返って叫ぶ。
「ここから先は、二手に分かれよう。ギーシュ君をタバサ君が治癒して、キュルケ君が護衛してくれ。いつまたあの男が来るかわからないからな。ここから先は、私とルイズとサイト君で進む」
「ちっ!」
キュルケは、強く舌打ちをする。まんまと分断されたではないか。だが、この変態の言うことが一番合理的であった。しかし、せめてもの捨て台詞を吐きたいと思う。
「サイト、絶対にルイズをその男に渡すんじゃないわよ!」
ギーシュも倒れながらも必死に叫ぶ。
「そうだ、サイト! 絶対にそいつの魔の手にルイズを渡すな!!」
才人が、2人に対して力強く、ああ、と言い切った。
「俺が絶対にルイズを守ってみせる!」
何ともまあ、力強い言葉であったが、言われた当の本人は照れるどころか、困惑するばかりである。
わたしは、あなたたちよりもずっとずっとたくさん戦ってきたわよ! と叫びたい気分であった。
もちろんそんなことは言えないルイズは、「ギーシュ、お大事にね」と言うほかなかった。
なお、異世界において、前衛が崩されて気絶する光景は、わりと見てきたので、ルイズとしては、死ななきゃそれほど動揺はない。ついでに、戦士的に、冷徹に言えば、これで魔法楽器がだいぶ使いやすくなったと思えた。
魔法楽器の存在が露見しても問題のない才人と、ほとんど敵確定のワルドだけとなったのだから。この分断が現在ビショ濡れ状態のワルドの策だというのなら、実のところ、かなりの愚策だと思えた。
その後、船に辿り着いた全身ビショビショのワルドは、手近にいた船員を脅かしつける。
「早く船長を呼べ! こっちは貴族だぞ!」
その船員が、目を丸くして叫ぶ。
「貴族様! どうして雨も降っていないのに、こんなにお召しものが濡れていらっしゃるんで?」
「二度も言わせるな! 早く船長を呼べ!」
そして、呼ばれて出てきた船長も、まずワルドの水の滴り落ちる帽子と服を心配したが、ワルドはますますいきり立ち、「とっとと船を、アルビオンに出港しろ!」と怒鳴り散らした。
船長が、今晩は風石が足りなくて、と言うと、それなら、風のスクウェアたる僕が風石の分を補う、とワルドは服から水滴を落としつつ言いだした。
船長がついでに、料金をふっかけると、ワルドは瞬時に応じて、出港と相成った。そして、「明日の昼過ぎには、アルビオンに着く」と言われた。
なお、ワルドが濡れた帽子と服のことをやたらと言われたせいか、かえってむきになって着替えなかった。これまでの旅で変態扱いされ、やたらめったら侮辱され、怒りが爆発しそうになるのをこらえ続けていたため、冷静さを失っていたというのもある。
素晴らしいネタキャラと化していくワルドくん。