ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後) 作:hobby32
魔法学院に帰還後、オールド・オスマンにねぎらわれてから、ルイズたちは、それぞれの部屋に戻った。
そして、ルイズの部屋に戻って、ルイズが、そういえば、と言って才人の方を向く。
「まだ、お礼言ってなかったわね。ワルドがわたしに杖を向けた時、庇ってくれたこと、どうもありがとう」
ルイズがぺこりと頭を下げると、才人は、照れくさくなって慌てる。
「い、いや、別に。お前の言ってた通りになっただけだし。大したことはしてないって」
才人は、頬を指でポリポリと掻いた。まあ、この少女のしてきたことに比べれば、本当に足下にも及ぶまい。向こうがくしゃみで自滅してくれたのもあるし。
「でも、わたし1人じゃできなかったからね。魔法楽器を使わずに済んだし」
ルイズは、ニコッと才人にとっては煌めくような笑顔を向ける。
才人が直視すると、一歩たじろいでしまうくらいには、美しい笑顔であった。
どうしてこんなきれいに笑えるんだよ、と才人はびっくりするくらいである。まだファ・ディールの話は、そこまで至っていない。それは最終盤の話だったから。
しかしここでルイズが、でも、口を挟む。笑顔を崩して、ジト目を才人に向ける。
「出発する時に、ギーシュのモグラに押し倒されたのに、サイト、助けてくれなかったわよね」
「え、あれは、その……」
突然話題を大きく変えられて、才人は、大いに慌てた。まさかルイズのスカートの中をじっくり見ていたとは言えない。
「わたし、すごく困ってたんだけどな。地面に押し倒されて。でも、サイトもギーシュも、突っ立ったままだった。サイトの力と速さならすぐに助けられたでしょうに」
「わ、悪かったよ。次はちゃんと助けるから」
「本当ぉ?」
ルイズは、信用できないと言わんばかりに、ジト目を向けたままであった。そうして、才人が、あちこち目を泳がせて、どうすればいいのか、慌てふためく姿を見て楽しんだ。
別にあのことをルイズは、大して根に持っていない。ただ、才人の困っている姿を見てからかいたかっただけである。
「ま、次からは気をつけてよね」と言ったあと、笑顔で「じゃあ、寝よっか!」と元気に言った。
解放された才人は、ああ、あの時ルイズを助けていれば、ルイズの好感度ゲージが上がっていたのに、と頭をワシャワシャと掻いた。
翌日、昼休みのヴェストリの広場のベンチにて。かつて、この広場で決闘をしていた少年二人が同じベンチに腰かけて話していた。
なんでこの平民が話しかけて来たんだ、という胡乱な顔つきのギーシュへと才人が実に単刀直入に訊ねる。
「なあ、可愛くて、賢くて、明るくて、圧倒的に強い女の子を口説くには、どうすればいいと思う?」
才人は、真っ赤な顔で真剣な表情で訊ねてきた。ギーシュなんかに訊くのもどうかと思ったが、他に気軽に相談できそうな相手もいない。キュルケだと「そんな人より、あたしの元に来なさいな」とか言って誘惑してきそうだし。
ルイズは、キュルケのように自分に抱きついてきたりはしない。普段のスキンシップはやたらと激しいが、頭を撫でてくるとか、くすぐってくるとか、頬を持ち上げてくるとか、そういったもので、才人が「もっとやって欲しい」ことまではやってきてくれない。
確信できるのだ。俺なんか好きじゃねーよな、と。そりゃあ、彼女いない歴=年齢の俺ですよ。日本で、ガールフレンドなんかできなかったのに、そんな俺がルイズに挑戦するのは、無茶無謀だ。
もはや、人の身で天使を地上に引きずり降ろすレベルのことをしている気がする。改めてミッション・インポッシブルをやろうとしていることを痛感させられる。
モグラがドラゴンと戦うようなものである。ミジンコが人様にアタックするようなものである。ボルボックスが……ああ、もういいや。
明るくて、あれだけ可愛いのに、頭は回るし、魔法楽器の威力は圧倒的だった。さすがは異世界を踏破してきただけの実力の持ち主だと、宿屋の襲撃事件の時のもの凄い威力の水の魔法で思い知らされた。
自分なんかじゃ絶対に釣り合わないとはわかっているが、それでも諦めたくないと思わせられる。まあ、ひとことで言えば、才人はルイズに酔っていた。
ルイズに抱き締められたらどんなに嬉しいだろう。ルイズにもう一度キスされたら、どれほど気持ちいいだろう! そんな夢想を抱えつつ、しかし絶対に釣り合うはずがないという悩みを未だ抱えていた。
そこで恥ずかしさいっぱいでありながらも、ギーシュに訊ねるのであった。
「君は急に何を訊いてくるんだね?」
ギーシュは、大いに呆れた。そして、すぐに、この平民の交友関係から、誰のことを言っているのか、考え始める。
彼の主人のルイズは強くはない。最近明るくなったという評判は聞いたが。
キュルケは妖艶であっても、明るいという言葉とは、しっくりこないし、圧倒的に強いかと言われたらそこまででもない。
タバサは、かなり強いと魔法を見て思ったが、少なくとも寡黙で明るくはない。
誰のことだ、本当に? そんな美徳で埋め尽くされたような女の子がいたら、即座に自分がなびくだろう。
しかし、誰かと訊いてもこの平民は答えないような気がする。こうも遠回しに訊ねてくるのだから。
「頼むよ、俺、マジで悩んでるんだって」
赤面しつつも必死な才人の表情。
ギーシュは、ふむ、と思う。たとえ平民であれ、この僕に恋愛相談を持ちかけるのは、悪い気がしない。周りの貴族たちは、誰もこの僕に恋愛相談など持ちかけない見る目のない奴らばかりなのに比べれば。
それにこの平民は、皆の期待に見事に応え、風のスクウェアのワルドの魔の手から、見事にルイズを守りきった漢(おとこ)だ。
その彼が恋愛に困っているというのなら、この“薔薇”のギーシュ、応えないわけにはいかないだろう。ギーシュは、アドバイスを始める。
「まず、ラブレターを書いてはどうかね。『ああ、君の双眸(そうぼう)は、闇夜を照らす2つの月のよう! しかし君の笑顔は昼間の太陽のように僕の心を明るく照らし出してくれるんだ』とか」
「そ、そんな文才、俺にはねーよ!」
才人は、激しく首を振る。そもそも、こっちの世界の文字を知らない。たとえ知っていたとしても、同居している女の子にラブレターを書けるなら、口で言った方が早い。しかし、そんな勇気がないから、こうしているわけで。
ギーシュは、次の手を考える。
「では、花束を贈ってはどうかね。薔薇の花束なんか特にお勧めだが」
「花束かあ……」
才人は想像してみる。ルイズに花束を贈ったら、と。
う~ん、ルイズがどういう反応を示すかはわからないが、ひとまず大事にはしてくれるだろう。
しかしどうだろう。花束を花瓶に活けてくれたとして、毎日毎日、自分が贈ってくれた花束を見ることになるというのは、なんか、こっぱずかしい。
才人は、けっこう思う。一緒の部屋に住んでいることを考えたら、好意を伝えるだけでかなり大変なのではないか。もし、俺の気持ちがルイズに伝わってしまったら、起きた時から寝るまで意識することになるわけで。
そうなると、フラれたとしたらかなり長い時間、気まずい時間を過ごすことになるではないか。
そう考えると、「アイ・ラブ・ユー」を露骨に伝えるような花束は、早すぎる! もっと、ちゃんと、脈がありそうな状況にならないと!
「悪い、ギーシュ、花束も却下ということで」
「そうかね。では、その女の子の圧倒的に強いというのは、魔法が、ということかね?」
「あ? ああ……。そういうことになるな」
杖では失敗するが、この世界では魔法楽器が異端らしく、世界の危機を招来しかねないらしいから、才人としても少し反応に困った。
ギーシュは、ニヤリとする。
「君は、平民の分際で貴族に挑戦しようというのか。とても面白いことを」
おとぎ話の世界のような挑戦を才人はやろうとしている。そうなると、ますます背中を押したくなるものだ。もっとも、押した先は、高い高い崖の下かもしれない。身体が死ぬことはなくても、心は死ぬかもしない。そういう無茶無謀をこの平民はやろうとしていた。
「なら、あれだ。その圧倒的に強い女の子と釣り合う存在に君がなればいい」
「それができたら、苦労しねぇよ!!」
才人の激昂ぶりに、ギーシュは、おや、と思う。痛いところを突かれた、という感じだ。貴族と平民か以上にこっちの方が痛いのかもしれない。
しかし、そうなると、彼の恋する相手は、本当にいったい誰なんだろうと思ってしまう。あまり思い出したくはないが、この平民は、剣を持つと圧倒的な速さで、自分の青銅のゴーレムをバラバラにした結構な実力者だ。
フーケを捕まえたのもこの平民だと聞くし、ワルドを倒したのも実質的にこの平民だろう。ルイズにワルドを倒せるとは思えないから。
そんな彼が、まるで足元にも及ばないという女性とは、いったい誰なのか?
ギーシュは、直に訊いても答えないと思ったから、遠回しに訊いてみる。
「その彼女は、何系統なんだね? 土、火、風、水?」
「……それも、言えない」
才人は、ヤバイことを訊かれたと、思った。
「それすら言えないのかね? ドットとかラインとかではなく」
けっこうギーシュは苛立った。あまりにも情報を隠しすぎではないかと思って。
「アイツが好きだから、迷惑をかけたくないから、言うわけにはいかないんだ」
しかし、才人のこの言葉で、苛立ちが抑えられ、ますますギーシュは、興味を持った。何だ、その女の子は? この平民は一体、誰を好きになったというのだ。
この時点で、先に候補に挙げたキュルケとタバサは、完全に脱落する。彼女たちが系統まで隠す理由はないからだ。もちろん、ルイズもあり得ない。魔法すら使えないのだから。
だから、ギーシュは混迷を深めるわけなのである。本当にこの平民は、誰を好きになってしまったと言うのだろう? 圧倒的に強くて、しかしその系統すら言えない人間がいるとは、到底思えない。隠すようなことでもないことを隠したがることで、却ってギーシュの興味を惹きつけた。
だから、ギーシュは、アドバイスを続けた。
「まあ、ならば、一般論として、プレゼントでも贈ったらどうかね?」
「プレゼント?」
「そう、物で相手を惹きつけるんだ」
だが、そう言われても、何も思い浮かばない才人であった。不安げに訊く。
「でも、何をやれば喜ぶんだ?」
「それは……その女性によるとしか言いようがない」
「俺、金がないんだけど」
「気が合うね。僕もだ」
こうして、二人は笑い合い、友達となった。