ゼロの伝説LOM(ルイズが異世界から帰還後)   作:hobby32

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61話:恋愛禁止令

ルイズは、姫さまの結婚式の詔を考えるのに悪戦苦闘していた。はっきり言ってしまえばなんにも思いつかない。文章が降ってくると言うことは全くなかった。

 

「ふわ~~~」

ルイズは、誰もいない部屋で大きなあくびをした。才人がいたら口に手を当てるが、才人がいないので全く慎みのないあくびであった。涙が一筋こぼれた。さすがにあくび程度の涙で石になったりはしないよね、あれは、珠魅たちを思ってのことだし、とは思うのだが、それでも涙を流すのに不安を覚えるルイズであった。

 

それから、ふと、ルイズは、『始祖の祈祷書』を手に取ってみた。完全にボロボロで、慎重に扱わないと崩れてしまいそうなそこそこの厚さの本。

 

それはともかく、どこのページも真っ白であった。一切の文字が書かれていない。しかし、こんなのでもトリステイン王国の国宝である。

 

だが、その時、あくびの涙でにじんだルイズの目に、微かに文字が見えた。ルイズが、おや、と声をあげて、涙目をこする。すると、すぐに文字は見えなくなった。

 

ルイズは急いで水場に向かった。目を濡らすために。

部屋に戻って始祖の祈祷書を再び読むと今度は確かに古代ルーンの文字が見えた。しかし、序文の数行を読んだだけで、再び文字が消えてしまう。

 

こんな崩れてしまいそうな本に水をぶっかけるわけにもいかない。そこで、ルイズがいろいろ思案した末に、姫さまからもらった水のルビーを指に嵌めることにした。水がカギというのなら、と思ったのである。

 

すると、今度は水のルビーと始祖の祈祷書が光り出し、ルーンの文字が消えることなく、読むことができた。ルイズは、無我夢中で、ページをめくる。

「虚無の系統」

とルイズは、本を読みながら慄くようにつぶやく。失われし伝説の系統である。四大系統のいずれにも属さぬ零の系統。

 

さらに、資格なき者が指輪を嵌めて読んでも意味が無いこと、虚無の系統は命を削ること、『聖地』を異教より取り戻せとあった。そう書き手たるブリミルは記していた。

 

そして、初歩の初歩の初歩の虚無の呪文、エクスプロージョンの詠唱の文言も。ルイズは、すぐに暗記した。

 

「なるほどねぇ」

ルイズは、苦笑しながら水のルビーの指輪を取った。すると、始祖の祈祷書と水のルビーの共鳴しあう光は消え、古代ルーン文字も消失してゆく。

 

かなりの疑問が氷解した。わたしの杖による魔法がすべて爆発するのも。四大系統のいずれの魔法も使えないことも。膨大な魔力を持っていると指摘され、狙われた理由も。

 

しかしながらーー

「どうして、ロクに人に話せない魔法ばっかり、わたしの元に集まっちゃうのかなぁ!」

ルイズは、あははは、と大笑いしながら机に突っ伏した。ただでさえ、魔法楽器の管理で手一杯だと言うのに、さらに伝説の虚無の魔法までついてくるとは。

 

「それでなに、爆発の魔法って? いつ使うのよ?」

ルイズは、不満を漏らす。こんな破壊力は求めていない。目下必要なのは、才人を元の世界に帰るための魔法だけだ。

 

そう思って、ルイズは、再び水のルビーを嵌めて始祖の祈祷書を読み始めたが、エクスプロージョン以外の呪文は、載っていなかった。

 

別の指輪が必要なのかしら、とルイズは思う。しかし、風のルビーは、ウェールズ皇太子の形見として姫さまに献上してしまった。それを貸与していただくためには、どうすれば良いんだろう? とルイズは考え始めた。

そう思っていると、才人が帰ってきた。かなりの轟音と共に。

 

 

 

研究と発明が大好きなコルベールは、学院の中庭に颯爽と現れたゼロ戦に大興奮した。

才人は、さっそく飛行機、ゼロ戦の原理を説明し、コルベールの発明した『愉快なヘビくん』を動かすのに使った発明品のガソリンがないと動かないと言った。それから、コルベールの研究室に招かれて、才人の話を聞いて、発明意欲をムクムクと膨らませていった。

 

それから、ゼロ戦の機体を調べていると、ルイズがやって来た。およそ1週間ぶりにルイズと話す。

「これはなぁに?」

才人は、振り向いて答える。ルイズの顔を久しぶりに見られて、頬の緩みを抑えきれない。

「ゼロ戦だよ。これを使えば飛べるんだ」

すると、ルイズは、安堵の表情でパチパチと拍手をした。

 

「凄いね! これで一気に行動範囲が広がるじゃない! これなら、思ってたよりずっと早く帰れるかも!」

大はしゃぎのルイズに、才人は困ったような顔を向ける。

 

「いやぁ、それがさ、特殊な油を大量に作らないと飛べないんだよ」

「そうなの? でも、誰からどうやってこんなのを手に入れたの? それがわかれば、帰るための大きな手ががりになるわ」

才人は、シエスタの曾祖父からの遺産で、タルブの村で保管されていたことを話した。ただし、曾祖父が東から来たことは伏せて、どこからやって来たかはわかんねぇ、と言った。

 

ルイズは、露骨に残念そうな表情となる。

「う~ん、残念。どこからやって来たのかがわかれば、大きな手がかりになりそうだったのにね」

「まあ、しょがねぇさ。でも、着々と手がかりが集まっているんだから、悪い感じはしねぇよ。そっちの調子はどうだ?」

 

ルイズは、桃色の髪を掻きむしりながら答える。

「こっちもいろいろとあってね。それは、わたしの部屋で話すよ」

才人は首をかしげたが、ひとまずゼロ戦をいじるのをやめて、久しぶりにルイズの部屋へと戻ってゆく。

 

 

ルイズは、部屋をきちんと戸締まりしてから、先ほど発見した虚無の呪文について説明した。「他の人に話しちゃいけないこと」がまた増えちゃった、と苦笑しながら言う。

 

才人はかなり驚く。

「それって、結局、お前も杖で魔法を使えるようになる、ってことか?」

ルイズは、ああ、とその発想はなかったという感じで手を叩いた。

 

「そうとも言えるわね。まあ、隠した方が無難なんだけどさ」

「また、人前では使えない魔法かよ。面倒なもんだな、まったく」

ルイズは、うんうんとたくさん首を縦に振る。

 

「本当にもう、爆発の魔法なんて、いつどこで使えば良いのか、わかんないわよ。何を爆発させろって言うのさ」

「その爆発っていうのは、お前がふだん魔法を失敗するときのよりも強いのか?」

「ちゃんとした詠唱があるから、そうでしょうね。でも、あれでも、ドラゴンのお腹の中を粉砕するくらいには強力だったんだから、これ以上となるとねぇ」

ルイズは、肩をすくめた。

才人としても、これ以上のアイディアはない。たぶん飛行機を飛ばすガソリン代わりにはならないだろうし。

 

さて、その夜。

「さあ、サイト。今日は疲れたでしょ。いつものお話しは無し。そのまま眠っていいよー」

ルイズは、ネグリジェ姿に着替えてから、手前のベッドに入って、慣れたように布団をかぶって、すぐさま、まぶたを閉じる。

 

しかし、才人は、そんなルイズの行動に大いに驚いた。そして、少し目を泳がせてから、言う。

 

「ルイズ、それ、俺のベッド……」

ルイズは、ハッとして飛び起きて、急いで隣の自分のベッドに飛んだ。

それから、顔を赤くして、あわあわとしながら言い訳をする。

「ご、ごめん、間違えた! 気にしないで」

「いや、まあ、うん……」

才人も照れくさくて、頬を人差し指でポリポリと掻いた。

 

そして、試しに訊いてみる。

「もしかして、俺がいないあいだ、俺のベッドを使ってた?」

すると、ルイズは、真っ赤な顔のまま、首をブンブンと振る。

「そ、そそそそんなわけないでしょ! ちゃんと自分のベッドで寝てたわよ! 今はたまたま、間違えただけ! それ以上でも以下でもない! はい、この話は終わり! お休み!!」

ルイズは、体を横たえてガバッと布団をかぶる。

 

才人は、ルイズの反応を楽しみながら、自分のベッドに入る。枕からルイズのほのかな香りがした。

 

ああ、ルイズぅ! ルイズぅ! とかなり興奮して、寝付くまで才人は時間がかかった。

 

一方、ルイズは、才人の安心できる良い匂いに包まれていないので、心がそわそわして眠るまで時間がかかった。

 

その翌日から、才人は、『ゼロ戦』に興味を持ったコルベールに、ガソリンについて相談しに行った。そして、才人と様々な議論を交わして、快くガソリンづくりについて協力すると言ってくれた。いつ帰るかはわからないにせよ、帰れる手段となりそうな方法は確保して起きたかったのだ。

 

ルイズは、授業の合間を縫って、才人が飛行機をいじるのを楽しそうに見つめていた。才人が、たとえば操縦桿を握ると流れ込んでくる情報を聞いても、何を言っているのか何となくしかわからなかった。だが、それでも『ひこうき』をいじる彼は楽しそうなこと、これで才人が帰る方法が近づくことに喜んでいた。

でも彼が帰ってしまうと思うと、心にけっこう大きな穴が開いてしまうような気がするルイズであった。それも努めて笑顔で覆い隠したが。

 

しかし、才人がゼロ戦に夢中になる日が続く頃、ルイズは、キュルケの部屋に招かれてとんでもないことを聞かされた。

 

「ねえ、ルイズ。サイトについて、重大な話があるんだけれど」

と、夕方にキュルケの部屋に招かれたルイズは、こう告げられた。

「なぁに、キュルケ? サイトにとって大事なことって?」

自分のベッドに腰かけたキュルケはニヤニヤしながら言った。ちょっと、脚色をくわえながら。

「サイトは、女の子に恋しているんですって?」

ルイズの目ん玉が飛び出そうなくらい驚く。

「ええっ!? だ、だれと?」

大いに慌てふためくルイズの反応に満足しながら、キュルケは満面の笑みで言う。

 

「なんでも『可愛くて、賢くて、明るくて、圧倒的に強い女の子』だそうよ。あなたそんな子に心当たりない?」

「『可愛くて、賢くて、明るくて、圧倒的に強い女の子』?」

ルイズは、大きく首をかしげる。

 

はて、そんな子がいただろうか。ルイズは、自分を可愛いと思っていないし、ティアマットに騙された愚か者だと思っているから賢いとも思っていないし、あんまり自分を明るいとも思っていないし、魔法楽器がなければか弱い女の子に過ぎないから強いとも思っていない。

 

つまり、自分は才人が言うところのどの項目にも当てはまっていないと思った。だから、自分である可能性は真っ先に除外した。

 

しかし、これは一大事である。才人は異世界にいる真っ只中である。そんな時に、恋なんかしてはいけない。誰とも付き合ってはいけないのだ。そんなことしてたら、異世界から帰還する時に、才人もその恋する人も悲しむこととなる。そんな別れる時に辛くなるくらいなら!

 

ルイズは急いで、椅子から立ち上がる。

「ありがとう、キュルケ! わたし、すぐにサイトを止めるわ!」

ルイズは、大慌てで部屋から飛び出していった。

その様子を見てキュルケは、ニヤニヤしながら呟く。

「なんだ、あの子もサイトを狙ってるんじゃない」

 

 

 

それから、間もなく、ルイズの部屋に今日もゼロ戦の点検を終えた才人が帰ってくる。

「ただいまー」

といつものように挨拶するが、

「おかえりー……じゃなくて、サイトォ!」

ルイズは、顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

「な、なんだよ、ルイズ。何怒ってるんだ?」

ほとんどルイズに怒られたことのない才人は、かなり驚いた。

 

「話があるの! 早く椅子に座りなさい!」

才人は先生に叱られるような心境で、おずおずとルイズと向かい合わせの椅子に座る。もっとも、心当たりは全くないが。

 

ルイズは、真っ赤な顔で単刀直入に切り出す。

「サイト、キュルケから聞いたわ。あなた、恋してるんですってね!」

「ええっ!? いや、そんなこと……」

才人の顔もたちまち赤く染まる。何しろ自分が恋している当の本人から突然そう言われたものだから、大いに狼狽したのだ。

 

しかし、なんでキュルケから? と思ったが、ギーシュの奴、口が軽いから、宝探し中にでも話したな、と才人は見当をつける。

 

ルイズは顔を赤くしながら、眉をつり上げ、キッパリと言う。

「別れなさい」

「は?」

才人は間の抜けた声を上げる。

「別れなさいって言ったの。まったく、異世界で恋するなんていけないことなのよ。そういうことは元の世界に帰ってからするものだわ」

才人は、ルイズの言葉に、しばらくお口をあんぐりと開けたままであった。

そして、幸か不幸か、思う。

コイツ、何にもわかってねぇ、と。

 

ルイズは、才人が黙っている間に赤い顔のまま斜め上に逸れた説教を続ける。ルイズにとって、恋愛沙汰はウブで苦手だからなのだが。

「いい? 『可愛くて、賢くて、明るくて、圧倒的に強い女の子』って、誰のことかわからないし、詮索するつもりもないけど、とにかく一刻も早く別れなさい。それがお互いにとって一番だわ。深い関係が長引けば長引くほど、別れる時辛くなるのよ」

 

しかし、才人はルイズの的外れな説教に思わず反発する。

「別れたくても別れられねえよ」

同じ部屋なんだし、んなことできるわけねえだろ、と才人は心の中で付け加える。

 

すると、ルイズは、驚愕と怒りから思わず立ち上がった。

「もうそこまで進んじゃったの!? わたしの知らない間に! ……でも、サイト! 別れられないことなんか決してないわ! なるべく早く関係を清算して、今のうちに……」

 

才人は、真っ赤な顔で怒鳴る。

「んなことできるわけねぇだろ!」

「ダメ! わたしはお互いのためを思って言ってるのよ!」

「だから、無茶苦茶言うのやめろよ!」

「なにが無茶だって言うのよ! ……わかった。あなたにできないなら、わたしがその女の子と話をつけてあげる! どこにいるの?」

 

才人はまた固まってしまった。「どこにいるの?」ーー目の前だよ。お前自身がお前とどう話し合うって言うんだよ、と心の中で盛大に突っ込んだ。

 

それから才人は、「あははは!」と突然大笑いを始める。

ルイズは怒りで声が震える。

「な、ななななに笑ってるのよ!! 笑い事じゃないのよ、これは!?」

「いや、笑い事だよ……くくく……あ~、腹痛ぇ!」

「もう! 事の重大性をちゃんと理解しているの!?」

憤然とするルイズに、才人は、抱腹絶倒をなかなかやめなかった。この女の子にもすごくおバカさんなところがあってとても面白かったのだ。

 

それからしばらくルイズの的外れな説教が続いたが、才人は、腹を抱えても、腹を割ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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