ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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52話:くしゃみで決着

空飛ぶ大陸であるアルビオンへと、大陸の下側から潜るように入ってゆく。貴族派の所有する巨大戦艦を避けて、極秘の港を目指すためである。その港は、巨大な洞窟であった。

 

ルイズたちは、ウェールズの先導により、城の最も高い天守の一角にあるウェールズの居室へと向かった。

しかし、皇太子の部屋とはいっても、木製の小さなベッドに、椅子とテーブルが一組、あとはせいぜい戦の様子が描かれた絵が飾られているに過ぎない。

 

ウェールズ、ルイズ、才人、ワルドの順で入室する。ワルドは、着替えておらず、そろそろ生乾きの悪臭が才人には、鬱陶しかった。コイツどんだけ評価を下げれば気が済むんだよ、と思った。鼻水をすする音も頻繁で、ごくごく稀に声を出すと、ガラガラであった。

 

それでも、ウェールズくらいしか心配の声はかけなかったが。

 

ウェールズは、机の引き出しを開き、宝石の散りばめられた小さな箱を取り出した。首からネックレスを外して、その先端に取り付けられている小さなカギを差し込んだ。そして、解錠して、箱を開ける。

 

箱の中には一通の手紙が入っていた。これが王女のもののようである。ウェールズは、それを取り出して、一度キスをしたあと、その何度も読まれてボロボロの手紙を今一度読み始めた。

 

読み終えると、ウェールズは、その手紙を丁寧に畳んで封筒に入れて、ルイズに手渡そうとした。

 

この時、才人は、やはりワルドがルイズの背中に杖を向け始めたのを横目で見て、疾風の速度でデルフリンガーを抜刀し、ワルドの杖に大剣を叩きつける。

 

カキン、という鋭い音にルイズは、始まったかと思い、まずは、素早く振り返り、ワルドの直線上に立たないようにする。手はポケットの中に入れて、魔法楽器の入ったふくろを取り出した。

 

才人は、大声で叫んで凄む。

「なに、ルイズに杖を向けてるんだ、お前は!」

ワルドは、呟く。ガラガラの声で。

「やばり、ぎづがれでいだが」

 

才人がサビサビの剣を叩きつけながら叫ぶ。

「最初から怪しい奴だと思っていたぜ!」

 

ワルドは、才人の剣を振り払って素早く後退し、呪文の詠唱を始める、

しかし、その時、

 

「は、は、は、ハクショーンッ!!」

 

前日から濡れた服を着た影響で引いた風邪によって、盛大なくしゃみをしてしまった。それによって呪文の詠唱は中断させられた。

 

そんな大きすぎる隙を見逃す才人ではない。剣の柄をワルドの後頭部にガツンと叩きつけて、あっという間に気絶させた。ワルドは、鼻ちょうちんを垂らしながらうつ伏せに倒れていく。

 

ワルドとの戦いはあっという間に終わってしまった。風のスクウェアメイジでも、風邪には勝てなかったのだ。

 

ルイズは、素早くウェールズに頼みこむ。

「殿下、早く、あの裏切り者を縛り上げてください!」

「あ、ああ!」

ウェールズには、何が何やらよくわからなかったが、倒れているワルドに近づいて、空賊のフリをしていたために持っていたロープを取り出して、杖を振ってワルドの全身をガッチリ縛り上げていく。

 

手も足も縛められたワルドを見下ろしてから、ルイズは深々と頭を下げる。

「申し訳ございません、殿下。裏切り者が紛れ込んでいたようです。捕縛の協力をしていただき、感謝いたします」

「そのようだが……」

ウェールズは、どういう顔をすればいいのかよくわからなかった。とはいえひとまず、中断されたアンリエッタの手紙をルイズに改めて差し出した。

ルイズは、お礼を言って受け取った。

 

その直後、廊下からドタバタとたくさんの足音が聞こえてきた。

ボンと、ドアが叩かれる音がしてから、「ここかい!? ヴェルダンデ!」とギーシュのくぐもった叫び声が聞こえた。

ルイズは、ギクリと嫌な予感がして、すぐさまウェールズに背中を向けてしゃがみこみ、左腕を伸ばした。

 

すぐに、扉がかなりの勢いで開かれる。それと同時に、ギーシュの使い魔、巨大モグラのヴェルダンテがルイズの指輪に向かって、ワルドの体を踏み台にしながら突進してくる。そして、スンスンと盛んに鼻をつついた。

 

それから、ギーシュと、キュルケ、タバサが走ってやって来るのを認めた。

 

「あなたたち! どうやってここまで?」

ルイズが目を丸くする。何しろここは、浮遊大陸なのだから。

「タバサのシルフィードよ。ギーシュが立ち上がったら、もう超特急で来てあげたわよ」

とこともなげに、キュルケは答えてから、下にあったワルドの体を見下ろす。

 

「いいのかしら? この男を倒してしまって」

才人が叫ぶ。

「そいつは、ルイズの背中に杖を向けてきたんだ」

 

キュルケがすぐさま憤る。

「何ですって! 変態の上に無防備な女の子を襲おうとしたなんて!」

「最低」

タバサも、縛り上げられているワルドを見下しながら呟く。

 

ギーシュは、腕を組んで懸念する。

「しかし、杖を向けてきただけでは、言い逃れできるかもしれん」

そこで、ルイズは、水のルビーの指輪を外して、ヴェルダンデに渡してから、立ち上がって、ウェールズ皇太子に頼み込む。

 

「殿下、お手数をおかけして申し訳ございませんが、ワルド子爵が大使たるわたしを襲おうとしてきたと、署名入りで書いていただけませんか?」

「わかった。確かにあれは、『エアニードル』の詠唱だった。その程度の労は惜しまぬよ」

 

ウェールズは、ペンと羊皮紙とインクを取ってサラサラと、書き上げていく。

書いている途中、ルイズに訊ねる。

「これはアンリエッタに渡すんだろう?」

「はい」

「なら、遺書とすることを許してくれたまえ」

ウェールズは、さらに文字を書き連ねていく。

 

書き終えると、ウェールズは手紙を巻いて杖を振った。すると、巻いた手紙に封蠟がされ、花押(かおう)が押される。その手紙をルイズに渡した。

 

「ありがとうございます」

ルイズはまた深々と頭を下げて受け取った。

ルイズは、それから、キュルケのレビテーションで運ばれていくワルドを見ながら、そいつの使い魔には気をつけて、と忠告して、部屋を去って行く三人を見送った。

 

部屋には、ルイズ、才人、ウェールズの三人だけが残った。

 

ルイズが静かに問いかける。

「殿下、トリステインに亡命される気はありませんか? 今なら……」

しかし、ウェールズは、微笑みながら、首を振った。

「もし今トリステインに亡命したならば、貴族派が攻め入る絶好の機会を与えることになるだろう」

 

ルイズは、息を呑んだ。

「アンリエッタ姫さまは、あなたに亡命を勧められたと思われますが……」

「そのようなことは一行も書かれていない」

ウェールズは、即答した。

 

「死んだら、お終いですよ」

「そうだな」

「それでも、愛と名誉に殉じる方へ向かわれるのですか? アンリエッタ姫さまを愛しているのに」

 

ルイズは、とっくにこの手紙が恋文だと見抜いていた。アンリエッタの手紙をしたためた時の赤面した様子からも、ウェールズの愛おしそうに手紙に口付けをした行動からも。

 

しかし、それでも、

「ああ」

ウェールズは、微笑みを崩さなかった。

 

ここで、才人が言う。

「なら、愛する人のために、生き残るのも義務なのではないのですか?」

「愛が故に、身を引く必要もあるのだよ」

「でも……!」

才人は、なおも必死に食い下がろうとしたが、ルイズが止めた。

 

「サイト、何も一緒にいることだけが愛というわけではないのよ」

これは、アーウィンとマチルダの関係から、ルイズが出した答えである。2人は互いに愛していた。2人で一緒に過ごす道もあった。しかし、2人ともそうはしなかった。あれほど愛して合っていたのに。生きて妖精界で共に過ごす道も、死んで奈落で共に過ごす道も、2人は選ばなかった。

 

実のところ、なぜマチルダがそうしたのか、アーウィンがそうしたのか、まだルイズは完全には理解できていなかった。ただ、共にいることだけが愛ではない、ということは学んだ。

 

2人が沈黙したのを見て、ウェールズは告げる。

「さあ、君たちは帰りたまえ。せっかくお迎えが来ているのだから……。アンリエッタには、ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んだと、伝えてくれればいい」

それから、ウェールズは、風のルビーを薬指から抜いて、ルイズに手渡した。

 

もはや涙を流せないルイズは、代わりにため息をついた。

 

それから、ルイズと才人は、部屋を後にした。すぐに、廊下には茶色の線が延びているのを見つけた。一つの床石が割られていた。近づいてみると、トンネルがあった。どうやら、ギーシュのヴェルダンデがトンネルを掘り進めて、彼らが行き来したことがわかった。

 

少しためらわれたが、ルイズはくぐることにする。タバサの風竜のシルフィードが、すぐ近くまで迎えに来てくれていて、2人は乗った。そして、風竜はゆっくりと降下していく。

 

風竜の上では、ワルドが鼻をグズグズさせながら、上半身と両脚を風竜の背びれに縛りつけられていた。その上には、重しとしてギーシュの青銅でできたゴーレムが乗っかっていた。

 

降下している最中、ワルドの使い魔のグリフォンが襲いかかってきたが、キュルケのファイヤーボールと、タバサの竜巻の魔法で退けられた。

 

風竜は、トリステインへと戻ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 




こんなマヌケなワルドがいただろうか。
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