ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後) 作:hobby32
ワルドは、頑張っていた。
濡れた羽根帽子と服を着たまま、船を風石のかわりに空に飛ばすことを。
高度が上がるにつれて、どんどん冷えてゆく。身体が芯から凍える感じがする。だが、ここでくじけるわけにはいかなかったのだ。
もはや旅の同行者二人の命はどうでもいいが、自分の命を落とすわけにはいかない。だから、この船を浮かすことに、濡れた服を着て凍える思いをしつつも、全神経を集中させていた。
その結果、ワルドは風邪を引いてしまった。
翌日、ルイズたちの乗る船がアルビオンに近づいてきた頃、才人と交代交代で寝起きしていたルイズは、まぶたを閉じて大して時間も経たないうちに、才人から揺すり起こされた。
「ルイズ、起きろ! 空賊だって!」
「……わぉ」
ルイズは、跳ね起きた。
ルイズが才人と船室から様子をうかがっている時には、向こうの船から斧や刀で武装した男たちが、数十人入りこんできていた。
才人が、「どうする、魔法楽器使うか」と訊ねると、ルイズは笑顔で首を振った。
「あんなの空賊じゃないよ。寝ていていーよ」
とのんきな声で言って、ベッドに戻っていった。
才人は大いに戸惑う。
「ど、どういうことだよ」
「大人しくしていれば、危害はないわ」
間もなく、部屋にやって来た空賊に、ルイズと才人は杖と剣を取り上げられて、船倉へと連行されていった。
船倉は、咳やくしゃみが止まらず、船を浮かばせることに精神力を使い果たしながら、未だに濡れた服を着たままのワルドと、そんなワルドと距離を離しつつ、しかし体はワルドに向けたままのルイズがいた。空賊よりもこっちの方を警戒すべきと言わんばかりであった。
才人としては、なんでコイツは、服を着替えないんだろうなぁ、と思わずにはいられなかった。まあ、もちろん言うことはないが。敵が風邪を引いているなら、戦うときだいぶ楽になるだろうし。
その内、空賊の一人がやって来る。
「お前らは、アルビオンの貴族派かい? 俺たちは貴族派のために商売しているんだ。未だに王党派に味方しようっていう狂った連中がいてな。そいつらをふん捕まえてるんだ」
ルイズは、笑顔で答える。
「へえ、もはやアルビオンの貴族派が大勢を占めている状況で、少数派の王党派を捕らえるべく、わざわざ空賊のフリをしているんですか。辻褄が合いませんね。普通、逆でしょう。実に貴族らしい歩き方をしていいらっしゃるというのに」
すると、空賊は慌てて、頭(かしら)に報告してくる、と言って去って行った。
才人は、あ然として、そんなルイズを見つめた。
間もなく、頭が呼んでいると、ルイズたちは、連れて行かれた。
頭が言う。
「無礼な捕虜たちとは、君たちのことかね?」
ルイズは、笑顔で答える。
「無礼なことなど、わたしは、申し上げた覚えがありません」
頭は大笑いした。
「トリステインには、実に可愛らしく、頭の回る貴族の少女がいるものだな。では、こちらも改めて自己紹介させていただこう」
頭は、カツラを取り、眼帯を外し、つくりもののヒゲを剥がした。
そして、立派な金髪の若者が姿を現した。
「私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
才人は、口を開けっ放しとなった。
ウェールズは、ルイズたちを椅子に座らせて、用向きを訊ねた。
ルイズは、全く怯むことなく、才人とワルドを紹介したあと、一礼してから答える。
「わたしは、トリステイン王国が王女、アンリエッタ様より大使の任を承りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。アンリエッタ様より密書を預かっております。ですが誠に失礼ながら……貴方が皇太子である確たる証拠を、拝見させては頂けないでしょうか?」
「ふむ、確かに、この格好では証明になるまい。では……」
ウェールズは、自らの薬指に嵌められている緑色の宝石の付いた指輪を外した。そして、ルイズの手を取って、その指に嵌められている水のルビーに近づける。すると、二つのルビーの間で虹がかかった。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる風のルビーだ。その指輪はトリステイン王国に伝わる水のルビーであろう。これは、互いの王家にかかる虹なんだ」
ルイズは、微笑み、頭を下げる。
「大変失礼いたしました。こちらが件の密書です」
ルイズは、胸ポケットから、手紙を差し出した。
ウェールズは、愛おしそうにその手紙を受け取り、花押に口付けをした。それから、丁寧に封を開き、入っていた便箋を取り出して、読んでいく。
「なるほど、姫は結婚するのか。そして、あの手紙を返却してほしいと、私に求めている。宝以上と言っても過言ではない手紙だが、アンリエッタの望む通りにしよう」
ルイズは、小さく安堵のため息をつく。
「だが、今手元にあるわけではないので、ニューカッスルまでご足労願いたい」
ルイズは答える。
「ありがとうございます。その程度の労は惜しみません」
それから、ウェールズは、未だに濡れねずみ状態のワルドに告げる。
「君は、服を着替えられたらいかがかな?」
しかし、ワルドは、「どうか、おお構いなく」と言って断った。