ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後) 作:hobby32
空飛ぶ大陸であるアルビオンへと、大陸の下側から潜るように入ってゆく。貴族派の所有する巨大戦艦を避けて、極秘の港を目指すためである。その港は、巨大な洞窟であった。
ルイズたちは、ウェールズの先導により、城の最も高い天守の一角にあるウェールズの居室へと向かった。
しかし、皇太子の部屋とはいっても、木製の小さなベッドに、椅子とテーブルが一組、あとはせいぜい戦の様子が描かれた絵が飾られているに過ぎない。
ウェールズ、ルイズ、才人、ワルドの順で入室する。ワルドは、着替えておらず、そろそろ生乾きの悪臭が才人には、鬱陶しかった。コイツどんだけ評価を下げれば気が済むんだよ、と思った。鼻水をすする音も頻繁で、ごくごく稀に声を出すと、ガラガラであった。
それでも、ウェールズくらいしか心配の声はかけなかったが。
ウェールズは、机の引き出しを開き、宝石の散りばめられた小さな箱を取り出した。首からネックレスを外して、その先端に取り付けられている小さなカギを差し込んだ。そして、解錠して、箱を開ける。
箱の中には一通の手紙が入っていた。これが王女のもののようである。ウェールズは、それを取り出して、一度キスをしたあと、その何度も読まれてボロボロの手紙を今一度読み始めた。
読み終えると、ウェールズは、その手紙を丁寧に畳んで封筒に入れて、ルイズに手渡そうとした。
この時、才人は、やはりワルドがルイズの背中に杖を向け始めたのを横目で見て、疾風の速度でデルフリンガーを抜刀し、ワルドの杖に大剣を叩きつける。
カキン、という鋭い音にルイズは、始まったかと思い、まずは、素早く振り返り、ワルドの直線上に立たないようにする。手はポケットの中に入れて、魔法楽器の入ったふくろを取り出した。
才人は、大声で叫んで凄む。
「なに、ルイズに杖を向けてるんだ、お前は!」
ワルドは、呟く。ガラガラの声で。
「やばり、ぎづがれでいだが」
才人がサビサビの剣を叩きつけながら叫ぶ。
「最初から怪しい奴だと思っていたぜ!」
ワルドは、才人の剣を振り払って素早く後退し、呪文の詠唱を始める、
しかし、その時、
「は、は、は、ハクショーンッ!!」
前日から濡れた服を着た影響で引いた風邪によって、盛大なくしゃみをしてしまった。それによって呪文の詠唱は中断させられた。
そんな大きすぎる隙を見逃す才人ではない。剣の柄をワルドの後頭部にガツンと叩きつけて、あっという間に気絶させた。ワルドは、鼻ちょうちんを垂らしながらうつ伏せに倒れていく。
ワルドとの戦いはあっという間に終わってしまった。風のスクウェアメイジでも、風邪には勝てなかったのだ。
ルイズは、素早くウェールズに頼みこむ。
「殿下、早く、あの裏切り者を縛り上げてください!」
「あ、ああ!」
ウェールズには、何が何やらよくわからなかったが、倒れているワルドに近づいて、空賊のフリをしていたために持っていたロープを取り出して、杖を振ってワルドの全身をガッチリ縛り上げていく。
手も足も縛められたワルドを見下ろしてから、ルイズは深々と頭を下げる。
「申し訳ございません、殿下。裏切り者が紛れ込んでいたようです。捕縛の協力をしていただき、感謝いたします」
「そのようだが……」
ウェールズは、どういう顔をすればいいのかよくわからなかった。とはいえひとまず、中断されたアンリエッタの手紙をルイズに改めて差し出した。
ルイズは、お礼を言って受け取った。
その直後、廊下からドタバタとたくさんの足音が聞こえてきた。
ボンと、ドアが叩かれる音がしてから、「ここかい!? ヴェルダンデ!」とギーシュのくぐもった叫び声が聞こえた。
ルイズは、ギクリと嫌な予感がして、すぐさまウェールズに背中を向けてしゃがみこみ、左腕を伸ばした。
すぐに、扉がかなりの勢いで開かれる。それと同時に、ギーシュの使い魔、巨大モグラのヴェルダンテがルイズの指輪に向かって、ワルドの体を踏み台にしながら突進してくる。そして、スンスンと盛んに鼻をつついた。
それから、ギーシュと、キュルケ、タバサが走ってやって来るのを認めた。
「あなたたち! どうやってここまで?」
ルイズが目を丸くする。何しろここは、浮遊大陸なのだから。
「タバサのシルフィードよ。ギーシュが立ち上がったら、もう超特急で来てあげたわよ」
とこともなげに、キュルケは答えてから、下にあったワルドの体を見下ろす。
「いいのかしら? この男を倒してしまって」
才人が叫ぶ。
「そいつは、ルイズの背中に杖を向けてきたんだ」
キュルケがすぐさま憤る。
「何ですって! 変態の上に無防備な女の子を襲おうとしたなんて!」
「最低」
タバサも、縛り上げられているワルドを見下しながら呟く。
ギーシュは、腕を組んで懸念する。
「しかし、杖を向けてきただけでは、言い逃れできるかもしれん」
そこで、ルイズは、水のルビーの指輪を外して、ヴェルダンデに渡してから、立ち上がって、ウェールズ皇太子に頼み込む。
「殿下、お手数をおかけして申し訳ございませんが、ワルド子爵が大使たるわたしを襲おうとしてきたと、署名入りで書いていただけませんか?」
「わかった。確かにあれは、『エアニードル』の詠唱だった。その程度の労は惜しまぬよ」
ウェールズは、ペンと羊皮紙とインクを取ってサラサラと、書き上げていく。
書いている途中、ルイズに訊ねる。
「これはアンリエッタに渡すんだろう?」
「はい」
「なら、遺書とすることを許してくれたまえ」
ウェールズは、さらに文字を書き連ねていく。
書き終えると、ウェールズは手紙を巻いて杖を振った。すると、巻いた手紙に封蠟がされ、花押(かおう)が押される。その手紙をルイズに渡した。
「ありがとうございます」
ルイズはまた深々と頭を下げて受け取った。
ルイズは、それから、キュルケのレビテーションで運ばれていくワルドを見ながら、そいつの使い魔には気をつけて、と忠告して、部屋を去って行く三人を見送った。
部屋には、ルイズ、才人、ウェールズの三人だけが残った。
ルイズが静かに問いかける。
「殿下、トリステインに亡命される気はありませんか? 今なら……」
しかし、ウェールズは、微笑みながら、首を振った。
「もし今トリステインに亡命したならば、貴族派が攻め入る絶好の機会を与えることになるだろう」
ルイズは、息を呑んだ。
「アンリエッタ姫さまは、あなたに亡命を勧められたと思われますが……」
「そのようなことは一行も書かれていない」
ウェールズは、即答した。
「死んだら、お終いですよ」
「そうだな」
「それでも、愛と名誉に殉じる方へ向かわれるのですか? アンリエッタ姫さまを愛しているのに」
ルイズは、とっくにこの手紙が恋文だと見抜いていた。アンリエッタの手紙をしたためた時の赤面した様子からも、ウェールズの愛おしそうに手紙に口付けをした行動からも。
しかし、それでも、
「ああ」
ウェールズは、微笑みを崩さなかった。
ここで、才人が言う。
「なら、愛する人のために、生き残るのも義務なのではないのですか?」
「愛が故に、身を引く必要もあるのだよ」
「でも……!」
才人は、なおも必死に食い下がろうとしたが、ルイズが止めた。
「サイト、何も一緒にいることだけが愛というわけではないのよ」
これは、アーウィンとマチルダの関係から、ルイズが出した答えである。2人は互いに愛していた。2人で一緒に過ごす道もあった。しかし、2人ともそうはしなかった。あれほど愛して合っていたのに。生きて妖精界で共に過ごす道も、死んで奈落で共に過ごす道も、2人は選ばなかった。
実のところ、なぜマチルダがそうしたのか、アーウィンがそうしたのか、まだルイズは完全には理解できていなかった。ただ、共にいることだけが愛ではない、ということは学んだ。
2人が沈黙したのを見て、ウェールズは告げる。
「さあ、君たちは帰りたまえ。せっかくお迎えが来ているのだから……。アンリエッタには、ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んだと、伝えてくれればいい」
それから、ウェールズは、風のルビーを薬指から抜いて、ルイズに手渡した。
もはや涙を流せないルイズは、代わりにため息をついた。
それから、ルイズと才人は、部屋を後にした。すぐに、廊下には茶色の線が延びているのを見つけた。一つの床石が割られていた。近づいてみると、トンネルがあった。どうやら、ギーシュのヴェルダンデがトンネルを掘り進めて、彼らが行き来したことがわかった。
少しためらわれたが、ルイズはくぐることにする。タバサの風竜のシルフィードが、すぐ近くまで迎えに来てくれていて、2人は乗った。そして、風竜はゆっくりと降下していく。
風竜の上では、ワルドが鼻をグズグズさせながら、上半身と両脚を風竜の背びれに縛りつけられていた。その上には、重しとしてギーシュの青銅でできたゴーレムが乗っかっていた。
降下している最中、ワルドの使い魔のグリフォンが襲いかかってきたが、キュルケのファイヤーボールと、タバサの竜巻の魔法で退けられた。
風竜は、トリステインへと戻ってゆく。
こんなマヌケなワルドがいただろうか。